第3回:マネジャーのケア行動はどこまで浸透しているか——その内容と実践の現状
マネジャーのケア行動を定義する
前回、マネジャーを取り巻く環境が急速に変化し、求められる役割が質的に拡大している状況を確認した。人手不足や多様化への対応に加え、マネジメント業務そのものの高度化に伴って、マネジャーのケア行動は日常のマネジメントにおいて欠かせない取り組みとして位置づけられるようになっている。
では、マネジャーのケア行動とは具体的に何を指すのか。本調査では、ケア行動を「部下の個性や状況を踏まえた細やかな配慮や支援」と定義した。これは、画一的な管理や指示ではなく、部下一人ひとりの特性や置かれた状況を理解し、それに応じた関わりを行うことを意味する。従来の部下マネジメントにおいても、個別対応の重要性は認識されてきた。しかし、ここでいうケア行動は、業務上の指導や目標管理にとどまらず、部下の価値観や心身の状態、生活背景にまで視野を広げた、より深い次元での関わりを指している。
調査では、このケア行動を4つの領域・8つの具体的行動として規定した(図表3-1)。
【図表3-1 マネジャーのケア行動の分類と構成要素】
第一の領域は「個性の理解」である。「強みや持ち味を活かせるように関わっている」「価値観や考え方を理解しようとしている」という行動が含まれる。部下が持つ固有の強みや価値観を把握し、それを活かそうとする姿勢である。
第二の領域は「状況の理解」である。「心身の健康状態に注意を払っている」「生活の状況や事情を踏まえて関わっている」という行動が該当する。部下の業務パフォーマンスだけでなく、その背景にある心身の状態や生活状況にも目を配り、必要に応じて配慮する姿勢を指す。
第三の領域は「承認と感謝」である。「日ごろの努力や貢献に感謝している」「モチベーションの変化に気づいて声をかけている」が含まれる。結果だけでなくプロセスや努力を認め、感謝を伝えることで、部下の内発的動機づけを高める関わりである。
第四の領域は「受容と共感」である。「意見や気持ちを否定せずに受け止めている」「悩みや困難な状況に寄り添い手助けしている」という行動を指す。部下の意見や感情を頭ごなしに否定せず、まず受け止める姿勢であり、心理的安全性の土台となる。
8割を超えるマネジャーが重要と認識
このケア行動の重要性に対するマネジャーの認識は極めて高い。図表3-2に示すとおり、実に81.3%ものマネジャーが「重要である」と回答し、「重要ではない」はわずか1.9%にすぎなかった。
【図表3-2 マネジャーのケア行動の重要性に関する認識】
8割を超えるマネジャーがケア行動を重要と認識している背景には、前回見た環境変化がある。人手不足の中で優秀な人材を引き留め、その能力を最大限発揮してもらうためには、画一的な管理では不十分である。働き方やキャリア志向が多様化する中で、部下一人ひとりの状況に応じた関わりが求められる。
調査の自由記述からも、こうした認識がうかがえる。「細やかなマネジメントは今や必要不可欠」(情報通信業 50代男性)、「業務を円滑に行えるよう細やかな配慮は大切だと思う」(金融業・保険業 50代女性)、「メンバーの流動化が進む傾向があり、細やかな配慮がなければ、チーム力を継続的に高いレベルで維持継続することができない」(製造業 50代男性)。マネジャーのケア行動は今やマネジメントにおける「あればよいもの」ではなく、「なくてはならないもの」として位置づけられているのである。
約7割が日常的にケア行動を実践
では、実際にマネジャーのケア行動はどの程度実践されているのだろうか。図表3-3に示すとおり、ケア行動を構成する8つの項目すべてにおいて「あてはまる」が6割を超えており、日々のマネジメントの中でケア行動が広く実践されていることが明らかになった。
【図表3-3 マネジャーのケア行動(8項目)の実施度】
最も実施度が高かったのは「心身の健康状態に注意を払っている」(77.5%)である。メンタルヘルス対策の浸透や、コロナ禍を経た健康意識の高まりを背景に、部下の健康状態への配慮が広く定着していることがうかがえる。続いて「日ごろの努力や貢献に感謝している」(75.3%)、「価値観や考え方を理解しようとしている」(72.8%)が高い。感謝を伝えること、相手を理解しようとすることといった、対人関係における基本的な姿勢が実践されている。
一方、「生活の状況や事情を踏まえて関わっている」は62.3%と相対的に低く、プライベートな領域への踏み込みには一定の難しさがうかがえる。仕事と私生活の境界をどこに引くか、どこまで立ち入ってよいかという判断は、マネジャーにとって悩ましい問題であり続けている。
育成・評価の場面で増えるケア行動の必要性
マネジャーのケア行動が求められる場面も、過去5年間で増加している。図表3-4に示すとおり、特に「スキルや知識の習得を促す場面」(46.7%)、「行動や成果を評価する場面」(46.5%)、「業務上の改善点をフィードバックする場面」(45.9%)など、育成・評価の場面で増加が顕著である。
【図表3-4 場面別:ケア行動が求められる機会の増減内訳(過去5年間)】
これらの場面は、かつてはマネジャーから部下への一方向的なコミュニケーションで済まされることも少なくなかった。しかし現在では、部下の個性や状況を踏まえた「対話」として捉えられるようになっている。一人ひとりの強みや課題に応じた育成計画、納得感のある評価とフィードバック、本人の志向を踏まえた目標設定——こうした双方向のコミュニケーションが求められているのである。
一方、「配置や異動を検討する場面」(29.8%)や「時短やリモートなど勤務形態を調整する場面」(33.6%)では増加幅が小さかった。これらの場面では、人事制度や労務規程に基づいた対応が既に行われており、マネジャー個人によるケア行動の影響は他の場面と比べると限定的であると考えられる。
ケア行動は成果につながるのか
ここまで見てきたように、マネジャーのケア行動は日常のマネジメントに広く浸透している。8割を超えるマネジャーがその重要性を認識し、約7割が日々実践している。
では、マネジャーのケア行動は成果につながるのだろうか。ケア行動には時間とエネルギーが必要であり、その分、自分自身の業務に使えるリソースは減るはずである。「部下に寄り添っている暇があったら、自分の仕事を進めた方が業績は上がるのではないか」——現場のマネジャーの中には、こうした疑問を持つ人もいるかもしれない。
次回は、マネジャーのケア行動が個人と組織の成果にどのような影響をもたらすのか、調査データに基づいて検証する。
筒井 健太郎
2009年早稲田大学法学部卒業後、東京海上日動火災保険株式会社入社。商品企画・開発、法人営業に従事。その後、三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社、そして、株式会社セルムにて組織人事コンサルタントを務めた後、2022年4月より現職。
2019年8月名古屋商科大学大学院マネジメント研究科修了。修士(経営学)。現在、立教大学大学院経営学研究科博士後期課程在籍。
Executive MBA、中小企業診断士、1級キャリアコンサルティング技能士、PCC(Professional Certified Coach)
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