「学校の勉強なんて、仕事では意味がない」論を統計から見る 古屋星斗
サマリー
- 「学校で学んだことが仕事に役立つか」については、職種ごとに差異が大きい。学校での学びが仕事に活かされている認識は、医療・保健・福祉専門職、研究・R&D、エンジニアで強い一方、ドライバー、警備、製造・生産工程、営業などで相対的に弱く、学歴による成果・パフォーマンス認識の違いについても職種間で大きな差が見られた。
- 事務・営業・販売では、学校で学んだ内容の活用度が低いにもかかわらず、大学卒以上を採用要件とする企業が少なくない。
- 仕事につながる学びの経路は、職種ごとに設計しわける必要がある。学校教育が実務に直結しやすい職種、資格・職業訓練が重要な職種、実務経験を通じて能力を形成する職種をわけ、教育政策、資格体系、企業の採用・育成を接続していくことが求められる。
「学校で学んだことが活きる」仕事とそうでない仕事
「〇〇大学を出ていても、仕事はできない」
「MBAを持っているか知らないが……」
「大卒は口ばかりで現場では……」
ドラマやビジネス小説などで、頻繁に出てくるセリフである。こうした「学校の勉強ができても仕事では活きない」論はある種の一般論として、聞き手が実際にそう思っているか否かにかかわらず、大きな違和感なく受容されたオピニオンといえるだろう。
本稿は、この点について4000名以上の企業の経営者・組織人事責任者等への調査結果をもとに、この“声”の企業現場における現状を検証する。特に職種別の視点で、一般論を超えて職種ごとにこの“声”の妥当性の高低に注目して分析する。
分析に用いる調査は、「過剰学歴に関する調査」(※1)である。これまで本調査を用いて、数次のレポートを発出してきた。そこでは、日本企業における過剰学歴の実態と、学歴別の採用ニーズの全体像を確認してきた。今回はこの調査をベース(※2)として、「仕事における学校での専攻分野の活用度合い」を検証する。
なお、本調査(リクルートワークス研究所,2026,過剰学歴に関する調査)は、従業員規模100人以上の企業・組織に属する経営者、管理職および人事担当者に対し、企業の採用・配置運用の観点から「過剰学歴(学歴ミスマッチ)」の実態を把握したものである。サンプルサイズは4080である(※3)。本稿および当該調査における「学歴」は、卒業高校・大学等の「学校歴」ではなく、「高校卒」「大学卒」等の教育水準を示すものである。この点は調査においても「学歴」という言葉が用いられる設問において注記した。
学校で学んだ内容を活かせる仕事:医療、福祉、研究職、エンジニア…
本調査では回答者に対し、自社にある職種のうち「採用基準や業務内容について詳しく知っている職種」に関して職種別に回答を得ている。このなかで、自社の各職種の若手社員(20代・30代)について、「生徒・学生時代に学んできた内容(学科・専攻での学習内容)を仕事で活かせていると感じるか」を聞いた。職種別の回答結果が図表1の通りである。
「学校で学んできたことが仕事に活かせている」と「感じる」割合が最も高いのは、「医療・保健・福祉専門職」であり58.7%と6割近い企業が学校での学びが活きていると答えている。続いて「研究・R&D」56.2%、「IT・ソフトウェアエンジニア」53.1%、「エンジニア・技術」52.0%となっていた。
他方で、「感じる」割合が低い職種として、「ドライバー・運転手」は21.8%とわずか2割強にすぎず、「警備・消防・保安」26.8%、「製造・生産工程」27.7%、「営業」27.9%が続いている。
もちろん、同一職種(※4)のなかでも差異があると考えられるが、職種ごとの傾向は掴むことができる。
また、いわゆるホワイトカラーと言われる仕事でも、職種によって結果が異なっていることがわかる。「研究・R&D」やエンジニア系職種と、「営業」「事務」では割合が大きく異なっている。
図表1:職種別 学校で学んできたことが仕事に活かせていると感じる割合(※5)(%)
学歴の相違によって成果やパフォーマンスに違いを感じるか?
また、類似の質問として、学歴の違い(この場合は教育年数の違いとも換言できよう)によって仕事の成果やパフォーマンスに違いを感じるかを職種別に整理した(図表2)。図表1とほぼ逆の結果となっているが、「ドライバー・運転手」が72.8%と「差がない」割合が圧倒的に高く、続いて「製造・生産工程」47.9%、「販売」47.4%が続く。低いのは、「研究・R&D」で17.4%、「エンジニア・技術」20.7%、「IT・ソフトウェアエンジニア」27.5%となっており、こちらの職種では学歴の違い・教育年数の違いによって成果やパフォーマンスに差異が出ると企業側に認知されていることがわかる。
いずれにせよ、職種によってかなりの差異があることがわかるだろう。
図表2:職種別 学歴の違いによって成果やパフォーマンスに差がないとする割合(%)(※6)
大学卒以上が要件の割合、資格の必要性
また、職種ごとに大学卒以上が要件となっている割合(※7)や特定の資格が必要かどうか(※8)についても整理した(図表3)。
大学卒以上が要件の割合が高い(図表3の青い数字)のは、「研究・R&D」で86.2%、続いて、「営業」61.3%、「IT・ソフトウェアエンジニア」59.6%であった。特定の資格(国家資格・民間資格)が必要な仕事としては、「医療・保健・福祉専門職」が93.7%と圧倒的に高く、続いて「介護・保育」87.0%、「ドライバー・運転手」「建設・工事・採掘」が77.9%で並んでいる。
図表3:職種別 大学卒以上が要件の割合および必要資格がある割合(%)
事務職、なぜ大学での学びを評価しないのに大学卒以上を要件にしているのか?
こうした結果を整理すると、職種別の特徴がはっきりと見えてくる。
図表4は、学歴要件の状況と、学校の学習が仕事に活かせているという認知の状況の二軸で可視化するために、それぞれの数値を職種別にとった散布図である。
概ね、大学卒以上が要件の割合が上がれば、学校で学んできたことが仕事に活かせると感じる割合も上がる、つまり縦軸が上がれば横軸も上がる関係があるが、緑枠の職種と赤枠の職種ではかなり状況が異なっていることもわかる。例えば、赤枠の「営業」と緑枠の「IT・ソフトウェアエンジニア」では縦軸のポジションはほぼ同じであるが、横軸のポジションは全く違う。同様に、赤枠の「販売」と緑枠の「医療・保健・福祉専門職」も同じ関係がある。これは、緑枠と赤枠を比べると、赤枠の職種は「大学卒要件の割合が高いものの、学校の学びが仕事で活きない」と評価される傾向があることを意味する。
事務職も赤枠に入っており、大学卒以上が要件の割合が高いわりには学校の学習が仕事で活きないと認知される傾向にある。学校で学ぶことが活かしにくいと考えられているのにもかかわらず、大学卒以上が採用において求められている、という構造が事務・営業・販売といった職種に存在していることには留意が必要だろう。学校での学びを評価されない傾向にあるのであれば、なぜ大学卒以上を要件にする企業が多いのだろうか。
大学卒者に対し、企業がより強く期待するものとして調査であがったのは、「論理的思考力」65.4%、「主体性・自律性」62.7%、「実行力」61.7%、「コミュニケーション能力」60.8%であった(※9)。こうした力のうちどれを重視するのかは企業の採用方針によってさまざまだろうが、大学の学びで培われやすい能力もあれば、大学に入学できたことをもって類推可能な力もあろう(cf;シグナリング理論)。この差異が図表4の結果の背景に存在しているのかもしれない。
図表4:大学卒以上が要件の割合(縦軸)/学校で学んできたことが仕事に活かせていると感じる割合(横軸)
学校が活きる仕事、実務が活きる仕事、資格が活きる仕事
職種別の特徴について、仕事につながる経験を分析するために図表5の分析を行った。縦軸に「必要資格がある割合」をとり、横軸に「学校で学んできたことが仕事に活かせていると感じる割合」をとった。
縦軸も横軸も高い職種は、必要資格があり、かつ学校の学びが活きると考えられる職種である(水色枠)。
縦軸は高いが横軸は低い職種は、必要資格があり、かつ学校の学びがあまり活きないと考えられる職種である(黄色枠)。
縦軸も横軸も低い職種は、必要資格がなく、かつ学校の学びがあまり活きないと考えられる職種である(茶色枠)。
企業側の認知から、職種を整理してみると、その仕事につながる学びがどこにあるのかという点の示唆をはっきりと得ることができる。
- 水色枠の職種(医療、介護、建設、エンジニア等):学校での学びが活かされやすい職種
必要な資格があり、また学校の学びが活きると考えられており、学校において学習することが就業後の実務に直結しやすい職種である。学校-資格-実務の連携が明確であり、大学や専門学校、短大等の高等教育機関での学びの重要性が企業にも認知されている。学校で学ぶことのコストパフォーマンスが高い職種であるとも考えられ、企業としては現場において求められるスキルなどを教育機関へ適切にフィードバックすることで、育成コストを外部化することができる。 - 黄色枠の職種(ドライバー、保安、製造・生産工程職種):資格が重要な職種
必要な資格はあるものの、企業から学校での学びは活きないと考えられている職種である。資格取得が重要視されることから、その資格に学びを絞り込むことで、学校に通学するほど高い時間的・金銭的コストを払わずに仕事の能力を高めることができる。資格制度に現場のニーズを企業がフィードバックしやすい体制を整えるなど、資格のアップデートと資格取得を通じた学びが求められる職種である。 - 茶色枠の職種(事務、営業、販売、接客):実務での学びが重要な職種
必要な資格がある割合は低く、学校での学びは活きないと考えられている職種である。座学も資格も役に立ちにくいと考えられているとすれば、仕事上の知識や経験を習得する中心的な場は“実務”となる。すなわち、実務経験によって育てることが適切な職種といえ、学校任せでこの領域の職業能力が高まることは期待しづらい。企業が長期インターンシップやPBLなどの機会提供を行うことが、仕事につながる学びを形成するうえで極めて重要である。
学校で学んだ人材を獲得すべきか、資格をもっている人材が重要か、はたまた実務で学んだ人材が大切か。職種別に仕事につながるプロセスが相当程度異なっていることに注意をしたうえで、社会全体の人材育成を議論する必要がある。
図表5:必要資格がある割合(縦軸)/学校で学んできたことが仕事に活かせていると感じる割合(横軸)
おわりに
本稿の分析結果が示しているのは、「学校で学んだことは仕事に役立つのか」という問いに、職種を超えた1つの答えは存在しないということである。医療・保健・福祉専門職、研究・R&D、エンジニアなどでは、学校での学びが仕事に活かされているという認識が強い。他方、ドライバー、警備、製造・生産工程職では各種資格の役割が大きく、事務、営業、販売、接客では、学校や資格よりも実務経験を通じた学びの重要性が高い。図表4・5が示すのは、教育の価値の高低というよりも、仕事につながる学びの経路が職種によって大きく異なるという事実である。
同時に、学校での学びが仕事に直接活かされていないと認識しているにもかかわらず、大学卒以上を採用要件とする企業が少なくないことも見過ごせない。とりわけ事務、営業、販売などでは、企業は大学で学んだ専攻内容よりも、論理的思考力、主体性、コミュニケーション能力などの汎用能力や、大学に入学したという事実を評価している可能性がある。
もっとも、「学校で学んだ内容が活きていない」という企業側の認識が、直ちに学校教育に価値がないことを意味するわけではない。ポイントは、企業が社員の知識や能力を活用できる仕事を設計しているか、採用後により高度な仕事へ移る機会を用意しているかにもある。ただ、企業横断的に回答を得た結果として職種別の傾向差が明確にあったことは、学校・資格・実務の学びの経路の適性の違いは、企業や学校の努力という以上の構造的なものである可能性が高い。
このため、職種ごとに異なる学習経路を整備することが求められているといえる。
学校での学びが実務に直結する医療、介護、建設、研究、エンジニア等では、企業や職能団体から教育機関へ、現場で必要となる知識・技能を継続的にフィードバックする仕組みを強化すべきである。資格の役割が大きいドライバー、警備、製造等では、在学中・就業前に取得できる導入資格を設定したうえで、その後も段階的に積み上げられる職業訓練や資格体系を充実させる必要がある。
事務、営業、販売、接客など、実務で学ぶ性格が強いと評価されている職種では、教育機関に職業能力の形成を委ねることには限界がある。行政と企業として、長期インターンシップやアプレンティスシップ、課題解決型学習、体系的なOJTなど、働きながら学ぶ仕組みを社会的な教育基盤として位置づけることが重要となってくる。実務でしか身につかない能力があるならば、その学習機会を“個人の努力”や“上司の力量”に委ねるのではなく、社会の仕組みとして整備することが求められよう。
問うべきは、「学校の勉強は仕事に役立つか」ではない。学校であれ、資格であれ、実務であれ、その学びが活きる経路を、社会が設計できているかである。
(※1)リクルートワークス研究所,2026
(※2)特に、報告書P.25の内容をベースとする
(※3)サンプルサイズ4080。クロスセクションウェイトXW01により集計(総務省・経済産業省,経済センサスに基づく母集団割付を地域×企業規模によって回収のうえ、不足セルを母集団の構成とするためにXW01を構築した)。以下、断りがない限り集計には当該ウェイトバックを行っている
(※4)職種区分は、総務省統計局「令和4年就業構造基本調査で用いた職業分類」(職業小分類は令和2年国勢調査用職業分類)および同調査表01500をもとに、職種別の学歴構成を把握する分析目的に合わせて13区分へ再編した。当該分類は全職種を網羅することを目的としておらず、13区分に加えて「その他」区分を設定している
(※5)「感じる」「どちらかというと感じる」の合計
(※6)「若手社員(20・30代)は、学歴の高さ(高校卒より大学卒、大学卒より大学院卒など)によって成果やパフォーマンスにどの程度違いがあると感じますか。」と聞いた。「大きな差がある(成果が倍以上違う)」から「差はない(成果は違わない)」の4件法に、「学歴が低いほうが成果が高い(どの程度かは問わない)」「わからない」を加えた6つの選択肢のうち、「わからない」を除外したうえで「差はない(成果は違わない)」と答えた割合
(※7)「もし今日応募するなら、その職種に就くために通常必要な最終学歴はどれですか。」と聞き、「中学卒」「高校卒」「専門学校卒」「短大卒」「高等専門学校卒」「大学卒」「大学院修士卒」「大学院博士卒」「学歴は問われない」「わからない」の選択肢のうち、わからないを除外したなかで大学卒、大学院修士卒、大学院博士卒を選んだ割合
(※8)「下記職種の仕事の遂行にあたって求められる資格(国家資格、民間資格)はありますか。」と聞き、「複数ある」「1つある」「ない」「わからない」のうち、「わからない」を除いたなかで、「複数ある」「1つある」を選んだ割合
(※9)古屋星斗,2026, 企業から見た「過剰学歴」①総論:ズレはどこで起きているか,リクルートワークス研究所 「働く」の論点
古屋 星斗
2011年一橋大学大学院 社会学研究科総合社会科学専攻修了。同年、経済産業省に入省。産業人材政策、福島の復興・避難者の生活支援、政府成長戦略策定に携わる。2017年より現職。労働市場分析、現場職、若年人材研究を専門とする、ひととしごとの研究者。著書に「ゆるい職場-若者の不安の知られざる理由」(中央公論新社)、「なぜ『若手を育てる』のは今、こんなに難しいのか」(日本経済新聞出版)、「『働き手不足1100万人』の衝撃」(プレジデント社)など。
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