スポットワークで「時間」と「お金」が評価される理由―多様な事情に合わせられる働き方
前回のコラムでは、単発・短期ワーク(スポットワーク)(※1)経験者に「仕事経験やキャリアとして良かったこと」を尋ねた結果を紹介した。その内容を上位10項目で整理したのが図表1である。上位5項目は、「時間」と「お金」に関する項目が占めている。具体的には、「自分の都合の良い日時や時間帯で働けた」(57.7%)、「スキマ時間を有効活用できた」(32.2%)、「プライベート(学業、家庭、趣味など)と両立しやすかった」(25.6%)、「すぐに収入を得ることができた」(22.0%)、「働いた分だけ、確実に収入が増えた」(21.7%)である。
一見すると、スポットワークのよさは「好きな時間に働けること」や「すぐに、そして確実に収入を得られること」にあるように見える。しかし、今回行った「単発・短期ワーク(スポットワーク)に関するインタビュー調査」(※2)からは、「時間」や「お金」という共通の評価の裏側に、人それぞれ異なる事情があることが見えてきた。そこには、本業の予定、学業、育児、体調、急な出費など、自分では簡単に変えられない事情があった。スポットワークは、そうした生活上の事情を抱えながらも働くための選択肢として活用されていた。本コラムでは、この働き方で評価される「時間」と「お金」について、経験者のエピソードをもとに読み解いていきたい。
図表1 単発・短期ワークを通じて仕事経験やキャリアとして良かったこと(TOP10)

※複数回答
出所:「単発・短期ワーク(スポットワーク)の就労実態調査」より筆者作成
「時間」が評価されているのはなぜか
図表1の上位3項目は、「自分の都合の良い日時や時間帯で働けた」「スキマ時間を有効活用できた」「プライベートと両立しやすかった」であり、いずれも時間に関する評価である。今回インタビューした12名の経験者のエピソードをたどると、スポットワークが活用されていた時間には、3つのパターンが見られた。以下では、今回のインタビュー対象者の語りから見えてきた代表的なパターンを紹介したい
1:予定が読めない時間を補う
体調に波があり前日の夜にならないと翌日の予定を決められない人や、本業のスケジュールが不規則で固定シフトを組みにくい人がいた。こうした人にとって、あらかじめ勤務日を約束する働き方は負担が大きい。
スポットワークは、働けると判断したタイミングで仕事を選ぶことができる。そのため、先の予定を見通しにくい人にとって、有効な選択肢となっていた。
2:守りたい時間と両立する
学業や資格取得の勉強、家事や育児など、優先したい活動の合間に生まれる時間である。本来優先したい活動のために、まとまった勤務時間を確保することは難しい。
インタビューでは、学業に集中する時期だけ長期アルバイトを控え、単発の仕事で収入を補っている人や、家庭の予定を優先しながら空いた時間に働く人がいた。ここでは、仕事に合わせて生活を調整するのではなく、学業や家庭など優先したい活動に合わせてスポットワークが活用されていた。
3:ぽっかり空いた時間を活用する
急に予定がなくなった休日、夜勤明けの空いた時間、リモートワークによって生まれた空き時間など、従来であれば何となく過ごしていた時間を活用するケースも多く見られた。
インタビューでは、急に予定がなくなった日や夜勤明けの空いた時間に、「せっかく時間があるなら少し働いてみよう」「家にいるだけなら出かけてみよう」といった感覚で仕事を探す人もいた。また、リモートワークによって生まれた空き時間を活用し、空いた時間にできる仕事を始めたという声も聞かれた。仕事そのものが大きな目的というよりも、空いた時間を有意義に過ごすための選択肢になっていた。
このように、スポットワークで評価されている「時間」の背景には、さまざまな事情がある。予定が読めない人もいれば、守りたい予定を抱える人もいる。また、思いがけず生まれた時間を有効に活用したい人もいる。インタビューから見えてきたのは、人々が抱える時間の事情はさまざまである一方で、スポットワークはそうした事情に合わせて活用されているということである。
「お金」が評価されているのはなぜか
図表1では「すぐに収入を得ることができた」(4位)、「働いた分だけ、確実に収入が増えた」(5位)も上位に入っている。お金が評価される理由も一様ではない。インタビューでは、急な出費への備えとして活用する人もいれば、本業や生活を支える補完的な収入源として活用する人もいた。
1:急な不足に対応するお金
急な予定やイベントでお金が必要になった時、欲しいものがあるけれど手元のお金が足りない時、次の給料日まで少し不足する時など、インタビューでは「必要になったら働く」という使い方が語られていた。
中には、「旅行に行く前に少し稼ぎたい」「好きなものを買うお金が欲しい」「急な出費が重なったので働く」といった感覚でスポットワークを利用している人もいた。働いた当日にあるいは短期間で報酬を受け取れる仕組みは、こうした一時的な不足に対応できる安心感につながっていた。ここでの収入は、生活を大きく変えるためのお金というよりも、その時々で必要になった支出を補うためのお金として機能していると言える。
2:本業や生活を支える補完的なお金
一方で、生活を支える収入を補う手段としてスポットワークを活用している人もいた。本業による収入だけでは不足が見込まれる人や、収入が安定しにくい働き方をしている人にとって、スポットワークは生活を支える補完的な収入源となっていた。
また、補完的な収入としてだけでなく、働いた分だけ収入につながる分かりやすさを評価する声も聞かれた。学生や会社員の中には、「何時間働けばいくらになる」「何件こなせばいくらになる」と見通しが立てやすく、自分の行動と収入の関係が分かりやすいことに魅力を感じている人がいたのである。ここで評価されていたのは、収入額の多さだけではない。働いた分だけ確実に収入につながることへの納得感や予測可能性だった。
以上の12名の語りから見えてきたように、スポットワークで評価されている「お金」の背景にも、さまざまな事情があった。急な出費に備えるためのお金もあれば、本業や生活の不足分を補うためのお金もある。働いた分だけ確実に得られる安心感を求める人もいる。スポットワークは、こうした一人ひとり異なるお金の事情に応じて活用されていた。
自分の生活に合わせて活用する働き方
インタビューから見えてきたのは、「時間」や「お金」という言葉の裏側に、多様な事情が存在していることだ。たとえば、同じ「時間」が評価されていても、その意味は一様ではない。体調、本業、学業、育児など、自分では簡単に変えられない予定や制約に合わせて活用する人もいれば、思いがけず生まれた時間を活用する人もいた。「お金」についても同様である。急な出費への備えとして活用する人もいれば、本業や生活を支える補完的な収入源として活用する人もいた。
このように、スポットワークの活用の仕方は人によって異なっていた。一方で、今回インタビューした人たちの語りに共通していたのは、本業や学業、育児など、それぞれの生活の中心となる活動を持ちながらスポットワークを利用していたことである。本業を続けながら活用する人、学業や育児を優先して活用する人、収入が必要な時期や求職・休職などキャリアの転換期に一時的に活用する人など、その位置づけはさまざまだった。しかし、スポットワークを生活やキャリアの中心に置くのではなく、自分の状況に応じて取り入れる働き方として活用していた点は共通していた。
今回のインタビュー対象者の語りからは、スポットワークの魅力の一つとして、本業や学業、育児など主たる活動を続けながら取り入れられる点がうかがえた。スポットワークに生活を合わせるのではなく、自分の生活に合わせてスポットワークを取り入れられることは、利用者が感じていた大きなメリットであった。その柔軟さこそが、この働き方が多様な人たちに受け入れられている理由の一つと考えられる。
本コラムでは、スポットワークで評価されている「時間」と「お金」の背景にある事情を見てきた。しかし、インタビューでは、時間やお金だけでは捉えきれない経験についても語られていた。次回は、そうした経験を通じて生まれた「働く意味の変化」に着目していきたい。
(※1)本コラムにおける単発・短期ワーク(スポットワーク)とは、以下の3つの条件に該当する仕事を指す。
1.特定の企業や組織に雇用される、または業務を請け負うこと
2. 労働によって報酬が発生すること
3. 契約期間が1カ月未満であること
なお、契約期間が1カ月未満であっても、試用期間として設定されているなど、実質的に長期雇用を前提とした仕事は対象外とした。一方、単発の契約を繰り返し、結果として就業期間が1カ月以上となった場合は対象に含めている。
また、以下の活動は対象外とした。
・オークション・フリーマーケットでの販売
・SNSでの動画配信
・デイトレードや個人による株式・債券等の取引
・投資(株式・不動産等)による運用益や賃料収入を得る活動
・地域コミュニティ活動(消防団・町内会・PTA等)
(※2)「単発・短期ワーク(スポットワーク)に関するインタビュー調査」
・調査目的:単発・短期ワークの経験を通じて得たキャリア経験を明らかにする
・調査対象:過去3年以内に単発・短期ワークを経験した人(20代~60代)
・対象者数:12名
・調査期間:2026年4月22日~7月28日
・調査方法:半構造化インタビュー調査
・実施方法:1人1回(約60分)のインタビュー
・対象者の募集方法:調査協力者からの紹介をもとに対象者を募るスノーボールサンプリングにより実施
・分析方法:インタビュー逐語録をもとに発言内容を整理し、KJ法の考え方を参考にしながら共通するテーマやパターンを抽出した
岩出 朋子
大学卒業後、20代にアルバイト、派遣社員、契約社員、正社員の4つの雇用形態を経験。2004 年リクルートHR マーケティング東海(現リクルート)アルバイト入社、2005年社員登用。新卒・中途からパート・アルバイト領域までの採用支援に従事。「アルバイト経験をキャリアにする」を志に2024年4月より現職。2014年グロービス経営大学大学院経営研究科修了。2019年法政大学大学院キャリアデザイン学研究科修了。
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