転職直後の4つギャップによる心理的ショック ―中小企業へ転職した15名のインタビューから見えてきたもの―

2025年12月03日

本コラムは、インタビューにご協力いただいた方の個人情報に十分配慮し、個人が特定されない形で内容をまとめています。内容の共有についてはご本人の同意を得た上で、仮名や抽象化など必要な編集を行っています。

日本の労働市場は深刻な人材不足に直面している。特に中小企業の新卒採用は厳しく、2026年大卒の求人倍率は従業員300人未満の企業で8.98倍と高い水準だ(リクルートワークス研究所,2025)。こうしたなか、中小企業にとって中途採用の強化は喫緊の課題となっている。

一般的に安定し、待遇もよいとされる大企業ではあるが、その環境を自ら手放し、中小企業へとキャリアをシフトする人がいる。リクルートワークス研究所「全国就業実態パネル調査(JPSED)2025」を分析すると、2022~2024年の3年間に離職を経験し、正社員から正社員で移行した人のうち前職が大企業だった人は、32.6%だった。そのうち、4割以上が従業員300人未満の企業へ転職していた(※)。特に40代ではその割合が6割弱に達する。そうした転職をした人は中小企業に入社後、どのようなプロセスを経て組織適応しているのか。

大企業から中小企業へ転職した15名へのインタビューを通じて、転職後に経験する組織適応のプロセスを明らかにした。インタビューの分析により、以下の3つの主要なプロセスがわかった(図表1)。

【プロセス1】ギャップによる心理的ショック
転職直後、期待と現実のギャップから心理的ショックを受けて不安になる。

【プロセス2】危機を成長の機会へ転換
新しい職場での危機を成長のきっかけに変える。

【プロセス3】役割の発見と成果の創出
自分に合った役割を見つけて、仕事で成果を出す。

図表1 組織適応のプロセス
組織適応のプロセス出所:筆者作成

大企業から中小企業への転職は、キャリアの新しい可能性を開く一方で、転職者にとって想定外のギャップやショックを伴うことが多い。本コラムでは、インタビュー調査を基に、転職直後に起こる【プロセス1】ギャップによる心理的ショックについて、4つの視点(仕事内容、組織風土、人間関係、仕事プロセス)から整理する(図表2)。

図表2 ギャップによる心理的ショックのプロセス
ギャップによる心理的ショックのプロセス出所:筆者作成

1. 想定・能力を超える仕事内容に直面する

中小企業では、業務の境界が曖昧で、担当領域が広がる傾向がある。大企業のように業務プロセスが細分化されておらず、一人で複数の業務を横断的に担う場面が多い。多くの転職者からは「わかっていたが、ここまで自分でやらなければならないのか」という声が聞かれた。

営業職として転職した大内雅也さん(仮名)はこう語る。

(前職の大手では明確だった)物流や営業外の調整も営業の自分が対応することになり、そういうことかとリアルにわかりました。自分の専門外でわからないことも、今の会社では自分がやらなければ、仕事が進まないんです。

また、中小企業では仕事内容が「経理関連」「一般事務」などと大まかに示されることはあっても、明確な担当領域が定められていない場合が多い。目黒陽平さん(仮名)は「部門の立ち上げと基盤整備」を任されたが、当初から業務が決まっていたわけではなく、自ら業務範囲を広げ、多岐にわたる役割を担うことになった。自ら動かないと仕事内容が決まらない場合もある。

このように、中小企業への転職では、業務範囲の広がりや担当領域の不明確さなど、想定を超えて未経験の仕事内容に直面することが多い。入社前にある程度の覚悟はしていても、実際の業務内容は予想以上であり、その現実が転職者にとって大きなギャップやそれに伴うショックを引き起こす場合がある。

2. 組織風土に馴染めるのか

中小企業の組織風土は、転職者の適応に大きな影響を与える。インタビューで指摘されたのは、大きく「革新的・協調的な組織」と「保守的・トップダウン組織」という2つのタイプであった。

まず、「革新的・協調的な組織」では、入社直後から意見を自由に言え、新しいことに挑戦しやすい環境が特徴である。城田順子さん(仮名)は次のように語っている。

会社は風通しがよく、仕事が非常にやりやすいと感じていました。社長と直接話せる距離感であり、フランクな雰囲気でした。前の会社のような閉鎖的な人たちはいないと感じており、みんな和気あいあいとした雰囲気でした。

また、上下関係が緩やかで社員同士の距離が近く、協力的な関係性が築かれていることも特徴だ。高崎渉さん(仮名)はこう述べる。

社長が競わせるのではなく、協力体制ができている環境だと感じた。前の会社が体育会系だったので、人とギスギスするのが嫌な自分には合っていた。

一方、「保守的・トップダウン組織」では、長期勤続者が多く、外部からの新しい価値観や人材に対して抵抗感がある場合がある。目黒さんはこう語る。

勤続年数が10年以上の人が多く、新しく入った自分が、自主的に動くことで組織から浮いているように感じた。

遠藤容子さん(仮名)も、組織特有のマイルールに驚いたという。

組織特有のマイルールがあり、たとえば、ごみ箱の設置時間や空調調節の時間があることに驚いた。長い間、そのルールは変わらず行われていた。(担当者の領域に入り)自分ができることを率先して行うことは、ダメという暗黙の了解があった。

さらに、家族経営の組織では、経営層の意向が強く、トップダウンで方針が短期間で変更される傾向も見られる。飯田麻衣さん(仮名)は次のように語っている。

「上が言ったことが全て」という風土で、上の気分で急に方針が変わり、従業員が振り回される部分があり、戸惑いました。

インタビューで示された2つの組織風土、すなわち「協調的で革新志向の特徴」と「保守的でトップダウンの特徴」は、それぞれが転職者に異なる適応課題をもたらしていた。前者は安心感や前向きな変化を促す一方で、後者は戸惑いやギャップを生む要因となるケースが多く見られた。ただし、保守的でトップダウンの特徴も、明確な指示や安定した環境を好む転職者にとっては、むしろ安心感や予測可能性をもたらす場合があることにも留意が必要である。

3.すでに形成されている人間関係に飛び込む

中小企業では、少人数で長く働いている社員が多く、既存の人間関係が強固であることが多い。転職者はこの関係性にどう適応するかが重要な課題となる。インタビューからは、人間関係が築きやすい「安定した土台」がある場合と、既存の人間関係への入りにくさを感じる「孤立・不安定な土台」となっている場合の2つの状況が確認された。

「安定した土台」がある場合、職場の人間関係は円滑で、業務や適応がスムーズに進み、心理的な安心感が得られる。木村咲さん(仮名)はこう語る。

前職では困ったことがあっても気軽には聞けない雰囲気があり、大丈夫か不安でしたが、(現職は)チームで運営されており、とてもフランクに接してくれてチームの中に入れました。入社直後、まずご飯会をやってくださったりとか、いろんな方とお昼に一緒に行く機会を作ってくださって、社内の人を紹介してくれて、社内の輪が広がっていきました。

一方、「孤立・不安定な土台」に直面する場合、心理的負担が大きくなる。前出の目黒さんは「中途で役職付きで入ったため、『何者?』というプレッシャーを強く感じた」と語り、星浩之さん(仮名)はこう述べる。

(入社したタイミングが)繁忙期で皆忙しいため、入社直後は正直放置された。経営者がかなり厳しく管理するため、社員同士はそのストレスに対してみんなで結束しており、その中にも入れず、孤独でつらかった。

繁忙期や人手不足状態の組織に入社した場合、本来であればとれるはずのコミュニケーションに時間を割くことができず、入社後に放置されるケースは、転職者にとって苦しい局面となることもある。

中小企業の人間関係は少人数で構成されていることが特徴で、そこに「安定した土台」がある場合には、同僚や上司からの支援により安心感や協力体制が得られる。一方で「孤立・不安定な土台」に直面すると心理的負担が大きくなる。既存の人的ネットワークにどう適応できるかが、転職者にとって重要な課題である。

4. 制度の未整備と経営資源の制約

中小企業への転職では、仕事内容や組織文化、人間関係に加え、仕事の進め方や制度面の違いに戸惑うケースが多い。インタビューからは、「制度の未整備」と「経営資源の制約」という2つの要因が、転職者に混乱をもたらす主要な理由として示された。

大企業では、業務マニュアルや教育研修体制が整備されていることが一般的である。しかし、中小企業では制度やルールが未整備な場合が多く、転職者は入社後に自ら仕組みを構築しなければならない状況に直面する。高崎さんは現場のオペレーションについて次のように語っている。

新人教育のマニュアルなどがなく、完全に自分で一から構築していかなければならないと感じた。フランチャイズ本部のマニュアルを見ればわかるようなことを未経験者が聞いてくることに苦戦した。

こうした制度の未整備は、業務の非合理性やアナログな環境への驚きとして心理的負担を与える。引き継ぎや教育体制が整っていない場合、転職者は業務を進めながら同時に仕組みづくりを担うことになり、想定以上の負荷を感じる。本来取り組みたい業務に到達する前に、日常業務のルールや制度の整備が必要になるのである。

さらに、中小企業では規模縮小に伴い、ヒト・モノ・カネ・情報といった 「経営資源の制約」 が顕在化しやすい。藤井智也さん(仮名)は次のように語っている。

外部企業との取引で取引額が小さいがゆえになめられ、こちらのリクエスト(発注数や納期、金額交渉など)がなかなか聞いてもらえない。技術チームの人材のレベル感が期待値より低く、技術の基礎レベルを引き上げる教育も必要だと感じた。でも自分一人ではどうにもできず、人材不足を強く感じた。

このように、取引関係や外部環境における影響は大きく、転職者は前職との違いを痛感する。計画の初期段階からリソース不足を前提に業務を進めなければならないため、効率性やスピード感を求められる一方で、実務的な困難が増す。

仕事を進める上での過去の職場とのギャップは、「制度の未整備」や「資源の制約」といった構造的要因によって生じる。これらは中小企業への転職に際して生じやすい課題であり、適応には柔軟性と主体性が不可欠である。さらに、課題に直面した際、組織風土や人間関係が解決に向けて支援するかどうかが、組織適応の成否に大きく影響する。

ギャップによる心理的ショックを乗り越えるために

インタビューで示されたのは、大企業から中小企業への転職では、仕事内容、組織風土、人間関係、仕事プロセスの4つの側面で何らかのギャップが生じて、心理的なショックにつながり不安が生じるという転職初期の問題であった。これらは心理的・実務的な負荷を与える一方、乗り越えることで新たな成長の機会ともなる。組織適応の成否は、個人の柔軟性と主体性、そして組織風土や人間関係による支援の有無に大きく左右される。

次のコラムでは、ギャップによる心理的ショックを受けて、危機を成長の機会に転換していくプロセスに焦点をあて、分析結果を紹介する。

(※)2022~2024年の3年間に離職を経験し、正社員から正社員で移行した人の前職の企業規模は、中堅・中小企業が63.5%、大企業が32.6%、公務が3.8%であった。前職が大企業だった32.6%の人のうち中堅・中小企業へ移行した人の割合を確認すると、従業員30~99人が12.6%、従業員100~299人が15.7%と、合わせて28.3%となり、大企業の転職者の4人に1人が中堅・中小企業に転職している。さらに、従業員29人以下の零細企業の12.3%まで含めると40.6%が大企業から300人未満の規模の小さな会社へ転職している。

参考文献
リクルートワークス研究所(2025)「なぜ、大企業を辞めて中小企業を選ぶのか——大企業から中小企業への転職の実態を探る」https://www.works-i.com/research/project/small-and-medium-enterprise/jobchange/detail001.html(2025年10月6日アクセス)

岩出 朋子

大学卒業後、20代にアルバイト、派遣社員、契約社員、正社員の4つの雇用形態を経験。2004 年リクルートHR マーケティング東海(現リクルート)アルバイト入社、2005年社員登用。新卒・中途からパート・アルバイト領域までの採用支援に従事。「アルバイト経験をキャリアにする」を志に2024年4月より現職。2014年グロービス経営大学大学院経営研究科修了。2019年法政大学大学院キャリアデザイン学研究科修了。

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