ワーク・エンゲージメントはどれほど上下するのか―「弾力性」の問題 古屋星斗

2026年10月07日

社員のワーク・エンゲージメントを高めるための施策が企業で広がっている。エンゲージメント・サーベイを定期的にかけ組織改善の材料として用いる企業は、大手はもちろんのこと、中小企業でも実施しているという声を聞くことが増えた。

仕事へのエンゲージメントやコミットメントという社員の心理状況について、その改善に取り組んでいる組織・人事戦略を担務する方から「どうすれば上げることができるのか」「結果をどう分析し、活用すればよいのか」といった質問を頂くことも多い。いくつかの会社のエンゲージメント調査の結果を分析していて、筆者はふと「日本の社会人、ひとりひとりの仕事へのエンゲージメントは中長期的視点で見た際に、どの程度大きく変化しているのだろうか」と考えたことがある。

本稿は、この仕事へのエンゲージメントについて、2019年末から2025年末という6年の中長期的な変化を、個々人をベースに整理することで日本の仕事へのエンゲージメントの変化を総覧することを目的とする。
結論からいえば、日本の正規雇用者の7割近く(69.3%)が、6年前と比較し仕事へのエンゲージメントの水準がほぼ変化していなかった。

仕事へのエンゲージメントの状況

本稿ではリクルートワークス研究所,全国就業実態パネル調査(以下、JPSED)を用いた同一個人のパネル分析を行った。就業状況を合わせるべく、分析対象を正規雇用者に限定し、JPSED2026(2025年12月時点)とJPSED2020(2019年12月時点)の両方に回答し、かつ両方の調査で正規雇用者だった者を対象とした。サンプルサイズは8871である。
「仕事へのエンゲージメント」についてJPSEDでは以下の設問を例年設けている。

生き生きと働くことができていた
仕事に熱心に取り組んでいた
仕事をしていると、つい夢中になってしまった

それぞれについて「あてはまる」~「あてはまらない」のリッカート尺度5件法で確認する簡易的な仕事へのエンゲージメントの調査となっている(※1)。この3項目について「あてはまる」を5点、「あてはまらない」を1点として単純に足しあげ15点満点の簡易的な仕事へのエンゲージメント・スコアとして整理した。両年調査の出現率を示したのが図表1である(※2)。

全体概況では、15点(3項目すべて「あてはまる」)は2026年調査で2.5%、2020年調査では2.1%であった。最頻値は9点(3項目すべて「どちらでもない」等)であり、同23.9%、23.7%であった。
細部に差異はあるが、正規雇用者全体としては概ね同様のスコア構造をしていることがわかる。

図表1 仕事へのエンゲージメント・スコアの出現率(2026年調査、2020年調査)(正規雇用者)(%)図表1 仕事へのエンゲージメント・スコアの出現率(2026年調査、2020年調査)(正規雇用者)(%)
※表下部にデータテーブルをつけた

69.3%はほとんど変化していない

焦点は、個々人レベルで見た際に、この6年でどんな変化をしているのかということだ。両年調査ともに回答した者について、2026年調査のスコアを2020年調査のスコアで引いた数値を出した。その結果が図表2である。

最頻値は「0」、つまり6年前と直近で変化なしで、25.7%に達している。加えて、±1水準で計51.9%、±2水準で計69.3%に達している。この±2水準というのは具体的にいえば、2020年調査で2項目のすべてに「あてはまらない」と答えていた者が、2026年調査で2項目「どちらかというとあてはまらない」、1項目「あてはまらない」と答えた状況である。もちろん“変化が見られる”わけだが、この調査の間にコロナ禍の発生と終息があり、日経平均は3倍(※3)になり、日本の総理大臣は4人代わっていることを思えば、個々人の仕事へのエンゲージメント変化の穏やかさを感じずにはいられない。

本稿ではこの15点満点中の±2水準を仕事へのエンゲージメントがほぼ変化していない水準として、設定しておこう。
なお、経年で分析していくと短期的な変化を繰り返して結果として6年後の変化量が±0になるような者(エンゲージメント弾力性が高い、といえよう)も考えられ、確認のため2020年調査から2025年調査、2025年調査から2026年調査の中長期(5年)・短期(1年)の双方の変化量がともに±2以内であった者を分析したところ正規雇用者に占める割合は計60.1%であり、やはり仕事へのエンゲージメント・スコアの変化が乏しかった者が相当数を占めていた。

図表2 仕事へのエンゲージメント・スコアの変化量別出現率(2026年調査-2020年調査)(正規雇用者)(%)図表2 仕事へのエンゲージメント・スコアの変化量別出現率(2026年調査-2020年調査)(正規雇用者)(%)
※1:数値がごく小さい箇所があり、小数点以下第二位まで表記した
※2:赤枠は仕事へのエンゲージメントがほぼ変化していなかった者

性別、転職の有無で差異はほとんどなし

なお、仕事へのエンゲージメント・スコアの6年の変化が±2以内であった割合(ほとんど変化がなかった割合)を、性別や年齢、転職の有無別で分析した(図表3)。

先述の通り正規雇用者の平均では69.3%、非正規雇用者の方がやや高く73.1%であった。非正規雇用者の方が変化していない者が多い。
性別での差異はほとんどない(※4)。年齢別(2026年調査時点)では、39歳以下が64.8%、40-59歳69.8%、60歳以上75.1%と年齢層が上がるほど変化がほとんどなかった割合が上昇している。若手ほど仕事へのエンゲージメントの弾力性が高い可能性がある。

転職の有無別では、転職ありで65.5%、転職なしで70.4%と、想像通りではあるが転職なしの方が、変化がほとんどなかった割合が高い。
ちなみに、転職ありでは仕事へのエンゲージメントが上昇した者が多い傾向があった(3ポイント以上上昇は「転職あり」19.1%、「転職なし」14.4%)。

図表3 仕事へのエンゲージメント・スコアの変化がほとんどなかった(±2以内)割合図表3 仕事へのエンゲージメント・スコアの変化がほとんどなかった(±2以内)割合
※性別、年齢別、転職有無別は正規雇用者を対象とした数値

なお、過去にどんなエンゲージメント・スコアだった者の変化量が乏しかったか、も分析した(図表4)。当然ながら、最高値(15点)や最低値(3点)付近は点数的に大きな変動が可能であるため変化量が大きい者が多く、割合が低い。それでも「3点」だった者で44.4%はほとんど変化しておらず(つまり6年経っても引き続き極めて低い)、逆に、最も高いのは2020年調査で10点だった者(1項目「どちらかというとあてはまる」、2項目「どちらでもない」等)で80.4%に達していた。

図表4 2020年調査時点のエンゲージメント・スコア別、変化がほとんどなかった(±2以内)割合図表4 2020年調査時点のエンゲージメント・スコア別、変化がほとんどなかった(±2以内)割合

スコアがほとんど変化していないことは何を示唆しているか

今回の分析結果、すなわち、相当数(6-7割)の日本の正規雇用者は仕事へのエンゲージメント・スコアが中長期的にほとんど変化していない(非正規雇用者はさらに変化していない)ことは何を示唆しているのだろうか。

1点目は、組織側の施策が十分でないことだろう。ワーク・エンゲージメントを高めるための施策は緒に就いたばかりといえ、その効果が発現するには組織文化が形成され根付くなど中長期的な試みが求められる。特に転職した者の方が上昇しやすい傾向があったことからは、社会人にとってワーク・エンゲージメントを高めるための有効な手段が(統計的には)転職である可能性を示唆しており、組織戦略の不十分さを浮き彫りにしている。

もう1点は、そもそも人の仕事へのエンゲージメントは変化しにくい(所与のものである)可能性だ。より正確にいえば、その“弾力性”に差がある可能性がある。変化しづらい者と、変化する者がおり、日本の社会人においては変化しづらい者が多いのではないか(※7)。

筆者は、日本の職業観における「職人肌」的な価値観を有する者の存在を指摘してきた(※8)。それは「仕事にやる気があるかないか等といった自身の気持ちの違いで成果が変わるのは、プロではない」という職業観・仕事観をもつ日本の就業者のグループである。仕事へのエンゲージメントの高低の意味自体が個々人で大きく異なる可能性があり、変化量の乏しさの背景にそうした考え方の存在も影響しているのではないか。

今回の結果が我々に問うているのは、ワーク・エンゲージメントを高めるための施策が十分なのかということと、ワーク・エンゲージメントを高めるための施策“だけ”で十分なのか、という2点であろう。個々人の内面の多様性に光があたり始めるなかで、ワーク・エンゲージメントの変化(弾力性)の個人差には、今後注目が集まっていくのではないか。

(※1)学術的なワーク・エンゲージメント尺度としては、ユトレヒト・ワーク・エンゲージメント尺度(Utrecht Work Engagement Scale)があり、7件法である。JPSEDは大規模パネル調査の特性上、調査負荷等をふまえ簡易化された設問となっている。
Schaufeli, W. B., Shimazu, A., Hakanen, J., Salanova, M., & De Witte, H. (2019). An ultra-short measure for work engagement: The UWES-3 validation across five countries. European Journal of Psychological Assessment, 35, 577-591
(※2)なお、当該結果は全就業者を母集団とするクロスセクションウェイト(xa26,xa20)による集計としている
(※3)2020年調査が行われた2019年12月の水準として、2019年12月30日(大納会)の終値は2万3656円62銭であり、2026年6月22日に記録した7万2831円73銭(2026年9月15日時点の過去最高値)では、3倍以上の水準に達している
(※4)ただし、これは正規雇用者の性別集計である。非正規雇用者は女性が多く、就業者全体では女性の方が変化量が乏しい可能性が高い
(※5)2026年調査時点
(※6)2020年調査時点から2026年調査時点までで退職回数が1回以上の者を「転職あり」とした
(※7)この点について、日本人のワーク・エンゲージメントについては、国際比較で低い値を示す一方、ポジティブ感情の表出を抑える文化的傾向など、尺度への回答傾向が影響している可能性も指摘されている(Shimazu et al., 2010)
(※8)古屋星斗,2024,「熱意」は仕事に必要か,リクルートワークス研究所
https://www.works-i.com/research/project/newcareer/auxiliary-line/detail003.html

古屋 星斗

2011年一橋大学大学院 社会学研究科総合社会科学専攻修了。同年、経済産業省に入省。産業人材政策、福島の復興・避難者の生活支援、政府成長戦略策定に携わる。2017年より現職。労働市場分析、現場職、若年人材研究を専門とする、ひととしごとの研究者。著書に「ゆるい職場-若者の不安の知られざる理由」(中央公論新社)、「なぜ『若手を育てる』のは今、こんなに難しいのか」(日本経済新聞出版)、「『働き手不足1100万人』の衝撃」(プレジデント社)など。