生成AIを利用しているのは誰か(後編) 坂本貴志

2026年10月02日

本稿では、リクルートワークス研究所「全国就業実態パネル調査」を用い、日本社会における生成AIの普及実態を検証するとともに、業務でAIを日常的に使いこなす層(1日1回以上利用)の決定要因を明らかにする。

前編の分析では、若年層や高学歴層において日常的な利用が進んでいることが示された。一方、生成AIを日々の業務インフラとして定着させられるか否かは、労働者が置かれた経済的な状況、自発的な学習姿勢、従事する職種や業種といった要因も関係してくるとみられる。

後編では、これらの要因に着目し、どのような就労環境や行動特性が生成AIの日常的利用を定着させているのか、その決定要因と背景にあるメカニズムを明らかにする。

学習に対する前向きな姿勢が、AI活用と強く相関

前編から引き続き生成AIの利用の決定要因を探ると、雇用形態が与える影響については、正規雇用者を基準とした場合、非正規雇用者の利用確率は約4.4%pt低い結果となり、統計的に1%水準で有意に低かった(図表1)。この背景には、非正規労働者に対する業務改善に向けた教育訓練・研修の機会が正規雇用者に比べて限定的であるといったことが影響しているかもしれない。

AIを活用して業務を効率化させてもそれが自身の昇給や評価、雇用継続に直接反映されにくいといったインセンティブ構造の乏しさなども新技術の積極活用を阻害している可能性として考えられる。なお、役員・自営業層については、正規雇用者と比較して統計的に有意な差は認められなかった。

個人の学習姿勢はAIの利用確率に対して大きく影響していた。個人の行動特性に関する変数のなかで、最も大きな限界効果があったのが、過去に自己啓発活動を行ったかどうかであり、行った層はそうでない層と比較して利用確率が約9.3%pt高くなっている。

生成AIのような汎用目的技術は、マニュアル通りに操作する受動的な姿勢では定着しにくく、自らの業務課題に対して試行錯誤を重ねながら適用方法を模索する能動的な自己学習の習慣が重要である。今回の分析は一時点のものであるため、厳密な因果関係の特定は難しいが、こうした学ぶことに対する姿勢とAI利用とが関連している可能性が高い。その他の要因については、地域要因として南関東(一都三県)居住層は利用確率が約2.7%pt高く、組織規模として従業員1000人以上の大企業・官公庁所属層でも利用確率が約2.4%pt有意に高くなった。

年収階層の影響についても比較的大きな影響が見られた。100万円未満(基準群)と比較した場合、年収が上がるにつれて生成AIを毎日利用する確率が単調に増加する傾向を示している(図表2)。

年収100万〜399万円といった低中所得層では基準群と統計的に有意な差が見られないが、400万〜499万円層で+2.7%ptと有意にプラスに転じ、500万〜599万円層で+4.7%pt、600万〜699万円層で+5.8%ptなどと生成AIを活用する確率が高くなる傾向が認められた。1000万円以上では+10.5%ptと大きな限界効果をもつことがわかる。高所得層ほど組織内において高度な判断や定常的な情報処理・資料作成を求められる立場にあることが、日常的利用を後押ししている状況がうかがえる。

図表1 生成AIの利用確率への影響(基本属性)

図表1 生成AIの利用確率への影響(基本属性)出所:リクルートワークス研究所「全国就業実態パネル調査」

図表2 生成AIの利用確率への影響(年収別)

図表2 生成AIの利用確率への影響(年収別)
出所:リクルートワークス研究所「全国就業実態パネル調査」

ホワイトカラーは利用率が高く、医療・福祉や公務、飲食店・宿泊業は低い

最後に、職種および業種による影響の違いについて検討する。職種においてはサービス職を基準とした場合、管理職で+5.5%pt、専門・技術職で+3.7%pt、事務職で+3.6%ptと、オフィスワーク主体の職種において日常的な利用確率が有意に高い傾向が確認された。これに対し、保安・警備、農林漁業、生産・労務、運輸・通信といった現場での作業を中心とする職種では利用確率が低下する。

業種については、製造業を基準とした比較を行っている。最も高い利用確率を示したのは情報通信業であり、製造業と比較して5.7%pt高くなっている。製造業よりも利用確率が顕著に低い業種としては、郵便業は13.9%pt、医療・福祉は11.8%pt、公務は9.2%pt、飲食店・宿泊業は8.8%pt低い結果となった。情報通信業や製造業といったデジタルへの親和性やオフィスワーク・技術開発要素の強い業界と比較して、対人サービスや現場業務については利用確率が低い傾向となった。

図表3 生成AIの利用確率への影響(職種・業種別)

図表3 生成AIの利用確率への影響(職種・業種別)
出所:リクルートワークス研究所「全国就業実態パネル調査」

エッセンシャルワーカーも含めたAI活用のインセンティブ設計が必要

本分析では、リクルートワークス研究所「全国就業実態パネル調査」のデータを用い、日本の就業者における生成AIの業務活用の実態と、それを日常的なツールとして定着させる要因について検証を行ってきた。

得られた結果を総括すると、2025年末時点では生成AIの毎日利用層は全体の8.9%にとどまり、約3分の2が利用経験をもたない初期普及段階にある。

この背景には、労働者の経済的・構造的環境が影響している。年収の上昇に伴い利用確率は単調増加し、高所得層や大企業、南関東圏では他の変数を統制したうえでも毎日利用する確率が高い傾向が見られた。併せて非正規雇用者では利用確率が正社員と比べて約4.4%pt低く、生成AIの活用が弱かった。一方で、全変数のなかで最も強い促進要因だったのは、個人の自己啓発活動であった。この点を考慮すると、労働者の学習意欲をいかに引き出し、自己啓発やスキルアップを後押しするインセンティブを企業側がどう設計・提供するかという議論が、AI時代においてもそのまま重要な課題として存在するのだと考えられる。

さらに、職種・業種間においては、オフィスワークやデジタルとの親和性の高い領域で活用が進んでいることがわかった。現在の日本における生成AIの日常的な利用者は、典型的には高年収で首都圏の大企業に所属し、継続的な自己研鑽を行う高学歴な正規雇用のホワイトカラー層ということができるだろう。

医療・福祉、郵便、対人サービスといった現場主体の領域、いわゆるエッセンシャルワーカーが担う分野は比較的利用が低調であったが、これらの分野は深刻化する人手不足への対応や業務負荷の軽減に向けて、労働生産性の向上が強く求められている領域でもある。これらの職種では、専門知識を活用しつつ、身体的な作業や対人対応が必要な業務が中心となる場合も多く、勤務中に文章・画像生成AIを直接操作する場面が相対的に少ない可能性がある。フィジカルAIの普及などはまだ限定的な状況であるなか、AIの直接利用が難しい側面はあるだろう。ただし、こうした業界においても記録業務の簡略化や情報共有の効率化など、潜在的なAI活用への期待とニーズは大きい。

こうした分野も含めて多くの業界で技術の普及が進み、あらゆる現場でAIの恩恵を享受できる環境が整えられていくことは、今後の日本経済全体の生産性底上げに向けて重要と考えられる。

坂本 貴志

一橋大学国際公共政策大学院公共経済専攻修了後、厚生労働省入省。社会保障制度の企画立案業務などに従事した後、内閣府にて官庁エコノミストとして「月例経済報告」の作成や「経済財政白書」の執筆に取り組む。三菱総合研究所にて海外経済担当のエコノミストを務めた後、2017年10月よりリクルートワークス研究所に参画。