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第16回 「ゴースト求人」に翻弄される若者「人を減らすためのAI 」と公言する経営者

2025年10月15日

若年層の失業不安のイメージ画像若年層の失業不安、将来不安が高まっているアメリカ。この動きは今後、米社会にどんな影響をもたらすのだろうか。さらに日本にも波及するのだろうか。
Photo=DUEL/Connect Images RF/amanaimages

今アメリカの就職市場は冷え込んでいる。大学を卒業したばかりの若者やキャリアの再出発を図る人のなかでは、数百件もの応募を重ねても一向に内定にたどり着けないことも多い。履歴書はAIで自動的にふるい落とされ、面接にたどり着けるのはごくわずかだ。

2025年初頭から7月までに、AIの導入を理由に削減された雇用は1万件を超えたという(CBS News)。さらに、求職者を疲弊させるのが「ゴースト求人」の存在だ。表向きは採用中と表示されながら、実際には採用の意思がない、あるいは既にポジションが埋まっているいわゆる「偽求人」である。

求人プラットフォームGreenhouseの分析によれば、求人の約5件に1件がこの「偽求人」にあたり、2024年のResume Builderによる調査では、企業の約4割が過去にそうした求人を出した経験があるという。「偽求人」の横行によって求職者は時間と労力を費やしても、応募先からの返答すら得られず、ただ数字上の「応募実績」を増やすだけになってしまう。

こうしたなか、一部のCEOは隠すことなく「AIのおかげで人員削減ができる」と公言し始めている。ビッグテックを含む大手企業は、2025年に入りAI導入を理由にした1万人を含めて10万人以上の従業員を削減したという。かつては技術革新が雇用を生み出すと信じられていたが、今や経営者の口から直接「人を減らすためのAI」という言葉がポジティブな文脈で堂々と語られる時代になった。

当然ながら、職の見通しが暗くなれば、大学院進学を「時間稼ぎ」の手段と考える若者は増える。ニューヨーク連銀のデータでは、大学を卒業した22歳から27歳の間の人の失業率は5.8%に達し、大学院進学を希望する人が「急増している」ともいわれている。

しかし、その避難先さえも安泰ではない。トランプ政権下での高等教育予算削減の影響により、複数の大学が博士課程や大学院の新規受け入れを凍結、あるいは合格通知を取り消す事態が起きている。スタンフォード大学は363人の職員を削減すると発表し、その余波は研究環境や大学院教育にも及びかねない。

これら上記の要因が複雑に絡み合い、アメリカの若年層はかなり不安定な地盤に立たされている。就職活動はもはや単なる「仕事探し」ではなく、変化の激しい労働市場と制度的な制約のなかで、ある種のサバイバルゲームになっていると実感する。

Text=竹田ダニエル

プロフィール

竹田ダニエル氏

Takeda Daniel
カリフォルニア大学バークレー校在学中。AI倫理教育研究員。1997年生まれ。カリフォルニア州出身、在住。著書に『世界と私のA to Z』『# Z世代的価値観』。

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