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第20回 自分の年金財源は自分で稼ぐ
70歳まで働く、を見据える時代に

2026年06月22日

3月に行われたデンマークの総選挙の街の様子
3月に行われたデンマークの総選挙で、争点は内政一色に。フレデリクセン首相率いる社会民主党は、第一党こそ維持したものの、得票率を大きく減らす結果となった。
Photo=井上陽子

デンマークで3月、総選挙が行われた。自治領グリーンランドを巡るアメリカとの対立は、引き続き安全保障上の重要課題だが、政党間に立場の違いがほぼなく、選挙戦の争点はもっぱら内政一色だった。なかでも興味深かったのが、年金制度を巡る議論である。
 
デンマークでは、平均寿命の延びに応じて、年金受給の開始年齢を自動的に引き上げる仕組みを採用している。現在の受給開始年齢は67歳だが、2030年に68歳、2035年に69歳と延び、2040年には70歳と、EUでも最高水準に達する。福祉国家を支えるため、高齢であっても働ける人には働いてもらう、との考えからだ。
 
推計上は、さらに延びる見通しなのだが、そんなに働き続けられるのか、という不安の声も上がる。また、若い頃から働く現場従事者と、大学院卒業後に就職する知識労働者の退職年齢は分けるべきだ、といった声も根強い。このためフレデリクセン首相率いる社会民主党は、年金受給開始年齢引き上げのペースを緩やかにすることや、一定条件を満たす人の退職年齢の前倒しや給付の上乗せなどを提案した。
 
ただ、興味深いのは、「70歳まで働く」という方向性そのものへの反対はないことだ。議論の焦点はむしろ、前倒しで退職できる例外をどう設計するかに移っている。フランスでは2023年、マクロン大統領が定年退職年齢を62歳から64歳へ引き上げる改革を提案した際、国民の大反発を受け、全国規模のデモに発展したが、それとはずいぶん温度差があるのだ。
 
理由の1つは、自動調整方式のために、年齢引き上げの是非を、その都度の政治の争点にせずに済んでいることだろう。さらに、「5年ごとに15年先の退職年齢を決める」というプロセスにより、時間をかけて国民が適応できる設計にしている。
 
選挙中、「あなたの孫は77歳まで働くのか?」と問われたある政治家は、「可能性はある」と答えた。そして、高いレベルの福祉を維持するには、高齢者に長く働いてもらわないと「到底(財政的な)つじつまが合わない」と強調した。
 
デンマークの政府債務残高は、対GDP比で約40%と、日本(約230%)よりも大幅に低い水準にある。それでもなお、高齢者の就労を促し、財政の持続可能性を確保しようとするのは、将来世代に負担を先送りしないという明確な意志の表れでもあるのだ。

プロフィール

井上陽子氏

Inoue Yoko
北欧デンマーク在住のジャーナリスト、コミュニケーション・アドバイザー。筑波大学卒、ハーバード大学ケネディ行政大学院修了。読売新聞でワシントン支局特派員など。現在、デンマーク人の夫と長女、長男の4人暮らし。

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