集まる意味を問いなおす⓪:問題意識——なぜ、いま、あらためて「集まる意味」なのか
2021年、私たちは「職場における集まる意味の調査」を行い、2022年に報告書『集まる意味を問いなおす』を世に出した。パンデミックのさなか、緊急事態宣言が繰り返され、多くの企業が準備のないままリモートワークへと移行した時期である。調査から5年。世界は出社かリモートかをめぐって揺れ、その後、「自然と」出社に戻った企業も多い。そこへ生成AIという新しい変数が加わった。いま、私たちは同じ問いの前に、もう一度立っている。人は、何のために集まるのか。本稿は、その問いを5年後の追跡調査から問いなおす、本シリーズの出発点である。
5年前、私たちは何を恐れていたか
リモートワークが広がり始めたとき、専門家が最初に警鐘を鳴らしたのは、「つながりの縮小」だった。マイクロソフトが自社の約6万1000人の従業員を対象に、リモートワーク移行の前後を分析した研究は、示唆に富む結果を報告している。完全なリモートワークのもとでは、部署をまたいだ協働の時間がおよそ4分の1減り、組織はより「サイロ化」し、新しいつながりを築くのにも時間がかかるようになった——というのである(※1)。人は、身近なチームとの結びつきはむしろ強めた一方で、部署や立場を超えた偶発的な出会いを失っていた。
日本でも、同じ懸念が数字となって表れていた。冒頭で触れた私たちの2021年調査では、コロナ禍の前と比べて職場コミュニケーションの総量が減ったと答えた人が37.6%に上った。そして、この状態が続いたときに中長期で何が起きるかを問うと、「仕事のノウハウが継承されない」「職場の一体感やチームワークが弱くなる」「離職者ややる気のない人がでてくる」——この三つが、懸念の上位を占めた。集まりが失われることは、単に不便というだけではない。知の継承や、組織としての結束そのものを、静かに蝕むのではないか。私たちはそう危惧した。
では、こうした懸念は、その後の5年で解消されたのだろうか。それとも、かたちを変えて、いまも職場の底に沈んでいるのだろうか。この問いこそが、5年後の追跡調査に私たちを向かわせた最初の動機である。
なぜ「いま」なのか——三つの潮目
5年前の宿題の答え合わせをするというだけなら、いま急ぐ理由はない。だが、私たちが「いま、あらためて」と考えるのは、集まりをめぐる状況が、この1〜2年で大きく動いているからだ。潮目は、3つある。
第1に、「出社への揺り戻し」である。アマゾンは2024年9月、従業員に対し、2025年1月から週5日の出社を求めると通告した。同社のアンディ・ジャシーCEOは「コロナ禍前の働き方に戻る」と明言した(※2)。多くの大企業がこれに続き、フルタイムのオフィス回帰を打ち出した。集まりは、いま再び「制度」として職場に呼び戻されようとしている。
第2に、しかしその揺り戻しの正しさが、揺らいでいることである。出社義務化は、社員の反発と離職を招いている。アマゾンの通告直後の調査では、回答した従業員の9割が不満を示し、7割以上が転職を考えると答えた(※3)。より広い調査でも、出社を義務づけられた幹部の3分の1が離職を検討し、とりわけ女性や熟練した人材の流出が目立つという指摘がある(※4)。そもそも一律の出社に、生産性を高める根拠があるのかも疑わしい。スタンフォード大学のニコラス・ブルームらが1600人規模で行った実験では、ハイブリッドワークは生産性にも昇進にも悪影響を与えず、離職率をむしろ3分の1下げた(※5)。日本の私たちの調査でも、たとえば6歳以下の子どもを持つ母親は、リモートワークによって自身のパフォーマンスが「上がった」と答えている。この結果を見る限り、人を一律にオフィスへ戻すことが、本当に最適解なのか。その前提は、もはや自明ではない。
そして第3に、最も新しく、そしておそらく最も本質的な潮目が、生成AIである。ここまで挙げた2つ——出社への揺り戻しと、その根拠の揺らぎ——は、いわばコロナ禍の後始末をめぐる、少し前から始まっていた議論だ。だが生成AIは、集まりの前提そのものを、いまつくり替えようとしている。
生成AIは、個人の生産性を大きく押し上げる一方で、これまで人と人のあいだで行われてきた協働のかたちを、静かに置き換えつつある。ある研究では、AIによるコーディング支援を導入した開発者が、個人の作業を増やす一方で、同僚との協働を大きく減らしたことが報告されている。生成AIは、その設計からして、対話や擦り合わせよりも、個人の効率化に最適化されているのだ。その結果、メンタリングや、同僚からの学び、ベストプラクティスの共有といった「集団での育ち合い」が減少していくことが懸念されている(※6)。仕事はいま、静かに「個業化」へと向かっている。
この変化は、集まる意味を根本から揺さぶる。これまで、人が集まって働く理由の多くは、一人では手に負えないことを、分担し、補い合うことにあった。自分にない知識を持つ人に尋ね、視点の異なる誰かと突き合わせ、経験のある先輩のやり方を横目で見て学ぶ——集まりとは、個人の能力の足りない部分を、他者で埋めるための仕組みでもあった。ところが生成AIは、その「埋めてくれる他者」の役割を、部分的に肩代わりし始めている。分からないことはAIに尋ね、たたき台はAIとつくり、調べ物も要約もAIに任せられる。一人で完結できる範囲が広がるほどに、「わざわざ集まる」ことの理由は、これまでになく問われることになる。
だからこそ、いま考えたい。一人でできることが増えていくこの時代に、それでも人が集まる意味があるとすれば、それは何なのか。個人が、そしてAIを携えた個人が、どれだけ力を増しても、なお人と人が集まってはじめて生まれるものが、もしあるとすれば——それは、いったい何だろうか。知恵の受け渡しか、信頼か、迷いを分かち合える安心か、あるいは一人では思いつけなかった問いそのものか。この問いは、5年前は、ここまで切実ではなかった。いま、あらためて「集まる意味」を問う理由の核心は、まさにここにある。
問いは「どこで働くか」ではなく、「何のために集まるか」である
ここで、一つの視点を提起したい。出社かリモートか、週に何日オフィスに来るべきか——世の議論の多くは、集まりの「場所」と「量」に集中している。だが、2022年に私たちがまとめた報告書『集まる意味を問いなおす』でも記したように、本当に問うべきは、そこではないのではないか。人を同じ場所に、より多く集めれば、失われたものは戻るのか。知は継承され、一体感は取り戻され、孤独は癒えるのか。私たちの5年後の追跡調査が示すのは、そのどれもが「出社の量」では決まらない、という事実である。集まりの価値を分けているのは、場所でも頻度でもなく、集まりに込められた「意味」と、それを支える「設計」だった。
この問いを考えるうえで、私たちの手元には、一つの手がかりがある。2021年の調査に回答してくれた人々のうち、1491人に、2026年3月、もう一度同じ問いを投げかけることができたからだ。5年という歳月をはさんで、同じ個人のなかで何が変わり、何が変わらなかったのか——「平均の変化」ではなく「一人ひとりの内側で起きた変化」を、たどることができる。それは、一時点を切り取る横断調査にはできない、縦断調査ならではの見方である。
本シリーズが問う、七つのこと
この問題意識のもと、本シリーズは、集まる意味をめぐる七つの問いを、順に追っていく。
本シリーズの構成(全7回)

七つの問いを通じて、繰り返し浮かび上がってくる答えがある。集まる意味は、人を同じ場所に集めること自体には宿らない。それは、集まりを通じて何を分かち合い、何を育てようとするのか——その「意味」と、それを支える「設計」のなかにこそ宿っている。出社のルールをどう決めるかという議論の手前で、そもそも何のために集まるのかを、あらためて一緒に考えてみたい。生成AIが個業化を加速させ、企業が出社回帰へと揺れ戻る、まさにこの時期だからこそ、私たちはもう一度、この問いの前に立ちたい。人は、何のために集まるのか。
(※1)Yang, L. et al. “The effects of remote work on collaboration among information workers” Nature Human Behaviour(2022年). https://www.nature.com/articles/s41562-021-01196-4
(※2)Amazon“Message from CEO Andy Jassy: Streng thening our culture and teams ”(2024年9月).https://www.aboutamazon.com/news/company-news/ceo-andy-jassy-latest-update-on-amazon-return-to-office-manager-team-ratio / CNBC “Amazon tells employees to return to office five days a week”(2024年9月16日)。
(※3) Amazonが週5日出社方針を発表した直後、認証済み社員向けコミュニティBlindが実施した調査(回答者2,585人)では、91%が方針に不満を示し、73%が転職を検討していると回答した。なお、この調査はBlind利用者を対象としたものであり、Amazon社員全体を対象とした無作為抽出調査ではない。 https://arstechnica.com/tech-policy/2024/09/91-percent-of-amazon-employees-are-dissatisfied-with-remote-work-ending-poll/?utm_source=chatgpt.com(20260729閲覧)
(※4) Ding, Y., Ma, M. (Shuai), Xing, B. (Bin), Yang, Y. (Yucheng), & Jin, Z. (2024). Return to Office Mandates, Brain Drain and Gender Difference. SSRN Working Paper. / ピッツバーグ大学などの研究チームが、S&P500構成企業のうち出社義務を導入したハイテク・金融企業54社、300万人超の職歴データを分析したところ、出社義務導入後に離職率が約13〜14%上昇した。離職増加は、女性、管理職層、スキルの高い従業員で特に顕著だった。
(※5)Bloom, N. et al. “Hybrid working from home improves retention without damaging performance” Nature(2024年). https://www.nature.com/articles/s41586-024-07500-2.pdf 中国・Trip.comの1612人を対象とした6か月間のランダム化比較試験 。週2日在宅・週3日出社のハイブリッド勤務は、離職率を約3分の1低下させ、生産性や業績評価への悪影響は確認されなかった 。昇進率にも有意な差はなく、管理職の「ハイブリッド勤務は生産性を下げる」という認識も、実験後には肯定的に変化したことが報告された。
)。
(※6)生成AIが個人の効率化に最適化され、協働・メンタリング・同僚からの学びを縮小させうることについては、MIT Sloan “Generative AI changes how employees spend their time”(2024年)ほか。AI協働から単独作業へ移る際に内発的動機が低下することを示した研究として、 Wu, S., Liu, Y., Ruan, M., Chen, S., & Xie, X.-Y. (2025). Human-generative AI collaboration enhances task performance but undermines human's intrinsic motivation. Scientific Reports, 15, 15105. がある。 https://www.nature.com/articles/s41598-025-98385-2?utm_source=chatgpt.com
(※7)本シリーズは、リクルートワークス研究所「集まる意味を問いなおす」プロジェクトによる縦断(パネル)調査に基づく。2021年10月調査の回答者のうち1491人に、2026年3月に再調査を実施した。回答者は5年間にわたり就業を続けた層が中心。ただし、この5年間の回答者の脱落は主に年代(ライフステージや定年・引退)によるものであり、2021年時点の幸福感や、人とのつながりへの志向、テレワークの状況、企業規模による偏りは見られなかった。なお集計は単純集計であり、母集団への復元加重は行っていない。
辰巳 哲子
研究領域は、キャリア形成、大人の学び、対話、学校の機能。『分断されたキャリア教育をつなぐ。』『社会リーダーの創造』『社会人の学習意欲を高める』『「創造する」大人の学びモデル』『生き生き働くを科学する』『人が集まる意味を問いなおす』『学びに向かわせない組織の考察』『対話型の学びが生まれる場づくり』を発行(いずれもリクルートワークス研究所HPよりダウンロード可能)
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