第6回:マネジャーを誰が支えるのか——組織における支援の実態と効果

2026年03月26日

マネジャーは組織において支援されているか

前回、マネジャーのケア行動に伴う感情労働の扱い方が、情緒的消耗と仕事の充実感を左右することを確認した。では、マネジャーがケア行動を持続的に行うために、組織はどのような支援を提供しているのか。そして、その支援は実際に効果を上げているのか。

本調査では、マネジャーへの支援を4つの領域に分類し、その実態と影響を検証した(図表6-1)。

【図表6-1 マネジャーへの支援の構成要素】
図表6-1 マネジャーへの支援の構成要素

「対人的支援」は職場における人間関係の支援であり、困ったときに相談できる相手がいるか、上司や経営層と建設的に話し合えるか、マネジャー同士で支え合えているかを測定している。

「職務支援」は仕事の進め方に関する支援であり、柔軟な勤務制度の利用しやすさ、役割や責任範囲の明確さ、判断に必要な裁量が含まれる。

「環境調整支援」は業務環境の調整に関する支援であり、業務量やリソースの調整、上位層や人事による現場理解、成果の正当な評価を指す。

「能力開発支援」はマネジャーの成長を支援する取り組みであり、学習機会の提供、キャリア相談、メンタルヘルス支援が該当する。

領域によって異なるマネジャーの支援状況

図表6-2に示すとおり、4領域の支援には明確な濃淡がある。

「職務支援」は6割程度が整備されている。「判断や対応に必要な裁量が与えられている」は61.1%、「有給休暇や柔軟な勤務制度を気兼ねなく利用できる」は59.1%であった。4領域の中では最も整備が進んでいる。「対人的支援」は約半数のマネジャーが「あてはまる」と回答した。「マネジャー同士で経験や悩みを共有し支え合っている」は50.4%、「上司や経営層と建設的に話し合える関係がある」は49.3%であった。

「能力開発支援」は項目により差があった。「メンタルヘルスを支援する仕組みや窓口がある」は61.4%と高いが、「マネジメントスキルを高める学習機会がある」は39.1%、「キャリアや専門性について相談・支援を受けられる」は33.2%と低かった。メンタルヘルス対策は一定程度普及しているものの、マネジャーのスキルアップやキャリア支援は手薄な状況がうかがえる。

そして最も低かったのが「環境調整支援」である。「業務量やリソースが適切に調整されている」は34.3%、「上位層や人事が現場を理解して必要な支援を行っている」は31.7%、「チームや個人の成果が正当に評価されている」は34.8%にとどまった。いずれも3割台であり、環境調整に関する支援が十分に届いていないマネジャーが多数を占めている。

【図表6-2 支援領域別:マネジャーへの支援の実態】
図表6-2 支援領域別:マネジャーへの支援の実態

この結果は、マネジャー支援において「ソフト面」と「ハード面」でアンバランスな状態にあることを示している。相談相手の確保(対人的支援)や裁量の付与(職務支援)といった「ソフト面」の支援はある程度普及している。こうした支援は、既存の人間関係や組織文化の中で実現しやすく、追加のコストも比較的小さい。一方、業務量やリソースの調整(環境調整支援)といった「ハード面」の支援は手薄である。こうした支援には、人員の増強、業務の見直し、研修予算の確保といった具体的な資源投入が必要であり、組織としての意思決定と投資が求められる。

ケア行動の促進と情緒的消耗の抑制につながる支援

では、これらの支援は実際にどのような効果を持つのか。図表6-3に示すとおり、マネジャーのケア行動との関連を見ると、「対人的支援」(β=0.25)、「職務支援」(β=0.27)および「能力開発支援」(β=0.14)が正の関連を示した。マネジャーが安心して相談でき、上位層とも建設的に話せる関係があるほど、また役割が明確で裁量があるほど、部下へのケア行動が促進される。自分自身が支えられている実感があってこそ、他者を支える余裕が生まれるのだろう。

【図表6-3 支援(4領域)がケア行動に与える影響(重回帰分析)】
図表6-3 支援(4領域)がケア行動に与える影響(重回帰分析)一方、図表6-4に示すとおり、情緒的消耗への影響を見ると、異なるパターンが浮かび上がった。「職務支援」(β=−0.18)と「環境調整支援」(β=−0.12)が情緒的消耗を抑える方向に関連した。役割が明確で裁量があるほど、また業務量やリソースの調整が効いているほど、抱え込みや迷いが減り、疲れが蓄積しにくい。

【図表6-4 バーンアウトの実態】
図表6-4 支援(4領域)が情緒的消耗に与える影響(重回帰分析)

注目すべきは、「対人的支援」が情緒的消耗と有意な関連を示さなかった点である。相談先があること自体は重要だが、話を聞いてもらい共感を得ても、業務の負荷そのものが軽減されなければ情緒的消耗は続く。マネジャーの疲弊を防ぐには、精神的なサポートだけでなく、業務量やリソースを調整する「環境調整支援」が不可欠なのである。

しかし、その環境調整支援の実施率は3割台と4領域で最も低い。効果が確認されているにもかかわらず、最も届いていない支援領域である。「マネジャー個人としての配慮を求められる一方で組織としては対応していない、しようとはしていないことに矛盾を感じる」(運輸業・40代男性)という声は、この構造的な偏りに対する現場の切実な訴えである。

組織における支援の実態は、マネジャーのケア行動を支えるうえでの課題を浮き彫りにしている。次回は最終回として、これまでの調査結果を踏まえた実践への視点と、今後向き合うべき課題を示したい。

筒井 健太郎

2009年早稲田大学法学部卒業後、東京海上日動火災保険株式会社入社。商品企画・開発、法人営業に従事。その後、三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社、そして、株式会社セルムにて組織人事コンサルタントを務めた後、2022年4月より現職。
2019年8月名古屋商科大学大学院マネジメント研究科修了。修士(経営学)。現在、立教大学大学院経営学研究科博士後期課程在籍。
Executive MBA、中小企業診断士、1級キャリアコンサルティング技能士、PCC(Professional Certified Coach)

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