Global View From Nordic

第18回 幼少期から育まれる自律性が 高い生産性を実現する基盤

2026年03月30日

子どもが列になって歩いている画像子ども一人ひとりの興味・関心や成長のペースを尊重するデンマークの幼稚園では、遊びや体験のなかで、子ども自身に考えさせることを重視している。
Photo=井上陽子

1人当たりGDPで、世界十指に入るデンマーク。その経済的な豊かさを、「午後4時台がラッシュアワー」という短時間労働でどう実現しているのか、多くの人に話を聞いてきた。そのなかで、日本とデンマーク両方の企業で働いた経験を持つ人ほど、特徴をうまく捉えていると感じた。

ある女性は、若手社員の扱われ方に大きな違いを感じたという。大学卒業後に勤めた日本企業では、上司にアイデアを出しても「そんなものはいらない」「それは10年働いてから」と退けられるばかりだった。

これでは力がつかない、と転職したデンマーク企業では、とにかく仕事を任された。上司とは週 1 度の会議で30分ほど課題を話すのだが、それ以外は、本当に必要なときにアドバイスを求めるくらい。上司が終日会議に入ることもあり、「いちいち判断を仰いでいたらビジネスチャンスを逃してしまう」と、自らどんどん決断を下したそうだ。彼女は、27歳でクライアント担当責任者になると、顧客である日本の大手企業の幹部クラス4~5人を相手に、1人で商談に臨むようになった。

デンマーク企業は規模が小さいところが多く、少人数のチームゆえに、全員を戦力としてフルに生かそうとする特徴がある。年齢や性別、入社年次などにかかわらず、フラットな意識で人材を活用することは、若手のモチベーションにもつながっている。

ただ、そんな風に仕事を回すためには、人材が自律していることが不可欠だろう。そんな自律性はいかにして育まれるのか、と考えてみると、これはもう、子ども時代まで話がさかのぼるように私は感じている。たとえば、幼稚園で子どもが危なっかしい高さまで木登りしているとき。保育士は、「その高さはどうなのかな?」と問いかけはしても、「危ないから降りなさい!」と命令はしない。園児が体感として自ら限界を知るほうが、大人から「それ以上は登っちゃだめ」と言われて従うよりも効果的、と考えているのだ。

小学校に進んでも、正解が1つの問題を解くことよりも、間違いを気にせず意見を言う積極性のほうが評価されている。たとえ教師の発言でも違うと思うなら自分の意見を表明し、問題があると思うなら解決に向けて自分で動くよう促されて育つ。積極的に物を言い、自ら動く自律人材は、ずいぶんと幼い頃から時間をかけて作られているように感じるのだ。

プロフィール

井上陽子氏

Inoue Yoko
北欧デンマーク在住のジャーナリスト、コミュニケーション・アドバイザー。筑波大学卒、ハーバード大学ケネディ行政大学院修了。読売新聞でワシントン支局特派員など。現在、デンマーク人の夫と長女、長男の4人暮らし。

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