企業から見た「過剰学歴」③:過剰学歴採用はなぜ起きるのか 古屋星斗
「応募者の学歴が上がってしまっている」という企業側の認識
前回までのレポートでは、日本企業における過剰学歴の実態と、学歴別の採用ニーズの全体像を確認してきた。
第1回では、企業が認識する過剰学歴の割合は平均15.7%であり、過去12カ月以内に「募集要件より高い学歴の応募者を採用した」企業も一定数存在することを示した。また、過剰学歴が生じやすい職種として、警備・保安、製造、接客・対人サービス、介護・保育、ドライバーなどが挙がっていた。
第2回では、企業の採用ニーズを学歴横断(学校歴ではない)で見た。そこでは、新卒採用の中心は依然として大学卒であり、大学卒採用をしていない企業は19.0%にとどまる一方、高校卒や専門学校卒、短大卒、高等専門学校卒、大学院卒では、採用していない企業の割合が大学卒よりも大きいことが確認された。また、学歴別の“新卒確保難D.I.”を見ると、大学院博士卒、大学院修士卒(理系)、大学卒(理系)、高等専門学校卒、工業科高校卒などで採用難度が高く、採用需給の偏在があることも明らかになった。
では、実際に「募集要件より高い学歴の応募者を採用した」企業は、なぜそのような採用が起きていると見ているのか。本稿では、過去12カ月以内に「募集要件より高い学歴の応募者を採用した」経験がある企業を「過剰学歴採用あり企業」とし、その特徴と認識を検討する。
本レポートの主なポイント
- 過剰学歴採用は、企業規模が大きいほど起きやすい
過去12カ月以内に「募集要件より高い学歴の応募者を採用した」企業の割合は、100~299人規模では38.2%であるのに対し、300~999人規模では47.7%、1000~4999人規模では52.5%、5000人以上では61.6%に達する。大企業ほど採用数も多いことから、過剰学歴採用が生じていることを認識しやすい状況にある。 - 過剰学歴採用あり企業は、その背景を「応募者の学歴が全体として上がったため」と捉える傾向が強い
過剰学歴採用あり企業では、過剰学歴が生じる理由として「応募者の学歴が全体として上がったため」を挙げる割合が27.0%で最も高く、過剰学歴採用なし企業の13.5%を大きく上回る。つまり、企業側は過剰学歴を単なる自社の採用基準の問題としてではなく、労働市場全体で非大学卒層が集まりにくくなり、大学卒以上が応募者の中心になっている結果として認識している。 - 過剰学歴採用あり企業で、学歴要件を引き上げる動きが強い
学歴要件を「厳格化している」「やや厳格化している」とする割合は、過剰学歴採用なし企業では8.8%であるのに対し、過剰学歴採用あり企業では27.4%に上る。これは一見矛盾しているように見えるが、実際には、採用市場で大学卒以上の応募が増え、非大学卒応募が集まりにくい状況のなかで、企業側の採用要件自体がそれに合わせて上方に調整されている可能性を示している。
1.過剰学歴採用は大企業ほど多い
まず、過去12カ月以内に「募集要件より高い学歴の応募者を採用した」企業の割合を見る。
ここでは、「複数あった」または「1件あった」と回答した企業を「過剰学歴採用あり」とし、「なかった」と回答した企業を「過剰学歴採用なし」とした。「わからない」は除外している。
全体平均は46.3%であった。過剰学歴採用はすでに概ね半数の企業において存在が認識されていることがわかる。企業規模別に見ると、過剰学歴採用ありの割合は、以下の通りである。
図表1:企業規模別・過去12カ月以内の過剰学歴採用あり割合(※1)(※2)
大企業ほど過剰学歴採用が多い。これは、単に採用数が多いために発生確率が高いという側面もあるが、それだけではないだろう。大企業ほど学歴別の採用管理、初任給、昇進、配置転換などの制度が整っている。そのため、「この職務にはこの学歴」という想定をもちながら、実際の応募者構成や採用市場の変化によって、その想定を上回る学歴層を採用する状況が増えやすいためである可能性がある。
レポート第1回で見たように、企業における学歴要件は硬直的であり、学歴要件の緩和・撤廃が難しい理由として、賃金・等級・昇進制度、法令・規制、ミスマッチ回避、同業慣行などが挙げられていた。過剰学歴採用は、こうした制度的な管理が残る企業において、採用市場の実態とのズレとして表面化していると考えられる。
2.過剰学歴採用あり企業は「非大卒者の応募が集まりにくい」と見ている
次に、大学卒以上の者を採用する理由に関する設問を確認する。
ここでは、「高校卒・専門学校卒(非大卒)などの応募が集まりにくく、結果として大学卒以上が中心になるから(※3)」という項目に対する回答を、過剰学歴採用あり企業となし企業で比較した(図表2)。
「あてはまる」+「どちらかというとあてはまる」について、過剰学歴採用なしでは合計28.3%であったが、過剰学歴採用ありでは合計46.9%に達している。過剰学歴採用が認識されている企業のおよそ半数で、非大卒の応募が集まりにくいことが、大学卒採用の理由となっている。
一方、「どちらかというとあてはまらない」+「あてはまらない」は、過剰学歴採用なし企業では35.6%であるのに対し、過剰学歴採用あり企業では17.4%にとどまっていた。
図表2:「非大卒応募が集まりにくく、結果として大学卒以上中心になる」という認識(%)
過剰学歴採用あり企業の多くは、そもそも高校卒・専門学校卒などの応募が集まりにくく、その結果として大学卒以上を採用せざるを得ないという認識をもっている。
第2回で確認したように、企業の採用ニーズは学歴別に大きく異なっている。大学卒採用は広く行われている一方、工業科高校卒、高等専門学校卒、大学卒(理系)、大学院修士卒(理系)、大学院博士卒などでは採用難度が高い。こうした学歴別の需給差が、結果として「本来は非大卒でよい/非大卒を想定していた職務に、大卒以上が入ってくる」状況を生み出している。
ここで重要なのは、過剰学歴採用が必ずしも企業側の「過剰な大学卒志向」だけで説明できない点である。もちろん、学歴をスクリーニングに使う企業側の選抜行動や、賃金・等級制度の学歴前提は存在する。しかし、過剰学歴採用あり企業の認識を見る限り、企業はかなり明確に、応募者側の学歴構成の変化を背景要因として見ている。
3.「応募者の学歴上昇」が最大の理由
過剰学歴採用があったとする企業に対して、過剰学歴採用が生じる理由を直接聞いた設問でも、同じ傾向が確認できる。理由として最も多く挙げられたのは「応募者の学歴が全体として上がったため」であり、27.0%であった。
図表3:過剰学歴が生じる理由(過剰学歴採用あり)(複数選択)
注:理由項目を割合の高さに応じて並び替えた
次いで、「賃金・等級制度」「教育・育成効果」「配置転換・昇進」「採用要件の変化」が続く。つまり、企業の認識としては、過剰学歴採用は、応募者の学歴構成の変化を起点にしながら、企業側の制度や育成・配置運用によって固定される現象として捉えられている。
4.過剰学歴採用あり企業ほど、学歴要件を引き上げている
また、過剰学歴採用あり企業は、学歴要件の変化についても特徴をもっていた。
図表4:学歴要件の変化(過剰学歴採用あり/なし別)
「厳格化している」+「やや厳格化している」は、過剰学歴採用なし企業では8.7%であるのに対し、過剰学歴採用あり企業では27.3%である。過剰学歴採用を経験している企業ほど、学歴要件を引き上げている。
これは一見すると逆説的である。募集要件より高い学歴の応募者を採用しているなら、本来は学歴要件を下げる(緩和する)方向に動いてもよさそうに見える。しかし実際には、過剰学歴採用あり企業ほど学歴要件を厳格化している。
この結果は、企業が採用市場の実態に合わせて要件を上げている可能性を示している。たとえば、本来は高校卒や専門学校卒を想定していた職務であっても、応募者の中心が大学卒以上にシフトすれば、企業は採用要件や処遇、配置運用をその実態に合わせて再設定していく。その結果、もともとは「募集要件より高い学歴の採用」だったものが、次第に「大卒以上を前提にした採用」へと制度化される。
ここに、過剰学歴が固定化するメカニズムがある。最初は応募者側の学歴上昇や非大卒応募の不足によって起きたズレであっても、企業側がそれを前提に採用要件を引き上げれば、次の採用ではその要件が標準になる。過剰学歴は、単発の採用判断ではなく、採用市場の変化が企業内制度に取り込まれていく過程として捉える必要がある。
このことは、1960年代に高校進学者が急速に増加し、中学卒者の採用が困難となり「金の卵」と呼ばれた際に実際に起こった動きと共通性が見られることに留意が必要である。今般も同じことが起こる、つまり企業は「本来は教育年数がそれほど長くなくても、活躍できる仕事である」と認識しながらも、新卒求職者のトレンドに適応する形で学歴要件を引き上げていく、という動きが起こるのか。注意が必要な点であろう。
ただし、当時との違いはもちろん多く、その最大のものは産業側の採用需要の高い職種が異なることであり、現下事務系職種よりも現業職・現場職の求人倍率が高いことは企業動向へ影響を与えるだろう。また、現代の高校卒について特定の職業系学科(工業系学科)卒者への採用ニーズが極めて高くなっている点は、工業科高校のカリキュラムなどを鑑みた際に高等教育卒者による代替性が必ずしも高くないと考えられ、当時の中学卒と高校卒の関係(当時の中学卒に可能な職務は高校卒が概ね問題なく遂行できた上位互換的関係)と実態として異なる点も指摘できる。
5.「過剰学歴採用」は企業の失敗ではなく、労働市場の構造変化の表れ
以上の結果から、過剰学歴採用は、企業側に「応募者の学歴構成が変わっている」という認識の広がりが背景にあることが示唆される。
第2回で見たように、新卒採用市場では、大学卒採用が広く行われる一方で、工業科高校卒、高等専門学校卒、理系大学卒、理系修士卒、博士卒など、特定の学歴・専攻で強い採用難が生じている。このような状況では、企業が本来想定していた学歴層を採用できず、採用しやすい学歴層、あるいは応募してくる学歴層の採用で対応する動きが起きる。
例えば、高校卒を想定した職務に大学卒が入る。こうした採用は、1社1社の採用難への対応としては合理的かもしれない。しかし、それが繰り返されれば、企業内の職務要件と採用要件のズレは固定化していく。
問題は、その人材の教育水準に見合う職務、成長機会、処遇、キャリアパスが用意されているかである。第1回で確認したように、過剰学歴は、不満や早期離職、エンゲージメント低下につながる可能性がある。労働市場の変化に企業の職務設計・採用要件・育成運用が追いついていないことを示すサインとして捉えるべきである。
また、社会全体として過剰学歴採用が拡大していくことは、OECDが指摘するような就業者の賃金の押し下げや生活満足度の低下(※4)といった社会問題が生起されることになる。中長期的には、教育投資のインセンティブが変わっていくこととなるだろう。
示唆:企業に求められる2つのポイント
過剰学歴採用あり企業の認識を見ると、問題の起点は「応募者の学歴が上がってしまっている」ことにある。これは個別企業だけでは解決しにくい。高等教育進学率の上昇、若年人口の減少、専門・現業系人材の採用難など、労働市場全体の構造が背景にあるためである。
この点について、労働需要を見据えた高等教育機関の整備や、職業高校の拡充、カリキュラムの見直しなどが求められることは言うまでもない。職業人生の充実という出口なしに、学校教育を成立させることは難しい。
しかし、企業側にもできることはある。本稿から導かれるポイントは第一に、採用要件を市場実態に合わせて引き上げるだけでなく、採用後の職務設計も併せて見直す必要がある。応募者の中心が大学卒以上になっているから採用要件を上げる、という対応だけでは、「過剰」が固定化する。大学卒以上を採るなら、大学卒以上の学習能力や課題解決力を活かす職務拡張、改善活動、早期のステップアップ機会が必要である。
第二に、非大学卒層の採用可能性を再検討することだ。過剰学歴採用あり企業ほど「非大学卒応募が集まりにくい」と感じているが、だからといって非大学卒採用を完全に停止してしまうことは何の解決にもならないことは言うまでもない。
おわりに
過剰学歴採用は、企業が一方的に高学歴者を求めすぎているというよりも、応募者の学歴構成が変化し、非大学卒層の応募が集まりにくくなった結果として生じている面が大きいことがわかった。実際、過剰学歴採用あり企業の回答者ほど、「応募者の学歴が全体として上がったため」「非大学卒応募が集まりにくく、結果として大学卒以上が中心になる」と認識していた。
「過剰学歴」が当事者の離職やエンゲージメント低下をもたらす可能性を指摘されるなかで、どういった対応が求められるか。応募者の学歴上昇は、企業にとって外部環境変化である。しかし、採用要件をどう置くか、職務をどう設計するか、採用後にどう育て、どのようなキャリアパスを用意するかは、企業側で設計できる制度の問題でもある。
「過剰学歴」問題は、現下の人口動態に起因する労働市場の変化という問題に、企業の人材戦略が相対していることを示している。焦点は「大学卒を採りすぎている」ことではない。企業にできることは、高学歴化した応募者を、どの職務で、どのような要件で採り、どのように活かすかである。
もちろん、企業任せにするだけで問題が解決することはない。労働市場を見据えた教育機関の再編は欠かすことはできない論点であり、企業の努力だけでは成しえない社会全体の人材育成の方向性を考えなくてはならない時代がやってきたと言うべきだろう。
(※1)サンプルサイズ4080。クロスセクションウェイトXW01により集計(総務省・経済産業省,経済センサスに基づく母集団割付を地域×企業規模によって回収のうえ、不足セルを母集団の構成とするためにXW01を構築した)。以下、断りがない限り集計には当該ウェイトバックを行っている。
(※2)「過去12カ月の中途採用/新卒採用で、『募集要件より高い学歴の応募者を採用した』ケースは、あなたが知る限りどの程度ありましたか。(高校卒向けの求人で専門学校卒を採用した/大学卒向けの求人で大学院卒を採用した等)」と聞いた。
(※3)「あなたの会社・組織が新卒で『大学卒以上(大学院卒含む)』の人材を採用する理由について伺います。以下の各項目で最も近いものを選んでください。」として聞いた。
(※4)OECD,2024, Do Adults Have the Skills They Need to Thrive in a Changing World? : Survey of Adult Skills 2023
https://www.oecd.org/en/publications/do-adults-have-the-skills-they-need-to-thrive-in-a-changing-world_b263dc5d-en.html
古屋 星斗
2011年一橋大学大学院 社会学研究科総合社会科学専攻修了。同年、経済産業省に入省。産業人材政策、投資ファンド創設、福島の復興・避難者の生活支援、政府成長戦略策定に携わる。
2017年より現職。労働市場について分析するとともに、若年人材研究を専門とし、次世代社会のキャリア形成を研究する。一般社団法人スクール・トゥ・ワーク代表理事。
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