集まる意味を問いなおす:集まる場の価値は戻ったか——「ハイブリッドワーク成熟度」が分けた二極化

2026年08月05日

コロナ禍は、職場から「集まる場の価値」を痩せさせた。新たな問題を語り合う機会、仕事で直接は接点のない人とつながる機会、感情や本音を感じ取る機会――そうした場が、一斉に細ったのである。あれから5年。同一個人を追いかけた縦断調査は、集まる場の価値が「どこまで戻ったか」を映し出した。全体としては、緩やかに戻った。だが、その回復には、職場によって大きな差があった。差を生んでいたのは、出社の量ではない。対面とオンラインを使いこなす「ハイブリッドワーク成熟度」だった(※1)。

集まる場の機会は、ゆるやかに戻った――ただし、戻らなかったものがある

2021年と2026年で、同じ9つの設問を用いて、「集まる場の機会」がどれだけあるかを尋ねた(「〜機会がある」に、あてはまるかどうか。5件法)。同一個人での5年間の変化を見たのが図表1である。

図表1 「集まる場の機会」の5年間の変化(2021→2026、同一個人、n=1,491)

図表1 「集まる場の機会」の5年間の変化(2021→2026、同一個人、n=1,491)対応のあるt検定。*** p<.001、n.s.=有意な差なし。

平均すれば、集まる場の機会は5年でわずかに戻った(+0.12)。企業文化を理解する機会、仕事について意見をもらう機会、経営メッセージを共有する機会――組織として意図的に設けやすい機会は、そろって有意に回復している。コロナ禍で失われた「集まる場」を、職場は少しずつ取り戻してきた。

だが、図表1の下段を見ると、戻らなかったものが二つある。「仕事では直接接点のない人とのつながりが持てる機会」――いわゆる弱い紐帯、部署や立場を超えた偶発的な出会い――は、5年経っても横ばいのままだ。そして「新たな問題解決のための創発的な対話ができる機会」に至っては、わずかに減っている。組織が設計しやすい機会は戻り、偶発的で越境的な機会は取り残された。「戻ったのは意図的に開ける集まり、取り残されたのは偶発性」ということになるだろう。

集まる場の「効果」――実感しているのは、約半数

機会が「ある」ことと、その場が「効いている」ことは、別である。そこで、集まる場が実際に効果を生んでいるかも尋ねた(図表2)。対面・オンラインを問わず、集まる場がメンバーの視点を統合し、信頼を深め、組織の価値を確認する機会になっていると感じるか、である。

図表2 「集まる場の効果」への実感(2026年、「あてはまる・ややあてはまる」の割合、n=1,491)

図表2 「集まる場の効果」への実感(2026年、「あてはまる・ややあてはまる」の割合、n=1,491) 集まる場が効果を生んでいると実感しているのは、およそ半数にとどまる。裏を返せば、半数以上の職場では、集まってはいても、それが視点の統合や信頼の醸成に結びついているとは感じられていない。では、集まる場の機会と効果を、確かに得ている職場と、そうでない職場を分けているものは何か。

分けたのは、「ハイブリッドワーク成熟度」だった

「ハイブリッドワーク成熟度」は、対面とオンラインをどれだけ使い分けられているかを、次の四つの問いへの回答で測ったものである。すなわち――(1)「対面で行う会議と、オンラインで行う会議の使い分けが明確である」、(2)「どのような目的のときに対面で集まるのかが、組織内で共有されている」、(3)「会議や打ち合わせごとに、対面かオンラインかを選ぶ理由が明確になっている」、(4)「情報共有のみが目的の場合は、主にオンライン形式が選ばれている」。これらに「あてはまる」ほど、対面とオンラインを目的に応じて使い分ける成熟度が高い、と考える。この4項目の平均で回答者を、成熟度の高い層と低い層に分け、集まる場の機会と効果を比べた(図表3)。

図表3 ハイブリッドワーク成熟度の高低で見る「集まる場の価値」(5件法平均)

図表3 ハイブリッドワーク成熟度の高低で見る「集まる場の価値」(5件法平均)集まる場の機会は図表1の9項目平均、効果は図表2の3項目平均。

差は歴然だった。ハイブリッド成熟度の高い職場は、集まる場の機会も効果も、低い職場を大きく上回る(差はいずれも5段階で0.7〜0.8ポイント)。さらに見逃せないのは、時間の動きである。2021年の時点でも両者に差(0.52)はあったが、その差は2026年には0.80へと拡大している。成熟度の高い職場は、この5年で集まる場の機会を伸ばした(3.14→3.42)一方、低い職場は、まったく伸びなかった(2.62→2.62)。集まる場の価値は、全体としては緩やかに戻ったが、その回復は、ハイブリッドワーク成熟度の高い職場に集中していたのである。

集まる場の効果を決めるのは、出社頻度ではなくリテラシーである

では、集まる場の効果を高めているのは、本当にハイブリッドワーク成熟度なのか。それとも、単に出社が多い職場ほど効果を感じているだけなのか。これを確かめるため、集まる場の効果を、ハイブリッドワーク成熟度と出社頻度で同時に説明する分析を行った(重回帰分析。図表4)。

図表4 集まる場の効果を高めるもの(重回帰分析、n=1,491)

図表4 集まる場の効果を高めるもの(重回帰分析、n=1,491)集まる場の効果(図表2の3項目平均)を目的変数とする重回帰分析。
決定係数R²=0.13。*** p<.001、** p<.01、n.s.=有意な差なし。

結果は明快だった。集まる場の効果を強く高めていたのは、ハイブリッドワーク成熟度である。一方で、出社頻度との関連は見られなかった(統計的に有意でない)。集まる場の価値を決めているのは、人が物理的に集まる量ではなく、対面とオンラインを目的に応じて使い分ける「使い方の成熟」だった。

示唆――集まる場の価値は、出社回帰ではなく、使い分けの成熟で戻る

コロナ禍で痩せた集まる場の価値は、5年をかけて、全体としては緩やかに戻ってきた。だがそれは、一律に戻ったのではない。取り戻したのは、対面とオンラインの使い分けを成熟させた職場であり、それができなかった職場は、集まる場の機会も効果も、5年前のまま取り残されている。しかも、偶発的で越境的な機会――弱い紐帯や創発的な対話――は、どの職場でもなお戻りきっていない。

この5年、「週に何日出社させるか」を議論してきた企業もあるだろう。だが本稿が示すのは、その問いが集まる場の価値を左右していない、ということである。集まる場の効果を決めていたのは、出社の量ではなく、「どのような目的のときに対面で集まるのか」を組織で共有し、対面とオンラインを使い分ける成熟度だった。集まる場の価値を取り戻す鍵は、オフィスに人を戻すことではない。集まる目的を問い直し、対面とオンラインを使いこなすリテラシーを、組織として成熟させることにある(※2)。次回は、その「戻ってきた集まり」の中身に、さらに目を凝らしたい。戻ったのは、いったいどんな集まりで、戻らなかったのは何だったのか。

(※1)本コラムは、リクルートワークス研究所「集まる意味を問いなおす」プロジェクトによる縦断(パネル)調査に基づく。2021年10月調査の回答者のうち1491人に、2026年3月に再調査を実施した。回答者は5年間にわたり就業を続けた層が中心。ただし、この5年間の回答者の脱落は主に年代(ライフステージや定年・引退)によるものであり、2021年時点の幸福感や、人とのつながりへの志向、テレワークの状況、企業規模による偏りは見られなかった。なお集計は単純集計であり、母集団への復元は行っていない。
(※2)「集まる場の機会」は2021年・2026年で同一の9設問を用いて比較した。「集まる場の効果」およびハイブリッド成熟度の設問は2026年調査のもので、これらと集まる場の価値との関連(図表3・図表4)は2026年時点の測定値どうしの関連であり、因果の方向を確定するものではない。ただし、ハイブリッド成熟度の高い層で2021→2026の機会の伸びが大きかったこと(図表3)は、本稿の解釈を一定程度支持する。

辰巳 哲子

研究領域は、キャリア形成、大人の学び、対話、学校の機能。『分断されたキャリア教育をつなぐ。』『社会リーダーの創造』『社会人の学習意欲を高める』『「創造する」大人の学びモデル』『生き生き働くを科学する』『人が集まる意味を問いなおす』『学びに向かわせない組織の考察』『対話型の学びが生まれる場づくり』を発行(いずれもリクルートワークス研究所HPよりダウンロード可能)

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