序論:単発・短期ワーク(スポットワーク)の研究 単発・短期ワークはどのくらい広がっているのか?
人材不足が深刻化する労働市場で、働き方の選択肢は急速に多様化している。その中でも、1日だけ、あるいは1カ月未満の単発・短期ワーク(スポットワーク)が注目を集めている。求人アプリやマッチングサービスの普及により、単発・短期ワークという働き方が以前よりも簡単に選べるようになった。しかし、実際にどのくらいの人がこの働き方を選んでいるのだろうか。
スポットワークの市場は30%前後で拡大
スポットワーク仲介サービス市場(単発バイト求人情報サービス、短期バイト人材紹介サービス、人材マッチングサービスの3市場計)は急成長している。2024年度は前年度比32.5%増の1,100億円、2025年度はさらに22.5%増の1,347億円に達する見込みである(矢野経済研究所,2025)。需要は飲食・物流・イベント業界を中心に急増し、年間成長率は30%前後と推定されている。(※1)この成長率は、スポットワークが一過性の現象ではなく、労働市場における重要な選択肢として定着しつつあることを示している。
求人・マッチングアプリ登録者数の急増
求人アプリやマッチングサービスの登録者数も急増している。内閣府が発表した「令和7年度年次経済財政報告」によると、スポットワーク協会が集計したプラットフォーム事業者大手5社の延べ登録人数は、2019年12月時点で約330万人だったものが、2024年10月には約2,800万人(※2)に達し、この5年間で約8倍に増加している。
企業によるスポットワーク導入の進展
企業側でも導入が進んでいる。大手外食・小売では、既存スタッフやOB・OGを活用したスポットワーク導入が広がり、専門職でも単発・短期の働き方を受け入れる動きが見られる。たとえば、外食チェーンや小売業では単発バイト募集を自社で展開している(日本経済新聞,2025a ; 2025b)。さらに、医療・介護や理美容など深刻な人材不足に直面する業界でも、スポットワークの利用が拡大している(日本経済新聞,2023;2024)。
本研究の重要性
2025年度の経済財政白書によれば、スポットワークが労働供給に占めるマンアワーベース(就業者数×労働時間)の労働投入量割合が、パートタイム労働者の1%以上に達するとの推計がされている(内閣府,2025)。この推計は、スポットワークが単なる「一過性な現象」ではなく、労働市場における構造的な変化をもたらしていることを示唆しているのではないだろうか。さらに、スポットワークという働き方がより現実的になれば、労働者にとってもこれが個人のキャリア形成に影響を与える可能性も高まるだろう。
一方で、急速に拡大するスポットワークは、総務省の労働力調査や厚生労働省の毎月勤労統計といった既存の経済統計では十分に捉えられていない領域である。このため、実態把握には新たなアプローチが必要である。
本研究の目的
本研究は、リクルートワークス研究所「全国就業実態パネル調査2025」に接続可能な調査として「単発・短期ワーク(スポットワーク)に関する就業実態調査を実施する。定量調査を通じて、単発・短期ワークで働く人の規模と、その働き方を選択する人の属性・背景を明らかにする。さらに、こうした働き方がもたらす価値観や労働市場への影響を分析し、今後の方向性を考察する。
人材不足時代における新しい働き方の広がりを労働者視点で捉えることは、企業の採用戦略や政策立案において重要な意味がある。本研究は、そのための基盤となる知見を提供することを目的とする。
本研究における「単発・短期ワーク」の定義
近年、単発・短期ワークで報酬を得る働き方は拡大しており、労働市場においてどの程度存在し、どのような影響を与えているのかを検討する必要がある。こうした働き方は、雇用契約の有無にかかわらず広がっている。たとえば、私たちの日常生活に浸透しているフードデリバリーやECサイトなどの配送業務は、業務委託契約の代表例としてあげられる。これらは従来の雇用モデルでは捉えきれない新しい労働市場の動態を示している。
この問題意識を踏まえ、本研究では「単発・短期ワーク」を次のように定義する。契約形態によって2つに分類できる(図表1)。一つは、雇用契約に基づき、社会保障や時間・場所の制約がある働き方であり、企業による直接雇用と派遣会社による間接雇用が含まれる。もう一つは、業務委託契約による働き方である。本研究では、雇用契約と業務委託契約の2つを分析対象とし、次の3つの条件に該当する働き方を対象とする(※3)。
1)特定の企業や組織に雇用される、または業務を請け負う
2)労働により金銭が発生する仕事
3)1カ月未満の契約で行う仕事
図表1 単発・短期ワーク(スポットワーク)の形態
出所:筆者作成
ここまで、市場の広がりや企業の取り組みを見てきた。では、この働き方を選ぶ人はどれほど存在し、どのような背景を持っているのか。次回以降は、「単発・短期ワークに関する就業実態調査」の結果をもとに、その実像を紹介していきたい。
参考文献
矢野経済研究所(2025)「スポットワーク仲介サービス市場に関する調査を実施(2025年)」
https://www.yano.co.jp/press-release/show/press_id/3888
(2025年10月29日アクセス)
日本経済新聞(2023)「看護師も『スキマバイト』頼み 未就業70万人を戦力化」2023年12月15日
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC134W50T11C23A2000000/
(2025年10月29日アクセス)
日本経済新聞(2024)「美容師スポットワーク仲介のプロダクツ、大阪・愛知に拡大」2024年9月13日
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC0283C0S4A900C2000000/
(2025年10月29日アクセス)
日本経済新聞(2025a)「すかいらーく、単発バイト募集を自前で 人手確保に先手」2025年2月5日
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC056SL0V00C25A2000000/
(2025年10月29日アクセス)
日本経済新聞(2025b)「イオンモール、『スキマバイト』の実証実験 施設内の専門店向けに」2025年10月10日
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC108WB0Q5A011C2000000/
(2025年10月29日アクセス)
内閣府(2025)「令和7年度年次経済財政報告―内外のリスクを乗り越え、賃上げを起点とした成⻑型経済の実現へ―」pp.282–290
https://www5.cao.go.jp/j-j/wp/wp-je25/pdf/p020003.pdf
(2025年10月29日アクセス)
酒井亮・横山修平(2024)財務省「スポットワーク市場の動向と展望について」『ファイナンス』2024年12月号pp.70–71
https://www.mof.go.jp/public_relations/finance/denshi/202412/index.html
(2025年10月29日アクセス)
(※1)矢野経済研究所(2025)によると、スポットワーク仲介サービス市場規模は2022年度が648億円、2023年度が830億円、2024年度が1,100億円へと拡大し、年間成長率は28~32.5%で推移している。
(※2)登録者数は延べ人数であり、5つのアプリすべてに登録している場合は5人としてカウントされる。また、登録のみで実際には利用していない人も一定数含まれている可能性がある。
(※3)次に該当する仕事については単発・短期ワーク(スポットワーク)対象外とした。
・オークション・フリーマーケットでの販売
・SNSの動画配信
・デイトレーダー、個人による株式・債券などの取引
・投資(株・不動産などによる運用益)、賃料収入を得る活動
・地域のコミュニティ活動(消防団・町内会・PTAなど)
岩出 朋子
大学卒業後、20代にアルバイト、派遣社員、契約社員、正社員の4つの雇用形態を経験。2004 年リクルートHR マーケティング東海(現リクルート)アルバイト入社、2005年社員登用。新卒・中途からパート・アルバイト領域までの採用支援に従事。「アルバイト経験をキャリアにする」を志に2024年4月より現職。2014年グロービス経営大学大学院経営研究科修了。2019年法政大学大学院キャリアデザイン学研究科修了。
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