「男性育休の取得率50%超」のその先を考える 大嶋寧子
厚生労働省「令和7年度雇用均等基本調査」によると、男性の育児休業(以下、男性育休)の取得率は50.9%となった(産後パパ育休を含む)。2015年度の2.65%から、10年間で約19倍になった計算である。男性育休がごく一部の人の選択だった時代から、社会全体で見れば一般的な選択へと変わりつつある。
取得期間も延びている。2015年度の同調査によれば、調査前年度に育児休業を終了して復職した男性の56.9%が5日未満の取得であり、1カ月未満が8割を超えていた。しかし最新調査では、2024年度中に育児休業を取得して復職した男性のうち、5日未満は6.8%まで減り、最も割合が多かったのは1~3カ月未満の30.3%であった。1カ月未満も合計48.9%を占めていることや、現在の調査には産後パパ育休が含まれることには注意が必要だが、「数日だけ」から「一定期間、仕事を離れる」方向への変化は明らかである。
筆者は2008年に前職で「父親の育休取得拡大を実現しつつあるドイツ~成果の背景と日本への示唆」というレポートを公表し、メルケル政権下で成果を出し始めていたドイツの男性育休の取得推進策を取り上げた。ドイツ連邦家庭省(名称は当時のもの)、ケルン経済研究所、コンサルタントで父親支援拠点Papa Institute設立者へのヒアリングに基づき、男性の育児休業に関わる所得保障の充実、職場の風土改善を目指す政府と企業の連携、制度変更をめぐる社会的な論争を通じた子育て世帯のニーズの顕在化、育児をする父親像がメディアで盛んに取り上げられたことによる社会意識の変化が、父親の育児休業取得拡大の背景にあることを指摘した。
当時のレポートでは「日本では今後子どもをもつ男性の約4割が育児休業を希望しているが、実際の取得率は2006年に0.6%にとどまる」と書かれている。そこからの社会の変化にあらためて驚くが、だからこそ、変化の背景を理解し、今後の課題を検討することが重要になると考える。
そこで以下では、男性の育児休業取得率が上昇した背景と、残された課題を「家族」と「仕事」のデータや分析をふまえて考察する。そのうえで、男性の育児休業を通じて本来実現すべき目的に照らしつつ、今後の支援課題を検討する。
取得率はなぜこの10年で大幅に上昇したのか
男性の育休取得率が上昇した背景として、以下の3つの変化が考えられる。1つは、政策を通じた環境整備である。具体的には、男女ともに育児を行う社会への転換を訴える取り組みや男性の取得を促す制度改正などである。
特に2022年4月より企業による個別周知・意向確認および雇用環境整備が義務化され、同年10月に産後パパ育休制度(産後休業を取得していない労働者が、育児休業とは別に、子の産後8週間以内に4週間を限度として2回に分けて取得できる休業)が創設されたこと、2023年4月から男性の育休取得率を公表することが、常時雇用する労働者が1000人超の企業に義務付けられ、さらに2025年4月に300人超の企業まで対象が広げられたことの影響は大きいと考えられる。
こうした近年の政策により、父親が産後の母体回復や上の子のケアが必要な時期に休業を取得しやすくなった。また、企業側から制度について説明する必要が生じ、取得状況を社会に示すことが求められるようになったことにより、会社に制度があるかどうか、自分に権利があるかどうかわからない状態が解消されやすくなり、企業も積極的な取得を促す必要が生じた。
2つ目は、近年、男性の育児休業取得率が上昇するなかで、他者の経験が「自分もとれる」という見通しをつくるピア効果を生んでいる可能性である。日経225企業を対象にパネルデータを構築して計量分析を行った内田他(2023)(※1)は、過去の男性育休取得者の蓄積が、その後の取得者数の増加と関連していることを示している。取得率が高い大企業や業種を中心に、他の人の経験が、次の行動を後押しする循環が働きやすくなっていることが考えられる。
3つ目は、男性育休の必要性を高めてきた社会的な背景として、夫婦の働き方が変化してきたことがあげられる。リクルートワークス研究所(2026)では「全国就業実態パネル調査」の10年分のデータを用いて、家族と仕事の選択の変化を分析している。これに基づき、30~59歳の人口のうち、自分と配偶者の働き方の組み合わせが「正社員同士の共働き」「正社員と非正社員の共働き」「正社員と非就業者の片働き」に該当する有配偶者(個人)の割合を見たものが図表1である。なお、上記報告書は2015~2024年の10年間のデータを掲載しているが、ここでは最新の全国就業実態パネル調査の結果を用いて、2025年までの状況を示している。
これによると、近年「正社員同士の共働き」をする有配偶者の割合が上昇し、「正社員と非就業者の片働き」をする有配偶者の割合が低下する傾向が目立つ。さらに「正社員と非正社員の共働き」をする有配偶者の割合も緩やかな低下傾向にある。つまり、夫婦双方が正社員として働く選択が増えるなかで、男性が育児を担う必要性も高まっていると考えられる。
図表1 「正社員同士の共働き」「正社員と非正社員の共働き」「正社員と非就業者の片働き」「非正社員同士の共働き」をする有配偶者の割合(分母:30~59歳人口)
注:各年のクロスセクションウェイトを用いたウェイトバック集計。30~59歳人口を分母とし、該当する組み合わせの働き方をする有配偶者個人の割合を示した。世帯単位ではなく、夫婦の働き方の組み合わせ別に見た個人の割合を示すことに注意が必要
出所:リクルートワークス研究所(2026)『家族×仕事 10年の追跡調査が示す、変わる個人・変われない構造』2025年のデータに、リクルートワークス研究所『全国就業実態パネル調査2026』を用いて追加
取得率が上がっても、出産後のキャリア格差は残る
では、現状において、男性育休に関する課題はないのだろうか。現在の政策において、男性育休を促進する重要な目的の1つは、出産や育児による負担が女性に集中し、女性だけが仕事やキャリアの面で制約を受けやすい状況を変えることといえる。子どもが生まれることと男女のキャリアの関係は、今、どのような状況にあるのだろうか。
前出のリクルートワークス研究所(2026)の報告書では、同じ個人を追跡した2020~2024年のデータを用いて、出産が男女のキャリアに及ぼす影響について分析を行っている。
図表2は、2020~2024年の正社員男女のデータを用いて、配偶者をもつこと、子どもの数が増えることが昇進・昇格や仕事のレベルアップ等にどう影響するかを見たものである。
これによると女性は子どもの数が増えた年に、仕事のレベルアップを経験するオッズ比が約0.7、昇進・昇格を経験するオッズ比が約0.5に低下していた。これは、子どもの数が増えなかった年と比べて、仕事のレベルアップの起こりやすさが約3割低く、昇進・昇格の起こりやすさが約5割低かったことを意味する。
一方、男性では子どもの数は昇進・昇格と有意な関わりをもたなかったものの、配偶者をもつと昇進・昇格を経験するオッズ比が1.83となった。
図表2 家族状況の変化と、仕事のレベルアップや昇進・昇格等との関係(オッズ比)
注:数値はオッズ比。有意な項目のみ数値を記載。仕事のレベルアップの有無、昇進・昇格の有無、仕事を通じた成長実感の有無、説明変数を配偶者の有無、子ども数、介護(自分が介護を担うこと)の有無とする固定効果ロジットモデルで分析した。統制変数として年齢、企業規模、業種、計画的 OJT、OFF-JT、十分な休暇を取得できたかどうか、仕事の裁量の有無、働く場所を選べたかどうか、自己学習の有無を用いた
出所:リクルートワークス研究所(2026)『家族×仕事 10年の追跡調査が示す、変わる個人・変われない構造』
出産・育児に伴うキャリア上の不利益が女性に偏りやすい状況を変えていくことは、男性育休を含む両立政策が目指すべき重要な課題である。今後は、そうした課題の解決により接近できる推進策を検討していく必要がある。
KPIを「とったか」から「何が変わったか」へ
そうであるならば、今後は、取得率というKPIに加えて、「何が変わったか」を捉える指標も必要になる。その際に重要なのは、男性が実際にどの程度ケアを担い、出産後の男女の仕事と育児のあり方がどう変わったかである。
実際、男性の育休取得がその後の家事・育児への参画を高めるかについて、これまでの研究結果は一様ではない。例えば、1990~2024年に公表された41本の実証研究をレビューした2026年の研究(※2)は、父親の育休と家庭内の家事・育児分担の平等化との関係は、取得期間や取得方法、各国の社会的文脈や測定方法などによって大きな違いがあると報告し、父親が育休を取得すれば家事・育児分担の平等化が進むと当然視すべきではないと指摘している。重要なのは、取得したかどうかだけで男性育休の成果を判断しないことである。
そのため、取得率に加え、まずは取得期間や希望した期間を取得できたかといった「取得の質」を把握する必要がある。そのうえで、より本質的な成果指標として、育休中や復職後に男性がどの程度家事・育児を担っているか、男女の働き方やキャリアへの影響がどう変化したかを追っていくことが重要である。
「最初の1人」が出にくい職場を減らす
また男性の育児休業が50.9%に上った裏側には、なお49.1%の男性が取得していない現実がある。事業所規模別には、特に小規模事業所において取得率が低く、ここに取得したくてもできない人が含まれている可能性がある。
これに関して重要なのが、前述した、取得経験が職場内で次の取得を呼ぶ「ピア効果」である。すでに厚生労働省は「両立支援等助成金:出生時両立支援コース(子育てパパ支援助成金)」を設けている。この制度では、中小企業において男性が育休を取得しやすい職場環境や業務体制を整えたうえで、実際に男性の1人目の育休取得者が出た場合(一定の要件あり)、2人目、3人目の取得者が出た場合などに助成が行われる。こうした動きの効果を見ていくためにも、業種別の性別・年齢構成なども考慮しながら、「取得者がいない事業所」の割合の低下もより重視していくべきだろう。
出生直後の休業に、単独で担う期間を加える
さらに重要なのが、父親の単独育休である。積水ハウス「男性育休白書2025」では「育休をとった男性」のうち53.6%が、「育休を取得する前、取得中に何をすればいいのか正直分からなかった」に該当したと回答している。その背景として、ロールモデルを周囲に見つけにくいこと、育休前の期間に引継ぎが忙しく情報収集がしにくいことのほか、育休中の役割について主体的に学ぶ機会や動機を持ちにくい可能性などが考えられる。
ここから考えられる1つの方策が、父親が単独で育児を担う期間を計画することである。取得期間や取得のタイミングによってその後の家事・育児への関与が異なる可能性を示す研究もある。
ドイツのパネルデータを使用し、父親の育児休業が休暇取得後の労働時間、家事・育児時間に及ぼす影響を検証したBünning(2015)(※3)は、短期または夫婦同時の育休でも、その後、父親の育児への関与が増えていることを示した。一方、家事への参加まで増えたのは、2カ月を超えて取得した父親か、パートナーが働いている間に休業した父親であった。
またケベック州の制度改革を利用したPatnaik(2019)(※4)は、父親専用と銘打った5週間の育児休業の創設や給付水準の改善により、父親の利用が大幅に増え、休業後も家庭内の性別役割分業が縮小したことを示している。
単独で小さな子どもの育児を担う期間があらかじめ想定されていれば、「何をすべきか」「どうやるべきか」を、事前に主体的に学ぶ動機も強まると考えられる。単独で育児を行う場合、親は子どもの状態を把握し、生活を組み立て、必要な対応を自ら判断するケアの責任主体にならざるを得ないからである。例えば、一定期間は父母ともにが休業期間を重ね、その後に父親だけで育児を担う期間を設ければ、共同で育児を学んだうえで、父親自身がケアの責任主体になる経験をもつことができる。
なおここで急いで付け加えたいのは、出生直後の時期など、単独休業が難しい時期における男性育休の価値を否定する意図はないということだ。産後は母親が出産から回復する時期であり、父親が乳児の世話、家事、上の子のケア、各種手続きなどを主体的に担う意味は大きい。産後パパ育休の定着は、引き続き重要である。そのうえで、母親の補助役ではなく、1人で育児を担う期間の確保と拡大を目指すことが重要であろう。
もちろん、単独で育児を担う期間を設ければ、その後の男性の家事・育児参加が必ず高まるとまではいえない。前述のように、男性育休の取得がその後の行動変容につながるかについて、研究結果は一様ではないからだ。
韓国の研究では、男性の育休はそれだけで夫婦間の家事・育児の平等化につながるとは限らず、もともと家事・育児に積極的な男性ほど育休を取得している可能性が指摘される(※5)。重要なのは、男性の育休取得が、復職後の家事・育児への参画や働き方の変化につながるような環境を整えていくことだろう。
まずは両親取得のインセンティブを強化し、長期的に譲渡不可の枠も視野に入れる
男性の単独での育休取得を促す制度を考えるうえで、ドイツとスウェーデンが参考になる。
ドイツの基礎親手当(Basiselterngeld)では、1人の親が給付を受給できるのは最長12カ月分である。ただし両親が給付を分け合い、少なくとも一方の親の所得が出生後2カ月以上にわたって出生前より減少する場合、両親合わせて最長14カ月分(一方の親が受給できるのは12カ月分まで)を受給できる。「2人で受給すれば給付期間が増える」という「ボーナス型」である。
図表3 ドイツの育児休業制度と休業中の給付制度(親手当)の概要
注:パートナー月に関しては、ひとり親等に対する特例がある。基礎親手当の同時取得についても、早産や多胎等の場合に対する特例がある
出所:ドイツ連邦教育・家族・高齢者・女性・青少年省「家族ポータル(Familien portal)」“Elternzeit”“Elterngeld”より作成
一方、スウェーデンでは、育児休業中の給付(親給付)は、子ども1人につき最大480日とされており、このうち390日が所得比例の給付、残り90日は定額給付が行われる。父母それぞれに割り当てられる日数は原則240日ずつであるが、うち90日は他方の親に譲渡できない期間として設定されている(図表4)。これにより、父親が取得する動機を生み出している。
図表4 スウェーデンの育児休業制度と休業中の給付制度の概要
出所: スウェーデン社会保険庁(Försäkringskassan)(2024)「より男女平等な育児休業への道(Vägar mot en mer jämställd föräldraledighet)」および同庁ウェブサイトより作成
日本でも、これまで両親取得の場合にインセンティブを付ける発想をもつ制度が拡充されてきている。具体的には、両親が育休をとる場合、育児休業の対象となる子どもの年齢を原則1歳未満から1歳2カ月未満まで延長できる「パパ・ママ育休プラス」がある(各親が取得できる期間は原則1年間)。さらに2025年には、原則として父母双方が所定の期間に14日以上取得すると、最大28日間、給付率を13%上乗せする出生後休業支援給付金も開始されている。
例えば、出生直後の男性の育児休業の取得促進策は母体回復期を支える必要性から維持したうえで、それとは別に、父親が他方の親と重ならずに一定期間、育児休業を取得した場合、給付率を上乗せする制度が考えられる。この方法であれば、家族の選択を大きく制限せず、父親がある程度まとまった期間、ケアを担うことを後押しできる。
その後、取得の標準化が進んでも男女の期間差が大きく残るなら、他方の親に譲渡できない一定期間を設ける仕組みについて、日本の制度との整合性をふまえながら検討することも考えられる。
ただし前述のスウェーデンは、父母で分け合う一定の給付日数の一部を各親に留保する制度であるのに対し、日本は父母それぞれに育児休業と給付の権利が設定されるため、給付権の構造が異なる。このため、日本にスウェーデンのような譲渡不可枠をそのまま移植することはできない。
さらに、既存の受給可能期間の一部を父親本人に留保するような制度設計を急げば、父親が育休を取得しにくい世帯では、家族が利用できる給付期間が事実上短くなる可能性がある。そうした状況をふまえれば、スウェーデン型の仕組みの導入を拙速に進めることは難しい。さらにひとり親や、配偶者が育休制度の対象外である世帯への例外も十分な検討が必要である。
企業はどうすべきか
男性育休の取得がさらに一般化すれば、企業にとっての課題も、「育休を取れるようにすること」から「社員が一定期間仕事を離れたり、働く時間を調整したりすることを前提に、職場をどう運営するか」へ移っていく。この課題は育児だけにとどまらない。労働力人口の高齢化に伴い、今後は仕事と介護を両立する社員の増加も予想される。
一方で、家族のケアに伴い休業を取得したり、働く時間を調整したりすることによる負担を、家庭の事情のない社員に一時的に負担させることのデメリットも顕在化しつつある。リクルートワークス研究所(2025)「社員の人生と企業の成長をつなぐ経営 ―育児・介護中もその周囲も 社員が輝ける職場づくり―」によれば、育児・介護中の社員と日常的に働いている正社員は、同僚の働き方の調整により、業務量の増加や負担の大きい時間帯の仕事の増加を経験する傾向がある他、会社満足や職場の公平感、仕事への熱意、働きやすさの感覚などを中心に、ネガティブな意識変容が生じやすい傾向にある(図表5)。
図表5 同僚が働き方を調整していることによる、周囲の社員の仕事に対する態度変容(プラスの方向に変化した人の割合からマイナス方向に変化した人の割合を引いた指数)
注:N=1,353。よく一緒に働く育児・介護中の同僚が働き方を調整していることによる、自分自身の仕事に対する態度(意識や行動)の変化について、原則として【A】ポジティブな変化、【B】ネガティブな変化を示し、5件法で尋ねた(1.【A】に近い/2.どちらかといえば【A】に近い/3.どちらともいえない/4.どちらかといえば【B】に近い/5.【B】に近い)。調査では回答の信頼性を高める目的から一部、ポジティブとネガティブの変化を逆転させる項目を設けたが、DI作成時は方向性をそろえ、ポジティブな変化をあげた人の割合(原則として1と2の合計割合、%)から、ネガティブな変化をあげた人の割合(原則として4と5の合計割合、%)の差分として計算した
出所:リクルートワークス研究所(2025)「社員の人生と企業の成長をつなぐ経営 ―育児・介護中もその周囲も 社員が輝ける職場づくり―」
さらに近年、働く人の多くが仕事以外の人生で重要な役割や活動をもつようになっていることも、視野に入れる必要がある。リクルートワークス研究所の調査によれば、就業者全体、正社員ともに、担っている役割が「本業の仕事」だけの人は2割程度にとどまり、「本業の仕事」「副業」「育児」「介護・看護」「地域・ボランティア・自治」「学習者」のうち3つ以上の役割・活動をする人も約半数を占めている(図表6)。
多くの社員が仕事以外にも大切な役割や活動をもつようになれば、育児や介護の事情に集中的に配慮する働き方では、支援を受ける人と受けない人の線引きが強まり、職場全体の納得感を保つことが難しくなる可能性や、特別な支援を受けることが育児や介護中の社員の肩身の狭さを引き起こす懸念もある。実際、前出の報告書(リクルートワークス研究所,2025)では、育児や介護中の社員がライフイベントを契機にキャリアの展望や昇進・昇格への希望をもちにくくなる傾向も示されている。働き方を調整するなかで、任される仕事の質が変わることや、周囲への気遣い、肩身の狭さなどを感じやすくなる状況が影響している可能性がある。
つまり企業は、男性の育児休業の拡大や仕事と介護を両立する人の増加に対応すると同時に、特定の事情をもつ人だけを支援する発想から一歩進む必要に迫られているといえる。
図表6 就業者・正社員が担う役割の数
出所:リクルートワークス研究所「新しいキャリア論ハンドブック 8つの補助線から考えるキャリアデザイン」(2024)
このような変化があるなか、男性育休に関して企業はどのような方針をもつべきだろうか。第一に、復職後も主体的に育児を担いやすくなる取得のあり方を支援することである。そのために、育休前の研修や情報提供により、復職後まで含めた育児分担を考える機会を提供することなどが考えられる。
また、父親が単独で育児を担う期間を設けた場合に、男性社員本人、または女性社員の配偶者の取得を対象として、企業独自の「応援手当」を支給する仕組みも考えられる。先行研究では、父親の育休取得後の家事・育児への関与について、取得期間や取得のタイミングによって違いが生じる可能性が示されている。こうした知見を踏まえれば、企業が取得率だけを追うのではなく、父親がケアの主体となるような取得のあり方を後押しすることには検討の余地がある。
女性社員側にこの応援手当を支給する場合、夫婦間で家事や育児の分担の見直しの契機となることが期待される。一方、男性社員本人が単独育休を取得した場合には、その後も育児を担い続けるために、復職後の仕事時間や働き方を見直す必要が生じる可能性がある。しかしそうした経験を通じて、男性社員が効率的な働き方や周囲との協力のあり方を模索することは、本人だけでなく職場にとっても意味をもちうる。
第二に、育児・介護をする社員、その周囲の社員の双方が納得感をもって働き、不満や意欲の低下を経験しにくい環境づくりを推進することである。
前出の報告書(リクルートワークス研究所,2025)では、「12歳以下の子どもの育児や介護をする社員」と「育児・介護中の社員と日常的に一緒に働く社員」双方について、社員のライフイベント後の仕事意識の悪化を抑制する要因を検証している。分析によれば、①業務プロセスの効率化、②組織的なキャリア・人材開発、③幅広い社員が利用できる柔軟な働き方の導入、④育児・介護に限らない、社員の仕事以外の人生を応援する風土は、希望しない仕事の量や質の変化を抑制することを通じて、あるいは直接、育児・介護中の社員とその周囲の社員のネガティブな意識変容を抑制する関係にあった(図表7)。
大事なのは、これら4つの取り組みは、企業の持続的な成長にも関わることである。育児や介護の有無にかかわらず、誰もが仕事以外の人生での役割や活動を大切にしながら働くための環境を整えることが、企業の成長と仕事以外の人生の充実を接続し、家族の事情を抱える社員の増加に適応できる職場をつくると考えられる。
図表7 4つの取り組み領域と育児・介護中の社員とその周囲の社員のネガティブな意識変容の関係
注:4つの取り組み領域が、直接または仕事の量的な変化(仕事の量の増加、残業や休日勤務の増加)を経由して、育児・介護中の社員、育児・介護中の社員と日常的に働く社員で顕著に見られる仕事意識の変化に及ぶ影響をモデル化した共分散構造分析の結果をもとに作成。
出所:リクルートワークス研究所「社員の人生と企業の成長をつなぐ経営 ―育児・介護中もその周囲も 社員が輝ける職場づくり―」より作成
取得率50.9%は、折り返し点
男性育休取得率が50.9%まで上昇したことは、非常に大きな成果と言える。だからこそ、次の段階では「何人が取ったか」だけではなく、「誰もが必要な育休を取れるか」「男性が実際にケアの担い手になったか」「出産後の男女のキャリア格差が縮まったか」を問う必要がある。取得率50%超はゴールではなく、男性育休を通じて仕事とケアのあり方を変えていくための折り返し点と言えるだろう。
(※1)内田大輔・浦川邦夫・虞尤楠(2023)「日本企業における男性の育児休業の普及―先行要因の解明と業績への影響の検証」『日本労働研究雑誌』No.751、pp.108–121。
(※2)Lee, Y., & Uzunalioğlu, M. (2026). (How) does fathers’ uptake of leave equalise the gendered division of childcare and housework? A review and reflection. International Journal of Sociology and Social Policy, 46(3/4), 357–373. https://doi.org/10.1108/IJSSP-06-2025-0398
(※3)Bünning, M. (2015). What happens after the ‘daddy months’? Fathers’ involvement in paid work, childcare, and housework after taking parental leave in Germany. European Sociological Review, 31(6), 738–748. https://doi.org/10.1093/esr/jcv072
(※4)Patnaik, A. (2019). Reserving time for daddy: The consequences of fathers’ quotas. Journal of Labor Economics, 37(4), 1009–1059. https://doi.org/10.1086/703115
(※5)Lee, Y. (2023). 'Undoing gender' or selection effects?: Fathers' uptake of leave and involvement in housework and childcare in South Korea. Journal of Family Studies, 29(5), 1–29. https://doi.org/10.1080/13229400.2023.2200747
大嶋 寧子
東京大学大学院農学生命科学研究科修了後、民間シンクタンク(雇用政策・家族政策等の調査研究)、外務省経済局等(OECDに関わる政策調整等)を経て現職。専門は経営学(人的資源管理論、組織行動論)、関心領域は多様な制約のある人材のマネジメント、デジタル時代のスキル形成、働く人の創造性を引き出すリーダーシップ等。東京大学大学院経済学研究科博士後期課程在学中。
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