ハローワークで職探しをする人の3割が60歳以上―統計から考える公共職業紹介の再設計②
ハローワークに来る人の年齢
日本の労働市場は、景気循環的な人手不足ではなく、人口動態に起因する慢性的な労働供給制約の局面に入りつつある(※1)。こうしたなかで、公共職業安定所、すなわちハローワークの役割をどう考えるべきかが重要な論点となっている。この点について先のレポート(https://www.works-i.com/column/labor-market/detail015.html)で概況を整理した。
先のレポートで論じていないポイントの一つに、ハローワーク利用者の年齢の問題がある。すでに内閣府(※2)はハローワーク利用者に高齢者が増加、若年者が減少していることを2020~2023年の統計において指摘しているが、この点について人口動態の変化も踏まえた中長期的な傾向を見ることでハローワークの機能の現在地を検証することを本稿の目的とする。
まず、図表1に年齢層別のハローワークでの新規求職件数の割合を経年で示した。人口動態の変化の影響もある(後述)ものの、求職件数の割合を見れば、29歳以下は一貫して減少し、1990年41.9%から2025年16.5%まで半減以下となっている。30-49歳の中堅層においては2013年45.2%をピークとして2025年32.9%となっており、これは1990年以降で最低水準である。
他方で、50歳より上の増加は続いており、特に65歳以上は1990年に2.7%、その後も2010年に4.1%と高くはなかったが、2010年代以降著しく伸長し2025年19.1%となった。
こうした結果として、2014年まで70%を超えていた新規求職件数に占める49歳以下の割合は急速に低下傾向にあり、2025年には50%を下回った。逆に、60歳以上の新規求職件数は2025年に30.3%と3割を超えている(図表2)。
図表1 新規求職申込件数に占める年齢層別割合(パートタイム含む常用)
出典:厚生労働省,一般職業紹介状況
図表2 新規求職数に占める年齢層別割合(49歳以下・60歳以上)(パートタイム含む常用)
出典:厚生労働省,一般職業紹介状況
「高齢化の影響」以上の高齢者の利用者増加
以上について、図表3に件数ベースの推移も掲載した。ハローワークの利用状況等概況については前のレポートにて検証済みであるためここでは取り扱わないが、29歳以下、30-49歳といった若手・中堅の年齢層で2010年頃以降件数の著しい減少傾向が明確である一方、65歳以上においては件数自体も増加していることがわかるだろう。
図表3 年齢層別・新規求職申込件数(パートタイム含む常用)
出典:厚生労働省,一般職業紹介状況
この点について、日本において人口動態の高齢化、及びそれを受けた就業者の高齢化が進行しており、その影響を踏まえた上でハローワークの利用者の年齢層がどのように変化しているかを分析する。各年齢層の“就業者数当たりのハローワーク新規求職申込件数”を2000年を基準にして指数化したものを図表4に示す。 この指数は「就業者数に対してハローワークの利用者がどの程度いるのか」を2000年を基準として示したものであり、人口構成や就業者数の変化の影響を除いて、年齢層別のハローワーク利用傾向の変化を見ることができる。
図表4からは以下のことがわかる。
- 65歳以上(加えて60-64歳)を除いた年齢層で、利用指数がほとんど同じ動きをしている。つまり、2000年を1.00とした際に、リーマンショック(2009年前後)まではほぼ横ばい、リーマンショックで跳ね上がり、その後(2010年代前半以降)はコロナショック期に微増したものの減少傾向が継続している。
- ①のような全体動向のなか、若年層の利用指数が特に低い水準にある。19歳以下、20-24歳、25-29歳は2000年の1.00に対して2025年は0.5以下と利用指数が半減未満となっており、若年就業者数の減少以上に、ハローワーク利用者が減少している。
- 65歳以上のハローワーク新規求職申込は高齢者の就業者数増加以上に増えている。2000年を1.00とすると2025年は2.19であり、65歳以上のハローワークの利用指数は倍以上となっている。
- 65歳以上とも全体の動きとも異なる動きをしているのが60-64歳であり、2010年代以降利用指数は横ばいである。
図表4 ハローワークの年齢層別利用指数(2000年=1.00)(パートタイム含む常用)注:各年齢層の就業者数当たりのハローワーク新規求職申込件数を2000年=1.00として指数化したもの

出典:厚生労働省,一般職業紹介状況及び総務省,労働力調査より筆者作成
図表4の整理 からは、ハローワーク利用者の求職先ニーズや求められる支援は60歳以下、60代前半、65歳以上でそれぞれ異なるのではないかということ、特に60代前半に独自の支援ニーズがあるのではないかという仮説が浮かびあがる。
実際、過去に筆者は60歳を超えたばかりという求職者に聞き取りを行ったことがある。その際、「“シニアコーナー(※3)”がハローワークにあったが、自分が相談に行ってよいのかよくわからない」という迷いがある旨の話をしていたことが印象に残っている。この言葉の背景について筆者は、おそらく、「自分が対象なのかよくわからない」という意味と、「“シニア対象の求人”に自分が求める仕事があるのかよくわからない」という意味があったのではないかと解釈している。 この聞き取りは一例にすぎないが、60代前半の求職者は、現役世代からシニアへの過渡期にあたり、労働市場における自分の位置づけを見定めにくい年代であることが示唆される。その結果、支援ニーズは高いものの、ハローワークでどのような窓口を利用すべきかが求職者側から見えにくくなっている可能性がある。
60代前半は若年・ミドル層と比較して利用指数が大きく減少しているわけではなく新規求職者が安定的に訪れている。しかし、継続雇用もあるためかある種の遠慮や相談への抵抗もあり、65歳以上と比較してハローワークの支援が届きづらい構造があることが利用指数の65歳以上との乖離の背景にあるのではないか。
65歳以上の就職決定率は3倍に
また、ハローワークの求職者のうちどのくらい就職が決まったかの状況(就職決定率)を年齢層別に見ておこう。この分析により、ハローワークの就職斡旋機能について年齢別に差異があるか、またその差異がどのような変化を見せているのかを検証することができる。結果は図表5である。
こちらも60歳未満の年齢層においてはほぼ同じような動きをしており(29歳以下の就職決定率が近年大きく低下しているが)、おおむね30%前後の水準で推移している。他方で65歳以上の就職決定率の上昇傾向は顕著であり、2000年6.9%から2025年18.2%と3倍近い水準となっている。ハローワークに求職申込をした高齢者はかつてはほとんど就職が決まらなかったが、近年その状況は変わりつつあるということだ。もちろんこれは“シニアハローワーク”を中心として、シニア層へのマッチング機能の強化に向けた取り組みが功を奏している 部分もあるが、労働市場の変化、つまり企業の65歳以上求職者への受容度が高まった結果にもよるだろう。
図表5 年齢層別・就職決定率(パートタイム含む常用)
注:ハローワークの就職件数を新規求職申込件数で除したもの
65歳以上の求職申込が多い職種は「清掃従事者」
最後に、求職先の「職種」を整理する(図表6)。
ハローワーク求職者に人気の高いホワイトカラーの専門的・技術的職業従事者、事務従事者について、65歳以上の求職申込の割合は全体(年齢計)に対して低い。年齢計では合わせて38.7%だが、65歳以上では25.7%である。
一方で、65歳以上において求職申込に占める割合が顕著に高いのが運搬・清掃・包装等従事者であり、年齢計11.8%に対して21.0%と倍近い割合となっている。この詳細を分析すると、特に多いのが「清掃従事者」であった。清掃従事者の新規求職申込件数は全体で12.4万件だが、65歳以上のみでなんと6.0万件と半分近くとなっている。清掃は、高齢求職者にとって比較的応募しやすい職種として認識されている可能性がある。ただし、その背景には本人の希望だけでなく、求人側の受け入れ状況や勤務条件の選択肢も影響していると考えられる。
ただ、シニアの求職者が大量に流入した結果か、清掃従事者のハローワークにおける有効求人倍率は1.12倍(2026年4月、パートタイム含む常用(※4))となっており、他の有効求人倍率が高い職種(医療・介護、建設関係等)と比較して、需給が均衡する傾向にある 。もともと清掃従事者の有効求人倍率は1.71倍(2023年4月)という高い水準にあったことを考えると、足下では著しい労働需要超過を脱している。それを踏まえると、高齢求職者が今後清掃従事者を望んだとしてもよい条件で求人が得にくくなっている可能性はある。有効求人倍率には大きな職種別の差異があることを加味すると、職業訓練や仕事内容の理解促進等を充実させ、高齢求職者が従事しやすい職種を、清掃作業のみならず別の現場職に増やしていくことは現役世代と同じく重要になっていくだろう。
なお、有効求人倍率が高い職種、具体的には介護サービス職業従事者(3.51倍)、保健医療サービス職業従事者(2.50倍)、建設・採掘従事者(4.69倍)においては、65歳以上求職申込での職種割合は年齢計と同水準である。
図表6 新規求職申込件数の職種割合(年齢層別)(※5)
出典:厚生労働省,一般職業紹介状況雇用関係指標(2025年度)より筆者作成
ハローワークの“選択と集中”の先にあるもの
以上のとおり、年齢層別のハローワーク関係統計を検証すると、65歳以上の求職者に対するパフォーマンスが高まっていることが様々な面から確認できる。もちろん、文中でふれた“シニアハローワーク的機能”が拡充されてきたことは言うまでもなく、また労働市場側の変化が高齢求職者の斡旋ニーズを後押しした結果とも考えられる。
ハローワークは2000年代以降、一般的な職業紹介機能に加えて、対象別支援を拡充してきた。大きな起点となったのは、若年失業やフリーター問題を背景とする「若者自立・挑戦プラン」(2003年)であろう。若者を単に「求人に応募する求職者」としてではなく、職業意識の形成、職業能力の蓄積、就業機会への接続を必要とする政策対象として捉え、都道府県が設置するジョブカフェにハローワークを併設し、職業相談・職業紹介を含むワンストップ支援を行った(※6)。
その後、リーマンショック後の新卒就職環境の悪化を受け、「新卒応援ハローワーク」が整備された。これは大学等の学生・生徒や卒業後おおむね3年以内の者を対象に、担当者制の個別支援、応募書類・面接対策、企業説明会、就職後の定着支援まで行うものであり、現在でも全国56か所に設置されている(※7)。さらに、正社員就職を目指す若者向けの「わかものハローワーク」、子育て中の女性を支援する「マザーズハローワーク」、障害者向けのチーム支援、就職氷河期世代・ミドルシニア向けの専門窓口なども整備されてきた。
こうした歴史を振り返ると、ハローワークはその時々に労働市場で顕在化した課題に応じて、対象別の専門窓口を追加してきたと言える。若者、子育て女性、障害者、就職氷河期世代など、課題が提起されるたびに、ハローワークは単なる求人紹介窓口ではなく、担当者制、キャリアコンサルティング、関係機関連携、定着支援といった伴走型の機能を充実させてきた 。
そして近年、その対象別支援の中心に急速に浮上しているのが高齢者である。例えば「生涯現役支援窓口」では、おおむね60歳以上の求職者を対象に、これまでの就労経験や年金受給状況、生活環境を踏まえた職業相談・職業紹介を行っている(※8)。
ただ、本稿で確認したように、すでに60歳以上が新規求職申込件数の3割を超え、高齢者はもはや「特別な支援対象」ではなく、ハローワークの主要な利用者として位置づける必要がある。 したがって、問われるのは単に「シニア向け窓口をつくるか」ではない。 60代前半、65歳以上、70歳以上では就労ニーズも制約させる条件も異なるなか、高齢求職者ひとりひとりのニーズに合わせた支援である。また、一部の“シニアが求職しやすい職種”だけでなく、よりシニアが経験や希望に応じて多様な職種に就けるようなきめの細かい支援が求められている。
ハローワークの対象別支援は、2000年代以降の四半世紀、「困難を抱える人を特別に支える」ために発展してきた。しかし人口動態、そして労働市場の変化により、その意味は変わりつつある。“特別”だった高齢求職者がハローワークの中核ユーザーとなった今日において、ハローワークはどうあるべきか。地域に残された働く力を、本人の暮らしと地域の必要労働需要の双方に無理のない形で活かすために何が必要か。
ハローワークが行ってきた“選択と集中”の先にある高齢者就労支援は、こうした新たな問いに答えを出していくための最前線にあると言えるだろう。
(※1)古屋星斗,2023,日本は「令和の転換点」を越えたか,リクルートワークス研究所「働く」の論点
(※2)月例経済報告等に関する関係閣僚会議資料 令和6年1月25日
https://www5.cao.go.jp/keizai3/getsurei/2024/01kaigi.pdf
(※3)ハローワークに設けられた55歳以上を対象とする応募を中心に紹介する窓口。シニアコーナー、シニアハローワークなどと呼んでいるハローワークもある
(※4)厚生労働省,一般職業紹介状況
(※5)原統計は職種別大分類・中分類。図表6は大分類を中心にサービス職業従事者のみ中分類を抜粋した
(※6)厚生労働省HP,ジョブカフェにおける支援
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/jakunen/jobcafe.html
(※7)厚生労働省HP,新卒応援ハローワーク
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000132220.html
(※8)厚生労働省HP, 概ね60歳以上の求職者の皆さまへ
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/koureisha/koureisha-koyou_00025.html
古屋 星斗
2011年一橋大学大学院 社会学研究科総合社会科学専攻修了。同年、経済産業省に入省。産業人材政策、福島の復興・避難者の生活支援、政府成長戦略策定に携わる。2017年より現職。労働市場分析、現場職、若年人材研究を専門とする、ひととしごとの研究者。著書に「ゆるい職場-若者の不安の知られざる理由」(中央公論新社)、「なぜ『若手を育てる』のは今、こんなに難しいのか」(日本経済新聞出版)、「『働き手不足1100万人』の衝撃」(プレジデント社)など。
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