家族の事情は、男性の柔軟なキャリア選択を難しくしているのか

根強い「男性が家族を養う」意識
「家族」と「仕事」が相互に制約し合う「二重の足かせ」の中でも、家族の事情によって仕事に関わる選択が制約される状況はどのように生じ、どのように克服可能なのだろうか。ここでは、結婚や出産、介護といった家族の事情が、男性の転職に及ぼす影響を検討する。
単身者、特に男性が配偶者を持たない理由として経済的プレッシャーが挙げられるように、夫婦が共に働く傾向が強まる今日においても、男性に「稼ぐ役割」が期待される構造は強く残り続けている。このような期待や男性自身が感じる責任は、収入や働き方が変わる可能性を伴う転職に慎重になる理由となり、男性が自分の希望に沿って柔軟にキャリアを設計することへの妨げとなっている可能性がある。
この影響を検証するため、正社員男性を対象に、配偶者を持つこと、子どもの数が増えること、介護に従事することが転職希望にどう関わるかを分析し、図表1に示した。ここでは同一人物を追跡したデータを用いて、個人に起きた変化の影響を検証している。
その結果、配偶者を持つこと、子どもが増えることは、転職希望を持つ確率をそれぞれ約0.7倍、約0.8倍へ引き下げていた。一方で、介護に従事することは転職希望を持つ確率を約1.4倍に高めていた。ここでの「介護」は、単に家族に介護が必要になったかどうかでなく、本人が介護に携わることを指している。介護のために働く時間や時間帯に制約が生じることへの職場の理解不足が、転職希望を促すと考えられる。
なお、男性の自発的転職(実際の転職行動)の要因を分析したところ、家族要因による直接の影響は確認されなかった。一方、前年に転職希望がある場合、翌年に実際に転職する確率は約6倍となった(注1)。ここから、家族要因は男性の転職希望への影響を通じ、間接的に転職行動を左右することが示唆される。
図表1 家族に関わる状況変化が、男性の転職希望に及ぼす影響
(注)数値はオッズ比。***は1%水準、**は5%水準、*は10%有意水準。回答した期の全てで30~59歳、正社員、男性の条件に合う個人のデータ(2020~2024年)を用い、同一人物の中での変化に注目する固定効果ロジットモデルを用いて、被説明変数を転職希望の有無、説明変数を配偶者の有無、子ども数、介護(自分が介護を担うこと)の有無とする推定を行った。統制変数として、年齢、労働時間、収入、課長以上の役職有無、人間関係、処理しきれない仕事量、計画的OJT有無、Off-JT機会有無、仕事に関わる自己学習の有無、相談先の種類を投入。
自己啓発や多様な相談先が、柔軟なキャリア選択を促す
では、家族の事情にかかわらず、男性が柔軟にキャリアを選択できるために何が有効なのだろうか。分析によれば、仕事に関わる自己啓発や、相談できる人の数が増えることは、自発的転職の確率を高めていた。スキルを磨き、他者との対話を通じて視野を広げることが、主体的なキャリア選択を後押ししていると考えられる。
労働力不足や仕事の変化が避けられないこれからの時代には、本人の希望や必要に応じてキャリアを選択できることが、個人だけでなく、社会的にも重要だ。そのために、男女が家族内で稼ぐ・ケアする・学ぶ役割を柔軟に交換できる環境を整えること、自己啓発支援やつながりの充実を急ぐことが必要である。
(注1)回答した期の全てで30~59歳、正社員、男性の条件に合う個人のデータ(2015~2024年)を用い、固定効果ロジットモデルを用いて、目的変数を自発的転職の有無、説明変数を、配偶者を持つこと、子どもが増えること、介護の発生、1期前の転職希望有無とする推定を行った。統制変数として、年齢、労働時間、収入、課長以上の役職有無、人間関係、処理しきれない仕事量、計画的OJT有無、Off-JT機会有無、仕事に関わる自己学習の有無、相談先の種類を投入。
この記事は、研究報告書「家族×仕事 10年の追跡調査が示す、変わる個人・変われない構造」の内容をもとに、再構成したものです。詳細は報告書をご覧ください。
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