生成AIを利用しているのは誰か(前編) 坂本貴志

2026年10月01日

2022年末に公開されたChatGPTを契機に、大規模言語モデルを用いた生成AI技術は、広く社会の注目を集めた。生成AIは文章作成、要約、情報検索、プログラミングコードの生成など、高度で多岐にわたる処理を可能にする。その後も技術の急速な進歩と社会実装は進んでおり、あらゆる産業において業務効率化やイノベーション創出に向けたツールとして位置付けられるようになっている。日本においても、労働人口の減少に伴う生産性向上の要請や、DX推進の文脈から、職場における生成AIの活用に対する期待と関心は高まりを見せている。

従来のITシステムや専門的な解析ソフトウェアとは異なり、生成AIは特別なプログラミング言語を必要とせず、日常的な自然言語を通じて直感的に操作できる点に最大の特徴がある。この技術的特性は、専門職やIT従事者にとどまらず、あらゆる職種やポジションにある労働者に対して利用のハードルの低い技術革新であることを意味しており、労働現場における広範な普及が期待される。

こうしたなか、実際の労働現場において生成AIの業務活用がどの程度浸透しているのだろうか。本稿では、仕事における生成AIの利用が現在どの程度広がっているのかという実態を捉えるとともに、AIを活用することと関わりの深い個人属性や就労環境を明らかにする。

生成AIを日常的に利用する人は8.9%

本分析においては、リクルートワークス研究所「全国就業実態パネル調査」を用い、就業者全体(N=42,120)を対象として仕事における生成AIの利用動向を分析する。

本分析で用いる生成AIの利用状況は、同調査の「昨年(2025年)12月についていた仕事において、生成AIをどのくらいの頻度で利用していましたか」という設問に基づくものである。同設問では、生成AIを「テキストや画像・動画などを生成する機能を有するAI(例:ChatGPT、Gemini、Microsoft Copilotなど)」と定義し、1つの目的のために生成AIを使った一連の操作を「1回」とカウントしたうえで、利用頻度を以下の6つの選択肢(①1日に3回以上、②1日に1、2回程度、③週に数回、④月に数回、⑤ほとんど利用していなかった、⑥まったく利用していなかった)により把握している。

記述統計量を確認していこう。まず、分析対象となる就業者全体のなかで、2025年12月に仕事で生成AIを「まったく利用していなかった」と回答した層は64.7%を占めている。2025年末の時点で、労働者の約3分の2が、仕事で生成AIを全く利用していないという結果になった。

その他、2025年12月に利用経験がある層に着目すると、利用頻度には差が存在している。一度でも利用した層の内訳を確認すると、「ほとんど利用していなかった」が11.6%、「月に数回」が6.9%となっている。利用者のうち、約半数は数カ月に1回あるいは月に数回程度という低い頻度でしか利用していない。興味や関心をもち試用を行ってはいるものの、それを自身の定常的な業務プロセスや日常的なワークフローに組み込む段階には至っていない段階にとどまっている人が多いとみられる。

一方、日常的に利用していた層も存在している。「1日に3回以上(4.9%)」および「1日に1、2回(4.0%)」をあわせた人たちが毎日利用する層になる。これらの層は、2025年12月の時点で生成AIを単なる一時的な実験ツールではなく、業務の生産性を高めるための実用的なインフラとして日々の仕事に組み込んでいると考えられる。

図表1 生成AIの利用状況(2025年12月時点、就業者)

図表1 生成AIの利用状況(2025年12月時点、就業者)注:「昨年(2025年)12月につ[知柳2.1]いていた仕事において、生成AIをどのくらいの頻度で利用していましたか」という設問への回答であり、この期間における仕事での生成AI利用状況を示す。
出所:リクルートワークス研究所「全国就業実態パネル調査」

若い人、勤続年数が短い人ほど生成AIを利用する可能性が高い

以降の分析では生成AIを毎日仕事に利用するこの8.9%の層を決める要因が何かを検証していきたい。一度使っただけの層と日常的に使いこなしている層とを区別し、どのような属性や労働環境が日常ツールとしての定着を促進あるいは抑制しているのかを明らかにする。

図表2は、被説明変数を「生成AIの毎日利用ダミー(1日1回以上利用する場合に1、それ以外を0)」とし、各種の統制変数(年齢、性別、雇用形態、年収など)を投入したLogitモデルに基づく限界効果の推計結果を示している。この限界効果の数値は、他のすべての変数を一定と仮定した条件のもとで、ある変数が1単位変化した際、あるいは特定の属性に該当した場合に、生成AIを日常的に利用する確率が何パーセントポイント変化するかを表している。

本節では、図表2のうち労働者個人の属性など基本変数に焦点をあわせ、その推計結果の解説を行う。

まず、年齢と勤続年数に関しては明確な傾向があった。年齢が1歳高くなることに伴う利用確率の低下は平均約0.6%ptであり、全体として見れば若年層ほど新しいテクノロジーの導入に対して柔軟であり、日常的なツールとして受け入れやすい傾向が示された。年齢の2乗項はわずかに正で有意であったが、その効果は軽微であり、全体として加齢に伴う利用抑制傾向が支配的である。

さらに、現職での勤続年数が1年延びるごとに利用確率が約0.2%pt低くなるという結果が得られた。長年同一の組織や業務に従事している労働者ほど、従来の業務手順や習慣化されたワークフローが固定化しており、AIという新しいツールの導入に伴う業務プロセスの再構築に対して必ずしも積極的ではないのかもしれない。

図表2 生成AIの利用確率への影響(基本属性)

図表2 生成AIの利用確率への影響(基本属性)
出所:リクルートワークス研究所「全国就業実態パネル調査」

高学歴層や正規雇用者も利用率が高い傾向

次に、性別の推計結果であるが、本推計モデルでは限界効果が-0.27%ptにとどまり、統計的な有意差はなかった。労働市場において女性が配置されがちな職種、雇用形態、あるいは年収水準といった就労環境の違いを統制すれば、AI利用における明確な男女差はないという結果となった。

続いて、人的資本やその他の個人の基本属性に関わる変数群の影響を見る。教育年数は、1年延びるごとに日常的利用確率が1.06%pt有意に上昇する結果となった。高学歴層ほどAIをよく利用している傾向が見られる。また、理系出身ダミーについては利用確率を約0.7%pt高める傾向が見られた。ただ、これに関しては統計的に有意な水準には達しなかった。現代の生成AIがプログラミングなどの自然科学的・専門的スキルを必ずしも要さず、文系的な文章作成能力や対話能力によって広範に利用可能であるという汎用技術としての特性を反映しているとも考えられる。

坂本 貴志

一橋大学国際公共政策大学院公共経済専攻修了後、厚生労働省入省。社会保障制度の企画立案業務などに従事した後、内閣府にて官庁エコノミストとして「月例経済報告」の作成や「経済財政白書」の執筆に取り組む。三菱総合研究所にて海外経済担当のエコノミストを務めた後、2017年10月よりリクルートワークス研究所に参画。