管理職になると、仕事満足はどう変わる?「課長になること」で変わるもの、変わらないもの

大嶋寧子

2026年09月18日

「管理職になりたくない」。

近年、管理職になりたくない人が増えていると言われる。責任は重くなる。部下の育成や評価、配慮や調整は簡単ではない。しかも、管理職になれば、これまでプレイヤーとして磨いてきた専門性を伸ばす時間も限られる。

人事にとっても、これは悩ましい問題だ。管理職候補を育てたいのに、「できればなりたくない」と考えている人も多い。では、管理職になることは、本当に本人にとってネガティブな経験なのだろうか。

実際に管理職になった人は、その後、仕事に不満を感じるようになるのだろうか。それとも、管理職になることで、何かポジティブな変化を実感しているのだろうか。

もちろん、答えは人によって違うだろう。それでも、同じ人を追跡したデータを用いれば、非管理職から課長クラスへ移行したとき、仕事への意識がどのように変化する傾向があるのかを確かめることはできる。

そこで、2015年以降、全国の約5万人を追跡調査するリクルートワークス研究所「全国就業実態パネル調査」のデータを用いて、非管理職から課長クラスへ移行したとき、仕事への意識がどう変化するのかを分析した。

課長クラスは、5つの仕事意識すべてで高い

管理職といっても、その中には主任クラス、課長クラス、部長クラスなど様々あるが、今回は「課長になる」ことに伴う仕事意識の変化に着目する。課長は、多くの企業において、プレイヤーとして自ら成果を上げる役割から、部下の育成や業務配分、職場運営を通じて組織の成果を生み出す役割へと本格的に移行する最初の階層である。仕事の内容や責任、裁量、人間関係の変化が大きく表れやすく、管理職になることが本人の仕事意識にどのような影響を与えるかを捉えるうえで、重要な転換点でもある。

そこでまず、2025年時点の30~54歳の正社員について、非管理職と課長クラスの仕事意識を比べてみた(図表1)。仕事意識は「今後のキャリアの見通しが開けていた(以下、キャリアの見通し)」「これまでの職務経歴に満足していた(以下、職務経歴満足)」「仕事そのものに満足していた(以下、仕事満足)」「生き生きと働くことができていた(以下、生き生き働く実感)」「仕事を通じて、『成長している』という実感を持っていた(以下、仕事を通じた成長実感)」の5つを取り上げ、「あてはまる」「どちらかというとあてはまる」の割合を示した。

図表1 非管理職と課長クラスの仕事意識(2025年)図表1 非管理職と課長クラスの仕事意識(2025年)(注)クロスセクションウェイトを用いたウェイトバック集計。2025年時点で30から54歳の正社員かつ非管理職層および課長クラスのデータを比較。課長クラスには、課長および課長クラスの専門職を含む。
(出所)リクルートワークス研究所「全国就業実態パネル調査2026」

これを見ると、キャリアの見通しがあった人の割合は、非管理職で16.1%に対し課長クラスで25.2%だった。また、職務経歴満足は25.1%に対し35.2%、仕事満足は34.7%に対し43.5%。生き生き働く実感は27.4%に対し35.5%、仕事を通じた成長実感は29.1%に対して36.7%であった。つまり、5つの仕事意識のすべてで、課長クラスで該当する人の割合が高かった。

一見すると、「課長になれば、仕事に対する意識はよくなる」ように見える。しかし、課長クラスにいる人と、非管理職にいる人は、そもそも同じ人ではない。もともと仕事に前向きな人、キャリアへの意欲が高い人、仕事で成果を上げてきた人の方が、課長になりやすいことが影響しているかもしれない。

では、同じ人が課長になったら、何が変わるのだろうか。

同じ人を追うと、見えてくるものが違う

そこで、2015年から2025年までのデータを用いて、同じ人が非管理職から課長クラスへ移行したとき、5つの仕事意識がどう変化するのかを調べた。順応性の高さやキャリアへの積極性など、調査で直接把握することが難しく、かつ時間を通じて大きく変化しない個人の特性の影響を取り除いたうえで、非管理職から課長クラスへの移行に伴う仕事意識の変化を捉える分析手法を採用した(※1)。仕事条件を統制しない分析(基本分析)と仕事条件を統制した分析(仕事条件統制分析)を行い、比較を行った。

図表2はその結果を示したものである。グラフ上の数字は、非管理職から課長クラスへの移行に伴って、「キャリアの見通し」「職務経歴満足」「仕事満足」「生き生き働く実感」「仕事を通じた成長実感」に肯定的に回答する確率が何%ポイント変わるかを示している。

図表2 非管理職から課長クラスへの移行に伴う仕事意識の変化

図表2 非管理職から課長クラスへの移行に伴う仕事意識の変化
(注)数字は、非管理職から課長クラスへの移行に伴い、各項目に肯定的に回答する確率が何%ポイント変化するかを示している。5%水準で統計的に有意な項目のみ数値を示した。仕事条件を統制した分析では、労働時間、収入、働く時間の選択の可否、働く場所の選択の可否、OJT(上司・先輩等から指導を受ける/上司・先輩等から指導を受けずに自ら学ぶ/学ぶ機会なし)、Off-JT(受けていない/受けた)を統制した。

課長になると、キャリアの見通しは開ける

最もはっきりした変化の一つが、キャリアの見通しだった。

非管理職から課長クラスへの移行に伴い、キャリアの見通しをもつ確率は、3.13%ポイント高くなった。さらに、年収、労働時間、働く場所や時間の柔軟性、OJT、Off-JTといった仕事条件を考慮しても、2.86%ポイントの上昇が残った。

つまり、給与が上がったことや働き方が変わったことによる影響をコントロールしても、課長への移行に伴って、これからのキャリアの見通しをもちやすくなっていると読み取れる。課長になることで、自分が組織の中でどういう役割を期待されているのか、その先にどのような役割があるのかが見えやすくなる。これまで漠然としていた「これからの仕事」が、少し具体的なものになる。そのこと自体が、キャリアを考える視点を変えているのかもしれない。

「これまでの職務経歴」にも肯定的になる

もう一つ変化が大きかったのが、これまでの職務経歴への満足だった。非管理職から課長への移行に伴い、職務経歴満足をもつ確率は4.24%ポイント上昇した。仕事条件を考慮した後でも、3.74%ポイントの上昇であった。

課長への昇進は、それまで積み重ねてきた経験や仕事ぶりが、組織から一つの区切りとして認められる出来事であり、それが過去の経歴を肯定的に捉え直すきっかけになっている可能性がある。

仕事そのものへの満足は変わらない

ところが、仕事そのものへの満足をみると、違う結果が得られた。非管理職から課長クラスへの移行に伴って、仕事満足は明確に高まらなかった。仕事条件を考慮すると、課長クラスへの移行に伴う変化はより小さくなり、同様に統計的に有意ではなかった。

図表1で見たように、非管理職の人と課長クラスを比較すると、後者の方が仕事満足を感じる割合は高い。しかし、その違いは、「その人が課長になったから生まれた差」とは言い切れない。同様に、生き生き働く実感についても、非管理職から課長クラスへの移行に伴う明確な変化は確認されなかった。

成長実感は、また少し事情が違う

成長実感は、非管理職から課長クラスへの移行に伴って2.27%ポイント高くなっていた。
しかし、仕事条件を考慮すると、上昇幅は1.69%ポイントへと縮小し、統計的に有意ではなくなった。
ここから考えられるのは、成長実感の高まりには、課長になったことそのものというより、課長になることに伴う収入や働き方、学習機会の変化などの仕事条件の変化が関わっている可能性である。そうした変化が、課長になった人の「成長している」という感覚を支えている可能性がある。

こうして見ると、今回取り上げた5つの仕事意識については、課長クラスへの移行に伴って明確に悪化する傾向は確認されなかった。また、「過去」に関わる職務経歴満足や、「未来」に関わる「キャリアの見通し」はもちやすくなる可能性が示唆された。しかし、肝心な「今」に関わる「仕事満足」や「生き生き働く実感」は必ずしも高まらなかった。

課長になると、女性の『キャリアの見通し』が大きく変わる 

さらに興味深い点が、「キャリアの見通し」に見られた。5つの仕事意識のうち、非管理職から課長クラスへの移行に伴う変化に男女差が確認されたのは、この項目だけだった。
仕事条件を考慮して分析をすると、課長クラスへの移行に伴い、男性ではキャリアの見通しを肯定的に回答する確率が2.22%ポイント高くなったのに対し、女性では9.10%ポイント高くなった。男女の差そのものも統計的に有意だった。

では、なぜ課長クラスへの移行とキャリアの見通しとの関係は、女性でより強く表れたのだろうか。今回の分析だけから、その理由を断定することはできない。ただ、一つの仮説として考えられるのは、課長になることが持つキャリア上の意味が、男女で異なる可能性である。管理職になる前には、女性のキャリアが自分にとってどこまで開かれているのかが見えにくかった人が、課長という役割に就くことで、「自分は組織から期待されている」「この先に進める」という具体的な感覚をもちやすくなるのかもしれない。

「管理職になりたくない」に、人事はどう向き合うか

ここまでの結果から、管理職になりたくない人が間違っている、と言うことはできない。
課長になったからといって、仕事満足が高まるとは限らない。毎日を生き生き働けるようになるわけでもない。

こうした結果は、人事に二つの課題を示している。

第一に、「過去」と「未来」を生かすことである。たとえば今回の分析では、課長クラスへの移行に伴い、キャリアの見通しやこれまでの職務経歴への満足が高まる傾向が確認された。課長になるという節目には、これまでのキャリアを振り返り、その先を考える契機となる側面があるのかもしれない。 

こうした傾向をより生かすために、例えば、課長になることを単に役割変更と位置付けるのではなく、本人にとってキャリアの棚卸と今後を描く機会とすることも有効ではないか。
具体的には、管理職になる際に、その役割遂行に必要な知識を習得するための研修だけでなく、これまでのキャリアや大切にしてきたことを振り返り、その先を描く機会と支援を用意する。そうすることで、昇進を「負担が増える出来事」だけでなく、「自分のキャリアを前に進める出来事」として、より捉えやすくなる可能性がある。

第二に、「現在」の課長経験をより良くすることである。分析からは、仕事満足や生き生き働く実感は、課長になるだけでは明確に高まらなかった。

一方、今回の分析では、働き方に柔軟性があることや、OJT、Off-JTなどの能力開発の機会があることは、仕事満足を含む幅広い仕事意識とプラスの関係をもっていた。なかでも、上司や先輩から指導を受けるOJTは、仕事満足や生き生き働く実感だけでなく、成長実感とも強い関係が見られた。

管理職になると、「部下を育てる人」という側面が強くなる。しかし、本人もまた、仕事を通じて学び、誰かから助言を受け、能力を伸ばしていく一人の働き手である。管理職になった途端に「育成する側」に振り切るのではなく、管理職本人も人との関わりを通じて学び続けられる環境を用意するという視点が必要ではないか。

組織が主導して、課長の仕事体験を見直す

また、「現在」の課長経験を良くするうえでは、管理職本人が学び成長できる環境を整えるだけでなく、管理職としての仕事そのものに充実感を得られることも重要だろう。

管理職の仕事には、部下への支援など、本人の充実感につながりうる仕事がある。その一例として、リクルートワークス研究所「組織の持続的な運営を支えるマネージャーのケア行動」は、多くのマネージャーが日常的にケア行動を行うなか、適切なケア行動は業績や仕事の充実感と正の関わりがあることを指摘している。ただし、適切にケア行動を行うためには、業務量やリソースの調整に関わる組織的支援が重要である。ケア行動に限定せず、管理職としての充実感につながる仕事にリソースを振り向けられるよう、業務の見直しやリソースの調整、組織構成の見直しなどを、組織が主導して行うことが重要だろう。

課長になれば、仕事満足が自動的に高まるわけではない。しかし、これまでのキャリアへの納得感や、これからの見通しは変わりうる。だから問題は、「管理職になれば良いことがある」と説得することではない。管理職への移行を、自分のキャリアを捉え直す機会にするとともに、管理職としての日々の仕事そのものを、より良い仕事体験にどう変えていくかではないだろうか。

(※1)この分析では、同じ人を追跡調査したパネルデータを用い、個人固定効果モデルによる線形確率分析を行った。仕事条件を統制しない分析(基本分析)と仕事条件を統制した分析(仕事条件統制分析)を行っている。仕事条件を統制した分析では、労働時間、収入、働く時間の選択の可否、働く場所の選択の可否、OJT(上司・先輩等から指導を受ける/上司・先輩等から指導を受けずに自ら学ぶ/学ぶ機会なし)、Off-JT(受けていない/受けた)を統制した。

大嶋 寧子

東京大学大学院農学生命科学研究科修了後、民間シンクタンク(雇用政策・家族政策等の調査研究)、外務省経済局等(OECDに関わる政策調整等)を経て現職。専門は経営学(人的資源管理論、組織行動論)、関心領域は多様な制約のある人材のマネジメント、デジタル時代のスキル形成、働く人の創造性を引き出すリーダーシップ等。東京大学大学院経済学研究科博士後期課程在学中。