単発・短期ワーク(スポットワーク)が広がる業界・職種は?
今、単発・短期で働く「スポットワーク」という新しい働き方が広がっている。前回のコラムでは、2024年に5.5%の人が単発・短期ワーク(スポットワーク)(※)を行っていたことを紹介した。本コラムでは、この働き方を選んだ人の現状をさらに詳しく掘り下げて紹介したい。
この働き方をしている人はどの業界・業種で活躍しているのか。また、実務経験や資格は活かされているのか。人材不足に悩む業界に集中しているのか、それともより多様な広がりを見せているのか、その実態をデータから把握していく。
業界の広がりから見える特徴とは?
この働き方がどこまで広がっているのか。これを確認するため、単発・短期ワーク(スポットワーク)で経験した業界をすべて選択してもらう設問を設けた(複数回答)。その結果によると、単発・短期ワークは幅広い業界に広がっていることが分かる(図表1)。サービス業が36.7%と最も高く、次いで飲食店・宿泊業(23.3%)、卸売・小売業(18.8%)、運輸業(15.9%)が続く。これらは、ビジネス構造の特徴として繁閑差が生じやすい業界であり、さらに今、サービス需要が拡大し人材不足に直面している業界であると言える。
さらに、選択した業界の中で最も多く従事したものを1つだけ選んでもらった結果を見ると、サービス業が21.5%でやはり最も多かった。飲食店・宿泊業(11.7%)、卸売・小売業(10.7%)が続き、単発・短期ワークが生活関連サービスや接客業務に強く根付いていることが明らかだ。
注目すべきは、複数回答では教育・学習支援(11.7%)、医療・福祉(11.0%)や情報通信業(5.9%)など、専門性を要する業界も含まれている点である。単発・短期ワークは補助的労働にとどまらず、専門知識やスキルを活かす場としても広がりを見せている。
図表1 単発・短期ワーク(スポットワーク)で経験した業界
※クロスセクションウェイトを用いたウェイトバック集計
出所:「単発・短期ワーク(スポットワーク)に関する就業実態調査」より筆者作成
どのような職種に広がりを見せているのか?
業界に続いて、経験した職種について見ていこう(図表2)。経験した職種すべてを回答してもらった結果(複数回答)によると、倉庫軽作業(30.7%)が最も多く、次いで飲食店の接客・サービス系職種(20.2%)、事務系職種(17.0%)が高い割合を占めている。
さらに、最も多く従事した職種を1つだけ選んでもらった結果によると、倉庫軽作業が21.2%で最も多く、次いで飲食店の接客・サービス系職種(11.9%)、事務系職種(10.1%)、試験監督、イベント・キャンペーン系職種(7.0%)と、上位職種について複数回答の場合と順位に変動はなかった。単発・短期ワークは、物流や接客、イベント対応など、繁忙期に人手が必要となる業務を中心に広がっている一方で、事務系職種のように比較的安定した業務にも一定のニーズがあることが分かる。
注目したいのは、IT技術職、Webクリエイティブ、ライティング(3.8%)、医療系職種(3.6%)、教育・講師・インストラクター・幼稚園教諭・保育士(3.0%)など、専門性を要する職種も一定割合で含まれていることである。単発・短期ワークは、職種でも業界と同様に専門知識やスキルを活かす働き方としても広がりを見せていることがうかがえる。
図表2 単発・短期ワーク(スポットワーク)で経験した職種
※クロスセクションウェイトを用いたウェイトバック集計
出所:「単発・短期ワーク(スポットワーク)に関する就業実態調査」より筆者作成
実務経験や資格は単発・短期ワークで活かされているのか?
ここまで、単発・短期ワーク(スポットワーク)の業界・職種的な広がりから現状を見てきた。一般的にこの働き方は、繁閑差が激しく一時的に人材が必要な業界や職種に活用されているように思われがちであるが、就業実態調査からは、専門性を要する業界や職種にまで広がっていることが確認された。では、こうした専門性の広がりは、働く人の実務経験や資格の活用にも見られるのだろうか。
図表3は、単発・短期ワークで行った仕事の分野に関連する実務経験や専門的な資格を活用しているかについて尋ねた結果である。これによると、関連する実務経験または資格のいずれかを活用している人は全体の47.0%にのぼる。内訳を見ると、実務経験と資格の両方を活用している人は18.2%、実務経験のみ活用している人は26.4%、資格のみ活用している人は2.4%である。一方、関連する実務経験や資格を全く活用していない人は53.0%と半数を超えている。
このことから、単発・短期ワークは必ずしも実務経験や資格の活用を前提とした働き方ではないが、約半数がそれらを活かして働いており、実務経験や資格を活かす就業機会としての側面も持つことが示唆される。
図表3 単発・短期ワーク(スポットワーク)での実務経験・資格の活用
※クロスセクションウェイトを用いたウェイトバック集計
出所:「単発・短期ワーク(スポットワーク)に関する就業実態調査」より筆者作成
活用された具体的な資格は何なのか?
単発・短期ワークにおいて経験や資格の活用状況を確認してきたが、ここでは実際に活用された資格について見ていきたい(図表4)。最も多かったのは飲食・栄養関連の資格(栄養士・調理師・食品衛生責任者)で14.8%である。次いで、福祉関連の資格(介護福祉士)が13.9%、医療関連の資格(看護師・准看護師)が13.1%、乗り物・機械関連の資格(運転免許二種・大型)が12.9%、乗り物・機械関連の資格(フォークリフト運転者・玉掛け技能者・クレーン・デリック運転士)が12.0%と続く。
さらに、会計・金融関連の資格(11.6%)、法律・経営・労務関連の資格(11.2%)、建築・土木・電気関連の資格(11.2%)、幼稚園教諭・小中高教諭(9.2%)、保育士(7.7%)、自動車整備士(7.4%)、宅地建物取引士(6.2%)、医師・歯科医師・獣医師(5.8%)、薬剤師(4.4%)、理容師・美容師(3.2%)となっている。
これらの結果から見える特徴は、単発・短期ワークでは、医療・福祉・飲食などの生活関連分野から、物流・建設・教育といった現場系分野、さらに法務・会計などの専門分野まで、幅広い資格が実際に活用されていることである。実務経験と資格を保持する人材が、単発・短期ワークという働き方で関わることで、日常業務が運営できている現場もあるのではないだろうか。
図表4 単発・短期ワークで実際に活用した資格(複数回答)
※クロスセクションウェイトを用いたウェイトバック集計
出所:「単発・短期ワーク(スポットワーク)に関する就業実態調査」より筆者作成
ここまで、単発・短期ワーク(スポットワーク)という働き方が広がる業界や職種、実務経験・資格の活用状況、さらに具体的に活用した資格までを見てきた。では、どんな人がこの働き方を選んでいるのだろうか。始めるきっかけは何だったのか。その理由はどこにあるのか。次回以降のコラムでは、この働き方を選択した人たちの特徴や背景に焦点を合わせ、詳しく紹介したい。
(※)単発・短期ワーク(スポットワーク)は次の3条件を満たすものとする。
1. 特定の企業や組織に雇用される、または業務を請け負うこと
2. 労働によって報酬が発生すること
3. 契約期間が1カ月未満であること
ただし、以下は対象外とする。
• 2025年9月25日~10月6日に実施した本ウェブアンケート
• 試用期間が1カ月の短期雇用契約
• 単発・短期ワークの働き方に近いサービスや利用したアプリに関する質問において、オークション・フリーマーケットでの販売、SNSなどの動画配信、デイトレード、投資や賃料収入、地域のコミュニティ活動、または「上記にあてはまるものはない」の選択肢のみを選択した人
なお、単発契約を継続し結果的に1カ月以上となった場合は対象に含める。
岩出 朋子
大学卒業後、20代にアルバイト、派遣社員、契約社員、正社員の4つの雇用形態を経験。2004 年リクルートHR マーケティング東海(現リクルート)アルバイト入社、2005年社員登用。新卒・中途からパート・アルバイト領域までの採用支援に従事。「アルバイト経験をキャリアにする」を志に2024年4月より現職。2014年グロービス経営大学大学院経営研究科修了。2019年法政大学大学院キャリアデザイン学研究科修了。
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