第7回:マネジャーのケア行動を持続的なものにするために——実践への視点と残された課題
調査が示す実践と課題
これまでの6回で、マネジャーのケア行動をめぐる状況が明らかになってきた。ケア行動は日常のマネジメントに広く浸透し(第3回)、個人と組織の成果と正の関連を持つ(第4回)。しかし、ケア行動は感情労働を伴い、特に表層的な感情対処はバーンアウトのリスクを高める(第5回)。そして、マネジャーを支える組織の支援には偏りがあり、効果が確認されている環境調整支援が最も届いていない(第6回)。
最終回となる今回は、これらの知見を踏まえた実践への視点を示すとともに、マネジャーにケア行動を求め続けること自体に内在する課題にも目を向けたい。
持続的なケア行動に向けた3つの視点
第一に、ケア行動の実態把握と重要性の組織的認識である。本調査から、マネジャーのケア行動が個人・組織の成果と正の関連を持つことが示された。各企業においては、自社のマネジャーがどの程度ケア行動を実践しているか、またそれが業績指標とどう関連しているかを把握することが第一歩となる。そのうえで、ケア行動を評価項目や育成目標に反映させることを検討することで、組織全体でその重要性を認識する土台となる。
第二に、マネジャーの感情労働への配慮と環境整備である。本心を抑えて表面的に対応する「表層的な感情対処」は情緒的消耗を招く一方、相手を理解し納得して関わる「深層的な感情対処」は情緒的消耗との関連が限定的であることが明らかになった。各企業では、マネジャーの感情労働の実態を把握したうえで、深層的な感情対処を実践しやすい環境を整えることが重要である。具体的には、部下との十分な対話時間の確保や、相互理解を深める機会の提供などが考えられる。
第三に、組織における支援の充実によるケア行動の促進である。本調査から、組織からの支援が充実しているほど、マネジャーのケア行動と正の関連があることが確認された。特に、対人的支援・職務支援との関連が強い。マネジャーが安心して相談できる相手や場の確保、上司や経営層との建設的な対話機会の整備を進めることが求められる。加えて、役割や責任範囲の明確化、判断に必要な裁量の付与など、マネジャーがケア行動に注力できる職務環境を設計することが重要である。
残された課題——マネジャーのケア行動をめぐる3つの問い
以上の3つの視点は、現時点の調査結果に基づく実践的な提案である。しかし、これらの視点を実行に移そうとするとき、避けて通れない問いがある。そもそも、マネジャーにケア行動を求め続けることは、持続的に成り立つことなのか。本調査を通じて、この問いに関わる3つの課題が浮かび上がってきた。
第一の課題は、権限に基づく管理とケアの間にある構造的矛盾である。マネジャーは、評価や指示、人事的判断といった権限に基づく行動を担う立場にある。これらは上司と部下という上下関係——いわばタテの構造——のもとで行われる。同時に、部下に寄り添い、共感し、支えるケア行動も期待される。こちらは対等な信頼関係——ヨコの構造——を前提とする。しかし、この2つの構造は本質的に異なる論理で動いている。権限を持つ立場からの関わりと、対等な立場での関わりを、一人のマネジャーが同時に求められるところに構造的な矛盾がある。この矛盾のもとで、どこまでケア行動が成り立つのか。両方の役割を無理なく両立できる組織の条件は何か。これらを明らかにすることが、今後の重要な問いとなる。
第二の課題は、深層的な感情対処の限界とそのひずみである。本調査では、心から理解しようとする関わり方(深層的な感情対処)がマネジャーの消耗を抑えることが示された。しかし、この関わり方にも限界がある。第一の課題で示した構造的矛盾が、ここにも影を落としている。たとえば、部下の悩みに寄り添い心から理解しようとする場面(ヨコの関わり)と、同じ部下に低い評価を伝えなければならない場面(タテの関わり)では、求められる感情の状態が本質的に異なる。この2つの関わりを同じマネジャーが日常的に行き来することは、大きな心理的エネルギーを要する。こうした関わり方がどこまで続けられるのか、その限界を超えたときにマネジャーにどのようなひずみが生じるのかを見極めることが求められる。
第三の課題は、ケアをマネジャー一人に背負わせないことである。マネジャーは人事権や業務配分の権限を持つため、ケア行動の担い手として適任である面がある。しかし、第一・第二の課題が示すように、タテの構造とヨコの構造という本質的に異なる関わりを一人のマネジャーが担い続けることには限界がある。ケア行動のうち「マネジャーだからこそできるもの」と「同僚同士の支え合いや、専門職・組織の仕組みに任せられるもの」を見極め、ケアの責任を組織全体でどう分かち合うかを考えることが、今後の重要なテーマである。
マネジャーの「カウンセラーのような仕事」のゆくえ
本調査では、マネジャーの「カウンセラーのような仕事」を、ケア行動という切り口から探求してきた。確かに、マネジャーの仕事はそう形容できるものになりつつあるのかもしれない。実際、社会的にも、部下からの現実的な要請としても、マネジャーにこうした役割が求められている。
しかし、本調査を通じて改めて直面したのは、マネジャーにカウンセラーの役割まで期待することの難しさである。タテの構造とヨコの構造の矛盾、深層的な感情対処の限界、一人に集中する責任——これらの課題は、ケア行動を個人の努力で持続させることの危うさを突きつけている。
とはいえ、組織におけるケアの責任は高まるばかりである。マネジャーのケア行動が組織の成果と正の関連を持つ以上、その持続性を個人の努力に委ねるわけにはいかない。ケアの責任をマネジャー一人に閉じず、組織としてどう担っていくのか。現状はマネジャーがケアの責任を担っているという認識を出発点に、この問いを深めていきたい。
筒井 健太郎
2009年早稲田大学法学部卒業後、東京海上日動火災保険株式会社入社。商品企画・開発、法人営業に従事。その後、三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社、そして、株式会社セルムにて組織人事コンサルタントを務めた後、2022年4月より現職。
2019年8月名古屋商科大学大学院マネジメント研究科修了。修士(経営学)。現在、立教大学大学院経営学研究科博士後期課程在籍。
Executive MBA、中小企業診断士、1級キャリアコンサルティング技能士、PCC(Professional Certified Coach)
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