子育て世帯の家計は20年間でどう変わったか(前編)――共働きの広がりで増えた世帯の就業収入 坂本貴志

2026年08月26日

日本の少子高齢化は急速に進行しており、持続可能な社会保障制度や経済成長を維持するうえでの大きな課題になっている。政府はこれまで数々の少子化対策や子育て支援策を打ち出してきたが依然として出生率は低迷を続けており、その背景として常に指摘されるのが、子育て世帯が直面している経済的な負担感である。

現実的な問題として、子どもを育てるには多大な費用がかかる。こうしたなか、果たして現代の子育て世帯の家計負担は、過去と比較して増えているのだろうか。また、増えているとすれば、それはどのような要因によるものなのだろうか。あるいは、政府の支援策によって軽減されている側面はあるのだろうか。

本稿では、総務省の「全国家計構造調査」のデータを用いて、夫婦と子ども2人からなる世帯について、世帯のライフステージごとの家計構造の変遷を分析する。長子が未就学児、小・中学生、高校生という3つのステージに分け、2004年から2024年までの20年間の推移を追う。家計の入りである就業収入の動向、公的な支援や負担の状況を示す直接税、社会保険料、社会保障給付のバランス、また生活の基盤となる教育費、住宅費の推移、最終的に家計の手元に残る可処分所得など多角的な視点から、具体的なグラフの数値をもとに現代の子育て世帯の家計を取り巻く状況を解き明かしていきたい。

女性の労働参加や賃金上昇の広がりによって家計収入は増加している

現代の子育て世帯の家計を分析するなかで、最も大きな変化が見られるのが夫婦の就業収入である。図表1が示すように、世帯全体の収入はすべてのライフステージにおいて名目で長期的に増加していることがわかる。

長子が未就学児の世帯を見ると、夫婦の就業収入は月額名目平均で2004年の39.1万円から、2024年には49.8万円へと10万円以上増加した。この内訳を追うと、世帯主収入が36.2万円から41.2万円へと伸びていることに加え、世帯主の配偶者の収入が2.9万円から8.6万円へとおよそ3倍に急増していることがわかる。

この傾向は長子が小・中学生、高校生の世帯でも同様である。小・中学生の世帯では、夫婦の就業収入が2004年の47.4万円から2024年には59.9万円へと増加した。ここでも配偶者の収入が5.3万円から12.8万円へと大きく伸長している。高校生の世帯も2004年の55.2万円から2024年には62.9万円へと増加し、配偶者収入も7.9万円から13.5万円へと拡大している。

これらの数値は、近年の賃上げの進展に加え、女性の労働参加が質・量ともに上昇したことを表した結果だといえる。配偶者のいる女性の就業形態の中心は、かつて夫の扶養内で働くパートタイムといった家計補助的な働き方であったが、近年は正社員として働き続けるケースが増えていることもあり、妻の就業収入が世帯全体の重要な柱となっている。特に長子が小・中学生や高校生となる時期には、配偶者の収入が月額名目平均で10万円を超える水準が定着しており、家計における存在感は大きくなっている。

政府が進めてきた育児・介護休業法の度重なる改正も女性の就業継続率の向上に一定の役割を果たしてきたと考えられる。2009年には3歳未満の子を養育する労働者が利用できる短時間勤務制度を設けることが企業に義務付けられた。また、2014年の改正による育児休業給付金率の引き上げ(育児休業開始から6カ月間について給付率を50%から67%へ引き上げ)、2022年施行の改正法による産後パパ育休(出生時育児休業)※1 の創設、子どもが1歳までに育休を分割して2回まで取得できる制度の創設なども行われた。これらの政策が、休業中から復職にいたる経済的・環境的ハードルを下げているとみられる。政府統計における第1子出産前後の女性の就業継続率は、2000年代半ばまで40%前後で推移していたが、直近の調査では約7割にまで急上昇している。2025年には、出生直後に夫婦ともに一定期間の育児休業を取得するなどの要件を満たした場合に対象となる「出生後休業支援給付金」が創設されるなど、近年も取り組みは強化されている。

図表1:子ども2人世帯の夫婦の就業収入の推移

図表1 子ども2人世帯の夫婦の就業収入の推移
出所:総務省「全国家計構造調査」
注:出所のデータは2014年以前は総務省「全国消費実態調査」、2019年以降は同「全国家計構造調査」による。2019年調査より調査手法および集計方法の一部が変更されているため、厳密には2014年以前の数値とは一定の不連続性が生じている可能性がある。

子どもが小さい世帯を中心に児童手当や育児休業給付金など給付が増える

世帯の就業収入が増加した一方で、国へ支払う税・保険料や公的な給付はどのように変化したか。図表2では、子育て世帯の直接税、社会保険料、社会保障給付の推移を比較している。

子育て世帯の社会保障給付は長期的に増加していることがわかる。これには児童手当や育児休業給付金、出産育児一時金、低中所得者向けの給付など政府の子育て世帯への支援策の充実が背景にあるだろう。長子が未就学児の世帯の社会保障給付は、月額名目平均で、2004年の月額1.3万円から2024年には5.1万円へと大幅に増加した。小・中学生の世帯でも0.6万円から2.0万円へ、高校生の世帯でも0.1万円から1.1万円へとそれぞれ増加しており、直接的な手当が手厚くなったことが影響しているとみられる。

児童手当は過去から継続的な制度の拡充が行われてきた。支給対象は1992年より第1子が対象となり1990年代を通じて3歳未満であったが、少子化対策の強化にともない、2000年に小学校就学前まで、2004年に小学3年生終了まで、2006年に小学校修了前まで、2010年代に中学生までと段階的に引き上げられている。また、金額面でも2011年には3歳未満への支給額が一律1.5万円となり、3歳以上から小学校修了前までの第3子以降も月額1.5万円へと引き上げられた。さらに2024年には所得制限が撤廃されたほか、高校生年代までの対象の延長、第3子以降の支給額の3万円への引き上げが行われ、児童手当の対象と支給総額はさらに大きく拡大している。

図表2:子ども2人世帯の税・社会保険の純負担額の推移

図表2 子ども2人世帯の税・社会保険の純負担額の推移
出所:総務省「全国家計構造調査」
注:出所のデータは2014年以前は総務省「全国消費実態調査」、2019年以降は同「全国家計構造調査」による。2019年調査より調査手法および集計方法の一部が変更されているため、厳密には2014年以前の数値とは一定の不連続性が生じている可能性がある。

税・社会保険料は子育て世帯でも増えている

一方、直接税と社会保険料の負担も並行して増加している。同じく図表2によれば、長子が高校生の世帯では直接税は月額名目平均で、2004年の3.6万円から2024年には5.1万円へと負担が増した。さらに社会保険料は、同じく長子が高校生の世帯では2004年の5.4万円から2024年には7.7万円へと増加している。この結果、税・社会保険料の純負担額は、2004年の8.8万円から2024年には11.7万円へと膨らんでいる。

税・社会保険料から給付額を差し引いた純負担額についてはライフステージごとに結果が異なっており、長子が小・中学生の世帯では純負担額は長子が高校生の世帯と同様に2004年の6.7万円から2024年には9.1万円へと増加しているが、長子が未就学児の世帯においては給付増の影響が強く出る形で2004年の4.4万円から2024年には3.4万円へと負担が減っている。

すべての世帯において、負担(直接税と社会保険料の合計)は増加しているが、背景には、そもそも家計の労働収入が増え、税・社会保険料の算定基準となる所得・報酬が増加したことの影響が大きいだろう。名目での労働収入の上昇に対して、税率区分や控除額が十分調整されないことで実質的負担が高まるブラケットクリープの影響も考えられる。また、直接税に関しては、過去の税制改正による控除の縮小・廃止の影響もあるとみられる。2010年度の税制改正により、16歳未満の年少扶養控除が廃止され、さらに16歳から18歳までの特定扶養控除の上乗せ部分が縮小された(所得税では2011年から、住民税では2012年から適用)ことも、世帯の所得税・住民税を直接的に引き上げる結果となっている。

社会保険料の影響も大きい。2004年から2017年にかけて厚生年金保険料率が毎年段階的に引き上げられ、最終的に上限の18.3%に達したほか、高齢化にともなう医療費膨張を受けて健康保険料率や介護保険料率も引き上げが続いてきた。これらは給与から直接天引きされるため、現役世代の負担増を実感させる要因となっている。

(※1)産後休業を取得していない労働者が、1歳までの育児休業とは別に、産後8週間以内に4週間(28日)を限度として2回に分けて取得できる制度。

坂本 貴志

一橋大学国際公共政策大学院公共経済専攻修了後、厚生労働省入省。社会保障制度の企画立案業務などに従事した後、内閣府にて官庁エコノミストとして「月例経済報告」の作成や「経済財政白書」の執筆に取り組む。三菱総合研究所にて海外経済担当のエコノミストを務めた後、2017年10月よりリクルートワークス研究所に参画。