高校卒就職に大手企業がやってきた―2027年卒高校卒採用の最新状況
高校卒採用において、企業の激しい人材獲得競争が続いている。2027年3月卒業予定の高校生に対する求人数は、2026年7月末時点(※1)で45万9352人となった。これに対して求職者数(就職を希望する生徒数)は12万7435人、求人倍率は3.60倍である。単純な引き算でも、30万人分以上の求人が充足し得ない状況にある。
求人倍率3.60倍という数字だけを見れば、極端な売り手市場である。この水準は3年連続となっており、高校卒求人ニーズが根強いことがわかる。筆者は高校卒就職について、直近の動向から過去60年にわたる推移まで定期的にレポートを出してきた(※2)。
直近で注目したいのは単なる求人倍率の高さではなく、企業規模別の求人の動きが示す、高校卒採用市場の構造の変化である。
なお、本稿で用いる統計はすべて厚生労働省「『高校・中学新卒者のハローワーク求人に係る求人・求職状況』取りまとめ(7月末現在)」を出所とする(※3)。
求人倍率は10年で1倍から3倍以上へ
まず、高校卒就職市場全体の最新状況を確認しておく。
2015年卒の7月末時点の状況は、求人数23万8462人に対して求職者数18万6462人、求人倍率は1.28倍だった。それが2018年卒は2.08倍、2020年卒は2.52倍まで上昇した。コロナ禍によって2021年卒では求人数が33万5752人まで減少し、求人倍率も2.08倍へ低下したものの、その後は再び上昇する。2025年卒では3.70倍となった(図表1、図表2)。
この10年余りで起こった変化は大きい。
2015年卒から2026年卒までに、7月末時点の求人数は23万8462人から46万6921人へ、ほぼ倍増した。その一方で求職者数は18万6462人から12万6474人へ約6万人減少している。需要が増える一方、供給が縮小したことで求人倍率が急速に上昇した。
さらに長期で見れば、2000年頃の高校卒採用市場は現在とは全く異なる姿だった。就職氷河期と言われる時期、例えば2003年卒の7月末求人倍率は0.50倍だった。求人11万5320人に対して求職者は23万1204人おり、「仕事を探す高校生のほうが求人より多い」状況が長く続いた。それから20年余りで、高校卒就職市場の需給関係は完全に逆転している。
この背景にあるのは景気循環だけでない。高校卒業者そのものの減少に加えて、高等教育進学率の上昇によって、高校卒段階で労働市場に参入する若者が減っている。一方、企業側では慢性的な人手不足(労働供給制約)が続き、高校生を採用対象として改めて重視する企業が増えてきた。
労働供給制約が強まる日本において、高校卒就職・採用はその変化が先鋭的に表れている市場の一つである。
図表1 高校卒の求人・求職者数の推移(各年7月末時点)
図表2 高校卒の求人倍率(各年7月時点)
2027年卒、求人増加を止めた企業、さらに増やした企業
ただし、最新の2027年卒では興味深い変化がある。
求人数は45万9352人で、前年2026年卒の46万6921人から1.6%減少した。コロナ禍の影響を受けた2021年卒を除けば、近年ほぼ一貫して増えてきた高校卒求人が、ここにきて頭打ちとなった。求職者数は12万7435人と前年の12万6474人からわずかに増え、求人倍率も3.69倍から3.60倍へ低下した。
これだけを見れば、高校卒採用市場の需給逼迫がピークアウトしたように見える。しかし、企業規模別に数字を分析すると、別の姿が浮かび上がっている。
2027年卒の求人を企業規模別に前年と比較すると、29人以下企業は15万292人から14万4368人へ3.9%減、30~99人企業は14万2700人から13万8996人へ2.6%減、100~299人企業も8万8137人から8万7525人へ0.7%減となった。300~499人企業も2.5%減少している。
ところが、500~999人企業は2万1514人から2万1547人へほぼ横ばい。そして、はっきりと求人を増やしたのが1000人以上企業(以下、大手企業とも)である(図表3)。
1000人以上企業の求人数は、2026年卒の3万7625人から2027年卒には4万941人へ増加した。前年比8.8%増である。
高校卒求人全体が1.6%減少するなか、1000人以上の企業、大企業(300人以上)のなかでもさらに大きな規模の“大手企業”だけが1割近く求人を増やしている。
図表3 企業規模別高校卒求人数(大企業)(各年7月時点)(※4)
高校卒採用の“主役”が中小企業だけではなくなるとき
もっとも、高校卒採用の主役が中小企業であること自体は変わっていない。
2027年卒の求人45万9352人のうち、29人以下企業が14万4368人、30~99人企業が13万8996人である。従業員100人未満の企業だけで全求人の61.7%を占めていた。
2015年卒でも100人未満企業の割合は56.7%だったから、むしろこの10年間の高校卒求人増を量的に支えてきたのは中小企業であった。
つまり、これまでの高校卒採用市場の需給逼迫は、「大企業が大量に高校生を採用するようになったから」起こったわけではなかった。慢性的な人手不足に直面する地域の中小企業が、高校卒人材を求めるようになったことの影響が大きかった。
しかし、コロナ禍収束後の数年間で見えてきているのは、高校卒採用に大企業がじわじわと浸透し、そして1000人以上の大手企業が本格的に参入し始めている状況である。
実際に、大学卒のみを採用していた大手建設会社が数年前から工業高校生の採用を開始している例もある。高校卒初任給は30万円近く(※5)、4歳上の大学卒同期と遜色ない活躍をしているため今後さらに採用数を増やす方針だそうだ。「都会の有名企業が、初めて求人票をうちの学校に持ってきた」という戸惑い混じりの声を、高校の進路指導の先生から聞くことも多い。
ここまで見てきたような現状もあり、とある大手製造業の工場採用責任者からは「今年はまだ一人も高校生の応募がない。もう9月なのだが……こんなことは今までになかった」という声も聞かれた。大手企業が採りあうなかで、高校生が企業を見る視点が徐々に変化している(※6)のだ。
3人に1人が大手企業へ入社できる状況に
大手企業の高校卒求人増加が続けば、最も影響を受けるのは地域の中小企業だろう。
これまで高校新卒採用は、中小企業にとって大学新卒とは異なる重要な人材獲得ルートだった。地域の高校との長期的な関係を構築し、毎年一定数の若者を採用して、時間をかけて育成する。こうした採用・育成モデルを持つ地域企業は少なくない。
しかし、同じ高校生に対して、知名度が高く、賃金や休日数、福利厚生などの条件でも優位に立ちやすい大手企業が求人を増やせば、競争環境は変わってしまう。
しかも、高校生の数そのものが増えるわけではない。結果として起こったのは、就職する高校生の3人に1人が1000人以上の大手企業へ入社できる、という状況である(図表4)。2015年卒では就職希望者数に対して12.9%(およそ8人に1人)しかなかった大手企業の求人は、その後コロナ禍の時期を除いて一貫して上昇傾向を示しており、2027年卒では32.1%(およそ3人に1人)に達した。
図表4 高校卒就職希望者数に対する1000人以上規模企業(大手企業)求人数の割合
重要なのは、高校卒市場だけを切り離して考えないことだ。大学卒の就職者数を見ると、2015年卒の40万9759人から2025年卒の44万9638人へ増加している。修士課程修了者の就職者も同期間に5万4345人から6万674人へ増えている(※7)。「大学卒の若者が減ったので企業が高校卒に切り替えた」のではない。
むしろ起きているのは、労働供給制約のなかで企業が採用対象を広げる動きである。
大学卒だけでは必要な若手を確保できない。中途採用を加えても足りない。そうしたなかで、それまで積極的ではなかった大手企業も高校新卒に目を向け始めている。人材獲得競争が、学歴別に分断された市場を越えて広がりつつあると言える。
図表5に1000人以上企業の新卒求人数を学歴別で2015年卒の数を100として推移を示した。高校卒は2027年卒で170(2015年卒の1.7倍)、大学卒は同142(同1.42倍)となっている。大手企業は大学卒も高校卒も求人を増やしている、という状況にあるが、より拡大しているのは高校卒である。
図表5 1000人以上企業の新卒求人数の推移(学歴別)(2015年卒=100)
出所:高校卒/厚生労働省,「『高校・中学新卒者のハローワーク求人に係る求人・求職状況』取りまとめ(7月末現在)」大学卒/リクルートワークス研究所「ワークス大卒求人倍率調査」より筆者作成
未来を担う若者たちのために
2027年卒で起きた「高校卒の求人総数は減少したのに、大手企業求人は増加した」という現象は、その転換を示す兆候、つまり大手企業など採用力の高い企業にしか高校生が応募してこなくなってしまったために、「中小企業が高校生の採用を諦めてしまった」状況が広がっているのかもしれない。
もちろん、こうした状況は高校生たちにとっては全く悪いことではない。未来を担う若者たちが、より多様な選択肢のなかで、豊かなライフキャリアを築くスタートラインに立てるのだ。
しかし、高校卒採用市場は求人倍率3.6倍である。それは1社が採用できたら2.6社は採用ができないことを意味している。
もはや企業にとって、単に求人を増やすだけでは事は済まなくなっている。重要なのは、高校卒の若者たちにどのような仕事を任せ、どのように育成し、その先にどのようなキャリアを提示できるかだ。十分に採用できない大学卒の採用枠の代わりとして高校生を見るのではなく、若手人材に選ばれる仕事とキャリアを用意できるかどうかが問われている。
(※1)本稿では2027年卒の最新数値を扱うため、各年7月時点値を用いる。なお、高校卒就職に関する統計が7月末に出るのは、毎年6月1日にハローワークが求人票を受付開始し、7月1日に学校・生徒に求人票が解禁されるためである。
(※2)昨今のもので以下レポートなど。
古屋星斗,2025, 高校卒就職の長期推移―高校生の就職の60年
https://www.works-i.com/column/labor-market/detail009.html
古屋星斗,2026,高校卒就職の長期推移②―県外就職
https://www.works-i.com/column/labor-market/detail010.html
(※3)大学卒や転職市場に詳しいと、ハローワーク統計のみを用いて分析しても市場の一部にすぎないのではないかと感じられるかもしれないが、高校卒就職・採用においてはハローワーク経由での就職者のシェアが毎年おおむね80%を超えており、本統計を用いる妥当性が高い。
(※4)企業規模別統計が2015年卒以降で確認できており、2015年卒から2027年卒について掲示した
(※5)高校卒求人票については一般に公開されていないため、初任給含む最新状況がほとんど知られていない。このため、筆者がこの話をとある大手メーカーの高校卒採用責任者の集まる場でしたところ大きな驚きの声が上がっていた。高校生を採用している別の企業でも、他社の水準を知らないのである。これが高校卒採用をしようとする企業の相場観形成を阻害しており、これだけ市場が逼迫しているにもかかわらず最低賃金水準で募集を出し続ける(もちろん応募はない)企業の存在に繋がっている。
(※6)2026年度に、ハローワークの「高卒就職情報WEB提供サービス」のアクセス権が高校生に解禁された影響も広がっていくだろう。2025年度までこのサービスのアクセス権は就職する当事者の高校生にはなく、なぜか高校の先生にしかなかった。しかし、民間事業者の高校卒求人情報プラットフォーム(Handy進路指導室)のシェアがここ数年で急速に高まり(5人以上就職者がいる高校で100%に近い)、このプラットフォームは生徒や保護者が自由に地域の求人を見て検討できるため、ハローワークサービスのアクセス権を限定する必要性が低下したことが解禁の背景にある。
(※7)文部科学省,学校基本調査
古屋 星斗
2011年一橋大学大学院 社会学研究科総合社会科学専攻修了。同年、経済産業省に入省。産業人材政策、福島の復興・避難者の生活支援、政府成長戦略策定に携わる。2017年より現職。労働市場分析、現場職、若年人材研究を専門とする、ひととしごとの研究者。著書に「ゆるい職場-若者の不安の知られざる理由」(中央公論新社)、「なぜ『若手を育てる』のは今、こんなに難しいのか」(日本経済新聞出版)、「『働き手不足1100万人』の衝撃」(プレジデント社)など。
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