ジョブディスクリプションにより公平な評価システムを実現 定年のない独特の組織づくりは「シニア活躍」にも効果――社会福祉法人 南風会

2026年03月13日

福岡県北九州市で介護事業を展開する社会福祉法人南風会は、理事長の栗田淳二氏が施設長に就任以来、人材の確保・定着に向けさまざまな取り組みを行っているが、その中で最も特徴的かつ効果を上げているのが、「全員契約職員、定年なし」という働き方で、無期契約の常勤・非常勤職員として募集し、本人の希望により有期契約とする制度である。どの職員も不満なく働ける公平な職務評価の仕組みは、介護業界におけるシニア人材活用のヒントになりそうだ。

栗田 淳二氏

社会福祉法人南風会
理事長 栗田 淳二氏

全員が区別なく働く職員。定年制を廃止し、公平な給与体系を構築

――貴法人の事業内容を教えてください。

「ヘルシーハイム」という屋号で、特別養護老人ホームをはじめ、ショートステイ、デイサービス、また居宅介護支援事業所にてケアプランの立案・作成等を行う介護支援サービスを展開しています。デイサービスと居宅介護支援事業所は日中対応ですが、特養とショートステイは24時間365日稼働で、職員数は総勢69名です。職員の雇用形態は正規・非正規などの一般的な枠組みをなくし、全員、同一労働・同一賃金の契約職員にしています。その中で無期・有期・常勤・非常勤の4区分がありますが、率にして98%と、ほとんどが無期雇用の常勤・非常勤職員です(現在69名中1名のみが有期契約職員で1年ごとに更新している)。

ヘルシーハイムの外観

――特徴的な雇用体系ですね。なぜこのような仕組みになったのですか。

もう6~7年前になりますが、定年制を廃止したことが始まりです。それまでは65歳、70歳と対象年齢は上がっていたものの定年再雇用制度を採っていました。しかし、年々、新たな人手の確保も難しくなりましたし、事務処理も煩雑なのでシンプルに定年制自体をなくしたほうがよいだろうと考えました。また、その数年前から正規職員と非正規職員の賃金格差や賞与の有無などを巡り、いろいろな問題が起きていました。定年後の再雇用も非正規になりますので、いずれ定年後の処遇にもこの問題が波及するだろうと予測し、定年制廃止に踏み切ったという背景もあります。併せて、どの職員にとっても公平で納得感のある報酬体系に切り替えました。

――どのように変えられたのか経緯も含めて詳しく教えてください。

介護スタッフと利用者がコミュニケーションをとっている様子

きっかけは2015年の介護保険制度の改定です。介護報酬全体の減額により当法人では賞与を停止せざるを得なくなった一方で、介護職員処遇改善加算は拡充されたため、介護職員とそれ以外の職員の賃金差が広がり、特に加算手続きを行う事務局員の不平不満が高まりました。事務量は爆発的に増えたのに自分たちには何もありませんからね。一度均す必要があると考え、賞与の停止を機に同一賃金・同一労働、かつ年収ベースの給与体系の構築に取りかかりました。

報酬は年齢と職務評価の二本立てで決まる形にして、職務評価の部分ではジョブディスクリプション(職務記述書)を活用しました。職種別に当法人仕様のジョブディスクリプションを作り、職務のタスクごとに点数を付けて職務割合を算出します。平均するとどの職種も100項目くらいのタスクがあり、1項目あたり10点とすると合計1000点です。その中で細部を詰め、たとえば介護職で「腰が悪いので入浴介助は一切できません」というのであれば、マイナス10点。職務割合は99%となり、単純に時給換算で1時間1000円とすると、その職員については990円でスタートします。

基本給は年齢の属性が7割、職務評価すなわち能力給が3割くらいです。初任給が20万円とすると、14万円が年齢給、6万円が能力給という立て付けです。そこから人事評価により、翌年に3号俸上げる、4号俸上げるといったルールを給与規定で定めています。ただし年齢区分は今、35歳が上限で、評価が低ければ能力給は若手と変わりません。若いほど給料が上がりやすく、35歳以上は成果重視のジョブ型に切り替わるイメージです。

また当法人では定期昇給がなく、予算内で人事評価により昇給していきますが、その昇給率も職務割合に応じて100%なら3%、95%なら1%と、傾斜をつけています。これらの情報はグループウェアを通じて全職員に共有しています。

――客観的に点数化し、かつその情報をオープンにすることで職員が納得するんですね。

頑張っていない職員は1人もいませんが、どうあがいても予算を超える金額は出せませんので、せめて情報はオープンにしておかないと。ただ人事評価上は、やはり「努力して成果を出す」という点がポイントになりますので、そこは文書ではなく、直属の上司との個人面談を通して「今ここまでできていますね」「次はこうします」と丁寧に確認、フォローしています。面談時間は15分程度ですが、2カ月に1回、年間で6回実施していますので、全職員約70人では年間420回になります。かなり手間がかかりますが、理解してもらうためには必要な対応です。

――キャリアパスはどのような仕組みになっていますか。

具体的にはかなり細かくルール化していますが、職務評価に応じて獲得したポイントを累計するような仕組みになっていて、たとえば入職年度に80ポイント獲得し、それが3年続いたら240ポイントとします。仮にですが200ポイントを超えると最初の昇格候補者としてキャリアパスのゾーンに入るというイメージです。その次のポジションには500ポイント以上獲得すると昇格の権利が得られるとか。入社から退社までずっとポイントを獲得しながらステップアップしていきます。

早期退職者を除く離職率は1割以下。面接を経て大半が入職を希望

――人材の確保・定着に関して、これまで伺った取り組みの成果を教えてください。

私は介護保険がスタートした2000年に施設長になりましたが、さまざまなトラブルやクレームがあったのでその頃から職場改革に取りかかりました。残業の削減や託児所の開設、職員同士が感謝を伝えるトークンカードなどいろいろと試みるなかで、定年制を廃止した辺りから、職員間に「長く働くことができる」という安心感が生まれてきたと感じています。離職率は当法人の場合、1年未満の早期離職者も算定対象にしていますので決して低いとは言えませんが、1年以上続いている職員で均すと7%から8%くらいです。看護師や理学療法士などのコメディカル系は比較的出入りがありますが、介護職はほとんど辞めませんね。

「新·表彰制度」と「トークンカード」の導入······年度の最優秀職員賞のノミネートと職員による最終投票の様子

――採用に関してはいかがですか。

介護スタッフが仕事をしている様子

一度にたくさん採ると現場の教育が追いつきませんので、年間計画で一定数を決めていますが、2025年度は6人の採用枠に対して10人の応募があり、しっかり選べていると思います。もちろん求職者も選ぶ立場ですから、面接の際には就業条件や給与体系、研修内容などをわかりやすく整理した文書を提示しています。事前に履歴書を送っていただくと、あらかじめ給与も試算しますし、「土日祝日は固定で休みたい」といった条件があると、年間カレンダーを作って変形労働時間制で常勤になるよう設定するなど、細かく個別対応も行っています。また、ハローワークの求人票でも「アットホームな職場です」といった抽象的な文言を徹底して排除し、一緒に働くスタッフの数から性別や世代まで具体的に記しています。客観情報を開示するせいか、面接を終えるとほぼ全員が「働きたいです」と志望してくれます。

――定年がないと高齢の方の応募も多いのでは。

そうですね、最近は8割から9割が50代、60代の応募です。今、職員の平均年齢は52歳ですが、全体の6~7割を50代が占め、10代から40代は若干名という感じです。60代は12名で率にすると約2割。最高齢は76歳です。現場のほうは若手が欲しいと要望していますが、なかなか応募が来ないことに加え、新卒の職員などは数年単位の教育システムを用意するなどして手厚く育成しないと、早期離職につながりがちなので、私としては躊躇する面もあります。今のところは高齢の職員に頑張っていただくほうが現実的ですし、実際、高齢の方は意欲も高いんですよ。先頃は80歳の看護師さんが面接に来られたので、「あと何年働けますか」と聞くと「10年」と。90歳まで働く気満々の様子に感服しました。

できる範囲で働き続ける仕組み。業務効率化や負担軽減に向けIT化も推進

――高齢の方が多いということで、シニア活用についても教えてください。人によっては能力的にできないことが増えてくるといったケースもありませんか。

確かにそうした面はあります。今も夜勤専従の60代の介護職員から「身体がきつくなってきたので夜勤回数を減らしてほしい」という申し出を受けていますし、こちらからも個人面談の際に「勤務日数を減らしませんか」といった提案をすることもあります。ただ働き続けるのが難しいという方は、ほとんどが自主的に退職されますので、目立ったトラブルは今のところありません。続けるにしても、できないことが増えればタスクの点数評価により職務割合が下がり、収入が減る仕組みが周知されていますので、本人も納得せざるを得ませんし、周囲から不満の声も上がりません。もっともなかには、これは高齢者に限らずですが、職務割合が10%になってもお辞めにならない方もいないわけではありません。できないことは仕方ないから、できる範囲の中できちんと仕事をしていただこうと、教育係を付けたりフォロー体制を整えたりする方向で調整しています。

――そのほか、何か工夫されていることはありますか。

高齢者の負担軽減はもとより、将来的に人材確保が困難になることを視野に入れて、この15年ほどはITシステムを推進しています。これまで車椅子の自動洗浄機や施設内を縦横に稼働する自動掃除ロボット、ナースコールが自動的にインカムに発信されるシステム、オムツ内の排泄を検知して知らせるセンサーなど、さまざまな機器を導入しました。導入にあたってはまず現状の業務の流れを把握し、何に時間がかかるかなどを分析して、費用対効果を鑑みながら必要なシステムを検討します。必ずデモ機を入れ、私がデモンストレーションを行ってから決定するので、職員間でも順調に定着しているようです。

自動掃除ロボット、ナースコールが自動的にインカムに発信されるシステム、オムツ内の排泄を検知して知らせるセンサーの導入

IoT化計画 眠りコネクト・体重計測定ベッド

――理事長はさまざまなことに取り組まれていますね。

今、大きな課題はまさに、「属人化」の問題です。私は個人開業で社会保険労務士もしていますので、公平性を担保するための複雑な給与体系や評価システムを構築することができましたが、職員に理解させるのがまず一苦労ですし、私の代わりに説明できる職員もいない状態です。経験を積み、成果を出すと必然的に役職が付いてくるのですが、介護系の仕事は人事制度などマネジメント系の業務を経験する機会が少ないため、管理職もプレイングマネジャーのような働き方をしています。現場には強いけれどマネジメント業務に関してはとても薄いんです。しかし人事制度にしろシステムの導入にしろ、常に見直し、変化に対応していかなければなりません。今後は管理職の育成にも力を入れていきます。

聞き手:坂本貴志岩出朋子
執筆:稲田真木子

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