企業から見た「過剰学歴」②:採用が難しいのは大学卒か高校卒か 古屋星斗

2026年06月04日

学歴ごとの採用ニーズという不可視の領域

OECDは、労働者がもつ資格(学歴)と仕事で通常求められる資格(学歴)の不一致を重要なミスマッチとして捉え、仕事の要件を上回る資格をもつ状態を over-qualifiedと整理している(※1)。
前回のレポートでは4000名以上に及ぶ、従業員100人以上の企業の 経営者、管理職、人事を対象とした定量調査の結果をもとに、日本企業における過剰学歴の実情を分析している。

今回は当該調査において合わせて調査した、学歴横断での採用ニーズや課題感の状況を検討する。
この点について、企業は実態としては学歴別に新卒採用活動を行っており、例えば初任給額についても学歴別に設定している企業が多い。リクルートワークス研究所が今回行った調査でも「学歴別に初任給額が異なる」との回答が58.6%(※2)を占めている。ただし、企業の新卒採用実態を学歴別に横断的に調査したものはそれほどなく、リクルートワークス研究所が40年以上実施している「大卒求人倍率調査」(春季実査)の副次的調査(秋季実査)である「採用見通し調査」において、大学卒(修士卒含む)と高校卒を同時に扱っているもの、また、日本経済新聞が「採用計画調査」で大学学部卒と高校卒を同時に扱っているもの、一定規模以上のサンプルサイズの調査では確認できる限りこの2つのみといえる。

本調査は両調査のように複数年次で実施された調査ではないという弱点があるものの、企業の学歴別採用需要等について大学卒や高校卒にとどまらず横断的・網羅的に、100人以上規模企業の母集団に基づいて実施された調査であり、学歴ごとの採用ニーズの現状について一定の参考情報を提供するものと考えることができよう。

本調査は、従業員規模100人以上の企業・組織に属する経営者、管理職および人事担当者に対し実施した。なお、本稿および当該調査における「学歴」は、卒業高校・大学等の「学校歴」ではなく、「高校卒」「大学卒」等の教育水準を示すものである。この点は調査においても「学歴」という言葉が用いられる設問において注記した。

本レポートの主なポイントは3点である。

  1. 企業の新卒採用は、依然として大学卒を中心に組み立てられている。2025年度の新卒採用において、「採用していない」とする企業の割合が最も低いのは大学卒であり、大学卒採用を行っていない企業は19.0%にとどまった。

  2. 今後増やしたい採用は、中途採用が最も多いものの、新卒では大学卒、とりわけ理系大学卒へのニーズが強い。中途採用を増やしたい企業は53.1%で最も多く、次いで新卒採用の大学卒理系が45.6%、大学卒文系が34.6%であった。ただし、業種別に見ると、建設業・製造業では工業科高校卒、医療・福祉では専門学校卒、情報通信業や製造業では大学卒理系・大学院修士卒理系など、需要が高い学歴は業種によって明確に異なる。

  3. 採用難度にも学歴別の偏在がある。「新卒確保難D.I.」(定義後述)を見ると、大学院博士卒、大学院修士卒理系、大学卒理系、高等専門学校卒、工業科高校卒で高く、教育年数が長い層や専門・技術系の学歴で確保難が強い。一方で、大学卒文系や専門学校卒、短大卒は企業から見て相対的には採用難度が低い 。こうした学歴別の需給差は、企業が本来必要とする人材を確保できない場合に、他の学歴層 に採用対象を広げようとする動きを生む。
    つまり、企業の新卒採用ニーズは単純に「大卒中心」なのではなく、理系・技術系・現業系で強い人材不足を抱えながら、相対的に採用しやすい学歴層の人材育成を前提に、採用する構造をもっていることが示唆される。この需給のねじれが、過剰学歴を生み出す重要な背景であると考えられる。

新卒採用の状況

まず、新卒採用の学歴別概況を概観する。 学歴別に採用の有無自体に大きな差異があり、「0人(採用していない)」が最も低いのが大学卒の19.0%、次いで高校卒の48.7%、最も高いのは中学卒の92.1%、次いで大学院博士卒の78.7%であった。中学卒については2026年3月卒について求職者数が672人(厚生労働省統計)(※3)、これはハローワークを通じた求職者に限定されているので全体数ではないが、求人企業も少数にとどまっていることがわかる。いずれにせよ、学歴別では大学卒採用をしていない企業が、他の学歴と比較して圧倒的に少数である。
採用数については無論、規模別で大きな差異があるが、規模による学歴別採用状況については後述する。

図表1:企業の新卒採用数の概況(2025年度)(※4)図表1:企業の新卒採用数の概況(2025年度)

増やしていきたい採用:新卒では大学卒(理系)

次に、今後、増やしていきたい採用について聞いた(図表2(※5))。ここでは、中途・新卒を含めて横断的に聴取している。
最も多かったのは、「中途採用」で53.1%であり、次いで「新卒採用大学卒(理系)」45.6%、「新卒採用大学卒(文系)」も34.6%で比較的高い。やはり新卒採用においては大学学部生には根強いニーズがあると見るべきであろう。これに「新卒採用高校卒(工業科高校)」が20.6%と続く。

本項目について潜在的な学歴別の採用需要を見る観点で、規模別についても示す(図表3)。特徴が出ているのは、まず中途採用である。100-299人規模の中小企業では55.6%が「増やしたい」と答えている一方、5000人以上の超大手企業では42.5%となっている。また、新卒採用の大学院は修士卒文系・理系、博士卒すべてについて規模が大きくなるほど「増やしたい」回答が多くなる傾向が見られる。

日本企業においては、元来、中小企業は中途採用、大企業は新卒採用といった傾向が見られてきたが(※6)、現在においてより正確に言えば、「中小企業は中途採用、大企業は新卒採用の修士・博士に相対的な重点」といえる状況にある。

さらに、業種別でも集計した(図表4)。図表で「増やしたい」が30%以上のセルに黄色着色しているが、中途採用では全業種であり、新卒採用では例えば「新卒採用高校卒(工業科高校)」で建設業と製造業、「新卒採用専門学校卒」で医療、福祉、「新卒採用大学卒(理系)」では運輸・郵便業を除く全業種が30%以上となっている。こう整理すると、業種別に採用需要が高い学歴が明確に分かれている部分があることがわかる。

図表2:今後増やしたい採用(中途採用/新卒採用・学歴別)(複数回答)(%)図表2:今後増やしたい採用(中途採用/新卒採用・学歴別)


図表3:企業規模別・今後増やしたい採用(中途採用/新卒採用・学歴別)(複数回答)
図表3:企業規模別・今後増やしたい採用(中途採用/新卒採用・学歴別)


図表4:業種別・今後増やしたい採用(中途採用/新卒採用・学歴別)(複数回答)(※7)
 図表4:業種別・今後増やしたい採用(中途採用/新卒採用・学歴別)
注:黄色は30%以上

確保の難しさ、その実感

さて、新卒採用についての潜在的な需要を見たうえで、現状の採用難易度の認識についても検証しよう(図表5)。学歴別に採用における人材確保の難しさについて聞いた(※8)。「確保が難しい」から「確保が容易」の割合を減じたものを「新卒確保難D.I.」としている(※9)。

このD.I.について見ていくと、最も高い(採用難度が高いと最も認識されている)のは大学院博士卒で+65.3pt、次いで大学院修士卒(理系)で+64.2pt、大学卒(理系)が+58.1ptであった。大学院卒については需給の話以上に、専攻領域および採用したい領域が特定されていることによって採用の難度が高いという点も含まれると考えられることには留意が必要であろう。

低いのは短大卒(+32.4pt)、専門学校卒(+33.0pt)、大学卒(文系)(+37.9pt)であるが、低いものもプラスであり、確保が難しいと答えた者の方が多い点には留意が必要である。あくまで全体的に新卒労働市場が需要超過となっているなかでの、相対的な状況であるが、そこには図表5のように明確な傾向が見られつつある可能性がある。そして、こうした需要の学歴別の偏在が、一定数の企業が「過剰学歴」に直面する状況を生み出している背景にある。例えば、工業科高校生は確保が難しいため、採用難度が比較的低い文系大学卒の採用によって対応しよう、といった動きを裏付ける。

また、難度が高い学歴が教育年数の長い修士卒・博士卒となっている点を見ると、「過剰学歴」と合わせて、職務の性質から求められる学歴を満たしていないという意味での「過少学歴」の問題が存在している可能性もある(ただ、「過剰学歴」では要件を超えた者を採用するが、「過少学歴」では要件を満たさない者を採用していることとなる。この際には学歴要件の引き下げが必要となるが過去から学歴要件を引き下げた企業はわずかに12.5%である(※10))。

図表5:学歴別・新卒採用の難易度認識と新卒確保難D.I.(※11)(%)図表5:学歴別・新卒採用の難易度認識と新卒確保難D.I.


また、企業規模別の新卒確保難D.I.も検討した(図表6)。規模によってこちらも当然ではあるが、かなりの差異が生じている。例えば、5000人以上企業において、専門学校卒(+8.7pt)、短大卒(+7.8pt)、大学卒(文系)(+11.2pt)はほぼ「難しい」と「容易」の答えた割合が他の学歴と比較して均衡していることがわかる。
学歴別に採用需給を見た際に、特に大手企業においてはその逼迫具合にかなり濃淡があることが指摘できる結果となっている。

図表6:企業規模別/学歴別・新卒採用の新卒確保難D.I(pt)図表6:企業規模別/学歴別・新卒採用の新卒確保難D.I(pt)

初任給額について

最後に、学歴別に初任給額についての認識を集計した(図表7)。短大卒を除いて、6割以上が「引き上げが必要である」「どちらかというと引き上げが必要である」と回答しており、学歴による差異が他の質問と違って見られない。これは、経済全体がインフレ基調にあり、賃上げや初任給引き上げが常態化したことを示唆しているといえよう(※12)。

すなわち、ここまで見てきたように学歴別での潜在的採用需要については違いが見られ、特に企業規模別では顕著であったものの、同時に「若手人材が需要超過にある」という労働市場の全体像も今回の結果からは明らかであり、そうした状況が図表7の結果の背景にあることには留意が必要である。

図表7:学歴別・初任給額についての認識(※13)(%)図表7:学歴別・初任給額についての認識

(※1)OECD,2011, Right for the Job: Over-Qualified or Under-Skilled?
https://www.oecd.org/en/publications/right-for-the-job_5kg59fcz3tkd-en.html
(※2)サンプルサイズ4080。クロスセクションウェイトXW01により集計(総務省・経済産業省,経済センサスに基づく母集団割付を地域×企業規模によって回収のうえ、不足セルを母集団の構成とするためにXW01を構築した)。以下、断りがない限り集計には当該ウェイトバックを行っている。
(※3)厚生労働省, 令和7年度「高校・中学新卒者のハローワーク求人に係る求人・求職・就職内定状況」取りまとめ(9月末現在)。ただし、ハローワークを通じた求職者のみ。
(※4)「わからない」回答を除外した。
(※5)「今後、増やしていきたい採用は次のうちどれですか。正規雇用の社員・従業員の採用について答えてください。」と聞いた。
(※6)日本経済新聞の採用計画調査(大手企業約2000社が対象)では、2010年代前半まで概ね新卒9:中途1といった割合で安定的に推移してきた。
(※7)集計する業種は検証の堅牢性の観点よりサンプルサイズ200以上のもののみとした。総務省,標準業種分類に準じており、除外した業種は、「農林漁業」「鉱業」「電気・ガス・熱供給・水道業」「不動産業」「教育、学習支援」「宿泊業、飲食サービス業」「公務」「他に分類されないもの」である。
(※8)「採用の難易度について伺います。あなたの会社における以下のそれぞれの学歴者の採用に対する実感について、一番近いものをお答えください。新卒採用における正規雇用の社員・従業員の採用について答えてください。」と聞いた。
(※9)なお、企業担当者の人材確保難易度への認識をD.I.化したものに、日本銀行,短観の「雇用人員判断D.I.」がある。
(※10)「あなたの会社の採用における学歴要件(「大学卒以上」等)は、過去(3年前など)と比較して、全体としてどのように変化していますか。」と聞いた質問への回答結果。
(※11)「確保が難しい」「どちらかというと確保が難しい」の合計を①、「どちらでもない」を挟んで、「どちらかというと確保が容易である」「確保が容易である」の合計を②とした。また、選択肢として「採用していない」「わからない」があり当該集計の趣旨を鑑み除外した。
(※12)物価上昇率以上の賃上げが、日本経済として求められること(実質賃金の向上)は言うまでもない。
(※13)「あなたの会社の初任給額について、それぞれの学歴についてのあなたの考えとして最も近いものを選んでください。」と聞いた。

古屋 星斗

2011年一橋大学大学院 社会学研究科総合社会科学専攻修了。同年、経済産業省に入省。産業人材政策、投資ファンド創設、福島の復興・避難者の生活支援、政府成長戦略策定に携わる。
2017年より現職。労働市場について分析するとともに、若年人材研究を専門とし、次世代社会のキャリア形成を研究する。一般社団法人スクール・トゥ・ワーク代表理事。