
選考におけるAI利用やバイアスにどう向き合うか――スクリーニング・アセスメント
2025年2月から3月にかけて、リクルートワークス研究所では、IT、製造、コンサルティング、通信などの米国の大手企業12社を対象に、「Solution Stackオンラインフォーラム調査」を実施した。調査は、採用責任者およびアナリストに自由記述形式で回答していただいた。前回は、採用プロセスにおける「ソーシング(候補者の発掘)」 に関する各社の戦略や実務を明らかにした。
今回は、調査結果の中から、「スクリーニング&アセスメント」に焦点を当て、具体的な手法やテクノロジーの活用事例を紹介する。
【ポイント】
- 近年、AIを搭載したATSやスクリーニングツールが登場し、初期選考を効率化している。AI導入に際しては、バイアス監査の実施や、最終判断を人間が担うことで、公平性を確保することが求められる。
- スキルベースのアセスメントを実施することで、候補者のスキルをより正確に評価できるだけでなく、AIによるバイアスやリスクの軽減にもつながる。
- 候補者によるAIの利用に対する懸念も存在しており、ライブコーディングやペアプログラミング面接など、AIによる介入が困難なアセスメントの導入が、今後の対策として重要となる。
スクリーニングとは何か
スクリーニングとは、選考の初期段階において、企業が求める学歴、経歴、スキルなどの要件を満たす候補者を絞り込み、採用プロセスの効率化を図るための手法である。選考の第一段階に位置づけられるこの工程は、すべての候補者の応募書類を確認する必要があるため、採用担当者にとって多大な時間とリソースを要する作業となる。
従来のスクリーニングは、採用担当者が履歴書や職務経歴書を手動で確認し、キーワードなどの条件に基づいて候補者を検索・絞り込む方法が一般的であった。
現在では、企業の採用情報ページや求人サイトからの応募者情報が、自動的にATS(応募者追跡システム)に取り込まれ、職務経歴、学歴、スキル、応募日などの情報がデータベース化されている。
特に大量採用を行う職種においては、自社の採用情報ページにチャットボットを導入し、書類選考の効率化を図るケースが増加している。企業は、応募者に対して希望勤務地、職種、就業可能日、資格・スキルなどに関する定型的な質問を自動で行い、スクリーニング業務の負荷を軽減している。
AIを活用したスクリーニングツール
近年、多くの企業がチャットボットに加え、AIを搭載したATSやスクリーニングツールを導入し、初期選考の迅速化を図っている。Solution Stackオンラインフォーラム調査では、AIスクリーニングツールを未導入、あるいは検討段階にある企業も多いが、「AIの活用により、人による無意識のバイアスを軽減できる」との認識から、導入に前向きな姿勢を示す企業も見られた。
たとえば、HiredScoreは AIが候補者のスキルや適性を分析し、最適な人材を優先的に表示するツールであり、企業からの注目度が高い。
また、Recruitment Smartが提供するSniper AIは、応募者のスキルを分析し、職務リストに基づいてランク付けを行うことで、面接対象者の絞り込みを可能にする。さらに、スキルを深掘りすることで、要件を満たしてはいないものの、入社後の育成によって戦力化が可能な候補者を特定することもできる。あるコンサルティング会社では、「面接対象者を手動で選定するのではなく、AIを活用して適格な応募者を特定することが、バイアスの低減につながる」として、導入を検討している。
別の企業では、履歴書や職務経歴書に記載された資格、スキル、勤務地などの情報に基づいて、検討優先順位の根拠を提示するためにAIスクリーニングツールを導入予定であり、「AIが候補者を自動で不合格と判定することはしない」という。
一方で、AIを活用したスクリーニングには懸念も存在する。AIの学習データに性別や人種による偏りが含まれている場合、優秀な候補者が不当に除外される「スクリーンアウト」のリスクがある。このようなリスクを回避するため、すべての応募書類に人の目を通すことをルール化している企業もある。
AIを採用で利用する場合、候補者に事前にその利用を説明し、不採用になった際には理由を開示する必要があると有識者は指摘している。また、採用におけるAIの利用に関しては、近年法規制が強化されている。あるコンサルティング会社は、「AIツールを導入する際には、スクリーニングツールに組み込まれたバイアス監査に加え、独自の監査も実施することで、AI活用の透明性を確保したい」との見解を示している。
アセスメントの現在地
■ AI活用とその対策
書類選考では把握しきれない候補者のスキルやポテンシャルを見極めるため、多くの企業がスクリーニング後の選考においてアセスメントを実施している。アセスメントには、技術面接におけるコーディングなどのテクニカルスキルを測定するものから、資質や性格といったソフトスキルを評価するものまで、幅広い形式が存在する。
近年では、アセスメントツールにもAI機能が搭載されるケースが増えており、企業はAIによるバイアスの発生や、候補者による不正利用の可能性に対して懸念を抱いている。
あるIT会社では、「AIファースト」の企業文化を背景に、選考におけるAIの活用を候補者に対してオープンにしており、AIを用いた創造的な問題解決能力も評価基準の1つとしている。一方、同社のエンジニアリング職の採用では、より実用的なスキルが求められるため、ライブコーディングやペアプログラミング面接など、リアルタイムでの問題解決や推論を必要とするインタラクティブなアセスメントを導入している。この形式では、候補者が自身の思考プロセスを説明することが求められ、AIによる介入が困難な設計となっている。
また、候補者がどの程度AIを活用してアセスメントに臨んでいるかを把握するため、アセスメントのスコアや完了までの所要時間の変化をデータ化している企業も存在する。こうした取り組みから、候補者によるAI利用は、今後の採用活動における重要な検討事項になると考えられる。
■ スキルベースのアセスメントがトレンド
候補者のスキルをより正確に評価する手法として、スキルベースのアセスメントが注目を集めている。この手法は、候補者が保有するスキルを可視化できるため、応募ポジションの要件を満たしていない場合でも、隣接するスキルを活かしてほかの役割に配置する可能性を見出すことができる。また、スキルベースのアセスメントを組み込むことで、スクリーニング時のAI活用に伴うバイアスやリスクを軽減できると考える企業もある。
特に専門職や技術職の選考においては、複数のアセスメントを実施する企業が多く、HireVue、HackerRank、Feenyx.ai(旧Filtered.ai)などのツールを用いて、候補者の技術的な習熟度を評価している。
有識者によると、エグゼクティブ向けのスキルベースのアセスメントとしては、Hogan Assessments、Speed of Trust、感情知能を測定するEmotional Intelligence Test(※1)などの人気が高いという。
■ 構造化面接を支援する面接インテリジェンス
面接における公平性と一貫性を確保するため、多くの企業が構造化面接を導入している。構造化面接では、同一職種に応募したすべての候補者に対して、各面接官が同一の質問を行うため、評価のばらつきやバイアスを軽減できる。
近年では、この構造化面接を支援する面接インテリジェンスツールへの関心が高まっている。たとえば、BrightHireやMetaviewといったツールは、AIによる面接の録音・書き起こし機能を備えており、面接官はメモを取る必要がなく、候補者への深掘り質問に集中することができる。さらに、これらのツールは、面接官が事前に設定した質問に沿って面接を進めているかを確認したり、候補者の回答内容を後から確認・共有したりできる機能を備えている。これにより、採用チーム全体での客観的かつ一貫した意思決定が可能となる。
■ プロセスや製品を見直し、アセスメント起因のエンゲージメント低下防止
候補者の離脱を防ぐためには、企業が現在導入しているアセスメントの内容を変更するだけでなく、導入の是非を含めたプロセス全体の見直しが求められる。
ある通信会社では、アセスメントを重視した選考を行っていたが、過去に導入していたスコアリング型アセスメントにおいて、成績の低い候補者のほうが実務において高い成果を上げるケースが見られ、実際の業務との乖離が問題となった。その結果、同社はアセスメントの導入を一時中止し、RFP(提案依頼書)を作成して複数のベンダーに提供したうえで、自社に最適なアセスメントの再選定を行った。現在は、プロフェッショナル職向けに3種類のアセスメントを活用しており、一次選考ではSHLを、最終選考ではWatson GlaserとWonderlicを使用している。これにより、アセスメント内容が業務内容や求められるスキルと整合するようになり、総合的なスコアも向上したという。
HR 会社の有識者によれば、クライアント企業が使いにくいアセスメントを排除した結果、応募率が2桁台で増加した事例がある。また、採用プロセスの各段階において、ゲーミフィケーションやサイコメトリック手法を取り入れたアセスメントを導入することで、候補者のエンゲージメントが向上したケースも報告されている。
ほかの有識者によると、CaliperやChallyといった、候補者の性格や行動傾向などを可視化し、人物像を多面的に把握するプロフィール系アセスメントも企業の関心を集めており、オンボーディング時の早期育成や離脱防止に寄与しているという。
■ スクリーニングとアセスメントに利用されているその他の製品
下記は、企業がスクリーニングおよびアセスメントのプロセスにおいて活用している主な製品である。
- AIスクリーニングツール:Humanly
- アセスメント:Plum、SkillSurvey
- 面接スケジューリング:iCIMS、Yello
AIとバイアスは表裏一体 人とAIの役割を明確にする必要性
Solution Stackオンラインフォーラム調査では、業種や企業文化によって、取り組みや見解に差異はあるものの、いずれの企業も「最終的な判断は人間が行う」という方針を基盤に、AIの導入を検討していることが明らかとなった。月に約6000件の面接を実施する企業では、業務効率化の一環として自動面接ツールの導入を進めているが、「AIによる面接結果を人間が確認し、本面接に進めるかどうかを判断するのは人間である」という姿勢を堅持している。
あるIT会社の採用担当者は、「採用において、スクリーニングは特にバイアスが生じやすい領域である。バイアスを完全に排除することは困難であるが、いかに軽減していくかが重要である」と述べている。AIスクリーニングツールの中には、名前や性別から人種を推測する機能を持つものも存在しており、意図せずバイアスが生じるケースがあるため、ツールの継続的なアップデートが不可欠である。
企業は、人間とAIの役割分担を明確にし、効率性と公平性の最適なバランスを追求しながら、テクノロジーの運用体制を整備していく必要がある。
TEXT=泊 真樹子
製品説明
■ AIスクリーニング・ソーシングツール
HiredScore
社内のATS、CRM、HCMと連携し、過去の応募者や、社員、ギグワーカーなどの人材データから、関連性の高い候補者を抽出するAI採用支援ツールである。スキル、学歴、経験に基づき、候補者の適合度をA~Dのグレードで可視化する。
Sniper AI
Recruitment Smartが提供するAI搭載のソーシング&スクリーニングプラットフォームである。応募要件と候補者のスキルや経験などを比較し、点数で適合度を表示するほか、スキルギャップの分析や育成提案、入社後の活躍予測機能も備えている。
Humanly
チャット、音声、ビデオによる対話を通じて、スクリーニングや日程調整、面接後のフォローを自動化する会話型採用プラットフォームである。AIが応募者に質問を行い、適合度を判定する。
■ ビデオ面接・面接支援ツール
HireVue
ビデオ面接(ライブ・録画)、ゲーム形式やシミュレーションによるアセスメント、チャットボットによる問い合わせ対応・面接調整機能を統合したクラウド型面接プラットフォームである。
BrightHire
AIが、ジョブディスクリプションに基づいて面接質問を作成し、画面上に表示する面接インテリジェンスプラットフォームである。面接の録画、文字起こし、要約の自動生成機能を備えている。
Metaview
採用業務に特化したAI自動記録・要約プラットフォームである。面接や事前打ち合わせにAIアシスタントが同席し、ノートや要約を自動生成する。
■ アセスメントツール
HackerRank
コーディングテストによって開発者のスキルを評価するアセスメントプラットフォームである。AI面接機能や、不正検出機能も搭載されている。
Feenyx.ai
アセスメントとAIアシスタントによるライブ面接支援を統合したプラットフォームである。ハード・ソフトスキルの自動評価、シミュレーションテスト、録画面接、コーディングテストなどを提供する。
SHL
知的能力とパーソナリティの両面から総合的な適性を測定するアセスメントツールである。状況判断シミュレーション、性格適性テスト、認知能力テストを提供する。
Watson Glaser
論理的思考を演繹、論理評価力、推論、解釈、前提の認識の5つの観点から分析するアセスメントテストである。
Wonderlic
認知能力、性格特性、モチベーションを統合的に評価するアセスメントプラットフォームである。職務適合度や成果予測をスコアで表示する。
Plum
性格、問題解決力、社交知性を測定するオンラインアセスメントである 。社風との適合度や潜在的なリーダーシップ力も評価可能である。
Caliper
性格特性とモチベーションを測定するアセスメントである。2特性を分析し、職場での行動傾向や職務適合度を可視化する。
Chally
営業職やカスタマー対応職に特化した、予測アセスメントである。138の特性を測定し、職種別ベンチマークと照合して、成功確率をスコア化する。
Hogan Assessments
通常時の性格特性、ストレス下での対人行動、行動の動機や価値観を診断するパーソナリティテストである。
Speed of Trust
フランクリン・コヴィー社が提供する、リーダーの信頼性を測るアセスメントである。人格と能力の両面から評価する。
SkillSurvey
リファレンスチェックとスキル検証を統合したプラットフォームである。元上司や同僚への行動ベースの質問により、候補者の仕事ぶりを定量的に可視化する。
■ 採用管理・スケジューリングツール
iCIMS
CRM、ATS、採用ブランディングを統合した採用管理プラットフォームである。「iCIMS Hire」では、求人作成から、面接調整、オファー管理までを一元化する。
Yello
ソーシング、採用マーケティング、イベント管理、ビデオ面接、面接日時の調整などを統合する新卒採用プラットフォームである。GoogleやOutlookのカレンダーと連携して、候補者が面接日時を選択できる機能を備えている。
(※1)個人の感情知能(EIまたはEQ)を測定するためのツールやテスト。EIには、「自己認識」「自己制御」「動機」「共感」「社会的スキル」など5つの側面が含まれる。