子育て世帯の家計は20年間でどう変わったか(後編)――教育費は低下、住宅費は上昇。可処分所得から見る変化 坂本貴志

2026年08月28日

前編では、総務省「全国家計構造調査」のデータを用い、過去20年間における子育て世帯の収入や公的負担・給付の推移を検証した。共働きの定着や賃上げを背景に世帯の就業収入が大きく増加していることに加えて、児童手当や育児休業給付金といった公的給付の拡充が図られるなかで子育て世帯の家計収入は名目で増えていることが明らかとなった。 

後編となる本稿では、子育て世帯の支出のなかで大きな割合を占める教育費や住宅費の推移に焦点を合わせる。政府の支援策や市場環境の変化が固定費にどのような影響を与えているのかを確認し、最終的な手残りである可処分所得の変遷を見る。そして、これまでの少子化対策の効果と今後の課題について考察を深めたい。

少子化対策の効果もあり教育費は名目で減少傾向、住宅費は増加

前編に引き続き、総務省「全国家計構造調査」を用いて、子育て世帯の固定的な支出のなかで大きな割合を占める教育費と住宅費の推移について見ていこう(図表1)。

教育費については、長期的に明確な減少傾向にある。今回確認してきたのは夫婦と子ども2人の世帯の家計構造であり、子ども数減少の影響は考えにくいこと、教育段階別の結果を見ていることから、幼児教育の無償化や高校授業料の実質無償化などの成果が大きく影響していると考えられる。長子が未就学児の世帯では、2004年に月額平均名目で2.2万円(以下、同じ)だった教育費が、2024年には0.8万円へと大幅に抑えられている。長子が高校生の世帯でも、2004年の6.3万円から2024年には4.9万円へと負担が緩和されており、学校教育に関する直接的なコストは引き下げられている。

教育費に関しては、無償化の枠外にある習い事や学習塾などの補習教育費の増加を指摘する声もある。これは事実であるとみられるが、学習塾に関する月謝に関しては統計上、教育費に含まれている。このため学習塾への支払い増加の影響を勘案してもやはり学校の授業料無償化の影響が大きく、総じてみると教育費の負担は減少していると考えられる。

一方で、住宅費に関しては総じて増加基調にあり、家計を圧迫している様子が見て取れる。図表3では、家賃に加えて住宅ローンの返済費も合わせた住宅費を算出している。この指標を見ると、長子が未就学児の世帯における住宅費は、2004年の5.6万円から2019年には7.0万円へと上がり、さらに2024年には7.9万円へと増加している。小・中学生の世帯でも6.1万円から7.1万円へ、高校生の世帯でも5.3万円から6.5万円へと、すべてのステージで住宅費の負担はやや重くなっている。近年の不動産市場の活況や建築費高騰、金利上昇による家賃上昇や住宅ローン返済額の増加が子育て世帯の負担を増やしている様子が窺える。

住宅ローンや家賃は毎月決まって出ていく固定費であり、ここが膨張することは家計にとって大きな負担になっていると考えられる。政府も住宅ローン減税における子育て世帯・若者夫婦世帯への借入限度額の上乗せや控除の拡充などの住宅支援策を講じ、初期費用や固定費の軽減を図っている。子育て世帯の住宅費負担軽減のためにも、こういった施策について取り組みをさらに強化していくことが必要だろう。

図表1:子ども2人世帯の教育費と住宅費の推移 

図表1 子ども2人世帯の教育費と住宅費の推移 
出所:総務省「全国家計構造調査」
注1:住宅費は家賃に住宅ローン返済費を加えた額
注2:出所のデータは2014年以前は総務省「全国消費実態調査」、2019年以降は同「全国家計構造調査」による。2019年調査より調査手法および集計方法の一部が変更されているため、厳密には2014年以前の数値とは一定の不連続性が生じている可能性がある。

過去の少子化対策は家計負担軽減に確かな効果が出ている

ここまでのデータが示す通り、税や社会保険料、さらには住宅費の増加といった要素がありつつも、政府や地方自治体によるこれまでの少子化対策は子育て世帯の負担軽減のために一定程度機能してきたことがわかる。

最後に子育て世帯の可処分所得(就業収入や社会保険給付などの収入から税・社会保険料などを差し引いた金額)についての状況を明らかにしていこう(図表2)。同図表では、可処分所得から教育費・住宅費を除いた額の推移も算出している。負担が増加している部分もありながら、最終的な手残りである可処分所得はすべてのステージにおいて2004年当時よりも2024年の方が名目で上昇していることがわかる。

具体的には、長子が未就学児の世帯では、2004年の月額名目平均で35.9万円から2024年には48.2万円へと可処分所得は大きく増加している。これは世帯主収入や配偶者収入、そして社会保障給付による収入増によるものである。小・中学生の世帯でも可処分所得はやはり月額名目平均で41.4万円から51.9万円へ、高校生の世帯でも47.3万円から56.3万円へとそれぞれ大きく上昇している。

物価上昇の影響を考慮した実質額では名目額ほど上昇は鮮明ではないものの、子どもが小さい家庭を中心に可処分所得は上昇している傾向にある(図表3)。

なお、データの解釈において、子どもを持つ家庭の中身が20年間で大きく変化していることにも留意が必要である。今回見てきた子どものいる夫婦世帯の就業収入の上昇の背景には、未婚化や晩婚化の進行にともない、結婚して子どもを持たない人が増えているなかで、もともと相対的に高い収入を得ている層や雇用基盤の安定した層がより結婚・出産をしやすくなるというセレクション効果が働いている可能性が考えられるからである。

ただいずれにせよ、これまでの少子化対策については、児童手当の拡充や幼児教育・高校教育の負担軽減策など、子育て世帯に対する公的支援の拡充が、家計負担の増大に一定程度歯止めをかけている可能性がある。政府による諸々の政策や女性の労働参加の拡大などによって現代の子育て世帯の家計が過去と比べて緩やかに改善しているということは、データを客観的に見たうえで確認できる事実だと考えられる。

図表2:子ども2人世帯の名目可処分所得の推移

図表2 子ども2人世帯の名目可処分所得の推移
出所:総務省「全国家計構造調査」
注:出所のデータは2014年以前は総務省「全国消費実態調査」、2019年以降は同「全国家計構造調査」による。2019年調査より調査手法および集計方法の一部が変更されているため、厳密には2014年以前の数値とは一定の不連続性が生じている可能性がある。

図表3:子ども2人世帯の実質可処分所得の推移

図表3 子ども2人世帯の実質可処分所得の推移
出所:総務省「全国家計構造調査」「消費者物価指数」
注1:消費者物価指数(総合)で実質化している
注2:出所のデータは2014年以前は総務省「全国消費実態調査」、2019年以降は同「全国家計構造調査」による。2019年調査より調査手法および集計方法の一部が変更されているため、厳密には2014年以前の数値とは一定の不連続性が生じている可能性がある。

さらなる家計負担の軽減に向けて、国民的な議論を

ここまでの分析を通じて、現代の子育て世帯の家計が置かれている実態が明らかになった。

少子化の議論において、過去の政府の政策は効果が出ていないという主張が散見されるが、果たしてそうだろうか。ここまでで検証したデータに照らせば、家計負担の軽減という観点では、児童手当等の給付の増加や教育費負担の軽減などの実態が見られる。そう考えれば、深刻化する少子化に対する政府の政策効果の位置付けとしては、これらの政策が全く効果がなかったというよりも、未婚化やそれらにともなう少子化をもたらす構造的なトレンドが想定していたよりも強く、一連の政府の政策的介入はそのスピードを緩和・抑制するレベルにとどまったと見るのが公正な解釈だろう。以上を踏まえた時、もし過去の政策的な支援策がなければ、少子化はさらに急速なペースで加速していた可能性が高いと考える。

一方で、現在の政策規模では、強固な少子化のトレンドを反転させるには至っていないということもまた事実だ。仮に子どもを持つ意思のある夫婦の出生に関わる壁をなくすうえでは、より一層大規模な政策介入が必要になると考えられる。児童手当の大幅拡充や子育て世帯の住宅費に対するさらなる支援、N分N乗方式に代表される世帯合算課税の導入なども一部議論されているが、出生率を反転させようとするのであれば、こうした子育て世帯への給付と負担の構造を大きく変革するレベルの資源投入が必要だろう。

かつて社会保障制度が未発達であった時代には、子どもを育て上げることが自らの老後の生活や介護を支える私的なセーフティネットとして機能し、子どもを持つことに大きな経済的なメリットが存在していた。年金、医療、介護といった公的社会保障が整備・拡充された現代社会においては、子どもを持たなくても社会全体が老後を支える制度があることから子育てコストや時間的犠牲を払って子どもを育てることの経済的メリットを感じにくくなっており、むしろ子どもを持たない選択の方が手取りや時間を自由に使えるというインセンティブ構造も生じている。しかし本来、次世代の育成がもたらす経済・社会保障上の利益は社会全体に広がるものだ。この私的な負担と社会的な便益のずれをどのように調整するかが、今後の子育て支援を考えるうえで最も本質的な論点となっている。

当然に、金利上昇や円安進行など財政制約が強く意識されている情勢のなか、少子化対策のために子育て世帯への給付を一層拡充しようとすれば、非子育て世帯に対する税や社会保険料の負担増、あるいは他の社会保障給付のさらなる適正化は避けられない。こうした観点から子どもを持たない世帯や単身世帯、あるいは年金給付を受けている高齢世帯など、支援の直接的な受益者とならない層に対して、日本の将来像やビジョンを提示するなかで、負担の受け入れに関する合意形成をどのように図っていくかは大きな課題である。

これと同時に、子育ては損だという漠然とした不安を解消することも重要だ。つまり、結婚や出生のハードルを取り払うためには、子育て世帯の負担構造や支援の実情を正確に評価することも有効になるとみられる。客観的なデータを冷静に解き明かせば、教育無償化や各種手当の拡充などによって、子育て世帯の教育費負担の名目値での軽減や手残り額が近年増えているということは事実として存在するからだ。こうした構造が社会全体に正しく共有されれば、若年層が抱く過度な経済的不安は和らぎ、より適切に将来の人生設計を描くことにもつながりうる。

現役世代だけに子育てのコストと社会保障の負担を背負わせる構造を改め、子どもたちが将来の社会保障制度の維持や経済基盤を支える担い手となるという長期的な共通利益を共有するなかで、社会全体で子育てのコストを分担し、世代間や世帯類型間の利害対立を乗り越えて国民的な合意を形成していくことが求められる。

坂本 貴志

一橋大学国際公共政策大学院公共経済専攻修了後、厚生労働省入省。社会保障制度の企画立案業務などに従事した後、内閣府にて官庁エコノミストとして「月例経済報告」の作成や「経済財政白書」の執筆に取り組む。三菱総合研究所にて海外経済担当のエコノミストを務めた後、2017年10月よりリクルートワークス研究所に参画。