人事は映画が教えてくれる

『MONDAYS』に学ぶ ルーティンを問い直す力

2026年10月30日

映画『MONDAYS/ このタイムループ、 上司に気づかせないと 終わらない』の情報


「僕たち、同じ1週間を繰り返しています」後輩2人から突然、社員全員がタイムループに閉じ込められていることを告げられた。そこから抜け出そうと奮闘するプロセスのなかに私たちがふだん巻き取られている「ルーティン」の危うさが見え隠れする。私たちは本当に違う毎日を生きているのか。そんな問いすら浮かび上がってくる。

仕事で徹夜明けの月曜日の朝。小さな広告代理店Zコミュニケーションの社員・吉川朱海(円井わん)は、後輩の遠藤(長村航希)と村田(三河悠冴)から、「ずっと同じ1週間を繰り返していること」を告げられます。タイムループ脱出の鍵を握る部長(マキタスポーツ)に、その事実を認めさせようと奮闘する――。最初に見たときは、「よくあるタイムループものだな」と思いました。ところが2度目に見ると、「これは自分にも覚えがある」というデジャヴを覚えたのです。

1つ目は、私たちはタイムループに陥っていなくても、決まった手順を繰り返す毎日を送っているという事実です。人には、経験から形成される「スキーマ」という認知の枠組みがあります。これによって毎回イチから考えずに行動できます。ルーティンは、限られた脳の処理能力を効率よく使うための仕組みです。

ホワイトボードに向かって、名前が書かれたマグネットシートを貼りながら話す二人の人物のイラスト。ホワイトボードには「上申制度」と中央に描かれたプレートがあり、縦に並んだ人名のプレートの間に上向きの赤い矢印のプレートも貼られている。「上申制度」について驚くかどうか。それが観る人が所属する組織の心理的安全性の試金石になるかもしれない。

ところが、ルーティンに縛られるとわれわれは進歩することができません。人は同じことを繰り返せば習熟し、うまくできるようになりそうなものですが、当初、作中の人物たちは何度繰り返しても、同じ失敗をします。繰り返すだけではダメなのです。自分たちの行動を客観的に眺め、よりよくしようとする意思が大切です。いわゆる、PDCAを回す必要があります。

その後、彼らは同じ1週間を繰り返していることを認識し、自分たちの行動を見直すことによって、企画提案数、資料作成速度をそれぞれ数倍にもアップさせます。タイムループがなくても、私たちは日々の仕事のなかで、この循環を意識的に回す必要があるのです。

2つ目に考えさせられたのは、発注者と受注者の関係です。大手広告代理店木本事務所からの無理難題(作中では「味噌汁炭酸タブレット」の広告制作)が発注先へ、さらにその先へと転嫁され、全員が徹夜続きのタイムループに陥ります。木本事務所の担当者・崎野(池田良)の上司は、「崎野くんセンス悪いでしょ?苦労してない?」と吉川に言い放ちます。崎野の仕事のように、理不尽な依頼には、「できない」と言うべきですが、吉川はその要求に振り回され続けます。

そして、受注者が要求を拒むだけでは、問題は解決しません。そもそも「味噌汁炭酸タブレット」という商品に魅力があるのか。要求の前提が間違っているなら、それを指摘したうえで代案を示す。それが専門家としての責任です。発注者の側も、仕事を丸投げするのではなく、自ら汗をかかなければなりません。困難な要求であっても、発注者が受注者以上に働いていれば、「こちらも力を尽くそう」と思えるものです。その関係を築けるかどうかが、仕事の質を左右します。


両手の親指をクロスさせ、指をまっすぐに伸ばして手のひらを魅せる女性一人と男性二人のイラスト。三人の背後には時計が見える。「鳩」のポーズは、タイムループしていることを認識する(させる)ためのサインだ。

3つ目は、映画に出てくる「上申」です。主人公たちがタイムループの事実を部長に伝えるには、直属の上司から、そのまた上司へと、組織の階層を1段ずつ上がっていかなければなりません。その理由は、途中の人を飛ばすと「へそを曲げるから」ではなく、「上の人は直属の部下の言葉しか信じないから」。確かに、階層には情報を選別し、判断をチェックする機能があります。一方で、情報伝達を遅らせ、現場の重要な声を消してしまう危険もある。航空機の操縦室でも、副操縦士が機長に異論を言えないほど序列が厳しいと、事故のリスクが高まるといわれています。これを権威勾配といいます。階層がリスクを抑えるとは限らず、むしろ異論を封じることでリスク(作中ではタイムループの事実が認識されないこと)を増幅させる場合があるのです。

そして、この映画は、夢を追うことの意味も描いています。実は、部長は夢を挫折した経験のある人でした。ただし、昔の私がそうであったように、夢を追い続ける/完全に諦めるという二者択一で考える必要はないと今は思えます。夢そのものには届かなくても、その近くで仕事をすることはできる。あるいは、その夢を目指す誰かを支えることもできる。夢に固執せず、でも手放しもしない。「夢の周りを回り続ける人生」があってもよいのではないでしょうか。

Text=入倉由理子 Illustration=信濃八太郎 Photo=平山 諭

野田 稔

明治大学大学院グローバル・ビジネス研究科教授

Noda Minoru リクルートワークス研究所特任研究顧問。専門分野は組織論、経営戦略論、ミーティングマネジメント。

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