なぜアルバイト経験は、職務経歴書に書きにくいのか
アルバイトや契約社員などの正社員以外(非正規雇用)(※1)で働く人のなかには、自分の経験を職務経歴書にどのように書けばよいのか悩んだことがある人もいるのではないだろうか。筆者自身もその一人だった。かつてアルバイトとして働いていた時期があるが、その経験を職務経歴書に記載して転職活動を行ったことがある。その際、採用担当者から「それはアルバイト経験ですよね」と言われた。
もちろん、採用担当者が何を意図していたのかを確認したわけではない。そのため、筆者自身の受け取り方の可能性もある。しかし当時は、どのような仕事経験をしてきたのかよりも、どのような雇用形態で働いていたかに目が向けられたように感じられた。そして、自分が積み重ねてきた経験をどう伝えればよいのか、戸惑ったことを今も覚えている。
この経験から感じたのは、非正規雇用として働くことで培ってきた経験の価値を言葉にすることの難しさだった。こうした経験は、なぜ職務経歴書に書きにくいのだろうか。その背景には、経験そのものの不足ではなく、その仕事の意味や価値を説明することの難しさがあるように思う。そこで本コラムでは、非正規雇用で働く人たちの仕事に着目しながら、その経験が職務経歴書に書きにくい理由について検討する。
どのような仕事経験をしているのか
非正規雇用で働く人たちの多くは、現場の日常的なオペレーションを担っている。たとえば、小売店や飲食店であれば、接客や販売、商品管理、品出しといった業務がある。また、新人育成や顧客からの問い合わせへの対応、クレーム対応、業務改善などに関わることもある。職場によっては、時間帯責任者や売場責任者として、現場のリーダー的な役割や一定の責任を担う人もいる。
これらの仕事は、店舗や事業が日々運営されるために欠かせないものである。一方で、現場で働く人たちにとっては日常業務であり、その重要性を改めて意識する機会は多くないかもしれない。その日常業務では、状況に応じた判断や調整、周囲との連携、問題解決なども行われている。現場オペレーションは、顧客に商品やサービスを届けるだけでなく、事業を継続していくうえでも重要な役割を果たしていると言える。
しかし、こうした経験が職務経歴書のなかで十分に表現されていないケースも少なくない。筆者自身は、過去にキャリアコンサルタントとして職務経歴書を見てきた経験もある。そのなかには、「接客を担当した」「販売業務を行った」「新人教育を担当した」といった記述はあるものの、そこでどのような役割を担い、どのような価値を生み出していたのかが、十分に表現されていないものもあった。
もちろん、それらは現場のオペレーションを支える重要な仕事である。しかし、仕事内容を説明するだけでは、その仕事が店舗や事業にとってどのような意味を持っていたのかまでは伝わりにくい。その結果、仕事経験そのものは存在しているにもかかわらず、その価値が職務経歴書では見えにくくなってしまう。
なぜその経験を語れないのか
こうした仕事経験が職務経歴書のなかで十分に表現されにくい理由の一つは、経験が不足しているからではなく、自分が担ってきた仕事を組織や事業との関係のなかで説明できていないことにあるのではないだろうか。
筆者自身も、転職活動をしていた際に同じ壁に直面した。当時の私は、採用面接で自分が担当していた業務内容や成果については説明していた。しかし、その仕事が事業や組織全体のなかでどのような役割を果たしていたのかという視点が欠けていた。そのため、自分の経験の価値を十分に伝えることができなかったように思う。
非正規雇用では、経験を振り返る機会が少ない
非正規雇用で働く人たちが自分の経験を言葉にしにくい背景には、本人だけの問題ではなく、職場の仕組みも関係しているように思う。非正規雇用で働く人たちの多くは、現場のオペレーションを担っている。職場によっては、業務ノートや定期的な面談を通じて、自分の役割や成長を振り返る機会が設けられていることもある。しかし、そうした機会が十分に整備されている職場ばかりではない。仕事の一部分を担当する形で役割が与えられることも多く、自らの仕事が事業全体のなかでどのような役割を果たしているのかを意識しにくい場合もある。
また、経験や能力を振り返る機会にも差が見られる。厚生労働省「能力開発基本調査」(※2)によると、2025年に正社員向けにOFF-JTを実施した事業所の割合は70.9%であるのに対し、正社員以外向けは30.7%にとどまっている(図表1)。正社員以外が教育訓練の機会を得られる割合は、正社員の約4割であり、この差は過去10年間を見ても大きく変わっていない。
OFF-JTのような教育訓練の役割は、業務に必要な知識や技能を身につけることだけではない。自分が何を学び、何ができるようになったのかを振り返り、経験や成長を言葉にする機会にもなる。そうした機会が限られることで、経験そのものは積み重ねていても、その意味や価値を十分に整理し、他者に伝えることが難しくなっている可能性がある。
図表1 OFF-JTを実施した事業所の割合推移

出所:厚生労働省「能力開発基本調査」より筆者作成
オペレーション戦略の視点を活用する
このように、正社員以外として働く場合に、職場で経験や貢献を言語化したり、次の経験のために学んだりする機会が少なくなりやすい。このような機会の格差を是正していくことは、労働力が希少化する日本の社会において重要である。
一方で、そうした変化を待っていられない人もいる。では、どのようにすれば、職場での機会にかかわらず、個人が担ってきた仕事を事業や組織との関係のなかで説明できるのだろうか。その手がかりの一つとして、ここではオペレーション戦略の視点を紹介したい。オペレーション戦略論では、企業経営を「理念・ビジョン」「戦略(全社・事業)」「オペレーション」の3つの要素で捉える(図表2)。企業には実現したい理念やビジョンがあり、それを実現するために戦略がある。そして、その戦略を具体的な行動として実践するのが、オペレーションである。
重要なのは、これらの役割が独立して存在しているのではなく、一つの流れとして結びついていることである。この3つの要素の整合性が取れている企業では、組織の目指す方向と現場の業務が結びつき、それぞれの仕事の意味や役割も共有されやすくなる。
図表2 企業経営の3つの要素

出所:『MBAオペレーション戦略』を基に筆者作成
この視点から見ると、オペレーションは単なる作業ではない。企業が掲げる理念やビジョンを実現するために、戦略を現場で形にしていく重要な活動である。しかし、現場という限られた空間で働いていると、日常業務が組織や事業戦略とどのようにつながっているのかを考える機会は必ずしも多くない。そのため職務経歴書を書こうとすると、「接客を担当した」「売場管理を担当した」「新人教育を担当した」といった業務内容の説明にとどまりがちになる。
もちろん、現場で働く一人ひとりが企業の戦略を詳しく理解しているとは限らない。非正規雇用で働く人たちのなかには、自分の仕事と事業全体とのつながりを考える機会が十分に与えられていない場合もある。大切なのは、オペレーション戦略を専門的な理論として理解することではなく、この視点を活用して、自分の仕事が企業活動のなかでどのような役割を果たしているかを考えてみることである。
仕事経験を職務経歴として語る3つのステップ
オペレーション戦略の視点を活用すると、これまで担ってきた仕事を別の角度から捉え直すことができる。図表3は、そのために自身の仕事経験を振り返る簡単なステップを示したものである。
図表3 仕事経験を振り返る具体的なステップ

出所:筆者作成
まずステップ①では、所属している組織の理念やビジョンを確認する。ホームページやパンフレットなどを手がかりに、組織がどのような価値を社会や顧客に提供しようとしているのかを振り返る。続くステップ②では、接客、販売、品出し、新人教育など、日常的に行っている業務をできるだけ具体的に書き出してみる。
そしてステップ③では、ステップ①とステップ②を結びつけながら、自分の仕事経験を振り返る。職場で共有される目標や顧客からの反応などを手がかりに、自分の仕事が組織の理念やビジョンの実現にどのように関わっているのかを考えるのである。事業戦略に関する専門知識は必ずしも必要ない。自身の役割と組織の方向性を結びつけることで、当たり前だと思っていた日々の業務も、組織や事業を支える活動として捉え直すことができる。
ここで、飲食店で接客を担当していたアルバイトの例を考えてみたい。まずステップ①として、その会社が「心地よい時間と空間を提供すること」を大切にしていたとする。次にステップ②で、自分が行っていた仕事を書き出してみると、接客、レジ対応、ドリンク提供、店内清掃、店内環境の管理などが挙げられる。ステップ③では、それらの仕事が企業理念やビジョンの実現にどのように関わっていたのかを考える。
たとえば、常連のお客様がよく注文する商品を覚え、一人ひとりに合わせた接客を心がけたり、店内を快適に利用できるよう時間帯や天候に応じて室温を調整したりしていたかもしれない。こうした工夫やエピソードから考えると、「接客」は単なる注文対応ではなく、お客様に心地よい時間を提供するための活動であり、「店舗環境の管理」は快適な空間を支える仕事であったと捉えることができる。こうした働きかけは顧客満足の向上やリピート利用の促進につながり、結果として店舗売上や事業継続を支える役割も果たしていたと考えることができる。
このように振り返ることで、「接客を担当した」という経験は単なる業務内容の説明ではなく、「顧客満足の向上や店舗価値の維持に貢献した経験」として語れるようになる。自分が担ってきた仕事を組織や事業との関係のなかで捉え直すことで、経験は職務経歴として伝わる内容へと変わっていく。
他者との対話が経験の意味を見つける
ただし、こうした振り返りを一人で行うことは容易ではない。日常的に行っている仕事だからこそ、自分ではその意味や価値に気づきにくいこともある。そこで重要になるのが、他者との対話である。筆者の経験を振り返ると、キャリアコンサルタントとして多くの人と対話するなかで、自分では当たり前だと思っていた経験の価値に、他者との対話を通じて初めて気づく人たちを少なからず見てきた。
たとえば、筆者が行ったインタビュー調査でも、副業として行った単発の仕事を通じて、顧客から感謝されたことをきっかけに「改めて自分の強みやスキルに気づいた」と語る人がいた(リクルートワークス研究所,2026)。本業では当たり前に行っていた仕事であっても、別の場でその経験が評価されたり感謝されたりすることで、自分の仕事の価値に気づくことがある。
本人にとっては日常的に行っていたことであっても、他者の視点を通して見直すことで、その意味や価値が見えてくるのである。自分一人で整理することが難しいと感じる場合には、キャリアコンサルタントをはじめとする信頼できる第三者との対話を通じて、自分の経験を振り返ってみることも有効である。
非正規雇用での仕事経験が職務経歴書に書きにくいのは、経験がないからではない。自分が担ってきた仕事の意味や価値を言葉にすることが難しいからである。その背景には、自分の仕事と事業とのつながりを考えたり、経験や成長を振り返ったりする機会が十分ではないこともある。しかし、その経験を別の角度から見直すことで、日常業務のなかにも組織や事業を支えてきた役割を見いだすことができる。非正規雇用で培った経験も、自信を持って語ることのできる職務経歴なのではないだろうか。
(※1)筆者は「非正規雇用・非正社員」という言葉の見直しを提唱している。しかし本コラムでは、働き方全体を捉える必要があるため、一般的に用いられている「非正規雇用」
という言葉を使っている。なお、本コラムでは、職場で正社員以外と呼称されるパート・アルバイト、契約社員および派遣社員を指す言葉として用いている。
(※2)厚生労働省「能力開発基本調査」における「正社員」は、雇用期間の定めがなく、事業所において正社員・正職員として処遇されている常用労働者を指す。「正社員以外」は、契約社員、嘱託、パートタイム労働者などの常用労働者を指し、派遣労働者および請負労働者は含まれない。
【参考文献】
遠藤功監修、グロービス・マネジメント・インスティテュート編(2001)『MBAオペレーション戦略』ダイヤモンド社、p8
厚生労働省(2026)「令和7年度 能力開発基本調査結果の概要」
https://www.mhlw.go.jp/content/11801500/001728125.pdf(2026年8月3日アクセス)
リクルートワークス研究所(2026)「『時間』と『お金』の先にあるもの―スポットワークで生じる働く意味の5つの『味変』」
https://www.works-i.com/research/project/spotwork/interview/detail003.html(2026年8月6日アクセス)
岩出 朋子
大学卒業後、20代にアルバイト、派遣社員、契約社員、正社員の4つの雇用形態を経験。2004 年リクルートHR マーケティング東海(現リクルート)アルバイト入社、2005年社員登用。新卒・中途からパート・アルバイト領域までの採用支援に従事。「アルバイト経験をキャリアにする」を志に2024年4月より現職。2014年グロービス経営大学大学院経営研究科修了。2019年法政大学大学院キャリアデザイン学研究科修了。
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