「時間」と「お金」の先にあるもの―スポットワークで生じる働く意味の5つの「味変」
前回のコラムでは、単発・短期ワーク(スポットワーク)(※1)が「時間」や「お金」に関するさまざまな事情に応じて活用されていることを見てきた。本業や学業、育児との両立、予定の不確実さ、急な出費など、その内容はさまざまである。しかし、多くの人に共通していたのは、自分の生活の軸を維持したまま取り入れられる働き方としてスポットワークを活用していた。
図表1を見ると、「自分の都合の良い日時や時間帯で働けた」(57.7%)、「スキマ時間を有効活用できた」(32.2%)、「すぐに収入を得ることができた」(22.0%)など時間や収入に関する項目が上位を占めている。一方で、「興味のあった仕事や業界を気軽に試すことができた」(12.4%)、「様々な人との出会いがあり、人脈が広がった」(11.9%)、「様々な仕事を経験することで、自分に合う仕事を見つけるきっかけになった」(11.0%)など、仕事経験そのものから得られる価値も上位に挙がっている。
図表1 単発・短期ワークを通じて仕事経験やキャリアとして良かったこと(TOP10)

※複数回答
出所:「単発・短期ワーク(スポットワーク)の就労実態調査」より筆者作成
インタビュー調査(※2)を進める中で見えてきたのは、こうした仕事経験から得られる価値の多くが、実際に働く中で生まれていたということである。生活上の事情から始めたはずの仕事が、いつの間にか自己理解の機会になり、人とのつながりの場になり、やりがいを感じる場へと変化していく事例が少なからず見られた。
いわば、スポットワークで働く意味に「味変」が生じているのだ。味変とは本来、料理の途中で味に変化をつけることを意味するが、そこから本コラムでは「味変」を、仕事そのものは同じでも、実際の就業経験を通じ、そこに見いだす意味や価値が変わっていくことを表す言葉として用いる。今回のインタビューでは、こうした変化がさまざまな形で見られた。
そこで本コラムでは、図表1に表れた結果の背景にあるエピソードをもとに、仕事に対する意味づけがどのように変化していったのか、5つの「味変」を見ていきたい(図表2)。
図表2 働く意味の変化

出所:「単発・短期ワーク(スポットワーク)に関するインタビュー調査」より筆者作成
1:「空き時間の活用」が「楽しみの発見」に変わる
インタビューでは、「暇だったから始めた」という声が数多く聞かれた。リモートワークによって通勤時間がなくなり、残業も減って時間を持て余すようになった会社員。夜勤明けに友人と予定が合わず、空いた時間をどう過ごそうかと考えていた看護師。急な予定変更でぽっかり時間が空いた大学生や、定年退職後に家で過ごす時間が長くなったシニアなど、自由に使える時間が増えた背景はさまざまである。
図表1を見ると、上位には「自分の都合の良い日時や時間帯で働けた」(1位)、「スキマ時間を有効活用できた」(2位)が並んでいる。実際にインタビューでも、空いた時間をどう過ごすかをきっかけにスポットワークを始めた人は少なくなかった。
しかし、続けるうちにスポットワークとの付き合い方は少しずつ変わっていく。最初は空いた時間を活用するために始めたものの、やがて仕事を探すこと自体が日常の楽しみになっていた。「今日は何件できるだろう」「今月は何回働けるだろう」と自分なりの目標を立て、その達成を楽しむ。スポットワークは、まるでゲームのミッションをクリアするような感覚で楽しまれていた。
さらに、働いて得た収入は、自分へのちょっとしたご褒美にもなっていた。焼肉を食べる。好きなものを買う。少し良いお酒を選ぶ。そうした小さな贅沢もまた、スポットワークを続ける楽しみの一つになっていた。空き時間を活用するために始めた仕事は、いつしか新たな楽しみを見つける機会になっていたのである。
2:「空き時間の活用」が「社会とのつながり」に変わる
「様々な人との出会いがあり、人脈が広がった」(11.9%、7位)という回答も見られた。スポットワークは、普段の生活では接点のない人たちとの接点を生み出す機会にもなっている。中には、時間を持て余していたことをきっかけにスポットワークを始めた人もいた。定年退職後に家で過ごす時間が長くなったシニア、休日の多い働き方をしている会社員、家と職場の往復だけの生活に物足りなさを感じていた教員など、その背景はさまざまである。
しかし、実際に働いてみると、そこで得られたのは収入だけではなかった。飲食店で働き始めた人の中には、お客様との会話や一緒に働くスタッフとのコミュニケーションを楽しみにするようになった人もいた。また、普段の仕事では接点のない高校生や大学生などの若い世代と働くことで、新鮮な刺激を受けたという人もいた。
スポットワークの特徴は、普段の生活では交わらない人たちと接点を持てることにある。職場のスタッフや来店客、同じ現場で働くスポットワーカーなど、本業や普段の生活圏では出会うことのなかった人たちと関わることで、新たな人とのつながりが生まれていた。空いた時間を活用するために始めたスポットワークは、いつしか社会との接点を広げる機会になっていた。
3:「仕事体験」が「自己理解」に変わる
図表1では、「様々な仕事を経験することで、自分に合う仕事を見つけるきっかけになった」(11.0%、8位)、「自分がやりたい仕事にチャレンジすることができた」(9.5%、9位)が上位に挙がっている。スポットワークには、自分に向いている仕事や働き方を知る機会という側面もある。
さまざまな仕事を経験する中で、自分自身について新たな発見をしたという声も多く聞かれた。たとえば、これまで病院での勤務経験が中心だった看護師の中には、スポットワークを通じて訪問入浴やデイサービスなどの現場を経験した人もいた。病院以外で看護師として働くことで、「訪問入浴は自分には体力的な負担が大きい」「利用者の自宅に入る働き方は自分には向いていないかもしれない」と感じたという。実際に働いてみたことで、仕事の選択肢が広がっただけでなく、自分に合う働き方への理解も深まっていた。
また、毎回異なる職場や人間関係を経験する中で、「新しい環境を渡り歩くよりも、同じ職場で人間関係を築きながら働く方が自分には向いている」と気づいた人もいた。スポットワークは自由度の高い働き方として語られることが多いが、実際に経験してみたことで、改めて自分にとって心地よい働き方が見えてきたという。
さらに、飲食店での仕事を体験したことで、「長く働くならチェーン店よりも個人経営の店の方が自分には合っている」と感じた人や、清掃の仕事を通じて、「人の家をきれいにすることが意外と好きだった」という発見をした人もいた。自分でも気づいていなかった好みや興味が、仕事を通じて見つかることもあった。
このようにインタビュー対象者の経験から、スポットワークは、単にさまざまな仕事を体験する機会にとどまらない。自分に向いている仕事や働き方だけでなく、向いていない仕事、自分でも気づいていなかった好みや価値観を知る機会にもなっていた。仕事体験を通じて、自分に合う働き方や価値観への理解を深めていたのである。
4:「仕事のお試し」が「社会見学」に変わる
「興味のあった仕事や業界を気軽に試すことができた」(12.4%、6位)も上位に入っている。スポットワークは、普段であれば足を踏み入れることのない職場や業界を、実際に働きながら体験できる機会にもなりうる。
インタビューでも、「まずは仕事を試してみたい」という動機から始めた人は少なくなかった。起業のヒントを得るために観光施設や宿泊施設の現場に入った人もいれば、一生に一度の大規模イベントに関わってみたいという思いから、イベントスタッフとしてさまざまな仕事に挑戦した人もいた。また、飲食店で働く経験をしてみたいものの、長期アルバイトをする余裕がなく、スポットワークを活用した学生もいた。
しかし、実際に働いてみると、見えてくるものは想像以上に多かった。観光施設や旅館では、利用者からは見えない場所で多くの人が地道な作業によってサービスを支えていることを知り、これまで気づかなかった裏方の仕事の価値に目を向けるようになったという。また、飲食店では、どのような客層が訪れるのか、従業員はどのような雰囲気で働いているのか、休憩室やバックヤードはどうなっているのかといった、外からは見えない「職場の日常」を知る機会になっていた。
さらに、開店前の商業施設やイベント会場など、普段は入ることのできない場所に足を踏み入れること自体にワクワク感を覚える人もいた。仕事を通じて得られたのは、収入や業界理解だけではない。普段は利用者としてしか接しない施設やサービスに、働き手として加わることで、新しい世界を垣間見たり、社会の裏側を知ったりする面白さだった。仕事を経験することは、いつしか「大人の社会見学」のような機会へと変わっていった。
5:「収入源の確保」が「やりがい」に変わる
ここまで紹介してきた4つの働く意味の変化は、スポットワーク経験者に尋ねた「仕事経験やキャリアとして良かったこと」の10位内に入っていた(図表1)。しかし、インタビューでは数字だけでは見えてこない変化も回答から読み取れた。それは、収入を得るための仕事が、誰かの役に立つ喜びや働きがいへと変わっていくことである。
スポットワークには、収入を得る手段としての役割もある。生活費の補填や本業・学業を支えるための収入源として活用する人もいれば、より時給の高い仕事を選ぶ人もいる。インタビューでも、スポットワークを収入源の一つとして位置づけ、継続的に活用している人は少なくなかった。
しかし、今回のインタビューからは、働き続ける中で、その意味が少しずつ変化しうることが見えてきた。印象的だったのは、「収入のために始めたはずなのに、いつの間にか感謝されることそのものがやりがいになっていた」という語りである。
たとえば、生活費の補填を目的に事務ワークを始めた非常勤講師は、「困っていたので助かった」「お願いしてよかった」と依頼者から感謝されることが励みになったという。また、高校時代に飲食チェーンで3年間アルバイトをしていた学生は、ホールやキッチンなど幅広い業務を経験し、同じチェーン店であればどの持ち場でも対応できるスキルを身につけていた。その経験を生かし、現在はスポットワークでさまざまな店舗の応援に入っている。当初の動機は、レギュラーバイトよりも時給が高いことだった。しかし、どの店舗でも即戦力として働けるため、人手不足で忙しい現場では「今日は助かった」「来てくれてありがとう」と直接感謝されることが増えて、やりがいになっていった。
実際、スポットワーク経験者の47.0%は、関連する実務経験または資格を活かして働いている(リクルートワークス研究所, 2025)。中でも、「関連する実務経験はあるが、資格は活用していない」人は26.4%を占めている(※3)。今回紹介した2人も、事務職としての経験、飲食店での勤務経験など、これまでに培ってきた実務経験を活かして働いていた事例である。
興味深いのは、それらが本人たちにとって特別なスキルとして認識されていたわけではなかった点である。本業やかつてのアルバイト時代から日常的に行ってきた仕事であり、自分にとっては当たり前にできることだった。しかし、その背景には、職場ごとの業務やルールに対応しながら培ってきた経験やスキルの蓄積があった。
スポットワークでは、そうした経験やスキルが即戦力として評価され、感謝の言葉として直接返ってくる。その言葉を通じて、自分が当たり前だと思っていた経験やスキルにも価値があることを改めて認識していた。それが、「こんなことで感謝されるのか」と驚いたという経験者の言葉に表れているのではないだろうか。
収入を得る手段だったスポットワークは、いつしか収入源という意味だけでは語れないものになっていた。自分では当たり前だと思っていた経験やスキルが新たな職場で価値を持ち、誰かの役に立つことを実感する。その経験を通じて、仕事は収入を得る手段から働きがいを感じる場へと変化していたのである。
働く意味の「味変」は十人十色
スポットワークは、多くの場合、「時間」や「お金」に関する事情に応じて活用されている。しかし、インタビューから見えてきたのは、働く前から意識されていたわけではない価値が存在するということだった。
空き時間の活用が楽しみの発見になり、社会とのつながりになり、仕事体験が自己理解になり、仕事のお試しが社会見学になる。そして、収入源だった仕事がやりがいへと変わっていく。今回のインタビューでは、スポットワークという仕事に見いだす意味や価値が、経験を重ねる中で少しずつ変化していく姿が見られた。
もちろん、今回の12名のインタビューだけですべてを捉えきれたわけではない。スポットワークの特徴は、年齢や職業、家族構成、働く目的の異なる幅広い人たちが参加していることだ。だからこそ、仕事経験に見いだされる価値や、その意味の変化の仕方もまた一様ではない。
今回のインタビューからは、スポットワークを「都合のよい時間に必要な収入を得る働き方」として捉えるだけでは、そこで生まれる価値の一部を見落としてしまうことが見えてきた。仕事の内容や報酬だけでなく、どのような人と出会い、何を学び、自分のどのような経験やスキルが活かされたのか。働いた後にその経験を振り返ることで、単発・短期ワークであっても、自分のキャリアを考える機会になりうるのではないだろうか。
(※1)本コラムにおける単発・短期ワーク(スポットワーク)とは、以下の3つの条件に該当する仕事を指す。
1. 特定の企業や組織に雇用される、または業務を請け負うこと
2. 労働によって報酬が発生すること
3. 契約期間が1カ月未満であること
なお、契約期間が1カ月未満であっても、試用期間として設定されているなど、実質的に長期雇用を前提とした仕事は対象外とした。一方、単発の契約を繰り返し、結果として就業期間が1カ月以上となった場合は対象に含めている。
また、以下の活動は対象外とした。
・オークション・フリーマーケットでの販売
・SNSでの動画配信
・デイトレードや個人による株式・債券等の取引
・投資(株式・不動産等)による運用益や賃料収入を得る活動
・地域コミュニティ活動(消防団・町内会・PTA等)
(※2)「単発・短期ワーク(スポットワーク)に関するインタビュー調査」
・調査目的:単発・短期ワークの経験を通じて得たキャリア経験を明らかにする
・調査対象:過去3年以内に単発・短期ワークを経験した人(20代~60代)
・対象者数:12名
・調査期間:2026年4月22日~7月28日
・調査方法:半構造化インタビュー調査
・実施方法:1人1回(約60分)のインタビュー
・対象者の募集方法:調査協力者からの紹介をもとに対象者を募るスノーボールサンプリングにより実施
・分析方法:インタビュー逐語録をもとに発言内容を整理し、KJ法の考え方を参考にしながら共通するテーマやパターンを抽出した
(※3) 「単発・短期ワーク(スポットワーク)の就労実態調査」によると、スポットワーク経験者のうち、関連する実務経験と資格の両方を活かして働いている人は18.2%、関連する実務経験はあるが資格は活用していない人は26.4%、関連する実務経験はないが資格を活用している人は2.4%であった。一方、関連する実務経験も資格も活用していない人は53.0%であった。
【参考文献】
リクルートワークス研究所(2025)「単発・短期ワーク(スポットワーク)が広がる業界・職種は?」https://www.works-i.com/research/project/spotwork/deta/detail003.html
(2026年7月29日アクセス)
岩出 朋子
大学卒業後、20代にアルバイト、派遣社員、契約社員、正社員の4つの雇用形態を経験。2004 年リクルートHR マーケティング東海(現リクルート)アルバイト入社、2005年社員登用。新卒・中途からパート・アルバイト領域までの採用支援に従事。「アルバイト経験をキャリアにする」を志に2024年4月より現職。2014年グロービス経営大学大学院経営研究科修了。2019年法政大学大学院キャリアデザイン学研究科修了。
メールマガジン登録
各種お問い合わせ