高校卒就職の長期推移―高校生の就職の60年
最も高校生の就職者数が多かったのは1968年
高校卒の就職市場の最新動向を整理する。最新の求人倍率は過去最高水準にあり、2026年卒の7月時点での求人倍率は3.69倍であり、昨年度(3.70倍)と同水準で急速な上昇には歯止めがかかったものの高止まりの状況にある。
では、過去からの高校生の就職先にはどのような変化があるか。統計が残る1963年以降について、就職先の職業や地域について分析する(※1)。
まず、高校生の就職者数の推移を整理した(図表1)。これまで、最も高校生の就職者が多かったのは1968年であり94.2万人である。直近は2024年12.8万人であるから、およそ8分の1の規模になっていることがわかる。性別でも示しているが、注目すべきは高校卒就職者の男性比率が一貫して増加していることだ。1975年の男性比率46.0%を下限として、足下2024年の63.6%の最高値まで増加傾向が続いている。女性の高等教育進学率の向上や、後述する就職先職種が一部に偏在し続けていることが影響していると考えられる。
図表1 高校卒就職者の推移(計・性別)(1963年~2024年卒)
以下出典:文部科学省,学校基本調査
就職先は事務職から生産工程従事者へ
職種別就職者率を整理した(図表2)。2000年前後まで事務従事者の割合が急速に低下した傾向などが確認できる。
図表2 高校卒の職種別就職率(※2)(1963年~2024年卒)
注:職種分類は調査年によって何度か変更されている。1970年までは単純労働者という分類が存在し1971年に廃止された。生産工程従事者は1986年まで存在し、1987~1998年まで採鉱・採石作業者と合わせて技能工,採掘・製造・建設作業者及び労務作業者という分類へと再編されたが、1999年からは再び生産工程従事者となっている。2011年からは再度技能工,採掘・製造・建設作業者及び労務作業者が生産工程従事者と分離して項目となっており、また同年から運搬・清掃等従事者が分類された。2024年の調査においてはこの2011年に改訂された12分類にて調査がされている
これを整理したのが図表3である。特に直近で最も就職者の割合が高くなっている生産工程従事者と、過去に高かった事務系職種(専門的・技術的職業従事者/事務従事者/販売従事者の合計)の割合の推移を示した。かつては事務系職種が高校卒就職のメインコースであり、1963年には62.8%が事務系職種に就職し、この傾向は1990年代初頭まで続いた(1992年49.6%)。その後、事務系職種への就職者の割合は急速に低下した後、2010年代前半からは25%前後となっている。一方で、現代の主たる就職先である製造業現場への就職、生産工程従事者は1963年には21.2%であったが、徐々に割合を増やし1995年に事務系職種計を超え、2009年には48.2%に達し、その後は40%前後で安定的に推移している。
ここ20年ほどの高校卒就職は一貫して製造業への就職者が4割ほどと最も多く、職種別では生産工程従事者がメインコースを成してきた。しかしこれはまさにここ20年ほどの傾向であり、かつては多くの高校生が事務系職種で就職するなど全く異なる状況であったことがわかる。もちろん、その背景には高等教育進学率がまだ低かったことがある。これに対し1990年代以降に事務系職種に就職する人が低下した背景には、高等教育進学率が上昇した結果、かつて高校卒就職者が入職していた職種に大学卒や専門卒就職者が入職するようになったことを示唆している(※3)。
図表3 職種別就職者割合(抜粋)(1963年~2024年卒)
なお、高校卒の就職先を職種別で見た際に留意が必要なのは性別による大きな差である(図表4)。事務系職種計では女性は1970年代まではなんと80%前後、現在でも40%前後の水準にある。他方で男性では足下、事務系職種計20%弱の水準であり、生産工程従事者は50%近い水準で推移している。製造業新卒入職者は早期離職率が低い傾向があるが、男性の生産工程従事者への入職者が全体に占める割合が高くなってきている状況は、高校卒就職の早期離職率を押し下げている考えられる。
こうした高校卒就職の変化と現状、つまり8分の1の人数となった就職者をいかに支えるのか、また、性別による差異や就職先の偏在を踏まえ、工業高校と商業高校、普通科高校等のそれぞれでどのようなカリキュラムや就職指導を提供すべきかという議論が求められるだろう。
図表4 職種別就職者割合(男女別)(抜粋)(1963年~2024年卒)
(※1)本稿のデータは文部科学省,「学校基本調査」を用いる。学校基本調査の職業別統計は「計」と内訳合計が調査の仕様上等により一致しない場合がある(1981年計、1980年男性計)が、0.1%未満の誤差であり、原典の数字をそのまま掲載した
(※2)職種分類が変更されており、変更前後全ての職種を項目とする
(※3)OECDはこうした日本の状況について、過剰学歴(Over Qualification)を指摘している。調査対象の国のうち、英国(37.1%)に次いで日本(35.0%)が高く、OECD平均(22.2%)と比較して著しく高い水準にある
https://www.oecd.org/en/topics/adult-skills-and-work.html
古屋 星斗
2011年一橋大学大学院 社会学研究科総合社会科学専攻修了。同年、経済産業省に入省。産業人材政策、投資ファンド創設、福島の復興・避難者の生活支援、政府成長戦略策定に携わる。
2017年より現職。労働市場について分析するとともに、若年人材研究を専門とし、次世代社会のキャリア形成を研究する。一般社団法人スクール・トゥ・ワーク代表理事。
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