【開催報告】キャリアショックを「いい転機」にするために、企業に何ができるのか

2026年09月18日

事業再編やポストオフなど、本人の意思では避けられないキャリアショック。その経験が、その後の働き方を見つめ直す「いい転機」になることがある。では、何がその分岐を生むのか。研究から見えてきた「終わらせること」「自分にとって大事なものを考える時間」を手がかりに、企業の人事パーソンと、再び生き生きと働くために企業ができることを議論した。

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2026年3月に発行した報告書『ミドルのためのキャリアガイド キャリアショックとどう向き合うのか』では、キャリアショックを経験した個人に焦点を当て、そこからどのように「次」へ進んでいくのかを明らかにしてきた。今回のHR未来会議では、その研究成果を企業の側から捉え直し、キャリアショックを経験した人が、その後、再び生き生きと働くために、企業には何ができるのかをテーマに、企業の人事・キャリア開発に携わる参加者と、研究結果を手がかりに議論した。

事前アンケートで寄せられた関心は、「ミドル・シニアの再活性化」「キャリア自律」のほか、「事業撤退や再配置など本人の意思では避けられない変化への対応」「キャリアショック後の具体的な関わり方」「他社の実践を知りたい」など多岐にわたった。また、参加者の約8割が、キャリアショックを経験した社員への対応に「難しさを感じたことがある」と回答していた。

研究から見えた、キャリアショックの「その後」

キャリアショックは「いい転機」にもなり得る

キャリアショックとは、本人のコントロールが及ばない出来事によって、それまで当然だと思っていたキャリアの前提が揺らぎ、自らのキャリアについて深く考え直すことになる経験を指す。本研究所の調査では、40~64歳の47.5%が「自分ではどうにもならない予測不能な出来事をきっかけに、キャリアを見直した経験がある」と回答しており、きっかけは職場の関係トラブル、雇用・経営の変化、職務や地位の変化など、さまざまである。
ショックの直後には、思考が止まったり、強い自責や自己否定に陥ったりするなど、心身に大きな影響が表れる場合もある。その一方、先行研究では、ネガティブなキャリアショックがキャリア探索や自己管理を促し、ポジティブなキャリア発達につながる場合があることも指摘されている。

私たちの調査でも、キャリアショックが結果的に「いい転機」になった人がいた。報告書で紹介したF氏は、組織統合や希望とは異なる異動、拠点閉鎖を経験した後、40代で再就職先を決めないまま退職した。学び直しをする中で自分の関心を振り返り、「暮らしを整える仕事に関わりたい」という思いに気づき、現在は住空間に関わる専門職として働いている。F氏は単に「元の状態に戻った」のではない。キャリアショックによってそれまでの前提が崩れたことが、日々の仕事の中では見えにくくなっていた「自分にとって何が大事なのか」を問い直すきっかけとなり、その後のキャリアを新しく組み立てていた(※1)
では、ショックはどのようなプロセスを経て「いい転機」になっていくのだろうか。

「次」を考える前に、「これまで」を終わらせる

インタビューから見えてきたのは、「終わらせる」ことの難しさだった。キャリアショックを経験しても、それまでの役割や評価をなかなか手放せない人がいる。一方、「次」へ動き始めた人の周囲には、本人を急かさず、起きたことを整理してくれる人がいたほか、本人自身も「自分にとって大事なものは何か」を改めて考える時間を持っていた。
すぐに「次は何をしたいですか」と問うことが、必ずしも次への一歩につながるとは限らない。それまでの役割やキャリアを終わらせ、自分にとって大事なものを考え直す時間があり、その先に新しい可能性を模索する段階がある。この研究結果を共有したうえで、HR未来会議では、企業がそのプロセスにどう関われるのかについて意見交換を行った。

「終わらせること」と「急かされない時間」

企業と考えた、「いい転機」につなげる仕組み

人によって違う時間軸を、施策の前提にする

最初の意見交換で紹介されたのが、ポストオフを経験した社員に対し、時期を分けて4回の面談を行った企業の事例だった。
役職を外れる前には、本人はまだ「考えなければならないが、忙しくて考える余裕がない」という状態だった。ところが、実際に役職を外れた後の面談では、喪失感や「何をすればよいかわからない」という声が多く聞かれた。その後も面談を続け、4回目になってようやく「できることからやっていこう」という言葉が本人から出てきたという。
同じ出来事を経験しても、それを受け止めるまでに必要な時間は人によって違う。一方で、企業には企業の時間軸があり、事業再編や配置転換をいつまでも待つことはできない。だからこそ、本人と企業の時間軸が異なることを前提に、企業側の施策を組み立てることが必要になる。
また、時間に応じて接点を変えるのであれば、それぞれの段階で「誰が関わるのか」という問題も出てくる。そこへの対処方法についても意見交換が進められた。

「終わらせる人」と「次を考える人」は、同じでなくてもいい

ある企業では、まず上司が本人と向き合い、現在の職場で担ってきた役割について「ここでの役割は終わる」という現実を伝え、その後の「では次をどうするか」については、キャリアカウンセラーや人事が一緒に考えるという役割分担をしていた。
この事例は、「終わらせること」と「次を考えること」を、一人の担当者が一つの面談の中ですべて担う必要はないことを示している。ショックの直後には、まず起きたことを受け止める時間が必要な場合もあれば、自分の経験を整理する段階では、利害関係のない第三者と話すことが有効な場合もある。そして次を考えられるようになった段階では、新しい選択肢や経験につながる機会が必要になる。
実際、後半の議論では、上司や人事だけではなく、キャリア専門部署やHRBP、斜めの関係など、複数の相談先を用意している企業の事例も紹介された。本人の状態に応じて、関わる人や場を変えていくという発想である。

ショックが起きる前から、「変化」を前提にしておく

第6回HR未来会議の様子議論は、キャリアショックが起きた後の関わりだけでなく、その前に企業ができることにも広がった。

例えば、「1カ月後から役割が変わります」と突然伝えるのではなく、タレントレビューや育成の場などを使って、本人の現在地や今後期待されることを平時から誠実にフィードバックしておくという方法がある。会社の戦略は短期間で変わる可能性があっても、その判断の背景にある考え方や基準を、人事や現場が本人に伝わる言葉に翻訳することも必要ではないかという意見が出た。また、上司の「伝える力」だけでなく、社員側の「フィードバックを受け止める力」を平時から育てる必要性も、複数のグループで話題になった。ある企業では、フィードバックを批判ではなく成長のための機会として捉え、伝える側と受け取る側の双方がその考え方を学び、ロールプレイを行っているという。このほか、3~5年に一度、上司や人事権を持つ部署ではなく、キャリア専門部署と必ず面談する仕組みや、一定年齢で全員がキャリア面談を受ける仕組み、年代別のキャリア研修なども紹介された。

こうした取り組みに共通しているのは、キャリアショックへの対応を「何かが起きた人」だけに対する施策にしないという考え方である。仕事や役割は変わり得ること、今の肩書きや仕事だけが自分の価値ではないこと、そして自分のキャリアについて考えるのは何かが起きてからではないことを、日常の人材マネジメントの前提として共有しておく。それによって、実際に変化に直面したときの受け止め方も変わってくる可能性がある。

研究と実践を重ねて見えてきたこと

「自分にとって大事なもの」に戻れる機会をつくる

今回のHR未来会議では、キャリア相談や複数回の面談、第三者との対話、年代別研修のほか、社内副業、越境、キャリアブレイクなど、多くの具体的な施策が紹介された。形はそれぞれ異なるものの、研究結果と企業の議論を重ねてみると、共通する方向性がある。
キャリアショックを経験した人が再び生き生き働くまでには、起きたことを受け止め、これまでの役割に区切りをつけた上で、自分の経験を棚卸しし、「自分にとって何が大事なのか」を考え直す時間が必要になる。その先に、新しい可能性を模索し、実際に試してみる段階がやってくる。

企業にできるのは、この一連のプロセスを本人だけに委ねるのではなく、それぞれの段階で必要な人、時間、対話、経験につながれるようにしておくことではないだろうか。ショックの直後であれば、すぐに次を求めずに話せる時間をつくり、少し落ち着いた段階では、これまでの経験を棚卸しできる人や場につなぐ。その先には、社内副業や越境、学び直しなど、これまでとは異なる自分の可能性を試せる機会を用意することも考えられる。
同時に、そうした機会を「何かが起きた人」だけの特別なものにせず、日常から使えるようにしておくことも重要になる。日頃から自分の現在地を知り、キャリアについて考え、仕事や役割から少し離れて「自分にとって大事なものは何か」を確かめる機会があれば、予期せぬ変化に直面したときにも、そこへ戻って考えることができる。

キャリアショックそのものは、決して「いい出来事」ではない。しかし、その経験を通じて「自分はこれから何を大事にして働きたいのか」を見つけ、それまでよりも自分にフィットしたキャリアへ踏み出す人がいる。その意味で、キャリアショックは「いい転機」になり得る。

今回のHR未来会議で共有された企業の実践からは、そのために必要な時間を確保すること、一度きりではなく継続して対話できる接点を持つこと、段階に応じて関わる人を変えること、新しい経験を試せる機会を用意すること、そして、それらをショックが起きてから初めて用意するのではなく、日常の人材マネジメントの中に組み込んでおくことなど、いくつもの具体的な方法が示された。「自分にとって何が大事なのか」に立ち戻れる時間と関係と経験を、日常からどうつくっておくか。 キャリアショックを「いい転機」につなげるために企業ができることを考える上で、今回の議論から得られた一つの視点である。

執筆・第6回HR未来会議オーナー:辰巳哲子

辰巳 哲子

研究領域は、キャリア形成、大人の学び、対話、学校の機能。『分断されたキャリア教育をつなぐ。』『社会リーダーの創造』『社会人の学習意欲を高める』『「創造する」大人の学びモデル』『生き生き働くを科学する』『人が集まる意味を問いなおす』『学びに向かわせない組織の考察』『対話型の学びが生まれる場づくり』を発行(いずれもリクルートワークス研究所HPよりダウンロード可能)

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