「探す」から「つながり続ける」ソーシング戦略へ

2025年06月27日

2025年2月から3月にかけて、リクルートワークス研究所では、IT、製造、コンサルティング、通信などの米国大手企業12社を対象に、「Solution Stackオンラインフォーラム調査」を実施した。調査は、採用責任者およびアナリストに、採用プロセスにおける①ソーシング(候補者の発掘)、②スクリーニング&アセスメント、③候補者エンゲージメント(候補者体験の向上)に関する戦略や実務について、自由記述形式で回答していただいた。

今回は調査結果の中から、ソーシングに焦点を当て、具体的な手法やテクノロジーの活用事例を紹介する(紫色文字で記載している製品については、末尾に製品内容の説明を記載している)

 ポイント 
  1. 採用難易度や職種に応じて、リクルーターとソーサーの役割分担や体制設計を最適化。ソーサー職を廃止する動きも見られる。

  2. 単なる転職潜在層の発掘にとどまらず、過去の応募者情報をAIで分析・再活用する「候補者の再発掘」を通じた長期的な関係構築が重視されている。

ソーシングとは何か

米国における「ソーシング(Sourcing)」とは、採用候補者を発掘し、接点を持つまでの一連のプロセスを指す。単なるスカウト活動にとどまらず、転職市場に出ていない潜在層へのメール配信、イベントへの招待、SNSを通じた関係構築、タレントプールの形成など、中長期的なナーチャリング(※1)や人材供給パイプラインの構築までを含む。

このような活動を専門的に担う職種として、「ソーサー(Sourcer)」を設置する企業も多い。ソーサーは、企業の採用活動において人材を発掘する役割を担う専門職であり、情報検索技術や最新のソーシングツールを駆使して、インターネット上の情報から、企業の求める人物像に近い、あるいはそれ以上の人材を見つけ出す。

たとえば、世界中からエンジニアを発掘し、リスト化してリクルーターに引き渡すなど、採用の基幹的なプロセスを担っている。具体的には、LinkedInをはじめとするSNS、技術者向けのコミュニティサイト、論文データベース、ブログなど、ウェブ上にさまざまある情報源から候補者を特定する。ブーリアン検索やChrome拡張機能などを活用した検索スキルに加え、候補者の関心を引くスカウトメールの作成力や共感力も求められる。

一方、リクルーターは、ソーサーが発掘した候補者を選考プロセスへと導き、面接調整、オファー交渉、内定後のフォローなどを担当する。また、ハイアリングマネジャーとの採用要件のすり合わせや選考設計も行う。
企業の規模や採用体制、対象職種によっては、リクルーターがソーシング業務を兼任するケースもあり、役割分担のあり方は企業によって異なる。

日本においても、「ダイレクトソーシング」や「ダイレクトリクルーティング」という言葉は浸透しつつあり、複数のサービス事業者がダイレクトソーシングサービスを提供している。しかし、米国のようにソーサーという専門職が設置されている例はまだ少なく、ソーシングは採用担当者の業務の一部として扱われているのが現状である。

ソーシングの変遷と現在の動向

2017年頃の状況

2017年当時、LinkedInやFacebookなどの公開情報を対象に、ツールを使って候補者情報を収集する「ソーシャルサーチ」の活用が始まりつつあった。しかし、収集後の情報整理やスカウト対応は依然として人手に依存していた。候補者情報はExcelやCRM(採用候補者管理システム)に手動で入力され、メッセージ送信も担当者が一通ずつ作成するなど、作業の多くが人力ベースで行われていた。

2020年前後の進展

2020年頃になると、ウェブスクレイピングツール(※2)の普及により、候補者情報の取得から整理、配信まで一連のプロセスの自動化が可能となった。さらに、ナーチャリング機能を備えたCRM製品が登場し、メッセージの送信タイミングや内容をデータに基づいて最適化し、複数ステップで自動配信する「ドリップキャンペーン」といった手法も一般化した。

2025年のソーシング体制

2025年の米国ソーシング

採用難易度や特性に応じた組織設計

Solution Stackオンラインフォーラム調査では、ソーシング体制そのものの見直しが進んでいることが明らかとなった。たとえば、ある通信会社では、採用部門のスリム化に伴い、ソーサーチームを廃止し、各リクルーターが自ら候補者を発掘する体制へと移行している。一方、コンサルティング会社では、事業領域ごとに専任ソーサーを配置し、海外チームとも連携して週5日・24時間稼働の人材発掘サイクルを構築している。

採用難易度が高い職種においては、引き続き専任のソーサーを配置する企業が多い。別の通信会社では、プロダクト部門に将来の人材需要を見据えたパイプライン構築専門チームを設置し、潜在候補者との対面イベントやカジュアルな交流会を定期的に企画・実施している。また、医療関連企業では、候補者の保有資格や地域条件などを詳細にきめ細かく把握し、臨床・介護系職種に対しては個別対応と的確なマッチングが求められるため、専任のソーサーを再び配置し、候補者の保有資格や地域条件などを詳細に把握している。

一方、カスタマーサービス職や現場スタッフなど、応募要件や選考プロセスがある程度定型化されており、比較的応募が集まりやすい職種に関しては、リクルーターがソーシングも兼任するケースが多い。
このように、ソーシング体制は企業規模に比例するものではなく、「どの候補者層にどれだけ投資すべきか」という各社の戦略に基づいて設計されている。

チャネル選定とアプローチ手法の最適化

チャネルとアプローチの選定においても、職種や候補者層の特性を踏まえた最適化が進んでいる。たとえば、あるメーカーでは、新卒採用においてはSNSの利用やイベントの開催を重視し、中途採用では従業員によるリファラル採用(紹介)を中心に展開している。エグゼクティブ層の採用においては人材紹介会社を利用し、時給職に関しては地域に根ざしたソーシング手法を採用している。

ソーシングを支えるテクノロジー

LinkedInと複数ツールによる総合型ソーシング基盤の構築

世界で10億人以上の登録者を有するビジネスSNSの「LinkedIn」は、依然として主要な人材発掘チャネルである。ただし近年では、LinkedInを起点としながら、複数のツールを組み合わせて候補者との接点を長期的に育成する「統合的ソーシング基盤」の構築が各社で進められている。

たとえば、あるコンサルティング会社では、候補者の発掘にLinkedInを利用し、収集した情報の管理にはAvatureを利用している。同社は、毎月1万人以上の潜在候補者にアプローチしており、全採用ポジションの35%以上をソーシングによって充足している。
また、ある通信会社では、すべての求人情報をLinkedInに掲載し、スカウトメールの送信などを通じて、母集団を形成している。反応のあった候補者情報はBeameryに蓄積され、セグメント別に求人アラートやニュースレターなどのメールキャンペーンを設計している。
またRadancyをCMS(コンテンツ管理システム)として利用し、自社採用ページのコンテンツ制作・管理を行うとともに、求人アラートやニュースレターの配信にも利用している。求人アラートの活用により、自社の採用情報ページには約13万人が訪問し、そのうち約270人の採用につながったという。Radancyの導入理由の1つに、米国における給与開示規制への対応がある。近年、多くの州で求人情報への給与レンジの記載が義務化されており、州ごとに表示形式が異なる。Radancyは各州の要件に基づき、求人ごとに適切な給与情報を自動表示できるため、採用担当者が手作業でページを編集する必要がない。

あるメーカーでは、年間の人員計画と採用ニーズに応じて、LinkedInのInMail送信、SMSジオターゲティング(※3)による求人・イベント情報の配信、プログラマティック求人広告(※4)の利用など、複数のチャネルと手法を組み合わせている。候補者情報の管理にはGemのCRM機能を利用し、イベントへの誘導を目的としたメールキャンペーンを実施している。効果測定には、InMailの開封率、イベント誘導数、採用数などのKPIが用いられている。

AIを活用した候補者の再発掘

候補者の新規発掘に加え、過去に接点を持った候補者を再び活用する「再発掘(rediscovery)」の手法も広がりを見せている。あるIT会社では、ソーシングプラットフォームのFindemを利用し、ATS(応募者追跡システム)のGreenhouseに保存された過去の応募者情報を取り込み、再発掘を行っている。Findemは、取得した過去の応募者の情報をウェブ上の最新データに基づいて更新し、優先度順に候補者リストを自動生成する機能を備えている。さらに、個別最適化されたメールを自動作成し、キャンペーンメールとして配信することも可能である。同社では、このメールの開封率が70%を超えており、反応のよい人材の抽出に成功している。成功の理由は、すぐに採用に至らない候補者とも継続的な関係を築く「Talent Flywheel(タレント・フライホイール)」戦略の推進にある。CRMを基盤とし、候補者ごとの関心度やタイミングに応じた接触を行うことで、信頼関係の構築と関係性の維持を重視している。
また、あるコンサルティング会社でも、過去の応募者の再発掘に取り組む方針を示している。その手段として、Recruitment Smart社 のSniper AIの導入を検討しており、過去の応募者のスキルを解析し、求人ポジションとのマッチングを自動化することを目指している。

ソーシングに利用されているその他の製品

下記は、企業がソーシングにおいて利用しているその他の製品である。

  • CRM:iCIMS
  • ソーシングツール:SeekOuthireEZZoomInfoIndeed
  • 採用マーケティング: FlockityBuilt InFairygodbossDirectEmployers AssociationGrayscale
  • 採用マーケットのデータ分析:Lightcast

ソーシングに求められる視点

自動化だけでは不十分

自動化ツールの普及により、適切なタイミングで、適切なキャンペーンメールを自動配信することが可能となっている。しかし、効果的なソーシングを実現するためにはテクノロジーの活用に加え、リクルーターによる迅速な選考対応やクロージングといったフォローアップとの組み合わせが不可欠であるとの指摘がある。

「誰に送るか」ではなく、「どんな関係を築きたいか」を起点とした戦略設計

ソーシングは、一度限りの接点創出ではなく、長期的な候補者関係のマネジメントである。単なるスカウトメールの配信によって転職潜在層の人材を探すだけではない。CRMやAIツールの進化により、「誰をどう探すか」から「誰とどうつながり続けるか」へと視点が移行していることが調査結果から明らかとなっている。
候補者との関係性を維持し、信頼関係を築くための戦略設計が重要であると有識者は指摘している。ソーシングはもはや発掘にとどまらず、ナーチャリングや採用マーケティングを融合したキャンペーン型の関係構築を含む「長期的なつながりの設計」へと進化している。

TEXT=杉田真樹(リサーチャー)

製品説明

LinkedIn
世界200以上の国と地域に10億人以上のメンバーを有する、ビジネスに特化したSNSである。求人求職サイトとしても活用されており、2025年5月時点で求人情報の掲載件数は1500万件を超えている。


Avature
採用からオンボーディング、パフォーマンス管理、内部異動の管理機能を統合する人材獲得・管理プラットフォームである。「Avature CRM」は、タレントパイプラインの構築と可視化、キャンペーン管理、インターンなど対象者別のランディングページのなどの機能を備える。


Beamery
採用、人材管理、要員計画を支援するタレントインテリジェンスプラットフォームである。「Talent CRM」は、職種や居住地に基づいて特定の候補者層に新着求人を即時自動配信するほか、ニュースレターを定期配信する機能を持つ。


Radancy
採用ブランド構築と採用マーケティングを支援するプラットフォームである。CMSを用いたキャリアサイトの編集・運用が可能であり、求人アラートやニュースレターのセグメント別自動配信、プログラマティック求人広告の機能を備える。


Gem
CRM、ATS、ソーシング、面接スケジューリング、分析を統合したプラットフォームである。LinkedInやメールなど複数の情報源から候補者データを集約・管理する。自動タグ付けを行い、イベント案内などのメールを配信する。開封率やイベント登録数などのKPIの可視化が可能である。


Findem
ソーシング、AIによる応募者のスコアリングとフィルタリング、候補者の再発掘、CRM機能を統合する採用管理プラットフォームである。ATSに保存された過去の応募者や元従業員の情報をウェブ上のデータで更新し、「3Dプロファイル」としてスキル、経験、キャリアパスなどを多角的に可視化する。


Greenhouse
ソーシング、ATS、面接支援、オンボーディング機能を統合した採用管理プラットフォームである。2025年にはAIによる候補者抽出や求人情報の生成機能が追加された。


Sniper AI
AI搭載のソーシング&スクリーニングプラットフォームである。「候補者再発掘」機能では、社内のATSから過去の応募者データを自動的に取り込み、スキル、経験、資格などの情報を解析する。採用要件と候補者のプロフィールを比較し、適合度をスコア表示する。


iCIMS
CRM、ATS、採用ブランディングを統合した採用管理プラットフォームである。「iCIMS Hire」では、求人作成、マッチング、SMSによる応募者対応、面接調整、オファー管理までを一元化する。


SeekOut
社内外の人材活用を支援するAI搭載のタレントインテリジェンスプラットフォームである。8億件以上の公開プロフィールを基に、最適な候補者をマッチング・推薦する。


hireEZ
ソーシング、応募者のレビュー、再発掘、社内人材とのマッチング機能を備える採用管理プラットフォームである。2025年4月には、AIが採用業務を支援する「EZ Agent」を発表した。


ZoomInfo
営業、マーケティング、採用に利用可能なデータサービスである。2023年時点で、企業1億400万社、従業員3億2100万人以上の情報を保有し、詳細な人材検索が可能である。


Indeed
世界60以上の国と地域で展開される求人検索エンジンである。職種や勤務地などでの絞り込み検索に対応し企業は登録レジュメを基に候補者検索を行うことができる。


Flockity
マイクロインフルエンサーのネットワークを活用し、求人情報をターゲット層に拡散する採用マーケティングプラットフォームである。SNSプロフィール欄のリンク集に求人情報を掲載する形式を採用している。


BuiltIn
企業の採用ブランディング強化を支援する採用マーケティングプラットフォームである。企業プロフィール、求人情報、社員インタビュー記事の掲載などが可能である。


Fairygodboss
働く女性向けのキャリア情報・転職支援メディアである。求人情報、企業レビュー、キャリアアドバイスに加え、フォーラム機能やバーチャルイベントも提供している。


DirectEmployers Association
連邦政府と契約する企業のOOFCCP(連邦契約コンプライアンス局)規制対応を支援する、非営利・会員制の採用支援プラットフォームである。州政府の求人サイトや特定ターゲット層(障がい者や退役軍人など)が利用するメディアへの求人情報の自動掲載や記録保持といった機能を備える。


Grayscale
SMSを利用した候補者とのリアルタイムなコミュニケーションを支援するプラットフォームである。問い合わせ対応、応募者への自動応答、面接調整などが可能である。


Lightcast
企業、教育機関、政府向けにリアルタイムの労働市場データと分析ツールを提供するプラットフォームである。2.5億件の求人情報、4億件のキャリアデータ、100以上の公的統計をもとに、スキル需要や地域ごとの人材動向を可視化できる。

(※1)応募者の応募意欲を高めるために行う採用マーケティング手法の1つ。 https://jinjibu.jp/keyword/detl/1110/
(※2)人材の情報(氏名、連絡先、現在の勤務先名など)をリスト化しているウェブサイトから、自動で収集し、スプレッドシートに抽出して一覧化したり、インターネット上をクローリングして同一人物の情報を総合的に収集したりするツール。
(※3)スマホの位置情報を基に、特定地域にいる人へ求人情報をSMSで送信する手法。
(※4)求職者の属性や行動履歴などのデータを基に、プログラムにより自動で広告枠を入札し、求人広告の配信先やタイミングを自動最適化する手法。

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