【開催報告】「事業起点でマネジメント機能を見直すプロセス」を一緒に考える会
ファーストラインで生じているマネジメント上の課題
本会議の参加者には、事前にリクルートワークス研究所が発行した報告書『マネジメントを編みなおす』(2025年3月)を示し、各社において事業起点でマネジメントの機能を見直すことの必要性について考えてきてもらった。組織の成長や事業拡大において、マネジメント機能の適切な設計は極めて重要であり、特に事業環境の変化が激しい現代では、状況に応じた柔軟なマネジメント機能の見直しが求められている。
報告書の内容を踏まえ、今回の参加者に事前アンケートを実施したところ、「ファーストラインで生じているマネジメント上の問題」については、次のような回答が挙がった。
・短期志向、業務過多による中長期課題への取り組み不足
・組織構造・制度とマネジメント機能のミスマッチ
・マネジメントを取り巻く仕組みが脆弱
・人材育成・配置の硬直化
・マネジャー層の機能不全、トランジションの難しさ
・組織の疲弊、人の持続可能性の低下
ファーストラインで生じているマネジメント上の問題は、何か一つというわけではない。回答から読み取れたのは、「短期成果への圧力」「役割定義の曖昧さ」「人材育成の閉鎖性」「マネジャーの疲弊」などが複合的に作用して、中長期的な事業変革を支えるマネジメント機能が十分に働いていないという現状である。また、マネジメントが仕組みではなく、個人の能力に依存している問題を指摘する声が多く、構造的な問題も浮き彫りになった。
人事がデザインすべきはマネジメントが機能する構造
事業起点でマネジメント機能を見直すとき、背景には2つの側面がある。「事業上の要請」と「組織運営上の要請」だ。

上記は、部長クラス以上を対象に実施した研究会で議論されたものだが、今回は特に事業上の要請に注目したい。議論のなかで出てきた問題は、事業モデルの変化、デジタル化による事業プロセスの変化など、すでに外部環境が変わってきているのにもかかわらず、マネジメント機能が適応できていないという点だ。この点を踏まえると、これまでにされてきたマネジャーのスキルアップに関する議論だけでなく、「今、組織のマネジメントに求められているものは何か」を検討していく必要がある。
視点としては、大きく2つ挙げられる。
・事業戦略を実現する働き方、判断の仕組みとはどういうものか
→経営資源としてのマネジメント機能を見直す
・現場のマネジメントを個人依存から組織機能へ転換する
→個人のスキルの問題ではなく、組織の問題として扱う
人事が担うのは制度改革(人を管理する仕組み)ではなく、マネジメントが機能する組織のデザインだ。つまり「マネジメントを編みなおす」ことは、中長期の事業価値を支えるもっとも本質的な人事アジェンダであると言える。
「事業起点でマネジメント機能を見直す」実践事例
では、どのように進めていけばいいのか。その検討に向けて、本会議では、上記のような文脈でマネジメント機能の見直しに取り組むゲスト企業(情報通信業)を招き、実践事例を共有していただいた。下記に内容を要約する。
【背景】
上場子会社から親会社の100%子会社となったことで資本関係が変化し、伴って事業の位置づけも大きく変わった。ビジネス領域の拡大に加え、社会や市場に対してより大きな価値を提供するためにビジネスのフォーメーションを変える必要があり、それを支えるマネジメント機能の見直しは根本的な課題となった。事業環境の変化は、数十年にわたって続いてきた中央集権的なマネジメント制度の限界を表面化させ、それを打開するために、マネジメントの構造そのものの見直しに着手している。
【目指す方向性と取り組み】
・組織を大くくりにし、マネジメントの構造をシンプルにする
・内部公平性や管理を重視したマイクロマネジメントからの脱却を進める
・人事が事業責任者に伴走し、事業上の課題を意識してマネジメントのルールをつくる
・事業における課題や変化の予兆を仕入れる仕掛けをつくる
・ジョブ型人事制度を導入し、グループ企業間シナジーを生み出す
変革には時間がかかるが、幹部層と何度も議論を重ねながら進めており、また、事業ラインよりも先に人事自身が変わる覚悟を持って取り組んでいる。
「マネジメント機能を検討すべき事業上の理由」「どのように進めるか」
次に、上記のような問題提起と実践事例の共有をもとにグループディスカッションを行った。「マネジメント機能を検討すべき事業上の理由」「どのように進めるか」を主なテーマとし、各社の現状を踏まえつつ意見交換を進めた。参加者から挙がった声を紹介する。
「事業上の理由から、数年前にマネジメント機能をピープルマネジメントと業務マネジメントに分割したが、その結果、『ピープルマネジメントだけをやってきた人の次のキャリアをどうするか?』という課題が出てきた。細分化しすぎたことで、失ってしまったものがあるように思う。マネジメントの機能を見直していくときに、ジョブ型のように縦横で切っていくだけでいいのか。議論のなかで、改めてそういう問いが出た」
「当社ではまさに今、マネジャーの役割を定義したところで、業務・人材・組織マネジメントなど5つの機能に整理した。そのうえで、これらの機能を階層ごとにどこまで求めるかという話になったとき、『全部を担うのはきついよね』となり、役割分担のかたちで始めている。同じマネジャーの肩書であっても、全部の機能を担う人がいれば、2、3の機能を担う人もいて、機能を分けて役割分担を図るということを実験的に進めている」
「マネジメント機能を見直すべき事業上の理由でいうと、スナック菓子を主力商品とする当社の場合、人口の減少がやはり大きい。そして、国内では高い市場シェアを占めるまでになっているので、今までのやり方を続けていては、将来にわたる成長が見通せない。事業起点でマネジメント機能を見直すことは、すでに必要に駆られている状態だと思う」
「今、店舗拡大を進めていて、事業拠点が増えるなか、改めて組織をつくり直すということに取り組んでいる。会社自体はメンバーシップ型の制度だが、事業はすでにジョブ型なので、そこの違和感を解消するために再構築を進めたい」
「『なぜ、マネジメント機能の見直しが必要なのか』。ここから議論を始めたところ、人事に危機感がないと変革を起こすのは難しいのではないかと改めて感じた。事業が堅調ならばなおのことで、その際には、外部環境の捉え方が大事になってくる。例えばAIの進展を例に挙げると、私たち人事の仕事も取って代わられそうだという感覚があるので、グループディスカッションでは、当社がやっている試みを説明した。マネジメント機能をすべて文字化して、“くくり直し”をしていくという試み。そうすると、『ここはAIに任せられる』『今10人でやっているこの仕事は3人いればいい』とか、自分たちが不要になるモデルができるけれど、でも、人事自身がまず動かないと誰に対しても変革への説得力は持てないと思う」
現状のマネジメント機能を可視化し、議論するところから
取り巻く事業環境や、必要なマネジメント機能は各社それぞれだが、共通の“入り口”となるのは、まずは現状のマネジメント機能を可視化し、中長期的な事業変革を支える組織戦略を十分に議論していくことである。本会議は、そうした視点を得る一つのきっかけになったのではないだろうか。
「自社が置かれている事業環境のなかで、これまでのマネジメントは機能しているのか」「制度疲労は起きていないか」「今後のビジネス展開に向けて見直すべきポイントは何か」。そういったことを職場でディスカッションしながら、マネジメント機能の編みなおしに取り組んでいただければと考えている。
マネジメント機能の見直しを進めている企業はまだ多くないが、一方では、必死に取り組んでいる最中だというケースもあり、今がまさに渦中だという印象である。引き続き、実践事例などの報告を通じて議論を深め、企業の皆さんと一緒に「マネジメントの編みなおし」を検討していきたい。
執筆:内田丘子(TANK)
第3回HR未来会議オーナー:辰巳哲子
辰巳 哲子
研究領域は、キャリア形成、大人の学び、対話、学校の機能。『分断されたキャリア教育をつなぐ。』『社会リーダーの創造』『社会人の学習意欲を高める』『「創造する」大人の学びモデル』『生き生き働くを科学する』『人が集まる意味を問いなおす』『学びに向かわせない組織の考察』『対話型の学びが生まれる場づくり』を発行(いずれもリクルートワークス研究所HPよりダウンロード可能)
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