著者と読み直す
『自然はすごい』ノダカズキ
この世界は、観察すればするほど深く、おもしろくできている
「面白かった」だけで終わらない“後を引く”本を著者と一緒に読み直します。今回は自然観察家・ノダカズキ氏が登場。著書『自然はすごい』から、好奇心を持続させ、人生を「自由研究」のように楽しむ独自の学び方を解説します。
アイヌ文化伝承の地として知られる北海道南西部の白老町。ノダカズキさんとは、アイヌ語で「大きな沼」を意味するポロト湖の湖畔で待ち合わせていた。到着早々、鉛色の空から雨粒が落ちてきて撮影のことを気にかけていると「雨だとポロト湖に霧が立ちのぼって、かえって幻想的ですよ」と柔らかな笑みで迎えてくれた。湖の周囲に広がる通称「ポロトの森」も、雨で緑の濃さを増している。この森の管理事務所がノダさんの仕事場だ。
地域おこし協力隊として2020年、白老町に移住し、自然を切り口に日常を面白く読み解くポッドキャスト番組を始めた。その人気ぶりに目を留めた編集者から、執筆を依頼された。
「冬の間、しんとした湖を見ながら書きました。疲れたら裏の作業場で薪割りをして。思索や執筆には最高の環境です。朝は5時に起き、カメラを持って森を1時間半歩きます。1500回以上歩いているのに、いまだに発見がある。知れば知るほど、知らないことが増えていくんですよ」
本書ではそんなノダさんが、国内外のさまざまな土地を訪ね、実際に見て触れて体験したこと、研究者たちの著作から得た知見を手がかりに、自分なりに問いを探究するなかで培った「ものの見方」が綴られている。
物心ついたときから世界が不思議でたまらなかった
たとえば、「自然観察」とは一見関係なさそうな寿司屋のエピソード。ノダさんはGoogleマップを眺め、気になる地形の近くにある寿司屋に行くのが趣味だという。海藻の小鉢、寿司ネタの種類や歯ごたえから、海水の温度、魚の回遊ルートや潮の速さを想像する。寿司屋の大将や海女さんからも情報を仕入れ、美味しさの裏にある自然のストーリーを深く味わう。
あるいは、焼き物の産地では松茸の販売所が目につくことに気づき、焼き物の生産過程と松茸が育つ環境の間に意外な関係性を発見する。
スーパーに並ぶ野菜や果物、通勤路の街路樹、ブロック塀を這うカタツムリ──。そんな日常の中で出合う動植物に対して、そしてたまたま出会った人に対しても、ノダさんは「なぜあなたはそこにいて、そういう生き方をしているのか」と問わずにはいられない。「物心ついたときから、世界が不思議でたまらなかったんです」と笑う。
子どもは好奇心の塊だ。だが往々にして、知りたいことより知るべきこと、やりたいことよりやるべきことが優先され、好奇心のアンテナは鈍っていく。なのに、ノダさんのアンテナ感度は鋭くなる一方。なぜ?と問うと、共に郵便局勤めだった両親について語り出した。
「父は『勉強するな』と言う人でした。勉強し過ぎて精神的におかしくなった知り合いがいたから、という変な理由で。学校は当然『勉強しろ』と言いますよね。母は『してもしなくてもいい。するなら100人中49番を目指すのがいいんじゃない?』と。1番はプレッシャーや周囲の妬みもあるから幸せではない。90番台じゃ自己肯定感が保てない。49番くらいがいちばん自分らしくいられると。勉強する、しない、どちらでもいい。僕には選択肢が3つありました」
好奇心の賞味期限を意識 人生はずっと「自由研究」
誰かが決めた基準に縛られることなく、自由に好奇心を羽ばたかせられる環境のもと、「地球の7割は水だから、まずは水を学ぼう」と愛媛大学の農学部へ。だが1年で退学した。
「何かの本で『好奇心の賞味期限は短い』と書かれているのを読んで、まさにそうだと。基礎を積み上げてから応用、みたいな勉強法は僕に合ってない。焼畑について詳しい教授が島根大学にいると聞けば、そこの図書館で昼間、焼畑について勉強し、学生をつかまえて先生を紹介してもらう。すると先生も面白がってくれていろいろディスカッションしてくれる。そんな感じで、各地を転々と旅しながら学んでいきました」
興味の対象は自然だけでなく、言語学や歴史、宗教などにも広がっていった。延々と「自由研究」を続けていると、「今晩泊まっていけば」「興味があるなら知り合いを紹介するよ」と言ってくれる人が増えていく。
「面白いと思ったことも本を読みながらいいなと思った言葉も、全部スマホにメモしておいて、ときどきポッドキャストでまとめて話す。報酬に関係なく、伝えたいという純粋な思いで喋ると、結果的にいちばん面白く伝わるんですよね。伝えることでまた新たなことを知りたくなる。知るとまた伝えたくなる、のスパイラルです」
そんなノダさんのユニークな生き方、学び方、世界の楽しみ方が、本書に単なる雑学本にとどまらない奥行きを与えている。
◆書籍紹介◆
『自然はすごい』 ノダカズキ
遠くの海や山に出かけなくても、自然の神秘はいつもの道や日々の食卓にあふれている。「種がないバナナはどうやって増える?」「寿司屋と地形の関係は?」普段と違う視点から、生き物たちの驚くべき生存戦略、人間の歴史・文化との意外なつながりが見えてくる。単なる雑学本にあらず。自然を観察することは、世界の読み方を学ぶこと。読み方が変われば、ありふれた世界は一変する。(ディスカヴァー・トゥエンティワン刊)

Noda Kazuki
ネイチャーガイド/自然観察家。白老ネイチャーオフィス代表取締役。佐賀県生まれ。幼少期より自然の美しさに魅せられ愛媛大学農学部に入学したものの、あふれる好奇心を満足させられず中退。より多角的な学びを求めて国内外で遊学したのち、2020年に北海道白老町に移住。ネイチャーガイドや自然の面白さを伝えるワークショップなどを手掛ける一方、ポッドキャスト番組「ノダカズキの野良歩き」「ミモリラジオ」を制作し、注目される。本書が初の著書。
Text=石臥薫子 Photo=今村拓馬
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