年を重ねるなかで人はどのように仕事を変えるのか
―職種から見た労働移動の実態―
人生100年時代という言葉に象徴される、ライフスタイルの変化や労働市場の需給構造変化が進むなか、現代人の生涯におけるキャリア形成のあり方はどのようになっているのだろうか。
若年期の就職から中高年期の定着、そしてシニア期の定年退職や再雇用に至るまで、労働者はライフステージに応じて自らの働き方や職種を柔軟に変化させている。本レポートでは、リクルートワークス研究所「全国就業実態パネル調査(JPSED)」の2023から2026の4年間のデータをプール して、年齢階級別の転職率や職種間移動(管理職、専門技術職、事務・営業職、サービス・販売、生産・運輸・労務の5職種間の移動)の構造を分析することで、現代人の生涯キャリアの構造について考察する。
若いころは職種を転々とし、中年以降は定着するが、高齢期に再び移動する
データを分析すると、転職率は若年期に高く、年齢とともに低下する一方、60代に入るといったん上昇に転じる複雑な形状を描くことが分かる。
労働市場への参入期にあたる20代の転職率は20-24歳で35.3%と最も高く、25-29歳でも17.0%と、高い流動性を示している。この時期は学卒者の初期キャリア形成期に該当し、自らの能力や適性の見極めに加え、より好条件な賃金や労働時間を求めた試行錯誤が活発に行われる。特定の組織や職種に対する拘束が少なく、全年齢層のなかで最も職種の再選択が行われやすい時期となる。
30代から50代にかけての中堅・ミドル期に入ると、転職率は安定傾向を示す。30-34歳で11.6%、35-39歳および40-44歳で9.0%へと低下し、45-49歳(転職率:7.3%)、50-54歳(同:7.2%)、55-59歳(同:6.9%)と6〜7%台の最低水準で推移する。この年代では企業内でのスキルの熟練や昇進、管理職への就任といった組織内キャリアの定着によって仕事の内容が安定する。加えて、住宅ローンや教育費負担などの生活基盤の安定のため、また家族形成といったライフイベントも重なるため、リスクを伴う企業外への労働移動は抑制される傾向にあると推察される。
その後、60代を迎えると、低迷していた転職率は再び上昇へ転じる。60~64歳で8.5%、65~69歳で8.4%と、50代後半からは1.5〜1.6%ポイントの上昇を示す。これは、定年やその後の継続雇用契約の満了、年金受給開始年齢との兼ね合い、さらには健康状態や生活様式の変化に伴い、新たな就労機会を求める動きが活発化するためだろう。70歳以上になると転職率は5.6%まで低下し、労働市場における移動は再び落ち着きを見せる。
図表1 年齢階級別転職率

出典:リクルートワークス研究所「全国就業実態パネル調査」
若年期(20代〜30代):未経験分野へのキャリアチェンジが特徴
さらに、転職に伴う職種間移動のパターンの詳細を分析してみよう。
図表2は、20~24歳および25~29歳の転職経験者に絞り込み、前職の職種別に、現職の職種の構成を見たものである。若年期(20代)における職種間移動は、過去の実務経験やスキルに過度に縛られない未経験分野への挑戦が最大の特徴である。採用市場においても企業側は候補者の意欲やポテンシャルを重視するため、ミドル期などに比べて未経験職種への参入障壁が相対的に低い。
労働者としては初期に選んだ職種や企業が必ずしも自身の適性や志向と一致しているとは限らないため、この時期の転職は自己の適性を再発見し、キャリアの選択肢を広げる重要なプロセスとなっている。実際、前出の図表2を見ると、前職が「サービス・販売」であった層のうち、現職で「事務・営業職」へと移行した割合が20-24歳で23.3%(N=318)、25-29歳では28.3%(N=258)に達しているなど、現場職からホワイトカラー職への移行も比較的活発に行われている。
また、前職が「事務・営業職」であった層(20-24歳:N=322、25-29歳:N=632)においても、両年齢階級ともに11.2%が「専門技術職」へとシフトしており、IT関連技術者や各種専門職など専門性を新たに身につけようとする動向が見られる。他の前職から「専門技術職」への参入状況を見ると、20-24歳では「サービス・販売」出身者の13.8%(N=318)、「生産・運輸・労務」出身者の8.3%(N=325)が専門技術職へとキャリアチェンジを果たしている。接客や現場作業などの非オフィスワーク層からも、一定割合が専門技能を習得して新たな職種へ参入している実態が窺える。
このような若年期の職種移動は前職の領域にとどまらない将来の選択肢を増やすためのキャリアチェンジとして行われていると考えられ、個人の自律的なキャリア形成における第一歩として位置付けられる。
図表2 転職者の職業移動(20~24歳、25~29歳)

出典:リクルートワークス研究所「全国就業実態パネル調査」
ミドル期(45歳〜54歳):定着する傾向が強く、移動も経験を活かしたものが主流
先述のとおりミドル期は転職率が低く、そもそも労働移動は抑制されている。
こうしたなか、一定数は労働移動が行われるわけであるが、ミドル期の転職は、若年期のような未経験分野への方向転換とは異なり、長年の実務を通じて蓄積された知識・スキル・業界ネットワークといった人的資本をそのまま引き継ぐ同種間移動が主流となる。特に専門技術職や専門性の高い営業・企画職などでは、転職したとしても前職での実績や獲得した資格などを活用して同様の職種へ移行して活躍するケースが多い。
図表3は、45-49歳および50-54歳の転職経験者について、前職の職種別に、現職の職種の構成を見たものである。データを具体的に確認すると、「事務・営業職」からの転職者のうち、現職でも同職種を選択した割合は45~49歳で67.3%(N=468)、50~54歳では71.9%(N=505)に達する。また、「専門技術職」においても45~49歳で63.4%(N=262)、50~54歳で65.4%(N=217)と約3分の2が同職種にとどまっており 、前職での実績や獲得した資格を活かして即戦力として活躍するケースが多いことが推察される。
一方で、50代に差し掛かると、キャリアにおける役割の再定義が行われるケースも増え始める。前職が「管理職」であった層のうち、現職でも同じ「管理職」にとどまった割合は、45-49歳で37.8%(N=37)、50-54歳では25.0%(N=48)へと減少するなど、前職で組織のマネジメントを担っていた管理職が転職を機に一プレーヤーとしての専門職や営業職へ戻るケースや、実務スペシャリストへとシフトする現象が散見される。
ミドル期の労働移動はこれまでの業務経験や専門知識を軸にしつつも、マネジャーから実務スペシャリストや現場プレーヤーへの移行など、自身の立場や役割の再構築が行われ始める時期になっていると考えられる。
図表3 転職者の職業移動(45~49歳、50~54歳)

出典:リクルートワークス研究所「全国就業実態パネル調査」
定年前後期(55歳〜64歳):再びキャリアチェンジが増え始める
定年を目前に控えた時期から定年退職直後の段階にかけては、転職者の職種構成に変化が生じ始める。前職で管理職や事務系職種などホワイトカラーに従事していた層において、転職後にサービス・販売職や生産・運輸・労務職といった現場主導型職種へ移行する動きが増えていく様子が確認される。
図表4は、55~59歳及び60~64歳の転職経験者について、前職の職種別に、現職の職種の構成を見たものである。前職が「事務・営業職」であった層のうち、現職で「サービス・販売」または「生産・運輸・労務」へと移行した割合の合計は、55–59歳で30.8%(N=302)、60–64歳で27.9%(N=312)と約3割に上った。また、前職が「管理職」であった層(55–59歳:N=50、60–64歳:N=100)では、同職種にとどまる割合がいずれの年齢階級でも36.0%で、残り64.0%は非管理職へ移行している。そのうち現場系職種(サービス・販売、生産・運輸・労務)への移行は55–59歳で22.0%、60–64歳で24.0%見られる。
この時期の職種間移動は、役職定年や定年制度、組織の若返り方針等によって、人手不足が深刻で強い労働需要が存在する現場系職種に移行する構造が顕在化し始めるものになっている。ただし、この年代では「事務・営業職」からの転職者の約6割(55–59歳で59.9%:N=302、60–64歳で63.1%:N=312)がなお同職種を維持しており、ホワイトカラーとしてのキャリア継続を試みる層が主流派として残っている点も特徴である。
「専門技術職」出身者(55~59歳:N=197、60~64歳:N=266)は、同職種にとどまる割合が55~59歳で65.5%、60~64歳で69.5%と約7割に達する。高度なスキルや資格を保持している人に関しては、ミドルシニアの段階においても専門職として定着している実態が示されている。
図表4 転職者の職業移動(55~59歳、60~64歳)

出典:リクルートワークス研究所「全国就業実態パネル調査」
シニア期(65歳以上):現場職種への移行が本格化し、定着する
65歳以上のシニア期における転職行動は、55~64歳の時期と比較して、現場職種へのシフトと定着が一層深化することが特徴である。
図表5は、65歳以上の転職経験者について、前職の職種別に、現職の職種の構成を見たものである。シニア期にはホワイトカラー層からの現場シフトの規模は拡大する。前職が「事務・営業職」であった層(65~69歳:N=219、70歳以上:N=117)において、現職で現場系職種(サービス・販売+生産・運輸・労務)へ移行した割合の合計は、65~69歳で40.2%、70歳以上で45.3%へと上昇し、同職種維持率(65~69歳:47.9%、70歳以上:45.3%)とほぼ拮抗する水準に達する。また、前職が「管理職」であった層でも、現場系職種への移行割合が3割超(65~69歳:32.6%、70歳以上:34.6%)へ高まる。
さらに、現場系職種内での高い定着率も認められる。前職が「サービス・販売」であった層(65~69歳:N=96、70歳以上:N=85)では、同職種にとどまる割合が70歳以上で55.3%へ上昇する。「生産・運輸・労務」への移動も含めた現場系職種全体での継続率は、65~69歳で78.1%、70歳以上では81.2%と8割前後の高い水準に達する。なお、55~64歳で7割近くを維持していた「専門技術職」の同職種維持率も、65~69歳で63.0%、70歳以上で56.7%へと緩やかに低下し、現場系職種への移行(65~69歳で27.2%、70歳以上で36.7%)が始まる。
こうしたデータ上の変化からは、65歳以上では社内の人事制度、求人機会の構造など外的な環境変化にとどまらず、転職時の労働者個人としての優先順位が、高い報酬や役職の維持から負担の軽減や健康維持などへとシフトし、自身の体力や生活ペースに合わせた職種を自発的・能動的に選択する職種移動が行われている可能性が考えられる。
こうした動きは高負荷の責任から解放され、社会に必要とされている仕事への移行を伴いながら、自身の可能な範囲のペースで働き社会との接点を維持するという、現実的な順応プロセスとして捉えることができるだろう。
図表5 転職者の職業移動(65~69歳、70歳~)

出典:リクルートワークス研究所「全国就業実態パネル調査」
坂本 貴志
一橋大学国際公共政策大学院公共経済専攻修了後、厚生労働省入省。社会保障制度の企画立案業務などに従事した後、内閣府にて官庁エコノミストとして「月例経済報告」の作成や「経済財政白書」の執筆に取り組む。三菱総合研究所にて海外経済担当のエコノミストを務めた後、2017年10月よりリクルートワークス研究所に参画。
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