単発・短期ワーク(スポットワーク)で働く人のトラブルは?

2026年02月25日

2025年10月、仕事や家事のスキマ時間に働く「スポットワーク」(※1)をめぐり、直前にキャンセルされた仕事の賃金支払いを求めて神奈川県の大学生が提訴するというニュースが報じられた(時事通信, 2025)。手軽な働き方として単発・短期ワーク(スポットワーク)が広がる一方で、この働き方にはどのような問題があるのだろうか。本コラムでは、この働き方を選択する人の契約形態に対する理解度や、実際に直面している困りごと・トラブルの現状について見ていきたい。

どのくらいの人が契約形態を理解しているのか?

単発・短期ワークで働く人は、自身の契約形態をどのように認識しているのだろうか。図表1を見ると、「雇用されて働いた(45.9%)」と「雇用されずに働いた(41.9%)」が拮抗している。ここで注目すべきは、「どちらかわからない」と回答した人が18.8%であり、つまり約5人に1人にのぼることだ。

この結果は、自分が労働基準法などで保護される「労働者(雇用契約)」なのか、それとも個人事業主として働く「業務委託」なのか、その法的立場をあいまいにしたまま就業している人が一定数存在することを示唆している。

図表1 単発・短期ワーク(スポットワーク)での契約形態(就業形態別)(※2)

図表1 単発・短期ワーク(スポットワーク)での契約形態(就業形態別)

※複数回答
※クロスセクションウェイトを用いたウェイトバック集計
出所:「単発・短期ワーク(スポットワーク)の就労実態調査」より筆者作成

困りごとやトラブルに直面した割合は?

実際にどのくらいの人がトラブルを経験しているのかを見てみる。図表2 の「困りごとやトラブルの有無」を見ると、全体では44.6%の人が「あった」と回答している。これを本業の就業形態別に見ると、正規の職員・従業員では56.8%、会社などの役員では60.9%がトラブルにあったと回答しており、パート・アルバイトの39.4%や派遣社員の54.0%と比較しても、その割合は高くなっている。

なぜ、本業が正規の職員・従業員や会社役員でトラブル経験率が高いのか。その背景には、彼らが普段の業務を通じて労働法や企業コンプライアンスに関する知識(リテラシー)を持っているため、提示された条件との相違や不適切な対応に対して「これはおかしい」「ルール違反(トラブル)だ」と気づく感度が高いという可能性も考えられる。知識がある層ほど問題を認識しやすいという側面はあるものの、この結果は、普段安定した職に就いている層であっても、スポットワークという環境下では予期せぬトラブルに直面するリスクがあることを示している。

図表2 単発・短期ワーク(スポットワーク)での困りごとやトラブルの有無(本業の就業形態別)(※3) 図表2 単発・短期ワーク(スポットワーク)での困りごとやトラブルの有無(本業の就業形態別)
※クロスセクションウェイトを用いたウェイトバック集計
出所:「単発・短期ワーク(スポットワーク)の就労実態調査」より筆者作成

具体的にはどのようなトラブルがあるのか?

具体的にどのような問題が起きているのだろうか。図表3を見ると、トラブルの内容は多岐にわたることが分かる。最も多かったのは「マニュアルがない、または業務に関する指示や説明が不十分だった(14.6%)」という、受け入れ体制の不備に関するものだった。次いで、冒頭の訴訟事例にもある「直前に仕事がキャンセルになった、または早上がりになった(13.7%)」が続く。さらに、「職場の従業員から差別的な態度、または冷たい態度をとられた(10.1%)」といった人間関係の問題や、「給与、労働時間、待遇が求人情報と違った(9.2%)」「仕事内容が求人情報と違った(9.2%)」といった募集条件との齟齬も、約1割の人が経験する主要なトラブルとなっている。

図表3 単発・短期ワーク(スポットワーク)での困りごとやトラブル(全体)

図表3 単発・短期ワーク(スポットワーク)での困りごとやトラブル(全体) 
※複数回答
※クロスセクションウェイトを用いたウェイトバック集計
出所:「単発・短期ワーク(スポットワーク)の就労実態調査」より筆者作成

契約形態の違いによりトラブルの差があるのか?

単発・短期ワークの契約形態(雇用契約・業務委託契約)の違いによるトラブルの差を見ていく。図表4によると、「雇用されて働いた人(雇用契約)」のトラブル経験率は49.7%と、「雇用されずに働いた人(業務委託など)」の41.3%を8.4ポイント上回った。法的な保護が手厚い雇用契約の方が、むしろトラブル経験率が高い結果となっている。

トラブル内容(図表5)を見ると、雇用契約では「直前に仕事がキャンセルになった、または早上がりになった(15.7%)」が最多で、業務委託(10.3%)より5ポイント以上高い。続いて「マニュアルがない、または業務に関する指示や説明が不十分だった(14.9%)」「給与、労働時間・待遇が求人情報と違った(12.2%)」「職場の従業員から差別的な態度、または冷たい態度をとられた(12.1%)」「仕事内容が求人情報と違った(10.5%)」と続く。労働契約内容や職場環境に直結する項目が上位5位に並んでいる。

一方で、雇用されずに働いた人では、「マニュアルがない、または業務に関する指示や説明が不十分だった(13.6%)」が最も高い。次には「直前に仕事がキャンセルになった、または早上がりになった(10.3%)」「職場の従業員から差別的な態度、または冷たい態度をとられた(8.0%)」「仕事内容が求人情報と違った(7.1%)」「賃金(残業代を含む)や報酬額の未払いや支払遅延があった(7.0%)」が続いた。

順位の違いはあるものの、契約形態にかかわらず、オリエンテーションや業務説明が十分に提供されていないことや、事前に認識していた労働条件や業務内容との相違が、共通して困りごと・トラブルの原因となっていることが分かる。

図表4 単発・短期ワーク(スポットワーク)での困りごとやトラブルの有無(契約形態別) 
図表4 単発・短期ワーク(スポットワーク)での困りごとやトラブルの有無(契約形態別)
※クロスセクションウェイトを用いたウェイトバック集計
出所:「単発・短期ワーク(スポットワーク)の就労実態調査」より筆者作成

 

図表5 単発・短期ワークのきっかけTOP10 シニア 継続理由との比較

図表5 単発・短期ワーク(スポットワーク)での困りごとやトラブルの有無(契約形態別)

※複数回答
※クロスセクションウェイトを用いたウェイトバック集計
出所:「単発・短期ワーク(スポットワーク)の就労実態調査」より筆者作成

企業側の適切な運用理解も必要

ここまで、この働き方を選択した人の4割以上が何らかのトラブルに直面している実態を見てきた。特に、雇用契約を結び働く単発・短期ワークで直前のキャンセル経験者が15.7%にものぼることには注意が必要だ。

単発・短期ワークの最大の特徴である「必要な時にすぐ働ける手軽さ」は、企業側にとっては「手軽に労働力を調整できる」というメリットにもなる。しかし、その利便性が、安易な直前キャンセルや早上がりにつながっている可能性は否定できない。また、企業側の理解を複雑にしている要因として、プラットフォームを介した業務マッチングが一般的になってきている点が挙げられる。アプリ内で手続きが簡単に完結するため(※4)、企業側において「働き手と直接雇用契約を結んでいる」という当事者意識が希薄になりやすく、労働法規の適用に対する認識を持ちにくくなっていると考えられる。

しかし、当然ながら雇用契約が成立している以上、企業都合で安易に契約を解除することはできない。こうした状況を受け、2025年7月に厚生労働省が公表したリーフレット「いわゆる『スポットワーク』の留意事項等について」でも、労働契約が成立する場合には労働法規が適用されることが明記され、改めて周知を促している。

スポットワークを活用する企業には、こうしたルールを正しく理解し、契約の重みを踏まえた適切な運用が求められる。同時に、業務委託の形式で働く場合についても、契約条件の明確化など、安心して働ける環境整備を進めていくことも重要である。

(※1)時事通信(2025)の記事の中で使われる「スポットワーク」は、短時間・単発の就労を内容とする雇用契約で働くことを指している。
(※2)2024年12月時点での就業形態を用いている。なお、サンプルサイズが小さいもの(その他の形態:n=23、会社などの役員:n=47、仕事を探していた:n=62)は、参考値とする。
(※3)※2に同じ。
(※4)労働契約時の労働条件通知書の交付に関して、スポットワーク仲介事業者がアプリ内で代行することで完結する。

参考文献
時事通信(2025)「『スポットワーク』巡り提訴 直前キャンセルで賃金求め―東京簡裁など」(2025年10月31日)https://www.jiji.com/jc/article?k=2025103100983&g=soc#goog_rewarded
(2026年2月9日アクセス)
厚生労働省(2025)「いわゆる『スポットワーク』の留意事項等について」https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_59321.html
(2026年2月10日アクセス)

岩出 朋子

大学卒業後、20代にアルバイト、派遣社員、契約社員、正社員の4つの雇用形態を経験。2004 年リクルートHR マーケティング東海(現リクルート)アルバイト入社、2005年社員登用。新卒・中途からパート・アルバイト領域までの採用支援に従事。「アルバイト経験をキャリアにする」を志に2024年4月より現職。2014年グロービス経営大学大学院経営研究科修了。2019年法政大学大学院キャリアデザイン学研究科修了。

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