【開催報告】「ポストオフのリアルと未来」を一緒に考える会

2025年12月11日

第2回HR未来会議の様子「ポストオフのリアルと未来」をテーマにした第2回HR未来会議(2025年7月16日)には、20社・約20名が参加。少子高齢化や人件費高騰、役職ポストの不足といった構造的な課題の中で、「ポストオフをどう位置付け、どのように運用していくのか」は、もはや一部企業だけのテーマではない。本テーマに関心を寄せた各企業の人事などが3グループに分かれ、これからの時代のポストオフについて意見交換を行った。

ポストオフの問題点と定義について

第2回のHR未来会議は、ポストオフに関する問題意識の共有からスタート。少子高齢化やポスト不足、人件費高騰などの問題が深刻化する中、ポストオフをどのように位置付けて活用するのかは、避けて通れないテーマとなっている。これまでは、高齢者の就業機会の確保として、定年延長などの施策が行われてきた一方、ポストオフ経験者に関する議論は限定的で、十分な議論が行われてこなかったという側面がある。現在、日本企業は70歳まで働く機会を確保するという努力義務の必要性に迫られている。そのような中、ポストに就いたまま働き続けることへの限界も見えてきていると感じられる。

現状で表出している問題として、以下の4点が挙げられる。

第1に、多くの企業で、ミドル・シニア層の役割停滞とモチベーション低下が顕著になっている。年齢や勤続年数に応じてポストにとどまり続ける構造が続く中、適切な役割移行や再配置が行われないまま、パフォーマンスの低下や意欲の萎みが表出するケースも少なくない。いわゆる「働かない中高年」問題は、個人の怠慢ではなく、役割移行の仕組みが機能していない組織構造の歪みとして捉える必要がある。

第2に、管理職の“罰ゲーム化”である。ポストを一度上げると下げにくい、あるいは下げられないという文化の中では、失敗を恐れるあまり、本人も周囲もチャレンジに踏み出しづらくなる。その結果、管理職への登用は慎重になり、「挑戦させたいのに、させられない」「挑戦したいのに、できない」という双方にとって不幸な構造が生まれてしまう。

第3に、個人のライフステージやキャリア志向に応じた役割選択を柔軟に行うことは、本来であればキャリアの自然なあり方のはずだ。しかし、日本企業では「ポストが上がる/下がる」という上下の概念が根深く残る。そのため、管理職から外れることが“後退”と見なされ、個人が自ら働き方や役割を選択することが難しい。この文化的なバイアスが、結果としてキャリアオーナーシップの発揮を妨げ、ミドル・シニア層の再挑戦を阻害している。

第4に、日本社会における「ポストオフ」への認識自体にも課題がある。ポストオフという言葉は、今なお“降格”“左遷”といったネガティブな印象を強く伴う。そのため、本来であれば一時的・柔軟な役割調整として活用できるはずの仕組みが、制度上も文化上も使いづらいという現実がある。

こうした問題意識を共有した上で、今回の議論を進めるにあたり、リクルートワークス研究所では、ポストオフを次のように定義した。「課長・部長・役職・役員などの管理職に就いている状態から(その責任下に複数の部下をマネジメントしている)、企業の判断または個人の判断でそのポストを外れること」。この定義に従えば、A部門の部長がB部門の部長に配属されるというケースは含まれない。部長から担当部長になる場合には、ポストオフに該当する。

ポストオフ導入の背景と運用が抱える課題

本会議の開催にあたり、事前に参加企業にアンケートを実施した。ポストオフ導入の背景・目的として挙がった主なポイントは次の通りである。

企業がポストオフに関心を寄せる背景には、組織と人材をめぐる構造変化がある。年齢や勤続年数にとらわれない人材活用への転換は不可欠となり、役職を「固定の地位」ではなく「担うべき役割」として捉え直す機運が高まっている。こうした発想の転換は、マネジメント層の入れ替えを促し、組織の新陳代謝を活性化させる効果も期待される。
さらに、個人が自律的にキャリアを開き、事業の成長と接続していくためにも、柔軟な役割移行の仕組みは欠かせない。グループ経営などの構造的な理由からポストの配置や再配置を求められるケースも増えており、ポストオフはその調整弁として機能しつつある。

一方で、ポストオフの運用には多くの課題が横たわっている。年齢一律の運用はすでに限界を迎えつつあり、公正で納得感のある評価・フィードバックをどう実現するかは、どの企業でも頭を悩ませるポイントだ。さらに、ポストを外れること自体への“納得感”をどう醸成するか、処遇・報酬との整合性をどう保つかといった課題も避けて通れない。
加えて、制度運用の多くは現場マネジャーに負荷がかかりやすく、ラインと人事がどう役割を分担し、どう対話を積み重ねていくかが問われている。

ポストオフにおける自社の現在地とは

では、各社におけるポストオフはどのような実態なのだろうか。ここからは、3グループに分かれて行った意見交換の中から、参加者の声の一部を紹介する。

「役職定年を廃止し、年齢ではなく評価と企業の動向により、ポジションチェンジを行うことをポストオフとして実施。しかし、カルチャーとして企業に根付いていないため、ポストオフの後にどうなっていくのかというところを従業員がまだ想像できていない」

「定年退職制を廃止しジョブ型に移行することで、年齢を問わず活躍できる仕組みを導入した。しかし、ポストに対する任期を設定していないため、ポストが空きづらくなってしまっている。ずっと同じポストに就いている人に、来年からポストが変わるという通告をすることで、何か突然の異動というイメージがついてしまっている」

「家族や地域との関わり方により、働き方を選べるという点が、ポストオフの意義と感じる。お金だけではない、役職だけではないという部分の幸福度のようなものをもっと表出することにより、ポストオフに関するネガティブなイメージがなくなり、うまくバトンが渡るようになると思っている」

「役職定年の制度は残しつつ、ポストオフは企業と人材の新陳代謝の両方を担う制度になっている。その際、それなりのパッケージの支払いを行う。主に55歳という制限を設けており、会社の文化として根付いている。再就職のための休暇などは付与している」

次のテーマは「ポストオフの今後の方向性と課題感」に関するディスカッションである。その中で出た意見を一部紹介する。

「ポストオフの文化が根付いていない企業では、人材不足などの要因もあり、まだ活発ではない。ポストオフしたから終わりではなく、長いキャリアの中で一度は経験すること、再度復活する道もあるということを、描けていければいいと思う」

「やはりカルチャーは重要な要素。くわえて、シニア人材の価値観の変化をポジティブに捉え、うまく活用しながらポストオフの意識を合わせていくことが大事だと感じる」

「上下のヒエラルキーが確立している企業では、ほぼジョブも決まっている。その世界観の中でポストオフを新しい価値観として根付かせるためには、もう一度ロールを再定義するという感覚が必要。しかし、そのようなことを現場や人事本部で考えるという訓練をしてこなかったので、これからのHRには人事組織を再定義・再設計する能力が求められるのではないか」

「ポストオフをした社員に何をやってもらうかについては、悩むことが多い。今までのジョブ設計ならば当てはまるところはないかもしれないが、その人のために新しいジョブをつくる、もしくはジョブの拡大計画をするといったことが必要」

ポストオフの課題は山積み状態

議論の背景にあるのは、定年延長やジョブ型移行といった大きな制度変更が、多くの企業に“キャリアの選択肢をどう設計するか”という重い問いを突きつけている、という現実である。

ポストオフを実施している企業の多くは、単にポジションから外すことを目的としているわけではない。むしろ、年齢に関係なく活躍する人には残ってもらい、社外で新たに飛躍できる人には背中を押し、社内の一般職で力を発揮できる人には受け皿をつくる──こうした個々人にフィットした複線的なキャリアの提示こそが理想だと考えている。ポストオフは、そのための“キャリアの再設計”の入り口にすぎない。

同時に、制度が転換期を迎える今、管理職の役割自体が大きく変わりつつある。ジョブ型の採用が進み、役職定年の仕組みも揺らぐ中で、これまで「成果を積み上げることで上へ上へ」とキャリアを歩んできた管理職が、別の役割に移る──そんな場面が増えている。

そこで直面するのが、元上司にポストオフをどう伝えるのかという、非常に繊細なコミュニケーションの問題である。役割が変わることは、組織のヒエラルキー観やキャリア観に手を加えることであり、企業文化そのものの変革を求められる局面でもある。制度は変えられても、文化は一朝一夕には変わらない。まさにそこが、これからの企業にとって最大のチャレンジとなるだろう。

執筆:三浦一紀
第2回HR未来会議オーナー:千野翔平

千野 翔平

大手情報通信会社を経て、2012年4月株式会社リクルートエージェント(現 株式会社リクルート)入社。中途斡旋事業のキャリアアドバイザー、アセスメント事業の開発・研究に従事。その後、株式会社リクルートマネジメントソリューションズに出向し、人事領域のコンサルタントを経て、2019年4月より現職。
2018年3月中央大学大学院 戦略経営研究科戦略経営専攻(経営修士)修了。