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ハーネスエンジニアリングは暗黙知や経験則の明示化を迫る

2026年10月30日

アウトプットを望ましい方向に導くには、AIの正しい制御が必要だ。
Photo=castenoid/PIXTA(ピクスタ)

生成AIが普及し始めた頃、「プロンプトエンジニアリング」という言葉が注目を集めた。AIにより質の高いアウトプットを生成させるための「指示の出し方」を設計することだ。2025年頃には「コンテクストエンジニアリング」という言葉が生まれた。これはAIが参照してよい外部の「情報」を確定させることでアウトプットの精度を高める方法論である。さらに2026年春頃には、「ハーネスエンジニアリング」という新しい考え方が生まれている。

ハーネスは馬車を引く馬に装着する引き具など、力を制御し、望ましい方向へ促すための装置のことである。AI開発におけるハーネスエンジニアリングとは、AIが自律的に動くにあたって、間違いやエラーを自律的に修正し、望ましい成果を安定的に創出できるように「環境」そのものを設計することを指す。面白いことに、OpenAIやAnthropicなど複数のAI開発主力企業が、ほぼ同じ時期にこの概念に至っている。

ハーネスエンジニアリングでは、「何をすべきで、何をしてはいけないか」を前提条件として組み込むと同時に、アウトプットした後に、正解であったかを検証させ、問題があれば自律的に修正させる仕組みも構築する。これらの制御のもとでAIを働かせることで、一問一答形式ではなく、長時間にわたって自律的に正しいアウトプットを生成させやすくなるというわけだ。

だが、実際にハーネスを構築しようとすると、人間が作業をするときに、いかに多くの判断が暗黙知や経験則でなされているかを思い知ることになるだろう。誰が何を決めるのか、どの情報を活用してよいのか、判断にあたっての基準は何か、そして、同じ失敗を繰り返さないためのプロセス修正の手順はどうか。全員がこれらについて明確で一致した答えを出せる組織は多くないはずだ。そもそも、仕事の結果をどう評価するかということですら、曖昧であったり、上司の好みに左右されたりするのではないだろうか。AIエージェントの力を引き出したいなら、こうしたワークルールを再設計する必要がある。

ただし、筆者は、人間もいかなるときでも明確で厳密なルールに従えばいいといいたいのではない。曖昧で感覚的で揺らぎのある人間の活動からこそ、イノベーションが生まれるはずだからだ。

プロフィール

石原直子氏

Ishihara Naoko
FutureWork研究室 代表取締役。リクルートワークス研究所にて『Works』編集長、人事研究センター長などを務め、2022年よりエクサウィザーズ。自身設立のFutureWork研究室では、経営者、人事、政府、働く人々へのAI時代の人材マネジメントに関する情報発信に注力。

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