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第19回 イーロン・マスクの「シンギュラリティ」発言は人間のあり方を改めて考える契機
レイ・カーツワイル氏は2024年の著書『シンギュラリティはより近く』(NHK出版)で、これから訪れるAIによる社会革命に言及している。
2026年1月、アメリカの起業家イーロン・マスク氏がSNS「X」に続けざまにこんな投稿をして、テック業界を賑わせた。“We have entered the Singularity(我々はもうシンギュラリティに突入した)” “2026 is theyear of the Singularity(2026年はシンギュラリティの年だ)”。
シンギュラリティは「技術的特異点」と訳される言葉で、AIが人間の知能レベルを超え、社会が不可逆的に大きく変化する時点のことを意味する。アメリカの科学者で未来研究家のレイ・カーツワイル氏が2005年の著書で広めた言葉で、多くの専門家が2045年頃を予測してきた。ここ数年は、シンギュラリティにかかわる言論は少なくなっていたと筆者は見るが、それは、AIのあまりに速い進化を受けて、そう易々とシンギュラリティを論じられない空気が生まれていたからだ。代わりに、「AGI(Artifi cial General Intelligence、汎用人工知能)」はいつ誕生するのか、という議論が盛んになった。AGIは人間の知能のように「汎用性」を持つ人工知能のことで、その誕生は2027年とも2028年ともいわれてきた。
そんななかでのマスク氏の発言である。マスク氏が何をもってシンギュラリティが始まっているとしたのかは明らかではないが、大事なのは、社会がどう変わるのかという点だ。
あらゆる病気の解明と治療の革新、機械による身体機能の強化により、不老不死が実現する。脳がクラウドと直結され、人間自体の賢さの次元も変わる。AIが自己改善サイクルを高速で回し、超知能を自ら誕生させる……。カーツワイル氏はこのような変化が起こるとしている。マスク氏は、あらゆる問題を人間より賢い機械に解決させればよりよい社会が生まれると、かねてより楽観的な予測をしつつも、「移行期の混乱は深刻だ」とも指摘している。
今がシンギュラリティの入口だとすると、我々はまさに「移行期」を生きることになる。「どんな仕事に就けばAIに仕事を奪われないか」という問いはもはや意味をなさない可能性もある。賢さを競う必要がなくなり、とんでもなく長い寿命を得たとき、私たちが向きあうべき問いは、「どのように生きるのか」であり「どのようにありたいのか」なのかもしれない。マスク氏は、AIを人間の敵にさせないためには真実と好奇心と美しさが重要だともいう。人間が真実を語り、美しくあればAIがそれを学ぶというのだ。果たして我々は、そのようなあり方を実現できるだろうか。
Photo=時事
プロフィール
石原直子氏
Ishihara Naoko
エクサウィザーズはたらくAI&DX研究所所長。銀行、コンサルティング会社、リクルートワークス研究所を経て現職。AI×人事、働き方、組織などの研究と情報発信を中心に活動中。
Reporter
エクサウィザーズはたらくAI&DX研究所所長。銀行、コンサルティング会社、リクルートワークス研究所を経て現職。AI×人事、働き方、組織などの研究と情報発信を中心に活動中。
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