【開催報告】無意味な仕事はなぜ生まれ、増殖してしまうのか? 日本版“ブルシット・ジョブ”を考える

2026年04月10日

第4回HR未来会議の様子第4回となるHR未来会議(2026年3月3日)では、リクルートワークス研究所の「無意味な仕事(ブルシット・ジョブ)」に関する研究について、これまでの取りまとめを報告した。参加者による意見交換も行われ、「無意味な仕事はなぜ生まれるのか」「ブルシット・ジョブをどのように打ち破るのか」について、活発な議論が交わされた。

「無意味な仕事」に潜む組織の病理 優秀層の離職も招く

この研究では、「無意味な仕事」をめぐるグループインタビューやアンケート調査、有識者・企業担当者らへのヒアリングを実施。日本の職場に存在する「無意味な仕事」を分析し、以下の4つのタイプに分類した。

【ムダな仕事】
なくしたり省いたりしても問題はないのに、慣習や決まり事として行われている仕事
【報われない仕事】
仕事としての必要性は否定できないが、労力をかける意味が見いだせず、やりがいが感じられない仕事
【うまくいきそうにない仕事】
目的や意図は理解できるが、このままの体制や状況ではうまくいきそうにない仕事
【つくられた仕事】
一見すると意味や目的がありそうだが、実現しても大した成果や価値を生まない仕事

さらに、企業規模300人以上の民間企業で働く正社員、約5000人を対象に行った調査で「無意味だと感じる仕事の割合」を聞いたところ、35.6%が「半分以上」と回答した。こうした「無意味な仕事」は、独立して存在しているわけではなく、それぞれの要因が相互に絡み合いながら連鎖している。4つのタイプの「無意味な仕事」をいずれもないと答えた人が26.4%に上る一方、「4つすべてを抱えている」と答えた人は38.8%存在し、二極化しているのだ。

無意味な仕事を抱える人は20代後半から増え始め、50代半ば付近で4つのタイプすべてを抱える「雪だるま化」がピークを迎える傾向にあった。50代半ば以降は減少するが、これは部長職などに昇進し、全体を俯瞰する立場に離脱していく人が多いためだと考えられる。

業務の性質に着目すると、「改善・開発・人材育成」といった、一見前向きな案件に携わっている人ほど、無意味な仕事を抱えやすく、そこに「KPI(数字)を追う仕事」が加わると、業務は一気に雪だるま化する。さらに深刻な状況として、優秀な人が、周囲から「この人に頼ればなんとかなる」と思われて、尻拭いや穴埋め作業を押し付けられていることが示唆された。

ただ、こうした人は、エンゲージメントやウェルビーイングの指標はあまり下がらず、本人の不満が組織に認識されづらいという。このため組織から見ると、特に不満を表明していなかった優秀な人材が静かに転職を狙っており、ある日突然、職場を去ってしまうという非常に厄介な事態に直面することになる。

参加者を悩ませる無意味な仕事

会議には人事などに関わるビジネスパーソン11人が参加し、グループに分かれて自分の職場に生じている「無意味な仕事」やその発生源について議論した。ここではいくつかの悩みや意見を紹介する。

・管理職の処遇を維持するためポストを新設すると、そこに就いた人は仕事がなくならないよう、部下の行動に細かく口を出すなど「つくられた仕事」を増やしがち。

・前職では若手の指導という大義名分のもと、管理職が「てにをは」の誤りなどを細かく指摘し、対応に多くの時間が割かれていた。引き継ぎなどを緻密に行う文化がないと、後任者がキャッチアップに苦労することがある。

・新しい業務にチャレンジすることは称揚されるが、業務をやめるのは難しいため仕事が増える。

・経営者は方向性と予算などの大枠を承認し、具体的な進め方(How)は現場に任せるやり方であれば、現場もやりがいを感じられるし、結果も想定範囲内に収まるのではないか。

・仕事の意味を見いだすため、自ら行動を起こす「ジョブ・クラフティング」は大切。ただ「意味を見つけられる仕事」と、「本当に意味がない仕事」の境目を判断するのは非常に難しい。

無意味な仕事が発生・増殖する底流

会議の後半は、「無意味な仕事」が生まれる根本原因について深掘りした。社会の不確実性が高まり、監視が強化されるなか、経営においても、「マネジリアリズム(効率性を重視した数値や規則による管理主義)」という視点が台頭するようになった。この背景には、株主や経営者ら「プリンシパル(主人)」の要請に対応するためには、組織の「エージェント(代理人)」である社員を、数値などを用いて監視・管理しなければならない、という「プリンシパル―エージェント理論」の考え方がある。大企業では効率化の名のもと、監視のための管理業務が「OS」に埋め込まれ、深刻な事態をもたらしている。過剰なモニタリングやコンプライアンス対応といった「オーバー・マネジメント」が生まれ、組織の主体性が失われて、企業の存在意義やビジョンも見えにくくなっている。

さらに、組織からの視点として、欧米由来のマネジリアリズムやオーバー・マネジメントを取り入れてしまう動きが、かつての日本企業の強みであったすり合わせ型の複雑系コミュニティを棄損して、機能不全に陥らせてしまっている。こうしたコミュニティの喪失は職場にも影響して、働くことが生計維持の手段へと変貌し、個人も主体性を失って無意味な仕事が加速度的に増殖することになった。

社会から職場までが絡み合った構造的な問題は、人類が持つ「虚構を信じる力」がそのシステム全体を強化している。「虚構を信じる力」は、科学技術や社会規範を創造し、新たな社会課題を生み出し、そして仕事も生み出していく。この強大なシステムに個人で抗うことは困難だが、このメカニズムを直視することから闘いは始まる。

後半のグループディスカッションではこうした事態から脱却するため、できることは何かを考えた。その結果、以下のような意見が出された。

・困ったときは特定の優秀な人が物事を決めてくれて、その人に職場が依存している。しかし一個人が現場でできることには限界があり、組織にはいずれ管理的な秩序へと戻る力が働いてしまう。ボトムアップとトップの意思の両方を生かせれば、「無意味な仕事」は減るのではないか。

・上司が現場に裁量を委ねたつもりでも、その指示が単に「やっておいて」という言葉だけだと、部下に意図は伝わらず「仕事をやらされている」と感じるだろう。無意味な仕事が生まれるのを防ぐには、対話不足を解消する必要もある。

・自分の仕事を完璧に仕上げることを重視し、領域外の仕事は見て見ぬふりをしている人が多い。自分の庭(裁量範囲)を少しでも広げようとすることが、第一歩ではないか。

・行動を起こしたくても「この仕事は必要ですか?」と声を上げることは難しい。仕事を削る提案をしても、1人で周囲を説得し職場を変えられるか不安。

組織が過剰な管理を手放す 社員は働く意味を自ら決定

過剰な管理に対抗するためには「会議室(組織・制度や経営陣)」と「現場(個人・職場)」、双方の変容が必要だ。

「会議室」からは、「説明責任を果たすには緻密な管理が必要」というパラダイムを手放し、新しい管理のあり方を再構築することが求められる。そのためには、仕事を削るためのオフィシャルな仕組みを設けたり、実験的に職場のルールを変えられるシステムを導入したりすることで、業務をやめたり変えたりするハードルを下げ、職場の「当たり前」を少しずつ変えていくことが有効だ。例えば、経営から数字のノルマを廃止し顧客への価値提供に軸足を置くことや、顧客志向でルールをあえて少し逸脱することが、新しい意味を生むきっかけになり得る。

また、社員からも固定観念を捨て、「意味がある仕事」を自ら判断することは可能だ。「すべての人にとって無意味」な仕事も一定数は存在するだろうが、多くの場合、仕事の意味は、社員一人ひとりの主観によって決まる。例えば、中堅社員が「無意味だ」と感じる資料作成も、新人社員にとってはわかりやすい資料づくりを学ぶ貴重な機会になり得る。

多くの企業は、単に仕事をなくそうとするのではなく、個人の自発性を前提とした姿へと、マネジメントのOSを書き換えることが求められている。会社という巨大な「システム」にとらわれるのではなく、社員一人ひとりが学び、変わり続けられるプラットフォームにする。そのためには、目の前の小さなことから始めることが大切だ。

執筆:有馬知子 編集:橋本賢二
第4回HR未来会議オーナー:豊田義博

豊田 義博

リクルートワークス研究所 特任研究員/ライフシフト・ジャパン 取締役CRO/一般社団法人エン・ジニアス 代表理事 1983年リクルート入社。数百社におよぶ企業の新卒採用戦略、広報計画業務に制作ディレクターとして長く従事。その後、『就職ジャーナル』『リクルートブック』『Works』編集長を歴任。1999年リクルートワークス研究所設立と同時に着任、人材マーケット予測、若年キャリアなどの研究活動に従事。現在は、個人の就業行動や志向・価値観の変化などを探索しつつ、若手からシニアに至るまでのキャリア支援に研究者 & 実践者として携わるパラレルワーカー。 著書に『実践! 50歳からのライフシフト術』(共著 NHK出版)、『なぜ若手社員は「指示待ち」を選ぶのか?』(PHPビジネス新書)、『若手社員が育たない。』『就活エリートの迷走』(以上ちくま新書)、『「上司」不要論。』(東洋経済新報社)、『新卒無業。』(共著 東洋経済新報社)などがある。

橋本 賢二

2007年人事院採用。国家公務員採用試験や人事院勧告に関する施策などの担当を経て、2015年から2018年まで経済産業省にて人生100年時代の社会人基礎力の作成、キャリア教育や働き方改革の推進などに関する施策などを担当。2018年から人事院にて国家公務員全体の採用に関する施策の企画・実施を担当。2022年11月より現職。
2022年3月法政大学大学院キャリアデザイン学研究科修了。修士(キャリアデザイン学)

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