集まる意味を問いなおす:集まりが「活きる職場」と「活きない職場」——分けたのは、働き方ではなかった
前回、集まりが個人に帰属感や成長実感をもたらすことを見た。そして最後に、一つの問いを残した——それらを豊かに生む職場と、生めない職場は、そもそも何が違うのか。今回は、その「職場の差」そのものを見てみよう。同じ5年でも、集まりづくりが目に見えて活発になった職場と、停滞したままの職場がある。何が、その明暗を分けたのか。結論を先に言えば——それは、出社日数でも、テレワークの有無でも、会社の規模や社員の年齢でもなかった(※1)。
同じ5年で、職場は二つに分かれた
本シリーズで繰り返し登場する「職場の集まりづくり」8項目(雑談風土づくり、対話の場の設定、飲み会や研修の実施など)を思い出してほしい。この8項目の平均が、2021年から2026年にかけて、同一個人のなかでどれだけ上下したかを「集まりの活性度」として計算した。値がプラスなら、その人の職場は集まりづくりに以前より積極的になったこと(活発群)を、マイナスなら停滞・後退したこと(停滞群)を意味する。
結果、回答者はきれいに二分された。集まりづくりが以前より活発になった「活発群」が793人(53%)、横ばい・または以前より減った「停滞群」が698人(47%)である。全体の平均としては集まりは活発になったが、その内実は、ほぼ半々の明暗に分かれていた。では、この二つの群を分けたものは何か。まず、多くの人が真っ先に思い浮かべるであろう「働き方」から検証しよう。
働き方でも、属性でも説明できない
集まりが活発になったかどうかを、職場や個人の基本的な条件でどこまで説明できるかを分析した(図表1)。出社頻度、テレワークの適用、年代、役職、企業規模との関係を調べた。
図表1 集まりの活発化を、働き方・属性で説明できるか(重回帰分析、n=1,491)
集まりの回復度(集まりづくり8項目の2021→2026平均変化)を目的変数とする重回帰分析。
モデルの決定係数R²=0.012。** p<.01。n.s.=統計的に有意な関連は確認されなかった。
これらの条件で説明できるのは、わずか1.2%。出社頻度も、テレワークの適用も、年代も、役職も、集まりの回復とは統計的に意味のある関係はみられなかった。唯一、企業規模だけがわずかに効いていたが(大企業のほうがやや戻りやすい)、その影響は小さい。つまり、「どれだけ出社しているか」「リモートワークをしているか」「若いか年配か」「管理職か一般社員か」——こうした条件では、集まりが活発になったかどうかはほとんど説明できないのである。
なかでも注目したいのは、出社頻度との関係がみられなかったことだ。集まりが活発になった職場も、停滞した職場も、出社の頻度はほとんど変わらない(活発群の平均1.67、停滞群1.61、有意差なし。1が毎日出社、5がほぼ出社なし)。本シリーズでも、雑談の回復が出社では説明できないこと、自己完結化が出社では防げないことを見てきたが、集まりづくり全体の活性もまた、出社という制度では決まっていなかった。この5年を通じて、「働き方」は集まりの質を左右する主役ではなかったのだ。
分けたのは、「組織文化」だった
では、二つの群を分けたものは何か。そこで次に注目したのが、職場の「ありよう」——組織文化である。活発群と停滞群で、職場の文化に関わるいくつかの実感を比べたのが図表2である。
図表2 集まりが「活発になった職場」と「停滞した職場」の違い(2026年、5件法平均、n=1,491)
群間はWelchのt検定。*** p<.001、n.s.=統計的に有意な関連は確認されなかった。
違いは、はっきりしていた。集まりが活発になった職場では、集まりが信頼関係を深め、組織の価値や文化を確認する機会として機能している。部署を超えた協力が自然に生まれ、職場には一体感がある。これらの差は、5件法で0.37〜0.56ポイントと比較的大きい。一方で、ここでも両群のあいだに差が見られなかったのが、出社頻度である。同じように出社していても、集まりが信頼や価値を育てる場になっている職場と、そうでない職場に分かれる。そして、前者のような職場でこそ、集まりは活発になった。
集まりの回復と組織文化には、強い結びつきがみられた。信頼や一体感のある職場は集まる意味を実感しやすく、だからこそ集まりを増やす。集まりが増えれば、さらに信頼や一体感が育つ。逆に、集まりに意味を感じられない職場では、集まりは停滞し、信頼や一体感も育ちにくくなる。活発群と停滞群の差は、この好循環と悪循環の分岐を映していると考えられる(※2)。
示唆——「戻す」べきは、制度ではなく土壌
多くの企業が、集まりを取り戻そうとするとき、まず手をつけるのは「制度」である。出社日数を週に何日と定め、オフィス回帰を号令する。だが、本稿のデータは、その打ち手が集まりの回復とほとんど無関係であることを示している。出社日数を増やしても、集まりが信頼や価値を育てる場になるとはかぎらない。事実、活発になった職場と停滞した職場で、出社の頻度は変わらなかった。
分かれ目は、制度ではなく土壌にあった。ここでいう土壌とは、信頼や一体感があり、部署を超えて協力できる職場のありようである。 集まりが信頼を深め、価値を確認し、部署を超えた協力を生む——そうした文化のある職場でこそ、集まりは意味を持ち、自然と戻っていく。だとすれば、経営が問うべきは「社員を何日出社させるか」ではない。「自分たちの集まりは、信頼や価値を育てているか」「部署を超えた協力が生まれているか」である。集まりの量を制度で管理する発想から、集まりが信頼や一体感を育てる土壌をつくる発想へ——その転換こそが問われている。
もっとも、その土壌は一朝一夕には育たない。信頼や一体感は、日々の小さな相互作用の積み重ねの果てに立ち上がるものだからだ。では、その信頼や一体感の核心には、いったい何があるのか。次回は、集まりが生み出す最も具体的な財産——「共通知識」——に目を向けたい。
(※1)本コラムは、リクルートワークス研究所「集まる意味を問いなおす」プロジェクトによる縦断(パネル)調査に基づく。2021年10月調査の回答者と同一の1491人に、2026年3月に再調査を実施した。回答者は5年間にわたり就業を続けた層が中心。ただし、この5年間の回答者の脱落は主に年代(ライフステージや定年・引退)によるものであり、2021年時点の幸福感や、人とのつながりへの志向、テレワークの状況、企業規模による偏りは見られなかった。なお集計は単純集計であり、母集団への復元加重は行っていない。
(※2)図表2の組織文化に関する指標は、いずれも2026年時点の測定値であり、集まりの回復度との関連(相関)を示すものである。回復が文化を育てたのか、文化が回復を促したのか、その因果の方向を本データのみで確定することはできない。両者は相互に強め合う関係にあると考えられる。
辰巳 哲子
研究領域は、キャリア形成、大人の学び、対話、学校の機能。『分断されたキャリア教育をつなぐ。』『社会リーダーの創造』『社会人の学習意欲を高める』『「創造する」大人の学びモデル』『生き生き働くを科学する』『人が集まる意味を問いなおす』『学びに向かわせない組織の考察』『対話型の学びが生まれる場づくり』を発行(いずれもリクルートワークス研究所HPよりダウンロード可能)
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