第4回:マネジャーのケア行動は成果につながるのか——個人・組織への効果とバーンアウトとの関係

2026年03月23日

マネジャー個人の業績や仕事の充実感につながる

前回、81.3%のマネジャーがケア行動を重要と認識し、約7割が日常的に実践している実態を確認した。では、マネジャーのケア行動は実際に成果につながるのだろうか。本調査では、ケア行動と各種成果指標との関連を重回帰分析によって検証した(図表4-1)。

【図表4-1 ケア行動と個人・組織成果との関連(重回帰分析)】

図表4-1 ケア行動と個人・組織成果との関連(重回帰分析)
まず、マネジャーのケア行動は「個人業績」と中程度以上の正の関連を示した(標準化回帰係数β=0.36)。ここでの「個人業績」とは、マネジャー自身が「期待された目標や成果を達成できている」と感じる度合いを指す。ケア行動を積極的に行うマネジャーほど、業績目標の達成度が高い傾向が見られた。

この結果は一見意外に思えるかもしれない。ケア行動には時間とエネルギーが必要であり、それを部下に割くことで、自分自身の業務に使えるリソースは減るはずだからである。しかし実際には、ケア行動が部下のパフォーマンス向上を通じて、間接的にマネジャー自身の業績にも貢献していると考えられる。

マネジャーのケア行動は「仕事の充実感」とも正の関連を示した(β=0.31)。部下と深く関わり、その成長や成功を支援することは、マネジャー自身にとっても意味のある体験となる。「自身のメンタルがいつも、前向きになっている」(製造業・50代男性)という声が示すように、「自分の行動が他者に良い影響を与えている」という実感は、仕事の充実感を高める。

組織業績・部下の仕事の充実感にもつながることが示唆された

組織レベルの成果では、さらに強い関連が確認された。マネジャーのケア行動は「組織業績」と強い正の関連を示した(β=0.42)。注目すべきは、個人業績との関連(β=0.36)よりも、組織業績との関連の方が強い点である。マネジャーのケア行動は、マネジャー個人のパフォーマンスを高めるだけでなく、チームや組織全体の成果向上により大きく寄与している可能性がある。「メンバー一人ひとりへのケアが、成果につながり、成果が積み重なって、大きな結果になると思います」(情報通信業・40代男性)という声は、この好循環を現場の実感として捉えたものである。「組織としてのパフォーマンスの向上につながると思います」(製造業・40代女性)という認識も、この結果と整合している。

「部下の仕事の充実感」とも強い関連があった(β=0.40)。自分の個性や状況を理解してもらい、努力を認められ、困難な状況で支えてもらえるという経験は、部下のエンゲージメントを高める。「細かい配慮が部下のモチベーションにすごく影響すると感じている」(サービス業・50代男性)という声は、この分析結果を現場の実感から裏づけている。

オープンな風土との関連は最も強い可能性がある

そして最も強い関連を示したのが「オープンな風土」である(β=0.47)。これは「互いに信頼し、困ったときには助け合っている」「意見や考えを安心して言える雰囲気がある」という心理的安全性の高い職場環境を示す指標である。

「話しやすい雰囲気づくりにつながり、結果として隠しごと等がなくなり、報連相が当たり前のように行われる環境になる」(製造業・40代男性)という声は、マネジャーのケア行動が心理的安全性を高め、それが情報共有の活性化につながるという連鎖反応を示唆している。また「配慮されると理解してもらうことで、他の部下にも安心感を与えられる」(製造業・50代男性)という声もあった。マネジャーが一人の部下に配慮する姿を見て、他の部下も「自分も配慮してもらえる」という安心感を持つ。マネジャーのケア行動は直接の対象者だけでなく、周囲のメンバーにも効果を及ぼす可能性がある。

単純ではないバーンアウトとの関係

ここまで、マネジャーのケア行動の効果を確認してきた。しかし、調査はケア行動の別の側面も明らかにしている。

マネジャーのケア行動は、情緒的消耗——強い疲れで気持ちの余裕がなくなる状態——と正の関連を示した(β=0.17)。関連の大きさは限定的だが、ケア行動を積極的に行うマネジャーほど情緒的消耗を感じやすい傾向がある。「部下への配慮や対応に時間をとられ、自分の仕事がこなせていない」(製造業・50代男性)という声は、ケア行動に伴う負担の一端を示している。

一方、バーンアウトのもう一つの側面である脱人格化——人や仕事への関心が薄れる状態——とは負の関連が見られた(β=−0.13)。こちらも関連は限定的だが、ケア行動が高いほど脱人格化は起こりにくい傾向が示されている。

この結果は興味深いねじれを示している。ケア行動は疲れにはつながるが、仕事や人への関心を失わせるわけではない。むしろ、部下に関心を持ち続けるからこそ疲れる、という構造が見える。ケア行動による疲れは、部下へ積極的な関わりを続けている証しなのかもしれない。

情緒的消耗の差を生む要因は何か

ただし、すべてのマネジャーが同じように消耗するわけではない。ケア行動を行っていても情緒的消耗はしにくいマネジャーがいる一方で、強く消耗するマネジャーもいる。この違いは何によって生じるのか。

次回は、ケア行動と情緒的消耗の関係を左右する要因——感情労働——について検討する。ケア行動に伴う感情の扱い方が、マネジャー自身にどのような影響を与えるのかを分析していく。

筒井 健太郎

2009年早稲田大学法学部卒業後、東京海上日動火災保険株式会社入社。商品企画・開発、法人営業に従事。その後、三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社、そして、株式会社セルムにて組織人事コンサルタントを務めた後、2022年4月より現職。
2019年8月名古屋商科大学大学院マネジメント研究科修了。修士(経営学)。現在、立教大学大学院経営学研究科博士後期課程在籍。
Executive MBA、中小企業診断士、1級キャリアコンサルティング技能士、PCC(Professional Certified Coach)

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