Global View From USA
第20回 見た目は「自己責任」なのか アメリカの職場で強まる外見重視の圧力
身体を鍛え、外見を磨くことが、「自己管理能力」の有無とキャリアに直結するアメリカ。
Photo= (c) caiaimage/amanaimages
「見た目は評価に関係ない」という前提は、アメリカの職場において長く共有されてきた価値観である。性別や人種と同様に、外見による評価は排除されるべきものとされてきた。しかし近年、その前提が揺らぎつつある。
アメリカのある調査(※1)では、求職者の約20%が「外見を理由に不採用になった」と感じているという結果が報じられた。こうした外見による優遇や差別が存在することは以前から指摘されてきたが、昨今はより明確に語られるようになった。
その変化を象徴するのが、外見を「最適化」する動きの広がりである。近年、アメリカで減量薬や美容医療などを通じて見た目を整えることが、キャリア戦略の一部として語られるようになっている。Business Insiderは、外見のよさが「雇用の前提条件」のように扱われる場面が増えていると指摘し、いわゆる「looksmaxxing(※2)」が労働市場と結びついている現状を報じている。
テック業界ではその傾向がさらに顕著だ。シリコンバレーでは、年齢によって「時代遅れ」と見なされることへの不安から、美容施術を受ける男性が増加しているという。ある外科医は、テック業界の男性患者がここ数年で大幅に増えたと指摘し、背景には「見た目が若くなければ職場での競争に不利になる」という認識があるという。従来は女性に集中していた「若さ」への圧力が、男性にも広がっている。
一方で、外見に対する評価軸は単に「若さ」へと収斂しているわけではない。近年注目されているのが、筋力トレーニングを通じた身体の変化とキャリアの関係である。Business Insiderは、特に女性において、鍛えた身体が自信やリーダーシップと結びつき、職場での振る舞いや評価にも影響を与えていると報じている。従来の「細さ」中心の美的基準とは異なる価値観が広がっているように見えるが、これは外見への評価基準が更新されたと見るべきだろう。
現在の職場では、外見は「清潔感」や「自己管理能力」といった言葉で語られることが多い。一見すると中立的な概念だが、実際には特定の見た目や身体状態を前提としている場合が少なくない。
かつて理想とされた「見た目は関係ない職場」は、今となっては「見た目をどこまで自己責任で管理できるか」を問う場へと変わりつつある。この変化は、働くことの意味や評価の基準そのものを書き換えているのである。
プロフィール
竹田ダニエル氏
ジャーナリスト、研究者。テクノロジーとカルチャーを軸に執筆・研究を行う。1997年生まれ。カリフォルニア州出身、在住。著書に『世界と私のAtoZ』『#Z世代的価値観』。
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