Global View From Nordic
国を挙げて取り組むデジタル化が可能にする「ポストのない国」
デンマークでは2026年から、民間企業DAOが郵便事業を引き継いだ。街から郵便ポストは消え、現在は、“dao”のサインがあるキオスクなどから手紙を送っている。
Photo=井上陽子
私は普段、郵便受けを開けることがほとんどない。デンマークでは、行政からの連絡も子どもの学校からのお知らせも、すべてデジタルで届くからだ。日本から手紙が届いたのに、気づいたのはずいぶん後、ということが、実は何度もある。それは我が家に限った話でもないようで、先日も「学校の支払いの連絡、全然こないよね?」と聞き回っていたママ友が、「郵送で来てたよ」と教えられ、「郵送!盲点!」と愕然としていた。
そんなお国柄を象徴するのが、国営郵便サービスのポストノルドが2025年末、約400年続いた郵便配達事業を終了したことだろう。世界有数のデジタル先進国であるデンマークでは、手紙の取扱量が2000年の14億5000万通から2024年には1億1000万通へと90%以上減少し、事業撤退の判断につながった。1500基の郵便ポストも撤去されたが、手紙が送れなくなったわけではない。事業は民間企業DAOが引き継ぎ、取り扱いのあるキオスクなどに持ち込めば、これまで通り手紙を送ることはできる。
2026年に入ってからは、郵便が届かないという苦情がDAOに殺到したり、ゴミ置き場のピザの箱から未配達の郵便物が見つかる不祥事があったりもしたが、今はそんな混乱も落ち着きつつある。
デンマークは思い切った政策判断をすることが多いが、それでも大きな政治問題になりにくいのは、受け皿を整えたうえで実施するからだろう。行政からの連絡の電子化は2014年から全住民に義務化され、国民の9割以上が既にデジタルポスト(電子私書箱)に移行している。そのうえで採算の合わなくなった事業を畳んだため、一定の懸念や批判はあったものの、多くの人はこれを時代の流れとして受け止めたようだ。
もっとも、デンマークが先行しているだけで、手紙の減少は世界共通の現象である。ドイツポストは8000人の人員削減を発表し、イギリスのロイヤルメールも普通郵便の配達日数を縮小した。
日本を含めた世界の多くの国が、いずれ同じ問いに直面することになる。
デンマークがデジタルの受け皿を築けたのは、市民の利便性向上や経費削減効果などのメリットが社会全体で認識され、長期ビジョンに基づいて、国全体で段階的に行ったためだ。何を残し、何を見直すかを考えるとき、1つの参考になるかもしれない。
プロフィール
井上陽子氏
Inoue Yoko
北欧デンマーク在住のジャーナリスト、コミュニケーション・アドバイザー。筑波大学卒、ハーバード大学ケネディ行政大学院修了。読売新聞でワシントン支局特派員など。現在、デンマーク人の夫と長女、長男の4人暮らし。
Reporter
北欧デンマーク在住のジャーナリスト、コミュニケーション・アドバイザー。筑波大学卒、ハーバード大学ケネディ行政大学院修了。読売新聞でワシントン支局特派員など。現在、デンマーク人の夫と長女、長男の4人暮らし。
Reporter
メールマガジン登録
各種お問い合わせ