「働く」の論点高校就職・採用に関する法令を整理する 古屋星斗

高校生の就職においては、「学校が生徒の就職先の紹介が可能である」という職業安定法上の定めが存在し、仕組みの根幹となっている。職業安定法は、外部労働市場を通じた求職者と求人者のマッチング全般を規律する基本法である(※1)。同法は職業紹介の総則として、①職業選択の自由(法第2条)、②職業紹介・職業指導などにおける差別的取り扱いの禁止(法第条)、③労働条件明示義務(法第条の3)、④個人情報の保護(法第条の4)、⑤求人・求職の申し込みを拒否せずに受理する原則(法第条の5・6)が定められている(荒木,2016)。
高校生の就職については、慣行や申し合わせによって仕組みが形成されている。ともすれば忘れられがちであるのがルールの根幹を規定する法令であり、今回はその職業安定法令(ここでは法律、政省令に加え、施行規則を扱う)を高校就職・採用面から整理するのが目的である。

1.高校生への職業紹介について

職業安定法には学生・生徒への職業紹介に関してのみ規定した条文が存在している(同法第2628条)。
この職業安定法第26条(※2)に、「公共職業安定所は……学校教育法第一条に規定する学校の学生若しくは生徒又は学校を卒業し、又は退学した者の職業紹介については、学校と協力して」行う旨の規定がある。
まず、同条における「学校教育法第一条に規定する学校の学生若しくは生徒又は学校を卒業し、又は退学した者」を確認する。学校教育法第1条(※3)の学校とは、幼稚園、小学校、中学校、義務教育学校、高等学校、中等教育学校、特別支援学校、大学及び高等専門学校である。つまり、高校生や中学生といった公共職業安定所(ハローワーク)による職業紹介が一般的である学校以外(大学や高専)も対象にした条文であるという点に留意する必要がある(※4)。また学生・生徒に加えて、卒業者や退学者も職業指導・職業紹介などの対象である(※5)。
その支援内容については以下点である(法26条第項)。
①雇用情報の提供
②職業に関する調査研究の成果等を提供
③職業指導の実施
④公共職業安定所間の連絡により、学生生徒等に対して紹介することが適当と認められるできる限り多くの求人を開拓
このうち、③の職業指導の実施について、同条第項に学校と協力する旨の規定と、第項には、「職業を体験する機会」の提供、「キャリアコンサルタントによる相談の機会の付与」、さらに「その他の職業の選択についての学生又は生徒の関心と理解を深めるために必要な措置を講ずる」ものとされている。
つまり、公共職業安定所において、学生・生徒に職業体験やインターンシップといった機会の提供や、相談支援などを行う旨が定められている。

2.学校の担務

学生・生徒への職業紹介について公共職業安定所が実施する機能が職業安定法第26条に規定されていたが、同法第27条にはその機能の一部を学校に分担できる旨規定がある。
第二十七条 公共職業安定所長は、学生生徒等の職業紹介を円滑に行うために必要があると認めるときは、学校の長の同意を得て、又は学校の長の要請により、その学校の長に、公共職業安定所の業務の一部を分担させることができる。
この分担させられる業務の一部は同条第項により以下の通り定められている(限定列挙)。求人・求職の受理(1・2号)、求人紹介(号)、職業指導(号)、就職後の指導(号)、公共職業能力開発施設への斡旋(号)である(※6)。このうち、号の就職後の指導とあり、企業入社後の指導についても学校が担務できる旨が定められている。
また、号の求人の受理については同条第項(※7)において「学校の長は……学校の教育課程に適切でない職業に関する求人又は求職の申込みを受理しないことができる」とされ、企業の求人を“受理しない”ことが可能である。この学校における不受理の権能は、同法第条の5(※8)の定め(原則として求人は受理しなくてはならない)にかかわらず、とされており学校は求人受理に対して非常に強い力を有している。

3.公共職業安定所の業務の一部を担う学校としての責務

上記で見た通り、法第27条により「公共職業安定所の業務の一部を分担」している学校は同条に定められる業務を担うことができるが、その運営にあたっては当然に公共職業安定所が法令上課せられた責務を負うこととなる。この責務については、法に記載された5つの総則はもちろんのこと、付随して以下の職業安定法施行規則(以下、「施行規則」)の内容も含まれる。
法第条に関する事項として施行規則第条が規定されている。同条においては、「公共職業安定所は、できるだけ多くの職業について求人開拓に努めると共に、求職者に対しては、できるだけ多くの適当な求人についての情報を提供し他に、より適当な求職者がない場合においては、その選択するいかなる職業についても紹介するよう努めなければならない」と定められる。求職者の職業選択の自由を守るため、具体的に公共職業安定所が負う責務として、「できるだけ多くの」求人開拓・求人紹介の責務が定められている。当該条項は求職者に対する求人情報紹介の際の基本的姿勢を定めた部分ともいえ、公共職業安定所の業務の一部を担う学校の生徒への対応においても同責務が課せられると解することが適当である。
また、法第17条(※9)には「公共職業安定所は、求職者に対し、できる限り、就職の際にその住所又は居所の変更を必要としない職業を紹介するよう努めなければならない」、と規定があり、さらに同条第項に「求職者にその希望及び能力に適合する職業を紹介することができないとき、又は求人者の希望する求職者若しくは求人数を充足することができないときは、広範囲の地域にわたる職業紹介活動をするものとする」とする。希望する地域での職業紹介を原則とするが、求人数・業職種・就業条件に地域性があることに考慮し、本人が希望する求人がない場合に広範囲での職業紹介の責務を定めている。この点についても高校での職業紹介における地域による求人数や業職種の差異に考慮する必要があろう。

4.高校生の求人の取り扱いについて

また、施行規則第17条の(法第27条に関する事項)には、高校生の求人取り扱いの具体的な手続きについて規定がある。同条第項には、「公共職業安定所は、・・・学校の長に、公共職業安定所において受理した求人のうち、その学校において取り扱うのが適当であると認められるものを連絡しなければならない」と定めがある。これは高校就職において認められている“指定校求人”の仕組みを定めたものであると解される。“指定校求人”は求人を見せる対象自体を限定するという、人材紹介事業(適切な求人案件を特定の求職者に提示することが可能)的な特徴を有すると考えられる。他方で、“公開求人”と呼ばれる提示対象の求職者を限定しない(募集情報提供事業の要素が強い)求人方法も存在している。

5.学校の行う無料の職業紹介

上記のように法第2627条では、“公共職業安定所の業務の一部を担務する”形式での学校の職業指導などが定められていた。
これと別に、法33条の2では学校などの行う無料の職業紹介事業の定めがある。無料の職業紹介事業者として学校が生徒や卒業生に対して職業紹介が可能となっている。同条第項には、学校が当該学校の学生生徒などに対して、厚生労働大臣への届け出により無料の職業紹介事業を行うことができる旨規定があり、この「学生生徒等」については法第26条の定義によれば卒業者・退学者を含んでおり、学校に在籍した幅広い生徒を対象に職業紹介の実施が可能である。

高校就職関連法令をふまえた論点

以上の通り、高校就職に係る主たる関連法令の内容を整理したうえで、現状との関係で論点となりうるポイントを列記する。

①卒業生への高校による職業紹介
卒業生が卒業後に昔の先生のもとに相談にくる、といった話を聞くことがある。しかし現状では高校は卒業者に対して職業紹介を行うことは稀であり、教員は情報提供や相談に乗る対応に止めることが多い(※10)。しかし、法第26条には「学校を卒業し」た者は対象に含まれている。また、法27条第項第号には「就職後の指導を行うこと」について学校が担務できる業務として明記されている。こうした法の条文をふまえれば、学校が当該学校の卒業者に対して職業紹介・職業指導を行うことは排除されていない点には留意する必要がある。

②「できるだけ多く」の紹介原則
法第2条にもとづき施行規則第条には「できるだけ多く」の求人紹介が求められる旨定められていた。高校生の就職においては求人票が公開されてから選考までカ月程度しか時間がないこともあり、「求人情報が不十分」という声が存在する(※11)。学校も公共職業安定所の業務の一部を担務するという位置づけのなか、この「できるだけ多く」の紹介原則が責務であることはあらためて確認し、実態としてできていない部分があればそれは不適当な状況であり、改善のための検討が必要であると指摘できる。

③“学校推薦”の妥当性
ここで同時に論点になるのは、“学校推薦”の妥当性である。企業の指定校求人の求人数に対して希望者が多い場合に、学校が選考を受ける生徒を決定する仕組みであり、実施している学校では成績、出欠席状況、部活動・生徒会活動などの状況を点数化して決定する事例が多い。施行規則における「できるだけ多く」の紹介原則はもとより、法第条には職業選択の自由が明記されており、その趣旨に則った適正なマッチングの実現のために寄与しているか、検証していく必要があるだろう。
なお、リクルートワークス研究所が実施した調査のフリーコメント項目には、「就職を希望してる人だけでまずは校内選考という制度があった。その校内選考制度を辞めて欲しかった。行きたい場所、受けたい場所があっても選考漏れすると受けられず将来のビジョンが崩れる。」(女性、商業科卒)(原文ママ)などの記述が多数存在していた(※12)。

④地域での就職と地域を越えた支援
法第17条では、居住地での就職を原則としてそれが難しい場合には地域を越えた支援を行う旨定めがある。高校就職においては、県内就職率が例年80%を超えており、生徒・保護者の要望もあり居住地近辺における就職が勧められていることは同条第項の定めと整合的である。他方、高校就職は地域差も大きく、高校卒者の求人倍率を見ると都市部においては6.86倍(東京都)、4.07倍(大阪府)等、他方で1.26倍(沖縄県)、1.42倍(長崎県)などとなっている(※13)。倍前後となると生徒にとっては選択肢が非常に限定される状況となることから、同条第項の定めにより地域横断的な支援が必要であると考えられる。具体的には県外企業の求人情報提供や職場見学・選考の支援である。

いわゆる「一人一社制」に代表される、申し合わせや慣行などの是非が議論されることが多い高校生の就職だが、今回は制度の根幹となる法令を整理した。これから職業社会に飛び立とうとしている生徒たちを支え、救うために作られたのがこうした法令である。生徒たちのために、どのような仕組みがあるべきか、法令から再考することは現状の議論の一助となるのではないだろうか。

(※1)荒木尚志,2016,労働法第3版,有斐閣,P.736
(※2)第二十六条 公共職業安定所は、学校教育法(昭和二十二年法律第二十六号)第一条に規定する学校(以下「学校」という。)の学生若しくは生徒又は学校を卒業し、又は退学した者(政令で定める者を除く。以下「学生生徒等」という。)の職業紹介については、学校と協力して、学生生徒等に対し、雇用情報、職業に関する調査研究の成果等を提供し、職業指導を行い、及び公共職業安定所間の連絡により、学生生徒等に対して紹介することが適当と認められるできる限り多くの求人を開拓し、各学生生徒等の能力に適合した職業にあつせんするよう努めなければならない。
② 公共職業安定所は、学校が学生又は生徒に対して行う職業指導に協力しなければならない。
③ 公共職業安定所は、学生生徒等に対する職業指導を効果的かつ効率的に行うことができるよう、学校その他の関係者と協力して、職業を体験する機会又は職業能力開発促進法(昭和四十四年法律第六十四号)第三十条の三に規定するキャリアコンサルタントによる相談の機会の付与その他の職業の選択についての学生又は生徒の関心と理解を深めるために必要な措置を講ずるものとする。
(※3)この法律で、学校とは、幼稚園、小学校、中学校、義務教育学校、高等学校、中等教育学校、特別支援学校、大学及び高等専門学校とする。
(※4)なお、学校教育法第1条の学校(いわゆる「一条校」)には専修学校専門課程(いわゆる専門学校)は入っていないため、当該条文は適用されず、公共職業安定所は専門学校生に対して職業紹介を行う際には学生・生徒としてではなく一般的な利用者として対応することとなる
(※5)「退学した者」については小学校のみを卒業した者は除外される(職業安定法施行令第2条)
(※6)一 求人の申込みを受理し、かつ、その受理した求人の申込みを公共職業安定所に連絡すること。
二 求職の申込みを受理すること。
三 求職者を求人者に紹介すること。
四 職業指導を行うこと。
五 就職後の指導を行うこと。
六 公共職業能力開発施設(職業能力開発総合大学校を含む。)への入所のあつせんを行うこと。
(※7)第一項の規定により公共職業安定所の業務の一部を分担する学校の長(以下「業務分担学校長」という。)は、第五条の五第一項本文及び第五条の六第一項本文の規定にかかわらず、学校の教育課程に適切でない職業に関する求人又は求職の申込みを受理しないことができる。
(※8)第五条の五 公共職業安定所、特定地方公共団体及び職業紹介事業者は、求人の申込みは全て受理しなければならない。
(※9)(職業紹介の地域)
第十七条 公共職業安定所は、求職者に対し、できる限り、就職の際にその住所又は居所の変更を必要としない職業を紹介するよう努めなければならない。
② 公共職業安定所は、その管轄区域内において、求職者にその希望及び能力に適合する職業を紹介することができないとき、又は求人者の希望する求職者若しくは求人数を充足することができないときは、広範囲の地域にわたる職業紹介活動をするものとする。
(※10)一部の高校において法第33条の2の職業紹介事業者の届け出を行い、卒業生に企業を紹介している事例が存在している
(※11)リクルートワークス研究所,2021,「高校生の就職とキャリア」においては55.4%の高校卒就職者が1社以下の情報のみで就職している。また、「応募できる企業数が十分だった」と回答した者は33.0%にとどまっていた。フリーコメントからも「もっと多くの企業を見たかった」などのコメントが多数みられている
(※12)リクルートワークス研究所,2021, 「高校卒就職当事者に関する定量調査」における、就職活動でもっと学校にしてほしかったことに関する自由記述回答の一覧
(※13)厚生労働省, 令和2年度「高校・中学新卒者のハローワーク求人に係る 求人・求職・就職内定状況」,2020128日発表


古屋星斗

※本稿は筆者の個人的な見解であり、所属する組織・研究会の見解を示すものではありません。