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第18回 AIによる業務プロセス改革がもたらす雑務の泥沼

2026年03月30日

シリコンバレーに蔓延る 長時間労働カルチャーイメージ画像

仕事を楽にしてくれるはずのAIが仕事を増やしてくる現実。AIは働く人を追い込んでいくのだろうか。
Photo= (c)TongRo Images/amanaimages

AIと仕事の関係性において、最近特に話題になっている言葉は「workslop(ワークスロップ)」というもの。生成AIが職場に浸透すれば、資料づくりや調査、メール対応が格段に楽になるはず、といったようなイメージを持っていた人は少なくないだろう。実際、AIツールが開発企業によって宣伝される際には、そのように謳われることも多い。

しかし、実際には「よくわからないAIツールを使わされ、そのアウトプットを整理するための余計な仕事」が増えてしまった、という働き手の嘆きを象徴する言葉である。AI推進派が約束してきた「自由時間の創出」と「労働の再定義」は、今のところ理想よりもずっと遠い。むしろさまざまな会社や労働の現場で、雑務の分散と責任の曖昧化が加速している。

背景には、AI導入そのものが目的化し、現場のプロセス設計や人材育成が追いついていない現実がある。

たとえば、各部署に「AIを活用したレポート提出」や「自動生成ツールを前提とした資料づくり」が求められる一方で、その品質管理や最終的な判断は依然として個々の担当者が背負うしかない場合も多い。結果として、AIが生んだアウトプットを人間が検証し、修正し、整えるという編集作業が増えていく。効率化のはずが、むしろ二度手間になってしまっているのだ。

ハーバード・ビジネス・レビューの記事によると、完全にAI主導の業務プロセスを導入している企業の数は2024年ほぼ倍増し、2023年以降、職場におけるAIの利用も同様に倍増しているという。それにもかかわらず、MITメディアラボの最近の報告書によると、こうした技術への投資に対して「測定可能なリターンがない」と回答した組織は95%にものぼるという。

電子メールが普及し始めたときに「Eメールの登場によって仕事が効率化される」と思われていた一方で、実際には多くの人が「メールのせいで常に仕事の連絡に応えなければならない」という不安を抱えるようになった。同様にAIの利便性は「より速く、より多く、より安く」という古い仕事の価値観をさらに押し広げ、働く人の時間を再び圧迫している。AIによって雑務の泥沼にはまる時代に引き戻されるのを避けるために、テクノロジーと人間の関係性そのものを再設計する視点が求められている。

プロフィール

竹田ダニエル氏

Takeda Daniel
カリフォルニア大学バークレー校在学中。AI倫理教育研究員。1997年生まれ。カリフォルニア州出身、在住。著書に『世界と私のA to Z』『# Z世代的価値観』。

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