正規と非正規の境界は消えた? 「雇用形態」に頼らない選考プロトコル時代の到来

岩出 朋子

2026年07月10日

私たちが労働市場を捉える際に用いてきた「雇用形態」という区分は、現在の実態をどこまで適切に表現しているのだろうか。一般的に「正社員」と「正社員以外(非正規雇用)」という区分は、働き方や処遇を理解するための基本的な枠組みとして用いられてきた。しかし、法制度の整備や企業における人事制度の多様化を背景に、その内実は変化している。雇用形態としての呼称が同一であっても、職務内容・責任・労働時間が異なる場合がある一方、呼称が異なっていても実態が近い場合も少なくない。

こうした変化の背景には、正社員と正社員以外(非正規雇用)の働き方の二極化を緩和することを目的に、国も法制度の整備や新たな雇用管理のあり方の導入を進めてきたことが挙げられる。具体的には、労働契約法18条に基づく「無期転換ルール(※1)」の導入や、厚生労働省が普及を進めてきた「多様な正社員(※2)」制度がこれにあたる。

このような変化のもとで、「雇用形態」という概念は、その内実を捉えにくいものとなりつつある。たとえば、先日のインタビューで出会った看護師は、自身の働き方を「パート」と表現していたが、実際には週5日・1日8時間のフルタイム勤務であった。正社員との差異としては、夜勤や土日勤務がないことに加え、委員会への参加など組織運営に関わる役割を担わなくてもよい点が挙げられていた。

この事例では、看護業務そのものや勤務時間という観点では、両者に大きな差はみられない。その一方で、担う可能性のある役割や責任の範囲には違いが存在している。また、パートタイマーの基幹労働力化の研究(武石, 2003;本田, 2005)が示すように、小売業や飲食業、サービス業などの領域では、従来正社員が担っていた職務を、パートタイマーが担う実態も広がっている。このように、職場の呼称だけでは捉えきれない多様な実態が存在している。

以上を踏まえると、正社員と正社員以外という従来の区分は、その内実において重なり合いを持ち、境界は必ずしも明確ではなくなっている。本コラムでは、こうした雇用形態区分の曖昧さを確認するため、まずは「正社員」という概念の定義を整理する。さらに、職務経歴書に記載される「雇用形態」から見えなくなっていることは何かを検討する。

実は、厳密な定義がない「正社員」

小倉(2013)によれば、「正社員」の厳密な定義は存在しない。政府統計における「雇用形態」の定義では、労働契約期間による区別、職場の呼称による区別、労働時間による区別の3つが併存している。総務省「労働力調査」では、主として職場における呼称に基づき雇用形態が区分されており、「正規の職員・従業員」という区分が用いられている。ただし、この区分は統計上の分類概念であり、一般に用いられる「正社員」と概ね対応するものの、両者は必ずしも一致するものではない。

また、厚生労働省「就業形態の多様化に関する総合実態調査」では、必ずしも呼称だけでなく、「事業所と直接雇用関係のある労働者で雇用期間の定めが無い労働者のうち、正社員・正職員等とされている者(他企業への出向者などを除く)」と定義されている。すなわち、「正社員」という呼称に、一定の条件が付加された概念を用いている(厚生労働省, 2025a)。

4社に1社が導入する「多様な正社員」制度 

正社員の内部には、複数の職種区分が存在する。厚生労働省「雇用均等基本調査」では、正社員を総合職、限定総合職、一般職、その他(上記に含まれない職種)の4つの区分で整理をしている(図表1)。これらの区分別の構成比を確認すると、男性は総合職が51.0%と過半を占める一方、女性は一般職が40.0%で最も高く、総合職は37.5%となっている(図表2)。限定総合職では、女性14.6%、男性9.2%である。このように、「正社員」という同一の区分の中でも、性別によって職種構成や働き方には明確な違いがみられる。

図表1 職種別正社員の定義

図表1 職種別正社員の定義
出所:厚生労働省(2025b)より筆者作成

図表2 男女別職種別正社員・正職員割合

図表2 男女別職種別正社員・正職員割合
※四捨五入により合計が100%にならない場合がある
出所:厚生労働省(2025b)より筆者作成

さらに、「多様な正社員」制度の浸透により、正社員の区分は一層細分化している。図表3に示されるように、2024年度には「多様な正社員」制度を就業規則等で明文化している事業所は24.3%にのぼり、全体の約4分の1で制度導入が進んでいる。制度導入する企業での実施内訳を見ると、短時間正社員(65.4%)、勤務地限定正社員(65.8%)、職種・職務限定正社員(55.2%)と多様な働き方の広がりが確認できる。

このように、従来の職種区分に加えて制度上の新たな区分が重なり、正社員の中身は多層化している。これまでも正社員の多様性について指摘がされてきたが、その上で「正社員」という呼称で一括りにされている働き方をどのように捉えるべきかを再考する必要があるのではないだろうか。

図表3 「多様な正社員」制度の規定の実施状況別事業所割合(2024年度)

図表3 「多様な正社員」制度の規定の実施状況別事業所割合(2024年度)
出所:厚生労働省(2025b)より筆者作成

正社員以外(非正規雇用)も「一括り」にはできない

では、正社員以外(非正規雇用)は、どのように定義されているのだろうか。神林(2017)によると、国際的には、期間を定めて労働契約を結ぶ被用者を非正規雇用とみなすという潮流があるが、日本における非正規雇用の定義は、統計や論者によって必ずしも一致していないという。つまり、正社員の定義と同じように、厳密なものは存在しない。

正社員と同じく、政府統計における非正規雇用の定義は、労働契約期間による区別、職場での呼称による区別、労働時間による区別が併存している。たとえば、総務省「労働力調査」では、職場での呼称による区別が用いられており、公開されている統計表ではその呼称により「正規の職員・従業員」か「非正規の職員・従業員」、「非正規の職員・従業員」ならそのうち「パート」「アルバイト」「労働者派遣事業所の派遣社員」「契約社員」「嘱託」「その他」という区分が示されている。しかし同じく「非正規の職員・従業員」に区分される中でも、同一の呼称であっても実際には責任の大きさや職務の範囲、労働時間などの面でその内実が大きく異なる可能性があり、さらに異なる呼称であっても実態は近い場合もある。

「非正規=短時間」ではない、派遣・契約の6割以上はフルタイム

職場の呼称で正社員以外(非正規雇用)とされる人たちは、正社員よりも短い労働時間なのだろうか。図表4を見ると、正社員では週35~45時間未満が61.0%と最も多く、いわゆる週5日×1日8時間に相当する40時間前後の働き方が中心となっていることがわかる。

一方で、この40時間前後の働き方が正社員に限られたものではない点が確認できる。派遣社員では67.5%、契約社員でも62.6%と、いずれも過半数が35~45時間未満で働いており、嘱託でも51.1%と半数を占めている。さらに、パート・アルバイトにおいても16.4%が同水準で就業している。

このように、週40時間前後のフルタイムに近い働き方は正社員に特有のものではなく、正社員以外にも相当数存在している。このことは、「非正規=短時間労働」という理解が、必ずしも実態を十分に反映していない可能性を示している。雇用形態と労働時間の関係は一枚岩ではなく、正社員以外であってもフルタイムに近い働き方を担う層が一定の規模で存在していることが確認できる。

図表4 週の労働時間(雇用形態別)

図表4 週の労働時間(雇用形態別)
※クロスセクションウェイトを用いたウェイトバック集計
※四捨五入により合計が100%にならない場合がある
出所:リクルートワークス研究所「全国就業実態パネル調査2025」より筆者作成

パート・アルバイトの4割が無期雇用契約

正社員以外(非正規雇用)の働き方は、契約期間の定めのある、臨時的な働き方として想起されるが、実態はどうだろうか。2013年の労働契約法改正では、いわゆる「無期転換ルール」が導入され、有期労働契約が通算5年を超えて更新された場合には、無期転換の申込権が発生することとなった。

図表5を見ると、正社員では無期雇用契約が85.7%と大半を占める一方で、正社員以外においても無期雇用契約が一定程度存在していることが確認できる。具体的には、パート・アルバイトでは40.1%、派遣社員で25.7%、契約社員でも25.1%が無期雇用契約となっている。

この結果は、正社員以外であっても、必ずしも契約期間の定めのある一時的な働き方に限られるわけではないことを示している。無期転換ルールの導入を背景に、正社員以外(非正規雇用)の中にも期間の定めのない形で就業する層が広がっていると解釈できる。すなわち、「非正規=有期雇用」という理解は必ずしも実態を反映したものではなく、正社員以外であっても無期雇用契約のもとで働く人が一定の規模で存在しているのである。

図表5 雇用契約期間の有無(雇用形態別)

図表5 雇用契約期間の有無(雇用形態別)
※クロスセクションウェイトを用いたウェイトバック集計
※四捨五入により合計が100%にならない場合がある
出所:リクルートワークス研究所「全国就業実態パネル調査2025」より筆者作成

採用現場に残る「雇用形態」によるスクリーニング

これまで見てきたように、労働時間や雇用契約期間といった観点からも、正社員と正社員以外の働き方は必ずしも明確に分かれているわけではない。むしろ、両者の境界は無期転換ルールなどの影響もあり、より曖昧になっている。

日常業務の上では、正社員以外の雇用形態であっても、職務内容や責任の程度において正社員と大きく変わらない働き方も広がっている。たとえば、流通業界や外食業界でみられる契約社員やパートタイマーによる売場責任者や時間帯責任者が挙げられる。

しかしながら、採用市場においては依然として「正社員」と「正社員以外」という区分が主要な枠組みとして用いられており、求人における募集条件や処遇の水準を規定する基準として機能している。とりわけ、応募者の職務経験を評価する際に、前職の雇用形態が一つの判断基準として参照されている可能性がある。

もっとも、これまで確認してきたように、雇用形態の呼称は必ずしも職務内容や責任、労働時間と対応しておらず、その内実を十分に反映しているとは限らない。したがって、応募者の経験や能力を把握する手段として雇用形態を用いることには、限界があるのではないだろうか。以上を踏まえると、前職の雇用形態に基づいて応募者の経験を評価するあり方は、実態との乖離を伴う可能性があり、その妥当性について再検討が求められると考えられる。

雇用形態のラベルを排した新しい選考プロトコル

こうした採用場面における評価のあり方を具体的に表している例として、筆者が最も違和感を持つのは、「職務経歴書」における雇用形態の記載である。職務経歴書では「雇用形態」の記載が一般的とされているが、こうした形式は実態を適切に捉えることを妨げているのではないだろうか。

同一の呼称であっても職務内容や責任、労働時間が大きく異なる場合がある一方で、異なる呼称であっても実態が近い場合も確認される。このような呼称と実態の乖離を踏まえると、「雇用形態」という情報が応募者の経験をどの程度まで適切に示しているのかについては、再検討の余地がある。

採用選考の場面では、この問題が顕在化しやすく、雇用形態に着目した評価だけでは各形態に内在する多様な実態を捉えることは難しい。したがって、働き手の経験を適切に評価できない可能性がある。だからこそ、雇用形態を一つの参照情報にとどめ、応募者が担ってきた職務内容や役割、責任の範囲といった具体的な経験に基づいて評価することが求められる。

さらに踏み込めば、雇用形態というラベルの記載を前提とした現在の形式そのものについても、見直しの余地がある。雇用形態による区分に依拠するのではなく、応募者が担ってきた職務内容や役割、成果がより直接的に把握できる形式へと再構成していくことも、一つの方向性として考えられる。

雇用形態に依拠した評価が、実際には活かされ得る経験やスキルを見過ごすだけでなく、特に正社員以外の経験について、本来よりも低く評価してしまう結果につながっている可能性も否定できない。働き手が希少化する社会においては、こうした評価のあり方が、多様なキャリアを持つ人材の活躍機会を狭めているとすれば、その影響は無視できない。その観点から、雇用形態によって機会が左右される構造を見直し、応募者の経験や能力を実態に即して把握することが求められる。

その一環として、職務経歴書の記載項目のあり方を再検討し、雇用形態にかかわらず、経験やスキルが適切に評価され、それが活かされる環境へと転換していくことが求められる。こうした方向への転換が進むことを強く期待したい。

(*1)無期転換ルールとは、有期労働契約が同一の企業で反復更新されて通算5年を超えたときに、労働者の申込みによって企業などの使用者が無期労働契約に転換しなければならないルール(厚生労働省, 2024)。
(*2)「多様な正社員」とは、職務・勤務時間・勤務地のいずれかを限定したいわゆる限定正社員の総称であり、主に次の3類型に分けられる(厚生労働省, 2024)。
・職務限定正社員:就業規則等において、担当する仕事の範囲を限定している。
・勤務時間限定正社員:所定労働時間が他の正社員に比べて短く設定されているほか、時間外労働を行わないことが就業規則等で定められている場合がある。
・勤務地限定正社員:就業規則等により勤務地が限定されており、たとえば転居を伴わない地域への異動に限られる場合や、採用時の勤務地のみに限定されている場合がある。

【参考文献】
小倉一哉(2013)『「正社員」の研究』日本経済新聞出版社
神林龍(2017)『正規の世界・非正規の世界 現代日本労働経済学の基本問題』慶應義塾大学出版会
厚生労働省(2024)「多様な正社員及び無期転換ルールに係るモデル就業規則と解説」
https://www.mhlw.go.jp/content/11200000/001367196.pdf(2026年6月4日アクセス)
厚生労働省(2025a)「令和6年就業形態の多様化に関する総合実態調査の概況」
https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/koyou/keitai/24/dl/gaikyo.pdf(2026年6月3日アクセス)
厚生労働省(2025b)「『令和6年度雇用均等基本調査』の結果概要」
https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/dl/71-r06/06.pdf(2026年6月3日アクセス)
武石恵美子(2003)「非正規労働者の基幹労働力化と雇用管理」日本労務学会誌, 5巻1号, p. 2-11
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jshrm/5/1/5_2/_pdf(2026年6月26日アクセス)
本田一成(2005)「パートタイマーの組織化の意義 基幹労働力化と処遇整備に注目して」日本労働研究雑誌,No. 544,p. 60-73
https://www.jil.go.jp/institute/zassi/backnumber/2005/11/pdf/060-073.pdf
(2026年6月26日アクセス)
労働政策研究・研修機構(2024)「『二極化』以後の非正規雇用・労働 ―公的統計等の公表データ集計・個票データ分析より―」労働政策研究報告書No. 230
https://www.jil.go.jp/institute/reports/2024/documents/0230.pdf(2026年6月4日アクセス)

岩出 朋子

大学卒業後、20代にアルバイト、派遣社員、契約社員、正社員の4つの雇用形態を経験。2004 年リクルートHR マーケティング東海(現リクルート)アルバイト入社、2005年社員登用。新卒・中途からパート・アルバイト領域までの採用支援に従事。「アルバイト経験をキャリアにする」を志に2024年4月より現職。2014年グロービス経営大学大学院経営研究科修了。2019年法政大学大学院キャリアデザイン学研究科修了。