24時間の業務分析によって業務補助員を導入 余裕を持った業務体制による高齢者に寄り添った質の高いケアの実践――社会福祉法人クオラ 特別養護老人ホーム マモリエあいら

2026年01月19日

少子高齢社会の進展により、介護の需要は高まり続けている。その一方で、介護事業者の倒産の増加や深刻な人手不足、介護職員の高齢化など、さまざまな課題も抱えている。中でも課題の要諦とされるのが人材の確保。介護労働安定センターの調査によれば、採用率は低下傾向にあり、離職率も減少傾向とはいえ高止まり状態だ。そうした介護業界を取り巻く厳しい環境の中、介護職員の働き方改革や適切な人員配置などの取り組みで、安定的な人材確保を実現させた介護施設がある。特別養護老人ホーム マモリエあいらの取り組みを紹介する。

平野和代氏(左)と杉浦 存氏(右)の写真

社会福祉法人クオラ
特別養護老人ホーム マモリエあいら
施設長 平野 和代氏
法人本部事務局 杉浦 存氏

離職率の大幅な低減を実現した背景、職員の健康・生活に着目した働き方改革

――開設当初、施設運営はどのような状況だったのでしょうか。

杉浦氏 特別養護老人ホーム マモリエあいらは、2009年3月、鹿児島県姶良市で社会福祉法人クオラグールプ初の「ユニット型施設」(※)として開設しました。当初70床からスタートし、その後2度増床して現在は計110床で運営しています。職員数は約90名、介護職員が50数名、看護職員を入れると60名弱、残りが調理員や相談員・介護支援専門員、事務員等の間接部門の職員になります。全室個室で10人の入居者を一つのユニットとして約5名の職員が見ていく体制となっています。ユニットごとにリーダーを配置して管理しており、その職員たちがしっかり定着し、運営できていることが一つの特長です。

開設当初は、初のユニット型施設かつグループの本拠地と距離が離れていたこともあって支援が受けづらく、私や杉浦は深夜まで仕事に追われていました。また、職員全員が「ユニットケア」の経験がないまま短い準備期間で開設を迎えたため、全てが手探り状態で日々の作業に追われていました。結果的に、職員は身体的・精神的に疲弊し、毎月数名が離職するという職員が定着しない状況が続きました。ベテランが辞めて新しく入ってきた人が担当するとなると現場もますます回らなくなり、時間外勤務も多くなってケアも画一的となるなど、非常に厳しい運営状況でした。

ユニット内の様子

――現在は、介護人材は充足している状況でしょうか。

杉浦氏 看護職員は充足していますが、やはり介護職員は完全に足りているというわけではありません。というのも、人材不足の上、職員が家庭の事情等で辞めた際にその穴が埋まらないまま大きく広がっているためです。ただ開設当初、3割を超えていた離職率は現在1割ほどと大幅に低減しています。また最近の傾向としては、就業しても「自分には介護の仕事自体が向いていなかった」とすぐに辞めてしまう人がいる一方、長く働いている職員はこの数年間全く変動がなく、定着している状況です。

――離職率が大幅に低減したその背景を教えてください。

平野氏 職員が定着しない厳しい状況を打破するために、管理体制を刷新して働く環境を改善しなければならない、という危機感から改革に着手しました。その一つが、職員の健康・生活面に着目した働き方の見直しです。たとえばワークライフバランスを実現するために、会議・研修の開催方法の見直しを実施しました。見直し前は、現状の業務スケジュールに合わせ、職員が一人でも多く会議や研修に参加できるようにするため、早出業務が終了する16~18時頃に開催していました。しかし職員からは「帰れない、家のこともなかなかできない」等の声が上がっていたため、勤務時間内で参加できる時間帯へ変更しました。時間を短縮したり、同一内容の研修を複数回実施することで、全職員が勤務時間中に漏れなく研修を受けることが可能となりました。

研修の様子

1日24時間の業務分析を基にした職員配置の見直し。高齢者の活き活きとした暮らしの実現のためのケア

――介護の現場ではどのように改革の取り組みを進めたのでしょうか。

平野氏 働き方の見直しと同時並行に取り組んだのが、1日24時間の業務分析を基にした職員配置の見直しです。職員が時間内で業務を完了できるよう、また余裕を持って職務に取り組める状態を目指しました。そのために、各業務を24時間軸でスケジュール表に落とし込み、私も現場に入って、「この業務はどれぐらい時間がかかるのか、無駄はないのか、ほかの業務と抱き合わせができないか」等々、全ての業務を細かく分析していきました。

当時は洗濯やリネン交換、物品補充等、多岐にわたる業務を全て介護職員が担っていました。しかし、業務を細分化し、分担することで介護職員の精神的な余裕ができ、利用者支援に密に関わることができるのではないかと考え、新たに業務補助員を配置しました。上記の洗濯などの間接的業務を担う職員で、障がい者雇用の職員や短時間勤務の方などに担ってもらっています。たとえば入浴介助の後にはお風呂掃除の仕事がありますが、介護職員がやっていたときには早く利用者のところに行かないといけないという葛藤を抱え、心理的な余裕もなくしていた状況がありました。今は業務補助員が片付けや清掃をしてくれるので業務に大きな余裕が生まれています。

介護職員の多くは、元々利用者との豊かなふれあいを求めてこの仕事をされている方がほとんどです。業務補助員導入の結果、介護職員に業務上のゆとりができ、離職は大きく減少し、より専門性を活かした、質の高いケアの実践へとつなげることもできています。

介護職員と利用者がお茶を飲むシーン

――業務分析、切り分けにより介護職が本来の業務に集中できるようにしたということですね。

平野氏 高齢者への支援を考えたとき、高齢者の方に活き活きと暮らしてほしいという想いが施設運営の根底にあります。それを実現するためには、職員に心地よく働いてもらうことが欠かせません。その一点にフォーカスすると、そこから全ての課題が見えてきて、業務分析、職員の配置見直しに着手していったという経緯です。介護職員の多くは心根が優しく高齢者に寄り添う人が多いため、任せきりにすると自分を犠牲にしてまで頑張ってしまいます。このため、やるべきこととそうでないところをきちんと整理し、無理のないよう、24時間のあり方を検討していきました。

従来は利用者を全体で捉えて同じ時間帯に一斉に食事、入浴といった介助にあたっていましたが、一人ひとりの24時間の暮らしぶりを「24時間シート」に整理して、必要なときに必要なぶんだけ介助を行うようにした結果、業務にゆとり時間が多く生まれて利用者と関わる時間に充てることができました。

見直した業務パターンを浸透させるために、まずリーダーや主任以上の核となる職員を集め、1カ月しっかり実践方法を検証した上で、一般職員に伝えていくようにしました。私たちが熱量を持って根気強く伝えたことで、中核を担う職員にも理解してもらえたのだと思います。

――介護職員が「余裕」や「時間」を持つことが重要なんですね。

平野氏 支援することだけに追われていると、いずれ介護職員のリタイアにつながります。排泄や入浴の介助といった業務だけでは、どうしてもやりがいを感じにくくなります。少し余裕を持ちながら、しっかり高齢者に向き合ってその声に耳を傾けられることが大事です。開設当初、「利用者様と関わる時間がない介護はしたくない」と言って辞めていった職員が少なくありませんでしたが、解決のためにはそうした余裕を生み出す必要がありました。こうした認識が業務の見直しや業務補助員の配置につながり、介護職員が利用者の方に直接関わる仕事に集中できるようになりました。

食事のシーン

看護職員の意識改革も行いました。開設当時、看護職員は生活支援の経験がなく、医療の視点で利用者に接するので介護職員と温度差が生まれていました。これを解消するため、看護職員を各ユニット担当として固定し、協力し合って生活支援にも主体的に取り組んでもらうようにしました。業務補助員も同様にユニット担当として振り分け、役割分担することで、多職種との連携が深まり、責任感ややりがい意識の向上にもつながっています。何よりも業務補助員が間接業務を担当してくれているので、介護職員に欠員が生じた状況でも現場は回りす。ほかの施設では、介護職員が欠員になると、フロアを閉めなければいけないとか、新規の受け入れを停止しなければいけないとか、非常に厳しい状況に陥る話を聞きます。しかし、うちはそういった事態に陥ったことはありません。

――「ユニット型施設」であることが一連の改革に寄与した部分もありますか。

平野氏 一般社団法人全国個室ユニット型施設推進協議会という組織があり、そこが「ユニットリーダー研修実地研修施設」というものを認定しています。認定されることでユニットケアをしっかり実践している施設、ユニットケアを伝えるモデル施設というお墨付きがもらえるわけです。認定を受けるためには、厚生労働省が定める99項目からなる審査基準をクリアしなければなりませんが、それに向けた取り組みがユニットケアの質向上につながると思いました。そこで認定取得に挑戦することをリーダーに働きかけたところ、彼らは意欲的に取り組み、その結果、認定を受けることができました。認定が決まったときのリーダーの喜びは今でも忘れられないですね。このことが職員の誇りやモチベーション向上につながり、一連の改革を加速させたと思います。

研修の様子

職員を見守り、理解する大切さ。
人を大切にするとはどういうことなのかを追求し続ける

――介護職員のキャリアパスにも意識的に取り組まれていますか。

平野氏 グループの中で10年ぐらいかけて専門職ごとにラダー(キャリアの等級)を設定して、等級ごとに目標が明確化され、何ができているか・できていないか自己評価できる形になっています。ユニットリーダーについては固定の役職ではなく、上期または下期で役割として任命する形をとっていて、実際にチャレンジしてみて荷が重いようであれば一般職に戻って自信がついたら再度チャレンジしてもらうといった柔軟な運用を行っています。役職や役割によって等級も変わり、当然賃金もアップしていきます。

――介護職は他業界よりも報酬面で低いことが指摘されています。職員の待遇等についてお聞かせください。

杉浦氏 地域の中で給与水準がずば抜けて高いわけではないですが、処遇改善加算などのおかげもあって職員は給与には比較的満足していると思います。給与が低いから辞めるというケースを最近ほとんど聞かなくなりました。改革の結果、残業時間は月1~2時間とほぼゼロになり、定刻になったら帰るのがすっかり定着しましたので、何より働きやすい環境が職員の方々の支持を得ているのだと思います。

平野氏 うちの施設で特徴的なのは、職員同士のトラブルがほとんどないことだと思います。私自身が施設内をずっとラウンドして、職員の細かな情報を把握するようにしていることで、職員には、自分をきちんと見てわかってくれているという安心感が生まれているのかもしれません。

職場への不安、不満の解消という点ではクオラグループで心理カウンセリングを導入していることも特徴です。月に1回施設に来ていただいており、上長に直接言いにくいことも別な窓口を設定して話をしてもらうほうが健康にもよいだろうということで続けています。これは副次的な効果としてリーダーが部下とのコミュニケーションの方法を学べるキャリアカウンセリング的な要素もあり、非常に効果的でした。これからも、職員が「ここだったらずっと働いてもいいな」と思える環境づくりを進めていきます。

人を大事にするとはどういうことなのか、それを追求し続けることが管理者に求められることだと思います。人を大切にすることの意味を常に意識して、考え続けていきたいと思っています。

聞き手:坂本貴志岩出朋子
執筆:小泉隆生

(※)ユニット型施設……介護施設に入居された方の尊厳を守り、自立を尊重するとの考えから生まれた介護のコンセプト「ユニットケア」を実践する施設。通常、10名程度を「ユニット」とする少人数のグループに分けて介護サービスを提供する。

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