キャリアの転換期を支えるスポットワークの役割—働きながら次を考えられる働き方
これまで単発・短期ワーク(スポットワーク)(※1)が本業や学業、育児などと両立しながら活用されていることや、その経験を通じて働く意味が変化していくことを見てきた。前回のコラムでは、空き時間の活用や収入源の確保、仕事体験として始まった経験が、楽しみや社会とのつながり、自己理解、社会見学、やりがいへと「味変」していく姿を紹介した。今回のインタビューからは、こうした側面に加えて、キャリアの転換期におけるスポットワークの役割も見えてきた。
図表1を見ると、スポットワーク経験者の81.0%は、正規の職員・従業員やパート・アルバイトなど、何らかの仕事に就いている。一方で、「仕事を探していた」「働いていなかった」と回答した人は19.1%と約5人に1人を占める。今回のインタビューでも、休職や定年退職、働き方への悩みなど、それまでの生活やキャリアの流れがいったん途切れた時期にスポットワークを始めた人たちがいた。本コラムでは、こうしたキャリアの転換期にある人たちに焦点を当てたい。
図表1 スポットワーク経験者の就業状態
※クロスセクションウェイトを用いたウェイトバック集計
※四捨五入により、合計は100%にならない
出所:リクルートワークス研究所「全国就業実態パネル調査2025」および「単発・短期ワーク(スポットワーク)の就労実態調査」より筆者作成
図表2は、インタビューから見えてきたキャリアの転換期におけるスポットワークの役割を整理したものである。もちろん、ここで示す経験はすべての人に当てはまるものではない。しかし今回のインタビューでは、スポットワークを通じて働くこととの「接点を保つ」ことからはじまり、「自分を見つめ直す」機会を経て、その先の働く「選択肢が見える」という過程をたどる事例が複数見られた。本コラムでは、この流れに沿って、キャリアの転換期におけるスポットワークの役割を見ていきたい。
図表2 キャリアの転換期におけるスポットワークの役割
出所:「単発・短期ワーク(スポットワーク)に関するインタビュー調査」(※2)より筆者作成
1:立ち止まったとき、働くこととの接点を保つ
休職や体調の不調、働き方への悩みなどによって、それまでの生活やキャリアの流れがいったん途切れることがある。しかし、そうした時期であっても、働くことそのものへの意欲まで失われるとは限らない。今回のインタビューでは、これまでと同じようには働けなくなった人たちにとって、スポットワークが、自分の状況に応じて働き続けるための選択肢になっていた姿が見られた。
たとえば、本業で心身の不調を経験し、休職した人がいた。職場で自分の仕事の価値を見失い、「この先どうすればよいのか」が見えなくなっていた時期だったという。休養が必要なことは理解していたものの、仕事から離れて家にいることへの葛藤も抱えていた。働いていない自分は社会から切り離されているように感じていたのである。そんな中で始めたのが、配達のスポットワークだった。自分の体調やペースに合わせて働くことができ、働いた分だけ対価を得られる。これまでと同じようには働けなくても、社会との関わりを持ち続けることができた。その経験は、立ち止まっていた時期に働くこととの接点を保つ機会になっていた。
また、人間関係や固定シフトへの負担、体調との両立の難しさから長期アルバイトを続けることが難しくなった学生もいた。体調に波があり、前日や当日の朝にならないとコンディションが分からないこともあったため、決められたシフト通りに働き続けることに大きなプレッシャーを感じていたという。働きたい気持ちはある一方で、急な欠勤によって周囲に迷惑をかけることへの不安も抱えていた。そうした中で利用した派遣型のスポットワークは、自身の体調や状況に合わせて働く日を選ぶことができるだけでなく、コーディネーターや派遣先の担当者が間に入ることで安心して働ける環境でもあった。その結果、体調への不安を抱えながらも働くことを続けることができた。
本業で心身の不調を経験した人も、長期アルバイトを続けることが難しくなった人も、すぐに次の進路や働き方が見つかったわけではなかった。しかし、スポットワークを通じて、それぞれの事情に応じた形で働くこととの接点を保っていた。全力では働けない時期であっても、それぞれの事情に合わせて働き方のギアを変えながら働き続けることができる。今回のインタビューからは、スポットワークが、働くことを完全に手放さずに済む選択肢として活用されている様子がうかがえた。
2:自分を見つめ直し、価値や可能性を再発見する
キャリアの転換期には、次の働き方や生き方を模索する中で、自分自身を見つめ直すことも少なくない。今回のインタビューでは、スポットワークを通じて自分の価値や可能性を再発見し、自信や前に進むエネルギーを取り戻していく姿が見られた。
たとえば、職場で自分の仕事が十分に評価されていないと感じ、休職を経験した人は、単発で事務作業を請け負う仕事を通じて、自分が当たり前のように行ってきた業務が他者にとって価値を持つことを実感したという。組織の中では見えなくなっていた自分の強みが、別の環境では評価され、感謝や対価につながる。その経験は、自分の能力や価値を改めて認識し、自信を取り戻すきっかけになった。
また、定年退職後にスポットワークを始めたシニアからは、思いがけない自分の一面を発見したという語りも聞かれた。未経験だった接客の仕事に取り組む中で、利用客や店舗担当者から感謝や評価の言葉を受けるようになったという。その経験を通じて、自分には人と接する仕事への適性や、人を喜ばせる力があることに気づいた。「自分には合っていると思った」という実感は、長年の会社員生活では気づかなかった新たな可能性の発見でもあった。
さらに、本業で挑戦したい仕事を続けていたものの、その仕事だけでは収入が安定しないため、生活を支える手段としてスポットワークを続けていた人もいた。その人からは、スポットワークでの経験の積み重ねが自分自身への信頼につながったという語りが聞かれた。さまざまな職場や仕事を経験する中で、「初めての環境でも何とかやっていける」という実感を得るようになり、「何かあっても何とかなる」という感覚を持つようになったという。スポットワークによって育まれた自己信頼は、本業での挑戦を続ける力にもなっていた。
このように、キャリアの転換期におけるスポットワークは、自分の価値や強み、可能性を再発見する機会にもなっていた。スポットワークを通じて働き続ける中で、自分にもまだできることがある、自分はこれからも前に進めるという感覚を取り戻していった。自分の価値や可能性の再発見、そして自己信頼の回復が、その後の新たな一歩の土台になっていた人もいた。
3:その後の働く選択肢が見える
スポットワークは、働くこととの接点を保ったり、自分の価値や可能性を見つめ直したりするだけでなく、その後の新たな一歩につながることもあった。もちろん、スポットワークを経験したすべての人が新しいキャリアへ進んだわけではない。しかし今回のインタビューでは、スポットワークを通じて得た経験が、その後の働き方や生き方の選択に影響を与えていた事例も見られた。
たとえば、休職中にスポットワークを始めた人は、自分の力で仕事を受けて対価を得る経験を通じて、「正社員として働かなければならない」という考え方を見直すようになったという。正社員として復職するか転職するかではなく、自分のスキルを生かせる働き方とは何かという視点から、その後の働き方を模索するようになった。その後、業務委託の仕事にも取り組むようになり、起業するという新たな働き方を選択した。
また、定年退職後にスポットワークを始めたシニアは、接客の仕事を通じて人と関わることの楽しさや、自分の適性を発見した。社会との接点を求めて始めたスポットワークだったが、その経験を通じて「自分にはこうした仕事が向いている」という確信を持つようになったという。さらに、人に喜ばれたり感謝されたりする経験を重ねる中で、働くことの意味も変化していった。その結果、これからも社会と関わりながら働き続けたいと考えるようになり、自ら長期アルバイトへ応募するなど、新たな働き方へと踏み出していた。
キャリアの転換期にある人たちにとって、スポットワークはその後の働く選択肢を広げるきっかけにもなっていた。これまで当たり前だと思っていた働き方を見直したり、自分に合った新たな働き方を見いだしたりする人もいた。スポットワークを通じた経験は、その後の働き方やキャリアを考える視野を広げる機会にもなっていたようだ。
転換期にスポットワークがもたらす選択肢
今回のインタビューで印象的だったのは、スポットワークがキャリアの転換期において、独特の役割を果たしていたことである。休職や定年退職、働き方への悩みなど、それまでの生活やキャリアの流れがいったん途切れたとき、必ずしもすぐに次の道を見つけられるわけではない。
もちろん、今回見られた経験がすべての経験者に当てはまるわけではない。また、スポットワークが人生やキャリアの課題を解決してくれるわけでもない。しかし今回のインタビューからは、スポットワークがキャリアの転換期にある人たちにとって、仕事との接点を保ち、自分を見つめ直し、その後の選択肢を広げる役割を果たしていたことがうかがえた。特に印象的だったのは、次の道筋が見えてから行動するのではなく、スポットワークを続けながら自分に合った働き方や生き方を模索していた点である。スポットワークは、将来の方向性を決めるための時間を支えるだけでなく、その過程で小さく行動し続けることを可能にしていたように見える。
キャリアの転換期には、いったん立ち止まって将来を考えることも必要だろう。しかし今回のインタビューで印象的だったのは、スポットワークを通じて「考えてから動く」のではなく、「動きながら考える」ことができていた点である。仕事の連続性が必ずしも求められないスポットワークだからこそ、自分の事情に合わせて小さく働きながら、自分に合った働き方や次の選択肢を探ることができる。今回のインタビューからは、そうした経験がその後の働く選択肢の広がりにつながっていた可能性がうかがえた。
(※1)本コラムにおける単発・短期ワーク(スポットワーク)とは、以下の3つの条件に該当する仕事を指す。
1. 特定の企業や組織に雇用される、または業務を請け負うこと
2. 労働によって報酬が発生すること
3. 契約期間が1カ月未満であること
なお、契約期間が1カ月未満であっても、試用期間として設定されているなど、実質的に長期雇用を前提とした仕事は対象外とした。一方、単発の契約を繰り返し、結果として就業期間が1カ月以上となった場合は対象に含めている。
また、以下の活動は対象外とした。
・オークション・フリーマーケットでの販売
・SNSでの動画配信
・デイトレードや個人による株式・債券等の取引
・投資(株式・不動産等)による運用益や賃料収入を得る活動
・地域コミュニティ活動(消防団・町内会・PTA等)
(※2)「単発・短期ワーク(スポットワーク)に関するインタビュー調査」の概要
・調査目的:単発・短期ワークの経験を通じて得たキャリア経験を明らかにする
・調査対象:過去3年以内に単発・短期ワークを経験した人(20代~60代)
・対象者数:12名
・調査期間:2026年4月22日~7月28日
・調査方法:半構造化インタビュー調査
・実施方法:1人1回(約60分)のインタビュー
・対象者の募集方法:調査協力者からの紹介をもとに対象者を募るスノーボールサンプリングにより実施
・分析方法:インタビュー逐語録をもとに発言内容を整理し、KJ法の考え方を参考にしながら共通するテーマやパターンを抽出した
【参考文献】
リクルートワークス研究所(2026)「単発・短期ワーク(スポットワーク)で働く人たちは誰なのか?」https://www.works-i.com/research/project/spotwork/deta/detail004.html
(2026年7月28日アクセス)
リクルートワークス研究所(2026)「『時間』と『お金』の先にあるもの―スポットワークで生じる働く意味の5つの『味変』」https://www.works-i.com/research/project/spotwork/interview/detail003.html(2026年8月18日アクセス)
岩出 朋子
大学卒業後、20代にアルバイト、派遣社員、契約社員、正社員の4つの雇用形態を経験。2004 年リクルートHR マーケティング東海(現リクルート)アルバイト入社、2005年社員登用。新卒・中途からパート・アルバイト領域までの採用支援に従事。「アルバイト経験をキャリアにする」を志に2024年4月より現職。2014年グロービス経営大学大学院経営研究科修了。2019年法政大学大学院キャリアデザイン学研究科修了。
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